2024.12.05

法的思考の基礎を培った中大時代
女性で初の就任
法学部卒業生の畝本直美検事総長にインタビュー

学生記者 木村 結(法2)

  • キャリア
  • きょう・あした

中央大学法学部の卒業生で、女性として初の検事総長に2024年7月に就任した畝本直美(うねもと・なおみ)氏(1985年卒)は、検察トップという立場で多忙な毎日を過ごしている。就任まもない8月に、法学部に在籍する後輩の女子学生として、「HAKUMON Chuo」学生記者としてインタビューする機会に恵まれた私は、検察官としての職責や日々の業務、法曹を目指したきっかけ、中大生だった頃のこと、現在の中大生へのメッセージなどをお聞きした。

(インタビューは8月29日、中央大学学員会〈同窓会〉の機関紙「学員時報」取材と合同で行われました)

「自分は何をしたいか」
モラトリアムの2年間が大切な時期だった

―― 中央大学に入学した理由、法曹を志した経緯を教えてください

畝本検事総長 もともと歴史や文学、社会科学などが好きな文系(のタイプ)でしたが、司法試験を受けて法曹になろうと決意したのは大学3年生のときで、そこから(本格的に)勉強を始めました。高校生の頃から、女性が社会に出て仕事に就きたいと思ったとき何か資格があった方が有利だとも思っていましたし、法曹を目指すなら「法科の中央」として有名な中央大学であると思い、志望しました。

また、多感な時期で「親元から離れて一人暮らしをしたい」という思いが強く、多摩の中大なら自宅から通えないと(笑い)。親に反発と言いながら、親のすねかじりで一人暮らしを始めたんですけれどね。

―― どのような学生生活を送られたのでしょうか

畝本検事総長 入学後は毎日、友達とボウリングをして遊んだり、好きな本をずっと読んだりと好きに時間を使って過ごしていました。「自分は何をしたいんだろう」「大学を出たら何をしようかな」と、ぼんやりと考えていたような時期でした。そして、大学3年生の秋に「法律は面白い。まじめに取り組もう」と進む道を決めて、勉強できる環境を得ようと、研究室(郁法会)の入室試験を受けて合格しました。それからは1日10時間くらい集中的に勉強をしていました。いま思えば、何をしたいのか分からなかったモラトリアムの(大学1、2年生の)2年間が大切な時期だったと思います。だから、「これだ」と思った法曹という目標に向かって取り組めました。

―― 大学時代に得たもの、学んだことで仕事に生かされていると感じることはありますか

畝本検事総長 (法学部での学修が)法的思考の基礎、法律的なものの考え方の基礎を与えてくれたことです。「もっと学びたい」と思ったときに、学びを深めてくれる環境がありました。郁法会に入り、先輩との「条文ゼミ」で、条文それぞれの法律要件や効果について仲間の考え方を口頭で聞き、基本的な法律の見方や観点などを学ぶことができました。法律書を読んで生じた疑問や考えを研究室の人たちと議論できる環境があったことが非常にありがたかった。

授業では渥美東洋先生の刑事訴訟法と、木内宜彦(よしひこ)先生の手形小切手法の講義がとても好きでした。先生方から法的思考とは何かということや、法律が「社会はどうあるべき」という価値観に裏打ちされているということを教えていただきました。

―― 法曹3者のうち、検察を選ばれた理由は何ですか

畝本検事総長 法律を勉強する中で、刑事法、刑事政策には「人の人生が詰まっている」という感じがしたんですよね。犯罪はやってはいけないことだけれども、どうしてそういうことになってしまうのか、それにきちんと向き合いたい気持ちがありました。そして、司法試験に受かって、仙台で実務修習をしたとき、検察庁には、人間くさい感じの方が多くて、面白かったんです。指導担当ではない方が夜、修習生を飲みに連れていってくれて、太宰治の小説の話とか哲学青年がするような議論をしました。そういうのが私は好きで、生身の人間に興味、関心を持って、きっちりと向き合いながら仕事をされている方がいるんだなとわかり、志望したんです。

検察は上命下達ではなく、納得いかなかったら(上司、部下に関わらず)話し合えて、外から見るよりフラットに議論しているところもあります。それは修習生の頃に感じた印象と変わりません。

さまざまな職種を経験
一線の検察官が働きやすい環境をつくる

―― これまでのキャリアと、現在の仕事の内容を教えてください

畝本検事総長 キャリアの半分は検察官の仕事である公判や捜査に当たっていました。その後のキャリアでは法務省の刑事局、民事局、保護局、人権擁護局、法務大臣秘書官とさまざまな職種に就きました。法テラス(日本司法支援センター=法的トラブルの解決に必要な情報・サービスを提供する、国が設置した総合案内所)への出向や司法研修所の教官も経験しましたね。

いろいろな経験をする中で、やりたい仕事(職種)を自分で決められなかったことが良かったと思っていて、自分の希望で選んでいたら、ここ(の部署)に来たかどうかわからないのに、それぞれの仕事がどれも面白かったんです。いろいろなことを学べるというのが本当にありがたかった。

―― 検事総長としての抱負を教えてください

畝本検事総長 証拠を集めて真相を解明し、真相に見合った妥当な処分を行っていくという検察官の職責は、決して簡単なことではなく、大変な仕事です。しかし、その分やりがいを感じられる仕事です。最高検察庁があり、8つの高等検察庁、50の地方検察庁がある中で、地方検察庁が主に個々の事件に対処していますが、一線の検察、検察事務官らが、どういうことに困っているのかを把握し、働きやすい環境を作りたいというのが抱負です。

検事総長として壁を作ることなく、自分から聞きに行ったり、若い人と接する機会を作ったりしたい。捜査、公判に役立つことをしたり、より良い職場とするためにワークライフバランスを整えたりするなど、幅広く仕事をしていきたいと思っています。

―― 法学部で以前は少数だった女子学生が近年増加していることをどう受け止めていますか(畝本検事総長の入学時に1割に満たなかった法学部の女子学生は、2024年度には学部生5711人のうち2527人と約45%を占めている)

畝本検事総長 法律は社会の紛争解決のためのルールであり、それを扱うのが法律家だから、世の中が男女同じくらいの数なのに、法学部が男子ばかりであることに疑問を持っていました。女子の割合が増えてきたのは自然の流れであり、良いことであると思います。在学中は女子の数が少なかったので、同じクラス、ゼミでない女子も大体は顔見知りでした。入学式で近くに座り、声をかけてくれた女性とは今も仲が良いです。

―― 法曹で活躍する女性が増え、令和4年12月採用の新任検事に占める女性の割合は49.3%と半数近くになったと聞いています。これは政策的に進められているのでしょうか

畝本検事総長 意識的に女性を増やそうとはしていません。検事の適性がある人を修習生から探して、その結果、女性が増えているということだと思います。真相解明への熱意やリーダーシップ、警察など他機関と連携してコミュニケーションを図れるかなど、いろいろな適性が必要ですが、そうした適性をもった女性が多くなっているということではないでしょうか。

採用時に女性が増えてきているのは良いことだと思いますが、その後、検事の仕事を続けてもらう仕組みづくりも大切です。家事や育児の負担や、仕事との両立、転勤などの問題に対処し、検事に採用された女性が働き続けていくための対策を取っていかなければなりません。

学生時代は自分を大切に
やりたいことに一生懸命に取り組んでほしい

―― ストレスやその解消法はありますか

畝本検事総長 (事件や公判のことが)寝ても覚めても頭から離れないことはありました。(勾留期間などの)限られた時間で精いっぱいできることを行うというのは、ストレスといえるかもしれないけれども、逆にそれがあるから、何かできたときは「やれた」と(達成感を)感じられます。現在のストレス解消法は、何も考えない時間をつくることです。ジョギングは12~13年前に始めましたが、リズムと呼吸だけに集中できて、リラックスできます。一人旅もストレス解消法かな。行きたいと思ったところに気ままに向かってしまいますね。

―― お忙しい中で母校のことを意識するときはありますか

畝本検事総長 (学員会の)東京検察支部の支部総会に最初に出席したときは、中央大学出身の検察官の先輩がこんなに大勢いるんだと驚きました。転勤した高知や広島では、学員会の支部の皆さんが歓迎会を開いてくださり、親しく話ができて、知らない土地でとても心強く、ありがたかったです。

(中大は)多角的な広い視野を持った柔軟な考えを持った学生、人材を多く輩出する大学であってほしいと思っています。

箱根駅伝は必ず見ていますよ。仲のいい友人と連絡を取り合って皆で応援しています。頑張ってほしいですね。

―― 後輩の中大生にメッセージをお願いします

畝本検事総長 学生時代はいろいろなことを見ようと思えば見られる時間があるし、やりたいことをやったらいいと思います。やりたいことが決まっている人はそれに向かって一生懸命にやればいいですし、(やりたいことが)まだわからなくて、もやもやしていても、そういう時も必要だと思いますから。あまり人と比べないで、自分を大切に考えて頑張ったらいいのではないでしょうか。

畝本直美検事総長

うねもと・なおみ。千葉県出身。県立千葉高校卒、1985年中央大学法学部法律学科卒。1988年に東京地検検事となり、2021年7月に女性初の検事長として広島高検検事長に就任。2023年1月には検察ナンバー2の東京高検検事長に就任した、中大出身の検事総長は3人目で、就任は2024年7月9日付。中大時代は、小説家・劇作家の筒井康隆さん、詩人の中原中也らの作品を愛読していたという。

【取材後記】大学生活での挑戦や経験
「すべてが将来への意味あるもの」
学生記者 木村結(法2)

厳かな空気に包まれた最高検察庁の一室で、緊張しながらインタビューの開始を待っていた。実際に取材が始まると、畝本直美検事総長はとても親しみやすく、話しやすい方で、たちどころに和やかな雰囲気になった。おかげで、私もすぐに緊張が解け、リラックスして取材を進めることができた。このような朗らかな人柄も、検察トップに就任された理由の一つであるように、私には感じられた。

一番印象に残ったのは大学3年生の秋から司法試験の勉強を始めたということだ。当然、大学入学後すぐに法曹の道を目指して勉強を始めたとばかり思っていた。2年生までは自由に、好きに、やりたいことをしていたという。そして、いま振り返るとその時期があったからこそ、明確な目標=法曹を見いだしたとき、集中して取り組むことができたと話されていた。

私自身、将来進む道について迷っている最中である。具体的に何をやりたいかはあまり決まっていない。大学3年生になる来年には進路を固めないといけないと少し焦ってしまっている。しかし、畝本検事総長の言葉から、友達と遊んだりサークル活動をしたり、新しいことに挑戦したりといった大学生活のすべてが、将来につながる意味のあるものと感じられた。そう、焦る必要は全くないのだ。

この学生記者の活動を含め、やりたいと思ったことに挑戦してきて、すべてが経験として自分に身についている気がする。そうした挑戦や経験が将来へとつながり、目標が定まったときに生かせる糧となることを願っている。

私も学んだことのある法律名を例に出して、分かりやすく説明してくださったときは、検察トップの方と法律面で意思疎通ができた気がして胸が弾んだ。時代は違っても、同じような環境で授業を受けられていると感じ、授業をより意義のあるものにしていこうと、意識を高められた。

同じ中央大学法学部で学ぶ後輩の女子学生として畝本検事総長の存在を誇りに思っている。人生観などを見つめ直す学びの時間ともなった今回のインタビューは、ずっと心に留めておきたい経験になった。畝本検事総長のように素晴らしい芯のある考えを持てる人になりたいと感じた。

お忙しい中で貴重なお話を伺うことができ、心より感謝申し上げます。

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