2021.02.12
文/FLP松田ゼミ 鈴木雄也(経済4)
ジャーナリズムについて学んでいるFLP松田美佐ゼミに在籍する鈴木雄也さん(経済4)が、コロナ禍でも前向きに物事と向き合っている中大生らの姿を取材しました。新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか収束しない状況にあり、松田文学部教授は「十分な取材が難しかった面がありますが、ゼミ生それぞれが関心を持つテーマで取材対象を選びました」と話しています。鈴木さんの報告です。
鈴木雄也さん
小中高校で授業が再開される一方、大学の多くはオンライン授業が続き、大学生はパソコンと向き合う日々を送っている。通学できない学生たちの悲痛な思いがSNSにあふれ、私たち大学生は他の世代に比べ、多くのものを奪われてしまったと感じている。そうした困難な状況の中でも、「誰かのために」動き続けていた学生たちの姿を紹介したい。
中央大学が2019年4月に開設した国際経営学部は、2020年4月に2期生となる新入生を迎えた。この1年生の不安を少しでも和らげたいという思いで結成されたのが同学部の「Welcome 2nd」だ。1期生の2年生の有志メンバー 7人が中心となり、同年4月以降の4回にわたり、1年生を対象にオンライン相談会を開いてきた。
相談会では、SNSなどで送られてきた1つひとつの質問に丁寧に回答する。1年生が気軽に参加できるように、ビデオカメラとマイクをオフに設定してもらい、まるでラジオ番組のようにユーモアを交えながら語りかけるなどの工夫も凝らした。参加した1年生からは「大学には通えていないが、(大学やキャンパスの)雰囲気を味わえて楽しかった」といった反応があり、メンバーたちはやりがいを感じたという。
「1年生には何事にも積極的に挑戦してほしい」と語るのは、有志メンバーの1人、滝田哲之さんだ。活動を通して、困難な時でもリーダーシップを発揮することの大切さを学んだ。さらに「"経営”と名の付く学部に在籍しているからこそ、リーダーに足る人間になりたい」と力強く語ってくれた。
新設学部だからこそ、学部の伝統を現在の学生たちが創造していくことができる。学生たちが何事にも果敢に挑戦し、困難な時でも常に進化し続ける学部として発展してほしいと、私は願っている。
野中陽太さん(左)
「苦しい時こそ、その時をいかに楽しむかが大切」。そう語るのは、動画投稿アプリ「TikTok」のアカウント『早大生 祖父日記』を開設している早稲田大学3年の野中陽太さんだ。
コロナ禍以降、車いす生活を送る86歳の祖父と一緒にダンスを踊るなどの動画を投稿し、ほほえましい家族間の交流の様子や簡単に真似のできる踊りが、閲覧する人を楽しませている。コロナ禍でも自分も他人も楽しむために何ができるかを考え、アカウントを開設したという。
根っからの“おじいちゃん子”の野中さん。撮影回数を重ねるうちに、祖父の表情が明るくなっていったのがとてもうれしかったそうだ。また、動画を見たある女性からのメッセージを読んだときに、アカウントを開設してよかったと強く感じたという。
女性の息子には障害があり、運動会で自分だけがダンスを上手に踊れず、ダンス嫌いになっていた。ところが、野中さんと祖父が一緒に踊る動画を見て、「息子が再び楽しそうに踊り始めました」と感謝の言葉を寄せてくれた。体が不自由でも楽しそうに踊る祖父の姿が、息子の自信を取り戻したのである。自分も他人も楽しむという活動が、誰かを勇気づけることに結びついたのだ。
遠藤伶さん
誰かを勇気づける過程で、大きな“気づき”を得た学生もいる。
「歌を通して今の思いを未来へつなげ、未来を明るくしたい」という思いから、早大の新たな応援歌「そして紺碧の空へ」の制作に携わった早大4年の遠藤伶さん。「SHARP# 紺碧のうたプロジェクト」の代表を務め、SNSで募った等身大の母校への思いを、作詞・作曲を担当した早大OBの音楽家、杉山勝彦さんに託した。杉山さんは、嵐や乃木坂46にも楽曲を提供し、日本レコード大賞作曲賞も受賞している。ほかにも、さまざまな大学関係者の協力を得て、ミュージックビデオや合唱動画、ダンス動画を制作した。
制作に大勢の人が関わる過程で、責任の大きさを実感し、遠藤さんの心に恐怖心のような感情も芽生えた。しかし、怖さに打ち勝ち、形あるものを結果として示すため奮起した。YouTubeで紹介した動画には好意的なコメントが寄せられ、喜びがこみ上げたという。
「皆で新しいものを作るのが、何よりも好きだと気づけた」と活動を振り返り、何らかの一歩を踏み出そうとしている学生たちに向けて、「自分の心が動く瞬間に敏感になり、そのワクワク感を周囲の人にありのままに伝えてほしい」とメッセージを寄せてくれた。
◇
実は野中さんと私は中学高校の同窓生。遠藤さんを含めた2人の活動をSNSやテレビで知って興味を持ち、話を聞こうと取材した。
コロナ禍にあっても、誰かのために動き、自らも楽しさや喜びを得ていた学生たちを紹介したが、彼らに共通するのは、物事に対し、自発的に、主体性をもって動いている点である。その大切さに改めて気づかされた。
学期期間中は、「ジャーナリズムとは何か」を学問的に捉えつつ、調査や論理的思考、議論の力を身につけるためにディベートなどをおこない、夏休みには、場所決めや取材企画の一切をゼミ生が決める取材合宿で、日本全国を巡っている。
ここ数年の取材記事は、HAKUMON Chuoのバックナンバーで読むことができる。合宿が不可能となった2020年度は、コロナ禍の学生をテーマに各自が取材をおこない、記事にまとめた。