2022.01.24

ビール原料のホップの蔓から次世代ナノ素材の分離に成功
農業廃棄物を活用、軽量・高強度に産業界も注目
経済学部2年の学生がプロジェクト研究を主導

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経済学部の樋口邦史講師が開講する「キャリアデザイン」「Glocal Field Studies」で生まれたプロジェクトから、履修生の経済学部2年生の2人、齊藤央将さんと斉藤羽流さんがスピンアウト(派生的に独立の組織を作ること)させて得た着想をもとに、横浜国立大学大学院工学研究院の川村出准教授らの研究チームが2021年6月、ビール製造の原料となるホップの蔓(つる)から、次世代のナノ素材として注目される超極細繊維「セルロースナノファイバー」を分離させることに成功したと発表しました。

詳細は米国化学会発行で、化学系雑誌の中でも高い権威を有する「ACS Agricultural Science & Technology」に投稿され、最も注目度の高い論文として、雑誌の表紙を飾りました。

齊藤央将さんと斉藤羽流さんに、プロジェクトの内容や、経緯、やりがいなどを綴ってもらいました。

現地を見て、課題を掘り下げ、新しい見方を学び、新たな価値を見出し、
プロジェクトを練り直していく
齊藤央将さん(経済2)、斉藤羽流さん(経済2)

プロジェクト研究の発端は、「キャ リアデザイン」でした。  私たちは、岩手県遠野市の特産物 である「ホップ」農業が抱える問題の 解決を課題としました。市内のホップ は生産量、栽培面積、就業者がそれ ぞれピーク時から約6分の1に減少 しています。また、毬花(きゅうか)と 一緒に収穫される蔓(つる)は花の 6、7倍の量になり、廃棄に多大な費用や労働力が必要とされます。

スタートは「キャリアデザイン」

キャリアデザインの授業風景

「農家の負担になっているだろう蔓の処分を糸口に、手助けができないか」。私たちは、これを課題とし、授業を担当する樋口邦史先生から紹介された遠野市職員(当時は遠野みらい創りカレッジ・マネジャー)の西村恒亮さんと一緒に活動を進めました。

ホップの蔓とは何かを掘り下げ、 植物の素材を利用した先進的な科学技術を生かせるのではないかと考えて、セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber、以下 CNF)に着目しました。CNFは軽量で強度が高いという特性から産業界で注目されています。農業廃棄物も植物であり、既存の炭素繊維が木材からの製造が主流なことから、 木材と同様にCNFを取り出せるかもしれないという仮説を立てました。

「社会実装にこそ本当の価値」「持続的な産業をつくりたい」

ビール原料となるホップの毬花

他の授業やゼミと同様、プレゼンテーションまでがゴールでしたが、「社会実装にこそ本当の価値がある」「一時的な提案ではなく、遠野を支える持続的な産業をつくりたい」と、西村さんと私たちは考えました。樋口先生に相談をしながら、授業後も独自に研究を進めたのです。

スピンアウトした理由は、私(齊藤央将)の実家がクリ農家であったことにあります。クリも、いがや皮の部分は放っておくと虫害が発生するなど農業廃棄物の問題があります。実家は結局、農家を続けられなくなり、今もその悔しさを覚えています。

この経験からも、ホップ農業の苦難を切実に感じ、研究を継続しようと思いました。そして、仮説を検証してくれる研究者を探し、コーヒーかすからのCNF取り出しという研究を発表されていた横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門の川村出准教授に依頼しました。川村先生と、 同大学院理工学府化学・生命系理工学専攻の院生、金井典子さんによる熱心な科学的検証のおかげで、ホップからのCNF取り出しに成功し、このCNFを「Hop-CNF」と名付けました。

「キャリアデザイン」からスピンアウトしてプロジェクトを進めた
齊藤央将さん(左)と斉藤羽流さん(右は樋口邦史講師)

プロジェクト進行には、オンラインの会合が役立った
(右上は遠野市職員の西村恒亮さん)

コロナ禍でも走りながら成長する

遠野市のホップ畑

研究論文が米化学系雑誌で高く評価されたのは、技術的な面だけではなく、一見マイナスに思えるような社会問題を、新しく捉え直し、それを価値に変えることが社会で必要とされているからだと考えています。

研究のインパクトとしては、製品開発における化石燃料の使用量減少に伴うCO2排出量の減少や、軽くて強度の高い複合材料による製品開発、環境などへの配慮に基づく製品開発・流通・消費によって地域循環型経済が形成され、企業のSDGsへの取り組みの加速化などの相乗効果なども期待できます。

CNFは定義上、どの農業廃棄物からも取り出すことができ、多地域、多品種へと展開していくことで、生産・輸送・消費のあり方を変えうると考えています。

なぜここまで続けることができたか。それは研究を進める中で、現地を見て、現地の人の話を聞き、課題を掘り下げ、新しい見方を勉強して、 新たな価値を見出し、プロジェクトを再構築させていくことができたか らです。

コロナ禍でも活動を続けることができたのは、遠野におけるネットワークを構築してくれた西村さん、社会的価値を追求していただいた川村先生、金井さんの尽力があったからこそであり、ZoomやSlackなどのコミュニケーションツールを使い、リモートでビジョンを共有できたことも一因だと思っています。

グローバルな問題を把握しながら、自分たちのプロジェクトとして、 社会問題とどのように向き合い、貢献していけるのか。その意味を考え続け、今後も積極的に、ローカルに、行動していきたいと思います。

☆キャリアデザインとは

樋口邦史講師が開講するイノベーティブな経済学部の専門科目。グループワークで社会の課題を見つけ、環境や経済、社会にどのような価値をもたらすのかを考え、SDGsの主流化を目指したプロジェクトを企画する。さらにエクステンション科目「Glocal Field Studies」において、他大学の学生や高校生、そして地元住民らとプランを練り直し、遠野市関係者にプレゼンテーションを行う。

これらを通して、実践的なコミュニケーション力、情報分析力、企画力、プレゼンテーションスキルを身につけるほか、授業前半では、活躍している社会人の講演や、企業の多面的な見方の学習なども行い、「社会で本当に必要なことはなにか」について多面的な価値観を醸成する。

 

☆セルロースナノファイバーとは

植物繊維をナノレベルまで微細化することで得られる植物由来の繊維。超極細の繊維として循環型社会の構築、カーボンニュートラルの実現において注目を集める。熱に強く、鋼鉄の5倍の強度があり、重さは5分の1程度といった特長がある。木材パルプからの製造が主流の既存の炭素繊維は 製造コスト・輸送コストが高く、問題視されているが、今回の研究チームの新資源の創出により、この課題の解決に結びつくことも期待されている。

 

☆遠野みらい創りカレッジとは

岩手県遠野市と、復興を支援した首都圏の企業が2014年、地域や産業の発展、人材育成への寄与を目的に同市に開校した。遠野市はカレッジを 交流・関係人口の拡大を図る拠点として位置付け、産官学民の連携で、生活者と協働による伝統文化や産業研究(リビング・ラボ)と、地域資源を活用した探究や体験型学習を軸に「交流」「暮らしと文化」「産業創造」といったプログラムの企画・運営を実践している。

中央大学経済学部と同カレッジは 2019年10月に、地域や産業の発展、人材育成を目的とした包括連携協定を結んでいる。

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