2023.08.08

アルペン、ノルディック 雪上で躍動
スキー部が29年ぶりにインカレ男子1部制覇
女子は来季1部昇格へ、第96回全日本学生スキー選手権

学生記者 谷井花蓮(総合政策3)

  • 中大ニュース
  • アスリート

スキー部が第96回全日本学生スキー選手権大会(インカレ)の男子1部で29年ぶりに総合優勝 を飾った。男子1部はアルペン、ノルディックの8種目で争われ、中大勢はアルペン・スーパー大回転(スーパーG)の薄井理央選手(商4)と、ノルディック複合の畔上祥吾選手(法4)が優勝するなど、白門スキーヤーたちが縦横無尽に雪上で躍動した。松倉后杏選手(経済4)らの活躍で2部で優勝した女子は、来季の初の1部昇格が決まった。

個人にスポットが当たりがちなスキー競技だが、寮生活などで仲間意識が育まれ、スキー部の結束は固い。喜びにわくスキー部の中で、来季の連覇を見据える薄井選手と畔上選手、松倉選手に勝因や来季への意気込み、スキーの魅力などを尋ねた。

(写真左から)畔上祥吾選手、松倉后杏選手、薄井理央選手

念願のインカレ制覇、大けがから復活
苦難の末にたどり着いた栄冠
アルペン・スーパー大回転(スーパーG)優勝 薄井理央選手(商4)

「自分(の優勝)だけでなく、チー ム全体で(種目ごとに)少しずつポイントを獲得できたのが団体制覇の要因。チームとして個人として、優勝できてほっとしています」と真冬のインカレを振り返り、安堵の表情を浮かべた。

インカレのスーパー大回転は2月3日、福島・猪苗代スキー場で争われた。得意種目であり、「勝つ」という強い気持ちで挑み、荒れた雪質を果敢に攻めた。同じコースで開催された2日前の全日本選手権、前日の学生チャンピオン大会でともに敗れた悔しさを、インカレで晴らした。

大学生活はけがとの闘いの連続で、順風満帆でつかんだインカレ王者の座では決してない。優勝は大けがを克服した証しでもあった。

大学1年の2月、試合中に転倒し、右足のくるぶしを骨折した。骨を固定する器具を入れる手術を行い、その器具を外したり、欠損した骨を取り除いたりと、手術は大学3年秋までに計4回に及んだ。

「一日一日を大切に、質の高いトレーニングを」

 

けがの影響で、シーズン中も夏場も満足できる練習量はなかなか望めなかった。それでも、「一日一日を大切に、質の高いトレーニングを心がけた」。夏場はウエートトレーニングやランニングに懸命に取り組んだ。「決して多いとはいえない練習量で勝てた。けがにも勝てた証しです」と笑顔を見せる。

けがを克服できたのは「負けたくない。勝ちたい」という気持ちの強さがあったからだ。スキー板を履いた練習をできない期間も短くはなかったが、あきらめずに取り組んだ。日々の努力の積み重ねが今回の栄冠に結び付いたといえるだろう。

スキーの魅力について尋ねると、「美しい山や自然の中で楽しめる。雪山の斜面を高速で滑り降りる爽快感がたまらない」と語り、「トレーニングや、スキー板へのワックスがけといった用具の手入れなど、努力や取り組みが結果に直結するところが魅力」と続けた。

今後は「もっとパワーを付けたい」と自身の課題を挙げる。世界を転戦し、ワールドカップ(W杯)で活躍するのが将来の目標だ。

薄井理央選手

うすい・たかひろ 長野・飯山高卒、商学部4年。165センチ。高校時代は選抜大会、全日本ジュニア選手権で優勝。趣味はサウナに入ることという。

 

アルペン・スーパー大回転(スーパーG)

アルペンスキーの高速系の種目。さらにスピードが出る種目の「滑降」と、よりテクニカルな「大回転」の中間に位置づけられる。選手にはスピードとターンの正確さの両方が求められ、高度な技術が必要とされる。

「連覇で真のチーム力を証明したい」
インカレ独特の雰囲気を楽しみ、勝利へのモチベーションに
ノルディック複合優勝 畔上祥吾選手(法4)

ⓒUNIVAS

 

同僚の薄井理央選手のアルペン・スーパー大回転の優勝はインカレ初日(2月3日)だった。薄井選手をはじめとするアルペンチームの好成績から、「中央大学は勢いづき、士気が高まった」と感謝する。

寮生活を送る部員同士の仲間意識は「高校のとき以上に強い」と打ち明け、だからこそ総合優勝は「うれしさがこみ上げ、素直に感動した」と振り返る。

ただ、「来季へのプレッシャーも感じた」という。理由は、2年連続で総合優勝を果たすことで、真のチーム力を証明できると考えるからだ。

インカレのノルディック複合(2月24日、秋田・鹿角市花輪スキー場)ではジャンプ、クロスカントリーともに調子が良く、自信をもって臨んだ。同じ会場にさまざまな冬季種目に取り組む大勢の仲間が集い、ほかの大会とも違う独特の雰囲気や歓声の大きさがモチベーションとなり、試合を楽しめたことも勝因となった。

W杯転戦し、ランキング30位以内を

自分自身を分析し、改善できる点がアスリートとしての強みだと考えている。毎年、ウインターシーズンが終わると、いったんフォームを崩し、トライアンドエラーを繰り返して一から組み立て直すという。「客観的に自分を見つめ直す」というこの行為を苦に感じるときもあるが、それも楽しみながら競技と向き合っているという。

ジャンプのアプローチのタイミングの習得、クロスカントリーで海外選手と比べて遅れがちになるカーブやコーナリングでの走法の改善を、現在取り組んでいる課題として挙げている。

個人、団体のインカレ連覇とともに、2023~24年の来季に見据えているのが、ワールドカップ(W杯)メンバーに定着することだ。昨季はW杯に次ぐレベルのコンチネンタルカップを転戦してポイントを獲得し、3月のW杯第21戦(フィンランド・ラハティ)に出場する機会を得た。

結果は37位と世界の壁はまだ厚かったが、最高の舞台で戦えるという楽しさを肌で感じた。大会にはW杯を転戦していたスキー部主将の木村幸大選手(法4)も一緒に出場した。

来季は、出場する国内大会すべてで優勝し、W杯総合ランキングの30位以内入りを目指す。究極の目標は、五輪でのメダル獲得だ。

畔上祥吾選手

あぜがみ・しょうご 長野・飯山高卒、法学部4年。175センチ。今年1月の第101回全日本スキー選手権ノルディック複合では準優勝。 アニメ鑑賞が趣味。買い物や料理、ゴルフも好きという。

 

ノルディック複合

前半種目のジャンプのポイントを、後半のクロスカントリーのタイムに換算して争う。クロス カントリーは筋力や持久力、ジャンプは瞬発力などを求められ、総合的な運動能力が試され る。複合王者は欧州で「キング・オブ・スキー」と称される。畔上選手は「投手と打者の二刀流 で活躍する野球の大谷翔平選手に引けを取らない、すごい能力の持ち主」とたとえている。

「優勝はたくさんのサポートがあったからこそ」と感謝
女子2部クロスカントリー10キロクラシカルと5キロフリー、複合の3種目制覇
松倉后杏選手(経済4)

10キロクラシカルで力走する松倉后杏選手 ⓒUNIVAS 

「序盤は一人で飛び出さずに、(集団で)まとまって行けよ」「場所取り(集団内の位置取り)は大事。狙いたい順位は見えるところにいれば取れるけど、トップを突っ走れるならそれが一番かっこいい」

クロスカントリーの10キロクラシカル(2月23日、秋田・鹿角市花輪スキー場)のスタート前、中大スキー部OBで4歳年上の兄、源帥(げんせい)さんからスマートフォンにメッセージが届いた。

アドバイスを守って幸先よく優勝すると、勢いに乗って翌日のノルディック複合、翌々日のクロスカントリー・5キロフリーも制覇した。前年のインカレ女子2部で5キロクラシカル、10キロフリーを制しており、2年連続で2冠を達成した。

薄井理央選手を筆頭にアルペン男子がインカレ初日に勢いをつけ、「スキー部全体が波に乗れた」という。さらに「(仲間の活躍は)種目が違っても励まされる。監督やコーチ、メンバー、OB・OGの方々など、たくさんのサポートがあったからこそ勝てた」と感謝し、「女子の2部優勝 と1部昇格は初めてなので本当にうれしい」と熱い思いを語る。

“クロスカントリー一家”に育つ

兄の源帥さんだけでなく、父も姉もクロスカントリーをしていたという“クロスカントリー一家”に育ち、ジャンプは自らの意思で新しいことに挑戦したいと始めた。競技にスト イックに打ち込む大学時代の源帥さんの姿が印象深く、「(スキー部は)兄から楽しく活動できると聞いていて、自分も兄のように強くなりたかった」と、同じ中大への進学を決めた。

雪上をひたすら前に進むクロスカントリーは、「つらく厳しい種目だけど、(1位でフィニッシュしたときの)達成感も大きい。だからこそもっと頑張ろうと思える」と語り、トレーニングなどの努力を継続できるところが自身の強みだと考えている。男子部員とトレーニングや合宿を行えることもアスリートとして刺激になっているという。

コロナ禍で始まった学生生活。大学3年の4月に初めて多摩キャンパスで授業を受けた。教室で授業を受けるようになると、「対面のほうが、より勉強の内容が頭に入ってくる」と実感したという。登校できず、オンライン授業が続く間は「困難な状況は皆、同じだ」と捉え、長野県白馬村の実家でランニングやローラースキーなどで自主練習を重ねた。

来季(2023~24年シーズン)は、よりレベルの上がる女子1部で戦うことになる。「入賞してポイントを獲得し、チームに貢献したい。練習や一つひとつの試合を楽しみながら強くなりたい」と抱負を話している。

松倉后杏選手

まつくら・こうあん 長野・白馬高卒、経済学部4年。153センチ。インカレでは、女子2 部のクロスカントリー10キロクラシカルと5キロフリー、ノルディック複合でいずれも優勝。「全力で楽しんで、十分にやり切り、後悔なく競技生活を終えたい」と語り、卒業後は競技の一線からは退く予定という。学生生活やアスリートとしての自分を見守り、支えてくれた家族、友人・知人らに心から感謝しているといい、ラストシーズンに全力を傾けるつもりだ。

 

クロスカントリー クラシカル走法、フリー走法

クラシカルは、スキー板を平行に保ちながら足を前後に動かして前進する伝統的な走法。フリーは走法技術に制限がなく、スケートのように足を左右に動かせるため、クラシカルより速く進むことができる。雪質や天候を判断して、スキー板の滑走面に塗布するワックスの選択も勝敗を左右する要因となる。

個々の勝負へのこだわりがインカレ制覇に結実
スキー部監督 今井博幸

わがスキー部は、76年前に創設されたときから、「国際級の選手の輩出」を目指し活動してまいりました。今もその想いは引き継がれており、本年度、主将の木村幸大をはじめ、世界選手権、ワールドカップ、ユニバーシアードと世界を舞台に挑戦を続けています。

インカレ男子1部、女子2部で優勝しましたが、男子19名、女子6名(インカレ当時)と、少数精鋭のチームです。男女とも全種目で着実にポイントを重ねて優勝することができました。男子は(当時の)3、4年生がチームを牽引し、チームに勢いを付けてくれました。

一方、女子は、北海道大学との激しい優勝争いの中、1年生(当時)の伊藤麻理乃が回転(スラローム)1本目でコースアウトしてしまったのですが、そこでレースを棄権せずに執念で駆け上がりレース復帰しました。そして、2本目では2位に1秒以上の差をつけ、1本目のビハインドを挽回して8位に入賞し、あきらめることなくレースをつないで責任を果たしてくれました。3年生(当時)の松倉后杏も、同日にジャンプと距離の2種目に参戦して得点を積み重ねてくれました。

個々の勝負へのこだわりが結集した優勝であったと思います。スタッフやOBの皆様の想いと伝統を引き継いできましたが、そこに中央大学の強さがあるのだと思います。

今後も、創設されたときの理念をもって、皆様方のお支えに感謝しながら、進みつないでいかなくてはならないと感じております。

第96回全日本学生スキー選手権大会
(2023年2月3日~2月26日、福島・猪苗代スキー場、秋田・鹿角市花輪スキー場)

◇男子1部学校対抗得点

順位 大学名 記録

① 中央大 92点

② 日本体育大 54点

③ 東海大 52.5点

④ 慶應義塾大 50点

⑤ 日本大 48.5点

(上位5校)

 

◇男子1部 中大 主な個人成績

順位 選手名 記録

アルペン・スーパー大回転(2月3日)

① 薄井理央 1分08秒00

⑥ 森囿竜輝 1分09秒15

⑦ 伊藤 匠 1分09秒22

 

アルペン・大回転(2月22日)

⑤ 富井大賀 1分41秒09

⑦ 佐鳥一樹 1分41秒64

 

スペシャルジャンプ(2月23日)

⑤ 畔上祥吾 205.4点

⑨ 中澤拓哉 187.1点

 

クロスカントリー30キロ・クラシカル(2月23日)

③ 髙橋汰門 1時間17分22秒2

 

クロスカントリー10キロ・フリー(2月24日)

⑤ 髙橋汰門 22分32秒9

 

ノルディック複合(2月24日)

① 畔上祥吾 (ジャンプ2位、クロスカントリー1位)

② 中澤拓哉 (ジャンプ7位、クロスカントリー4位)

⑨ 小野沢泰雅 (ジャンプ17位、クロスカントリー5位)

 

アルペン・回転(2月24日)

⑤ 佐鳥一樹 1分38秒38

⑦ ウィリアムス飛ニコラス 1分39秒63

 

クロスカントリー 4×7.5キロリレー(2月26日)

③ 中央大 1時間13分54秒3

1走 沓掛隼士 19分34秒3(区間4位)

2走 小林皓生 19分37秒9(区間5位)

3走 湯本幸耶 17分15秒2(区間1位)

4走 髙橋汰門 17分26秒9(区間3位)

松倉后杏選手

畔上祥吾選手

◇女子2部学校対抗得点

順位 大学名 記録

① 中央大 249点

② 北海道大 232点

③ 國學院大 166点

④ 学習院大 162点

⑤ 東北大 160点

(上位5校、2位以上は来季1部昇格)

 

◇女子2部 中大 主な個人成績

順位 選手名 記録

アルペン・大回転(2月22日)

① 保坂花 1分56秒23

③ 伊藤麻理乃 1分57秒59

⑥ 田中凛 2分00秒36

 

スペシャルジャンプ(2月23日)

② 松倉后杏 103.9点

 

クロスカントリー10キロ・クラシカル(2月23日)

① 松倉后杏 34分57秒8

 

アルペン・回転(2月24日)

④ 田中凛 1分50秒01

⑦ 西田れいあ 1分51秒39

⑧ 伊藤麻理乃 1分51秒77

 

ノルディック複合(2月24日)

① 松倉后杏 (ジャンプ1位、クロスカントリー1位)

 

クロスカントリー5キロ・フリー(2月25日)

① 松倉后杏 14分32秒4

【編集後記】3選手に感じた「スキー愛」の強さ
学生記者 谷井花蓮(総合政策3)

(左から)畔上祥吾選手、松倉后杏選手、薄井理央選手と学生記者の谷井花蓮さん

取材では一人ひとり、スキーやインカレのこと、スキー部や仲間への思いなどを話してくれたのだが、取材の合間も楽しそうに会話し、3人の仲の良さが垣間見えた。なにより、3人の「スキー愛」 の強さを感じた。それぞれの種目に打ち込む姿勢や、やりがい、将来の目標などを話す顔は輝いていた。

松倉后杏選手は、自分自身の性格を「ネガティブなんです。どこか心に保険をかけてしまう」と話した。しかし、「スキーをやめたいと思ったことはありますか」と尋ねたところ、「正直、つらいときや結果の出ないときに、やめたいと思ったことは何度もある。なぜ、こんなにつらいことをやっているのだろうと疑問に感じたこともある」と打ち明けながらも、「自分にはスキーしかない。自分でやると決めたスキーを続けたい」とも感じたという。

さらに、「スキーを続ける環境を整えてくれる両親や、応援してくれている友人、知人に恩返しをしたい」という思いが、モチベーションへとつながっていったという。私は、松倉選手の芯の強さを感じ取った。

大学1年から、長くけがと闘う日々を経験してきた薄井理央選手。私なら周囲と差がつくのではないかと焦りを感じてしまうはずだ。そうした状況で「どのように前向きにスキーに向き合えたのか」と聞くと、薄井選手は「周りの人に負けたくないと感じたから。同期や地元の仲間が頑張っているのを見ると自分も頑張ろうと思える」と答えた。

この負けず嫌いなところと、どんな状況でも前向きに取り組める姿勢がアスリートとしての強さを支えていると強く思わ された。

楽しいこと、つらいこと…話に勇気づけられる

畔上選手は、自分自身を何度も見つめ直し、常に向上心を持ち、スキーに取り組んでいるという。スキー愛が伝わり、熱く語る姿が印象的だった。ノルディック複合の魅力について聞くと、「クロスカントリーとジャンプという異なる能力、技術が求められる2種目を行うことは、(投手と打者の)野球の二刀流のようなものです。これが他の種目にない特別なところであり、魅力ではないか」と教えてくれた。

好きなスキーに全力で取り組む3人の姿はとても魅力的だった。競技に挑む中では楽しいことばかりではないと知ることもできた。そして、つらいこと、苦しいことを仲間と支え合いながら乗り越えてきた3人の話は、私を勇気づけてくれた。

☆中央大学学友会体育連盟スキー部

1947(昭和22)年創部。布目靖則部会長。今井博幸監督。木村幸大主将。2023年6月現在の部員数は26人(男子20人、女子6人)。内訳はアル ペンスキー13人(男子8人、女子5人)、クロスカントリー7人(全員が男 子)、ノルディック複合6人(男子5人、女子1人)。

GO GLOBAL!
スポーツ・文化活動
中大スポーツ
Connect Web
Careers