2023.08.25

「悲しい涙、うれしい涙」その感動を伝えたい
FLPゼミ生が制作、短編ドラマ「お母さんのなみだ」
ドイツ・ハンブルク日本映画祭で招待上映

取材・構成=学生記者 小西結音(総合政策2)

  • 中大ニュース
  • ゼミ・サークル

「映像リテラシー」「ジャーナリスティックな感覚と時代性」「テレビの力と役割」などをテーマ に学び、山崎恆成客員教授が指導を担当するFLPジャーナリズムプログラムの2022年度ゼミ生 が制作した短編ドラマ「お母さんのなみだ」(I Saw Mommy Crying) が、ドイツのハンブルク で今年6月14~18日に開催された「第24回ハンブルク日本映画祭」で招待上映という形で披露された。上映後、温かい拍手が会場を包んだという。

プロデューサーとして制作に取り組んだ中山春佳さん(2023年3月経済学部卒)と、原案・監督の徳山夏音さん(2023年3月文学部卒)は、「涙には悲しい涙とうれしい涙があることと、そこから生まれる感動、家族の絆を伝えたかった」と、ドラマに込めたメッセージを話している。

姉の明日香と弟の海が、客船で旅行に向かう父母を見送るシーン(中央は祖母)

オーディションでの子役の演技
「素晴らしい作品になる」と確信

「うれし涙」をモチーフに、2022年度のゼミ生(3年生12人、4年生12人)が全員でドラマ化、映像化に取り組んだ。クルーズ客船「飛鳥II」を保有、運航する郵船クルーズと日本郵船が企画に賛同して、大桟橋などのロケ地を提供し、俳優らも協力して完成した。

原案の着想は、監督の徳山さんの幼少期にさかのぼる。日本舞踊の舞台に立った3歳のとき、舞台袖で母親が泣いていた。当時わからなかった涙の理由を、娘の成長を喜ぶ涙だったと何年か後に気付いた。この懐かしい経験が原点だという。

昨年7月にロケーションハンティング(ロケハン)、8月にはキャストのオーディションを行った。主役となる姉の明日香を演じた子役の前田織音さんの芝居を見た瞬間、徳山さんは「私のイメージした脚本にぴったり。前田さんはこの歳(当時11歳)でうれしい涙と悲しい涙の違いを理解している。これは素晴らしい作品にできる」と感じたという。

子役事務所に声をかけたり、サイトで公募したりして、明日香役には十数人の応募があった。もう一人の主役、弟の海役も3人の応募の中から迷わず選んだ。

「徹底した取材」の重要性を学ぶ
作品のもう1つのテーマは…?

弟の海が、母親の泣いていた姿を見たと姉の明日香(右)に打ち明けるシーン

指導を担当した山崎客員教授は、TBSテレビのプロデューサー、演出家で、人気ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」などの制作を手がけている。今回は、郵船クルーズとのタイアップというアイデアもゼミ生に提案した。プロデューサーの中山さんは「先生の行動力に驚きました。タイアップの話も最初は半信半疑だったのですが、表情を見て『先生は本気だ』と気付きました」と振り返った。

短編ドラマを性別・年齢を問わず、幅広い世代の人に楽しんでもらうためにどうするか。徳山さんは「自分だけの価値観や想像でつくるのでなく、山崎先生や家族をはじめ、さまざまな人の声を聞くことが大事だと学んだ」と話した。山崎客員教授を含め、ゼミ生同士も率直に意見を伝え合える雰囲気で制作が進んだ。

実は完成した短編ドラマの背景には、多くの日本人が現役時代に長期休暇を取得できず、定年後にようやく、夫婦旅行などの形で配偶者に感謝の気持ちを表すことができるという現実が隠されている。

作品に登場する大型客船「飛鳥Ⅱ」は人生の旅のゴールの象徴ともなっている。短編ドラマのもう一つのテーマとして、ゼミ生たちは、この理想と現実のギャップを描きたかったという。

ハンブルク日本映画祭で登壇したFLPゼミ生と山崎恆成客員教授(中央)

短編ドラマ「お母さんのなみだ」

共働き夫婦と、子供で小学生の姉弟の4人家族のストーリー。ある夜、リビングで一人泣いている母親の姿を見た弟の海と、姉の明日香が母親に元気になってもらおうと、翌日の夕食にカレーを手作りする。「急にカレーを作るなんておかしい。何かあったの?」と尋ねる母親に対し、「元気になってほしくて、お姉ちゃんと2人でお母さんに優しくしようって。だって、きのう、お母さんが泣いているのを見たんだもん」 と声を震わせて訴える海。

母親は、コップいっぱいに注いだ水があふれだす様子を見せながら、「気持ちも水と一緒で、いっぱいになると、心というコップからあふれて涙になって出てくるんだよ」と語りかける。そして、涙を流した理由を話し始めるのだった――。

 

 

短編ドラマ「お母さんのなみだ」は こちらから鑑賞できます。 

お母さんのなみだ

【編集後記】
自身のドキュメンタリー映像制作のヒントにも
学びの多い、貴重な取材

「涙には悲しい涙とうれしい涙がある」。プロデューサーの中山春佳さんと、原案創作と監督を務めた徳山夏音さん。2人がこの作品を作る上で一番伝えたかった感動がここにある。

徳山さんが3歳のときに立った日本舞踊の舞台袖で見守っていた母親の涙。これが着想の原点だ。制作過程では、ゼミ生同士が意見を出し合い、「涙の意味に意外性を持たせるストーリーにしたら面白いのではないか」とアイデアが膨らんでいったという。初めてのプロデューサー経験となった中山さんも、「うれし涙」というアイデアを聞き、「これは絶対にいい作品になる」と直感した。

2022年8月末、キャストのオーディションが終わり、いよいよ本格的に撮影準備を進めていこうという段階で、中山さんが体調を崩して活動に参加できなくなった。制作進行が滞り、プロデューサーの中山さんにさまざまな面で頼りすぎていたと、ゼミ生の皆が気付いた。仕事を分担する重要性と、教え合うことや後輩の成長をサポートすることの大切さを再確認したという。

山崎先生の意志の強さ、行動力
ゼミ生と二人三脚で創作する

TBSテレビで数々のドラマ制作を手掛けてきた山崎恆成客員教授から、ゼミ生たちは多くのことを学んだ。ゼミ生たちは当初、一案として動画サイト「YouTube」で公開する作品を思い出として残したいと考えていたそうだ。

ところが、郵船クルーズとのタイアップや子役オーディションなど、どんどん話が膨らんで いき、その過程で山崎客員教授の行動力やあきらめない意志の強さを肌で感じ取り、チーム一丸となっていったという。

徳山さんは「先生は夜遅くでも、丁寧なアドバイスをメッセージで送ってくれたり、良い案を思いつけばすぐに知らせてくれたりと、対応が素早かった」と感謝する。

一方で、「先生の作品でなく、自分たちで作り上げた作品にしたい」(中山さん)というゼミ生の意思が大切にされ、現場の誰もがはっきりと意見を言える雰囲気が作られていたことも、良い作品を生む下地になったという。

現在、人材会社のIT部門に勤務する徳山さんは、仕事でディスカッションの機会が多いといい、ゼミで経験したチームワークなどが、若手でも意見を求められる職場で臆せず発言する自信につながっていると教えてくれた。IT業界でデータ管理の仕事をしている中山さんも、ゼミでの学びは他のことにも必ず生きてくると話した。

プロデューサーを務めた中山春佳さん(左)と、原案・監督の徳山夏音さん、中央は学生記者の小西結音さん

私自身の就活に向けて
どれだけ人として成長できたかが大事

別のゼミでドキュメンタリーの映像制作に携わっている私にとって、今回の取材は学びが多かった。徳山さん、中山さんに取材する中で、素晴らしい作品に仕上がったのは、ゼミ生同士の対話と、あきらめない強さだと感じることができた。

作品の方向性が誰かの個性に偏りすぎてしまわないように、たくさんの意見を出し合った、ということや、さまざまな世代に徹底して取材をすることで幅広い世代に楽しんでもらえる作品にすることができた、という話は非常に参考になった。

自分にはない価値観を持ち、さまざまな経験をしてきた上の世代の方に取材して得られる新たな発見を、自分自身の映像制作に取り入れていきたいと思う。

2人の就活への考え方も印象に残った。今回の短編ドラマ制作は、2人とも就活が終わってから取り組んだという話に驚いた。2年生になり、就活を意識し始めた私は最近、「就活を失敗しないためにどうしたらいいか」とばかり考えていた。しかし、2人の生き生きとしたまなざしを見て、中山さんの「大学でやったことは必ずどこかで役に立つ」という言葉を聞き、まずは目の前のことに全力で取り組むという姿勢が大切だと痛感した。

大学でどんな知識を身につけたかということとともに、その過程で仲間とどんな時間を過ごしたか、どれだけ一人の人間として成長できたかが重要なのだと気づいた。就活を大学生活のゴールと考えず、仲間との出会いや周りの方々への感謝の気持ちを持ちながら、さまざまな経験をして、2人のように立派な社会人になれるよう努力し続けていきたい。(学生記者 小西結音)

GO GLOBAL!
スポーツ・文化活動
中大スポーツ
Connect Web
Careers