2021.07.28

【OB探訪】ポッドキャストで「宇宙ばなし」配信
科学系ランキング日本1位で注目
データサイエンティストの佐々木亮さん

学生記者 澤畠彩香(文4)

  • 中大ニュース
  • キャリア

インターネットラジオの一種であるPodcast(ポッドキャスト)で連日、宇宙に関する話題を易しくかみ砕いて配信し、話題を集めている。宇宙物理学を研究し、中央大学大学院理工学研究科博士課程を2021年3月に修了した佐々木亮さんに、宇宙のこと、研究のこと、現在の仕事のことなどをオンラインで尋ねました。

天体観測、宇宙の研究に没頭

佐々木亮さんに宇宙のことについてオンラインで尋ねました

「博士課程での研究内容を整理したいという思いが ポッドキャストを始めたきっかけです。膨大な量の論文 を目にするので、頭の中を整理するという目的で配信 を始めました」

 小惑星探査機「はやぶさ2」や、米航空宇宙局(NASA)の木星探査機「ジュノー」が観測した衛星のこと、複数の人工衛星を連動させて仕事をさせる編隊飛行(フォーメーションフライト)の話など、昨夏に開始した配信はすでに250回を超えた。

学生時代は、研究室での研究が終わり、1日の締めく くりとしてポッドキャストで配信するというのがルーティンだった。

「(配信が)習慣化しているので毎日でも意外に大変ではない。好きな宇宙の話題なので、配信内容に困ることはありません」と話す。科学系カテゴリーで日本1位になったことはあるが、より大勢のリスナーを獲得して全カテゴリーの中でトップを取ることが目標だ。

そもそも、佐々木さんはなぜ宇宙のことを学びたいと思ったのだろう。

「宇宙の研究をしたら格好いいなと、中大理工学部に入ってから思ったことがきっかけなんです。感覚的に選んだという印象があります。X線天文学についても研 究室に入る少し前に初めて知りました。私は勉強で目立つようなタイプではなかったのですが、研究を進めるうちに国際学会に参加するなど『世界規模で仕事ができる』という実感がわいてきて、続けたいと感じるようになりました」

宇宙物理学のX線天文学の研究は、ものすごく熱い宇宙を見られるのがだいご味」という。数千度から数万度という熱のエネルギーを持つ天体から届く光を観測し、どのような元素が含まれているかなど、人間の成り立ちに迫るような研究を行う。

ポッドキャスト配信
「宇宙への理解を深めてほしい」

大学院時代は、後楽園キャンパス6号館の屋上にある天体望遠鏡をのぞき込みながら、泊まり込みで観測に没頭したこともあった。

「朝10時から夜11時まで研究室にいましたね。博士号を取るというプレッシャーもありました。今はビジネス面で宇宙に携わったり、その分野の専門の方々と関 わったりして、前よりも落ち着いて宇宙のことを考えることができていると思います。今の方が宇宙を俯瞰して見られています」

配信を楽しみにしているポッドキャストのリスナーには「宇宙への理解を深めてほしい」という思いがある。私たちがかつて知っていた宇宙や天文学の常識は現在、ものすごいスピードで進化しているという。

最も印象に残っている「宇宙ばなし」を尋ねると、「自分の論文について紹介した回です。それまでは、世界中の人が発表している論文や研究内容を紹介することが多かった。自分の論文を紹介できたときはとてもうれしかった」と振り返る。

そうだ、宇宙人はいるのだろうか。せっかくなので宇宙の専門家の人に聞いてみた。

「私は直接携わってはいませんが、生命がいる可能性がある星を探すという研究は進んでいます。地球のように生命が存在するためにちょうど良い位置にある星を探すというものです」

この研究には、望遠鏡の性能が高まり、さらに新たな惑星を見つけることが可能になってきたという背景があるという。

ひとつのことを究める

佐々木さんは、天文学の学者になることも将来の目標にあったが、学問と違う宇宙との関わり方のほうが 「わくわくして面白い」と別の道を選んだ。

最後に、後輩の中大生や大学院生への応援メッセージをお願いすると、次のような言葉を送ってくれた。

「世界の舞台で働くことができるチャンスが皆さんにあることに気づいてほしい。私はもともと勉強熱心だったわけではないが、楽しんで研究をしているうちに、大学院のときにNASAや理化学研究所など最高峰の機関で研究することができた。一生懸命にひとつのことを究めると、 世界の舞台で戦えるようなスキルもチャンスも得ることができるんです。これを頭の隅に置いておいてください」

宇宙研究で博士号、ビジネスに成果を生かす

データサイエンティスト   佐々木亮さん(2021年3月大学院理工学研究科博士課程修了)

 

ささき・りょう。神奈川県立新城高校卒、中央大学理工学部物理学科卒。2021年3月に同大学院理工学研究科博士課程(物理学)修了。理学博士。

大学院時代は、独立行政法人理化学研究所の研究員、米航空宇宙局(NASA)の訪問研究員としても研究を進めていた。現在、ビッグデータの解析などで得られた知見をビジネスに生かし、「データサイエンティスト」としてデータを分析して顧客満足度の向上に貢献している。ほかにも宇宙ビジネスのメディア「宙畑」(そらばたけ)での執筆、プログラミングの講師など幅広く活動している。出身研究室の宇宙物理学研究室(坪井陽子教授)の共同研究員も務めて いる。

ポッドキャストでは、天文学や宇宙ビジネス、宇宙開発技術 など最新の宇宙ニュースを1回10分程度で毎日届けている。科学カテゴリーのランキングで1位となったこともある。「宇宙のことはよく分からない」という学生や社会人にも楽しんでもらえる番組づくりを目指している。

☆Podcast(ポッドキャスト)

インターネットラジオの一種で、ネット上に音声ファイルを公開して配信する。語源はアップルの「i Pod」(携帯型デジタル 音楽プレイヤー)とブロードキャスト(放送)を組み合わせたもので、造語とされる。

科学系ポッドキャストの配信者は、宇宙科学、生物学、物理学、化学、植物学、地球科学、SDGsなど多岐にわ たるバックグラウンドを持ち、難しい科学を一般向けに楽しくわかりやすく話すことに長けている。科学系ポッドキャストの全リスナー数は延べ数万人規模に上り、近 年の音声メディアの流行に合わせて増加傾向にある。

《取材後記》
多種多様に仕事と向き合う  「宇宙ばなし」から心の安らぎを

学生記者の澤畠彩香さん

佐々木亮さんから伺った多様な話題の中でも「感覚的に」という言葉が強烈なほど印象に残った。大学院で「X線天文学」を専攻する際に、「面白そう、格好いい」という直感が決定打になったと語ってくださった。 博士号取得のための学修、研究には、多大な努力と忍耐が必要であり、誰にもできることではないだろう。そして、自分の感覚や直感を信じて、進む道を決め、何よりそれを継続させることこそ難しい。佐々木さんはそのどちらも経験しており、真のプロフェッショナルだと感 じた。

「宇宙について多くの人に知ってもらいたい」という 熱意の一つの表れである「Podcast」配信は、初心者でもわかりやすく宇宙のことを学べる最高の手段である。現に私は配信を聞くまで「太陽の温度に謎があり、それがもうすぐ解明される」という重大なことを知らなかった(佐々木亮の宇宙ばなし2021年6月2日第236 回配信より)。佐々木さんは他にもYouTubeやツイッターなどさまざまな方法で、宇宙に関心を持つ人々を増やすという活動に貢献している。この行動力をこれ から見習っていきたい。

行動力次第で大学での学びは生かせる

宇宙ビジネス、月面輸送、惑星など宇宙に関する話題だけでなく、大学院時代や米航空宇宙局(NASA)、理化学研究所での研究など、これまでの経験についての話もまた、とても刺激的なものだった。

余談になるが、あと半年ほどで社会人になる私は、就職活動を通じて、「4年間、大学で学んだことが直接仕事に生かされないのではないか」という悩みを抱えていた。そんな私とは対照的に、佐々木さんは仕事への向き合い方が「多様」であった。

「研究を続けるのも一つの選択肢だったが、ビジネスという違うステージで活躍するのも面白いと思った」と語る佐々木さんは、プログラミングの講師、宇宙分野のメディアライターなど多種多様な仕事に取り組んでいる。本業のデータサイエンティストとしては、学生時代に培ったデータ分析のスキルを生かして活躍。 大学での学びは決して無駄ではなく、行動力次第で好きなように生かせるのだと気付かされた。

近年では仕事との関わりをめぐり、多くの若者が心を病んでしまうというニュースを耳にする。仕事はもちろん楽しいことばかりではないかもしれないが、佐々木さんのように自分の力で選択肢を増やせば、考え方も変えることができる。社会人になって仕事で疲弊してしまったとき、佐々木さんの宇宙ばなしを聞いて心を休めたいと思う。これからどのような宇宙の発見と未来があるのかが、とて も楽しみになった。                                                                      (学生記者 澤畠彩香)

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