2021.04.21
2020年は激動の年となった。コロナ禍により、私たちを取り巻く環境が大きく変化し、当たり前だったことが当たり前でなくなった。大学での授業がオンラインとなり、友人と外に出かけることすらはばかられた。そして、中大混声としてのサークル活動も大きく制限された。対面での練習ができず、多くのイベントが中止を余儀なくされていく。
そのような社会情勢の中、本当に演奏会を開くことができるのかと正直疑っていたときもあった。それでも、私たちには逆境の中でも音楽の素晴らしさを伝えたい、そのために演奏会を開きたいという思いがあった。
その思いに多くの方が応えてくださり、たくさんの支えをいただけたおかげで、昨年12月19日、「中大混声有志特別演奏会」が府中の森芸術劇場どりーむホール(東京都府中市)で開演した。
開催にあたって、たくさんの「初めて」と出会うことができた。初めて当団のOB、OGの方々と一緒に演奏会を開催した。初めてオーケストラ付きで演奏した。なにより初めてモーツァルト「ミサ曲ハ短調」という大曲を演奏することができたのである。ほぼクラシック音楽に触れてこなかった団員も多いなかで、演奏会であのモーツァルトを歌うなんて夢のようだった。
演奏会において、欠かすことができなかったのがOB、OGの方々の協力である。OB、OGの方々は全員が音楽への情熱を胸に秘めており、困難な状況を乗り越え、演奏会を実現させようという気概をひしひしと感じた。
その熱い思いに私たちはとても勇気づけられ、支えになっていたのだと強く感じている。そして無事、本番も終演を迎えることができた。感染症への万全の対策を講じ、来場してくださったお客さまのご了承を得たうえで、ほぼ1年ぶりにマスクを外して「キリエ」(「主よ」の意味)の最初の音を出した。そのとき、私たちの歌声とオーケストラの音が融合し、ホールいっぱいに響く音楽を肌身で感じたのを覚えている。
その瞬間、私たちのこの1年間の思い出が走馬灯のように流れてきた。大変な状況の中で、演奏会に関わってくださった全ての方々に感謝の気持ちが伝わるように願いなが
ら演奏した。
全ての曲を歌い切った瞬間の、あの達成感と高揚感は今でも鮮明に思い出すことができる。そのせいか、舞台上で演奏していたときのことは少々うろ覚えだ。ただ、みんなと一緒に歌うときに感じた、止めることのできないわき立つ心だけは一生、忘れられないだろう。
今回のようなモーツァルトの大曲は、大学コーラスでもなかなか演奏曲として扱っていない。そういう意味で、中大混声は本格的なクラシックに関わる機会や「試練」を与えてくれる合唱団だと、演奏会を通して改めて感じた。この長い曲をどうやって完成させるかということが、一番の試練に感じられた。
指揮者やボイストレーナーの先生の指導には毎回感服していた。ご指導の通りに歌うと、声や音楽がより洗練されていくのが実感できるからだ。それを存分に吸収し、音楽の繰り出す「試練」に立ち向かうことが中大混声における最も貴重な経験となるのだろう、と最近は感じている。音楽はわれわれの語彙以上のエネルギーを秘めているからだ。
うれしいことも辛いこともたくさんあったが、開催できたことは本当に素晴らしいことだと思っている。2020年を通して、何の制約もなく歌えることがどれほど幸せなことだったのかを痛感した。先々の社会情勢はまだ不透明だが、2021年はできる限りのことをやっていく年にしようと考えている。そして、いつか近い将来、誰にはばかることなく合唱できるようになることを切に願っている。
記事を執筆した畦浦隼人さん、鈴木瑠璃さん、姜雪瑩さん、近藤樹さん、伊藤竜輝さん(左から)
混声合唱団の3年生は「執行部」のメンバーとして部活動の運営を統括する役割を担う。団員の減少もあり、私は2、3年生と続けて広報部署長として、団の活動を知ってもらうための広報活動や演奏会の集客の仕事を統括して活動した。
混声合唱団は今年で創部70年の伝統があり、毎年の演奏会にお越しいただける方々が大勢いる。2年生のときは、会場の客席の8割以上のご来場をいただき、自信となる演奏会だった。この経験から、今年は広報部署の組織としての運営という面では余裕を持って動かせた。一方で集客は伸び悩んだ。理由はもちろん新型コロナウイルスの感染拡大である。
コロナ禍にあって、実際に合唱の場でクラスターが発生していたこと、演奏会を開いた昨年12月は第3波の最中だったこと、客席にご高齢の方もいることという状況で、従来のような対外的な集客は難しい。団員を通じて、知人や友人に集客をお願いする方法(「内チケ」と呼んでいる)で活動した。ただ、ここ数年は内チケでの集客が弱いことが課題だった。
演奏会まで2週間という段階でも、集客はほとんど見込めず、私は焦っていた。団員らに「集客してほしい」とどのように伝えるか、そもそもこの状況で「演奏会に来てほしい」と本当に伝えるべきかどうかも迷っていた。
転機は共演したOGの方や指揮者の飯坂純先生に、集客の現状や自分が悩んでいることを相談したことだった。「演奏会をやると決めた以上、それに向かってやるしかない」と言葉をかけられた。正直、そう言われたときは「それはそうなんだけど…」と思った。しかし、帰宅して改めて、自分がなぜ演奏会のステージに立つと決めたかを考えた。
自分の中の答えは、「こんな状況だからこそ少しでも多くの人に自分たちの歌で勇気や希望を持って欲しい」ということだった。その翌日から演奏会の当日まで、そのことを団員に伝えた。共演者の方々にも伝えて集客の協力を頼んだ。
当日の来場者数は決して多くはなかった。しかし、目の前のお客さまの真剣に音楽に聴き入る姿と、演奏会が終わってホール中に響き渡った“光”のような拍手を忘れることはないだろう。このような社会情勢だからこそ、自分たちが本当に伝えたいものを届けられたと確信した演奏会だった。
本番に向けてリハーサルにも熱が入った
中大混声有志特別演奏会 現役(開催当時)メンバー
パート 名前 学部・学年
ソプラノ 小谷 凜 法4 2020年パートリーダー
ソプラノ 姜 雪瑩 法2
アルト 江口 美遥 法3 2020年パートリーダー
アルト 厳 密爾 法2
アルト 鈴木 瑠璃 文2
テノール 菱川 哲雄 経済4
テノール 畦浦 隼人 総合政策3
テノール 新美 拓和 法3
テノール 天藤 友喜 法2
テノール 伊藤 竜輝 法2 2020年パートリーダー
バス 畑野 嵩人 経済4
バス 宮田 開斗 法3 2020年パートリーダー
バス 井上 拓弥 経済2
バス 近藤 樹 法2
学年表記は2020年度
中大混声有志特別演奏会
【日 時】 2020年12月19日(土)午後2時開演
【会 場】 府中の森芸術劇場どりーむホール(東京都府中市)
【入場料】 全席指定席3000円
【演 目】
第1部 ・W.A.Mozart「Dixit et Magnificat」(主は言われた/マニフィカート)
・W.A.Mozart「Misericordias Domini」(主の御憐みを)
・J.Haydn「Te Deum」(マリア・テレジアのためのテ・デウム)
第2部 ・W.A.Mozart「Missa c-moll」(ミサ曲ハ短調)
指揮:飯坂純
ソプラノ:坂井美登里
メッゾソプラノ:岩﨑愛
テノール:駿河大人
バリトン:増原英也
管弦楽:アレクテ室内管弦楽団
合唱:中央大学音楽研究会混声合唱団
OB、OG有志