北原修監督は「初戦を突破すれば上位に行ける。一番のカギは３回戦」と考えていた。３回戦で相まみえた村田桃子選手（鹿屋体育大＝当時）も高校の先輩だ。

実力は五分五分とみられたが、山場のこの対戦も「胸を借りるつもりで思い切っていった」。見事な飛び込みメンで会心の勝利、波に乗った。

実は全日本女子選手権の１週前、諸岡温子選手は部内戦で４敗を喫した。「そこから開き直ったのか、大会の４日前には剣道がよくなっていった」と北原監督。いわば、どん底の状態から日本一に上りつめた格好だ。

ライバルの剣士を尋ねると、高校時代の同期、妹尾舞香選手（鹿屋体育大）の名前を挙げた。高校時代にインターハイ連覇、世界選手権個人３位の実績を持つ妹尾選手の背中を常に追いかけてきた。「学生のうちに対戦して追いつきたい」と謙虚に話す。

もちろん、諸岡選手も3年に一度開催される世界選手権での日本代表の座を狙っている。

諸岡温子選手の優れた点は男子選手並みのスピードにあると、北原修監督はみている。一対一の戦いの剣道では、相手との間合いを制することが勝敗を分ける重要なカギとなる。諸岡選手は、間合いから相手に体を寄せるスピード、竹刀を振るスピードともに一級の実力の持ち主だ。

「左足のばねの強さは持って生まれた天性のもの。脚力がスピードを支えている」。自身も団体インカレ制覇の実績を持つ北原監督はそう目を細めた。積極的で前向きに剣道に取り組み、謙虚さやアドバイスを受け入れる素直さ、研究熱心なところも良いと褒める。

諸岡選手はもともと、選手同士の体が接近し、面と面がぶつかり合う、つばぜり合いから身を離した瞬間に繰り出す引き技が得意だったが、全日本剣道連盟はコロナ収束までの暫定的なガイドラインとして、つばぜり合いを避けると取り決めた。

諸岡選手は「得意な引き技を打てないことは辛かった」と話すが、高い身体能力により、引き技ではなく、仕掛け技だけで十分に戦えると、北原監督は分析している。本来の天賦の才脳が、ガイドラインによって攻撃型の戦い方として図らずも生かされる形になった。

「今の日本一を勝ち取った攻めの剣道を継続していってほしい。防御力を強化しようとすると、持ち味の攻撃面でのスピードが甘くなりかねない。（諸岡選手には）周りの仲間と一緒に強くなりたいという意識やリーダーシップもある」と北原監督。将来は日本の剣道界を背負う存在となり、誰からも応援される剣士に育ってほしいと願っている。

響き渡る声と、朝稽古に真剣に励む剣士たちの迫力ある姿。多摩キャンパス第１体育館の剣道場に足を踏み入れたとき、剣道部の皆さんの迫力、熱気にまず圧倒されました。

　剣道場から気合の入った声が聞こえ、人いきれや運動部ならではのにおいが、私に中学・高校のバレーボール部で練習をしていた頃のことを思い出させました。朝稽古を終え、次々に挨拶の声をかけてくれる部員の皆さんからは、礼儀を大切にしていることが分かります。

「HAKUMON Chuo」の表紙写真の撮影で、竹刀を構える諸岡温子選手は、凛とした表情で、とても格好よく感じました。選手としてのたくましさの一方で、取材すると、明るく気さくな人柄で、剣道が心の底から好きだという気持ちが伝わってきました。

部活動をしている学生は休みがなく、忙しいという印象がありましたが、休みの日にも練習をしたり、学業と両立しながらプラスアルファの練習をしたりと、上手に時間を使っているようです。

剣道の戦い方の研究や分析にも熱心で、明るく前向きなところや、アドバイスなどを素直に受け入れるという点は、北原修監督も素晴らしいと認めています。また、真剣に、そして積極的に剣道に取り組む姿は、他の部員にも好影響を与えていると感じました。

諸岡選手は、自分だけでなく周りの選手たちと一緒に強くなりたいという意識を持ち、仲間と力を合わせてのインカレ制覇が目標の一つです。剣道部の部員同士が非常に仲が良く、心を許し、稽古後に笑顔で楽しそうに話す姿も印象に残っています。