2024.11.28
学生記者 上原希成(国際情報3)
目標だった銅メダル(3位)を日本代表の一員として獲得し、「一生忘れられない経験になった」という女子20歳以下(U20)のラクロス世界選手権大会(2024年8月)。女子ラクロス部の河瀨柚花(ゆうか)選手(商2)は、得点を奪う攻撃選手のアタック(AT)として出場し、世界の舞台で躍動した。チームメイトの良いプレーに刺激を受け、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、「プレー面で成長できた。選手として伸びた」と、貴重な経験を糧に一層の飛躍を目指している。
ラクロスの世界組織「WORLD LACROSSE」主催で、世代別を含む10人制の国際大会で3位以上となったのは日本女子初の快挙という。
クオーターファイナル(準々決勝)のイングランド戦で、相手を3点差に突き放す8点目のシュートを決めた。ボールを保持する網が先端についたクロス(スティック)を、体の左側からの回転力を使って豪快にスイングした“左手シュート”だった。
「ずっと左手のプレーに苦手意識があり、大学の公式戦でも左手のシュートを決めたことがなかった。練習を積んだ成果を世界の舞台で出せた」と、その瞬間を笑顔で思い返した。
ゴール左裏で味方のパスを受け、巧みなステップとボディーバランスで相手デイフェンダーをかわし、ゴールのポール横に進出して鮮やかにフィニッシュ。直後にはジャンプして全身で喜びを表し、予選ラウンドを含めて計9得点を決めた大会で、もっともうれしかった得点に挙げた。何より勝利に貢献したプレーだったことが大きい。日本は12-6で勝ってベスト4進出を決めた。
左手シュートの際のクロスの持ち手は、野球の左打者がバットを構えるのと同じで左手が上、右手が下。しかし、ラクロスでは両手の間隔を大きく離してクロスを持つ。右手を支点にして、左腕の力と回転力でスイングするシュートといっていいだろう。
準々決勝のイングランド戦で得点し、ジャンプ!(写真提供:日本ラクロス協会)
2024年1月以降、選考会と十数回の練習会を経て、6月に22人の日本代表のメンバーに選ばれ、「やるしかない。やってやろう」と、ワクワクする気持ちを胸に挑んだ。緊張から予選ラウンド初戦(対アイルランド)は力んでしまい、動きが硬かったものの、2戦目以降は「良いプレーが出て乗っていけた」という。
大会前の7月には強化合宿に参加。同世代のハイレベルな選手たちと競い合い、どんな位置からもシュートを狙おうとする、他のアタックの選手のプレーぶりを見て、学んだことも多い。自身のシュートレンジが広がり、動きもよりスピーディーになったという。
代表選手は各大学から選抜され、合同練習の回数も限られたが、「どの選手の得点も皆で同じ熱量で喜べた。チームワークが本当によかった」と笑顔をみせる。
心配性で緊張しやすいタイプと自己分析する一方、「怖がらず強気で攻めていく」と大舞台でも物怖じすることはなかった。米国、カナダ、イングランド、オーストラリアが4強に挙げられた大会で、イングランドの牙城(がじょう)を崩し、「日本のラクロスの歴史を変えられた」と、歴史的な銅メダル獲得を喜んだ。
U20世界選手権で外国選手と競り合う河瀨柚花選手(左)(写真提供:日本ラクロス協会)
プレー中に楽しさを覚えるのは、自身のアシストで味方が得点したときだ。アタックには点を決める役割とともに、相手ディフェンスとの1対1の攻防「1 on 1」(ワンオンワン)で相手を崩す働き=得点につながる動きをすることが大切になる。
「自分でゴールまで行こうとするタイプの選手なので、攻撃の起点になる動きをして、ボールを持ちすぎないように意識している」と語り、味方のパスをさばけるようになれば、プレーヤーとしての幅も広がると考えている。
中大女子ラクロス部では、月曜と金曜日を除く毎日、2~4時間の練習がある。学業と部活動の両立を「大変です」と笑顔を見せたが、タブレット端末に細かく戦術をメモしたり、「ラクロスノート」に毎年の目標などを几帳面に書き続けたりと、競技に挑む姿勢はストイックで貪欲だ。ラクロスや部活動のない自分の姿は想像もできないという。
中大入学後はU20世界選手権出場を目標にしていた。次に目指しているのは、女子ラクロス部としての学生日本一と、2026年に日本で開催される女子世界選手権への出場だ。2024 年の中大は第36回関東学生リーグ女子1部準決勝(10月20日)で、8-9で早稲田大に惜敗し、残念ながら頂点に届かず、目標達成は翌年に持ち越しとなった。
出身の横浜市立東高は全国大会でも上位に進出する強豪校。当時のポジションはミッドフィールダーだったが、「高校時代のラントレーニングがハードすぎて、大学でラクロスは続けないつもりだった」と振り返る。
しかし、高校の引退試合をきっかけに、その気持ちが覆る。「その前の試合のプレーが良くなかったせいか、初めてベンチスタートになりました。負けて悔しかった」。不完全燃焼で終わったこの思いが中大でラクロスを続けている原点になっているという。
ラクロスは2028 年ロサンゼルス五輪で120 年ぶりに追加競技としての採用が決まり、競技の普及のチャンスが広がると関係者が喜びにわいた。河瀨選手も「チャンスだと思う。(代表を)目指せるなら目指したい」と静かに闘志を燃やしている。
河瀨柚花選手
かわせ・ゆうか。横浜市立東高卒、商学部2年。身長160センチと外国人選手に比べると小柄だが、動きは俊敏。50メートル6秒8の俊足。小学2年から中学3年まで硬式テニスに打ち込んだ経験がある。テニスの感覚はラクロスのプレーにも生きているという。
中央大学女子ラクロス部
1990(平成2)年創部。小田切寛奈監督、丸山伸也ヘッドコーチ、長谷川沙来(さら)主将。部員数73人。ラクロスは大学から競技を始める人が多く、「カレッジスポーツ」といわれる。中大も部員の約半数がバスケットボール経験者という。
U20世界選手権では計9得点を挙げた(写真提供:日本ラクロス協会)
河瀨柚花選手は、貪欲にゴールを目指す姿勢が際立っています。彼女は常に得点を狙い、試合の流れを読みながら瞬時に判断を下す能力に長けています。そのスピードは他の選手と一線を画しています。
向上心も非常に強く、練習に対する真摯な取り組みが結果に結びついています。毎日のトレーニングでは、自分の技術を磨くだけでなく、仲間の成長を促すために積極的にアドバイスを行います。自分自身に対しても厳しく、常に高い目標を設定し、それを達成するために努力を惜しみません。
仲間に対しても同様に、チーム全体のレベルを引き上げるために、時には厳しい言葉をかけることもあります。しかし、その厳しさは愛情から来ており、チームの絆を深める要因ともなっています。彼女の姿勢はチーム全体に良い影響を与え、勝利への道を切り開く原動力となっています。2028年ロサンゼルスオリンピックでの日本代表としての活躍が期待されます。
WORLD LACROSSE 女子20歳以下(U20)世界選手権大会
(2024年8月15~24日、中国・香港)
〈予選ラウンド〉
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 3 2 2 4 ー 11
アイルランド 2 3 3 4 ー 12
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 6 7 3 5 ー 21
ジャマイカ 1 0 2 0 ー 3
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 3 5 2 2 ー 12
イングランド 6 0 1 0 ー 7
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 5 3 7 2 ー 17
香港 1 1 0 0 ー 2
〈決勝トーナメント・準々決勝〉
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 3 1 4 4 ー 12
イングランド 2 2 1 1 ー 6
〈同・準決勝〉
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 0 1 0 1 ー 2
カナダ 5 5 4 3 ー 17
〈3位決定戦〉
1Q 2Q 3Q 4Q 計
日本 3 2 3 6 ー 14
オーストラリア 1 2 2 0 ー 5
(注)Q はクオーター。予選ラウンドは20 の国と地域が4プールに分かれ、各プールの上位2カ国が決勝トーナメントに進出した。記録は日本ラクロス協会ホームページより抜粋
2024年 第36回関東学生リーグ戦
女子1部Bブロック順位表
①中央大4 勝1 敗
②日本体育大4 勝1 敗
③慶應義塾大4 勝1 敗
④青山学院大2勝3敗
⑤法政大1勝4敗
⑥成蹊大0勝5敗
(注)1~ 3 位は当該チーム同士の対戦の得失点差による
関東学生リーグ1部準決勝
中央大(Bブロック1位) 8-9 早稲田大(Aブロック2位)
北米発祥とされるラクロスは、クロスと呼ぶスティックを使って硬質のゴム製ボール(直径6センチ、重さ150グラム)を奪い合い、ゴールを目指す球技。クロス先端の網の中でボールを保持し、パスやシュートにつなげていく。
フィールドは110 × 60メートルの広さ。1試合は各15分の4クオーター制。サッカーのようなスピーディーな展開や選手のダイナミックな動き、時速100キロを超すシュートの速さなどが魅力だ。10秒も経たずにゴールが決まることがあるほど展開は目まぐるしい。
体同士のコンタクトが激しい男子に比べ、女子はボディーチェックの禁止など安全性を高めたルールになっており、目を守るアイガード、手を保護するグローブやマウスピースなどの防具を身に着ける。
プレーヤーの数は10対10。ポジションは、ゴールを決めるアタック(AT)、攻守に活躍するオールラウンダー的存在のミッドフィールダー(MD)、守備のディフェンス(DF)、ゴールを守るゴーリー(G)に分かれる。MDを除いてポジションごとに移動可能なエリアが設けられ、攻撃・守備エリアに進入できる人数にも制限がある。アイスホッケーのようにゴール裏エリアもプレーが可能だ。
また、特有のルールとして「チェイス」がある。シュートのボールがフィールド外に出た場合、相手方のボールでリスタートするバスケットボールやサッカーと異なり、ボールの一番近くにいた選手のチームにボールが与えられる。シュート直後は、ボール獲得を目指して選手たちが全力でダッシュする姿が見られる。
河瀨柚花選手は、ラクロスのゴーリー(ゴールキーパー)だった4歳上の姉の瑞季さんを応援するうちに、「自分で走ってシュートを打ってみたい」と競技の魅力に引かれ、瑞季さんと同じラクロス部のある横浜市立東高校に進学した。中学時代にも瑞季さんと同じバレーボール部に所属するなど、仲の良い姉の背中を追って成長し続けてきた。
世界での活躍や日頃の部活動を支えているのが、父の勝さん、母の有香さん、瑞季さんの家族の応援だ。3人はU20世界選手権開催地の香港まで応援に駆けつけた。U20代表に選抜されたと聞いたときは泣いて喜んでくれたという。
河瀨柚花選手と学生記者の上原希成さん
取材中に垣間見えた河瀨柚花選手の素顔を伝えたい。
U20世界選手権に出場した率直な気持ちを問われると、目の色が変わった。「チームメイトが取った点を、皆で喜び合えるチームだった。それぞれが自分の役割を全うすることで勝つことができた」。笑顔で話す目の光に力強さが加わっていった。
日本は予選ラウンドで、4強に挙げられていたイングランドと同じグループだった。初戦でアイルランドに敗れ、予選ラウンド突破へ1敗も許されない状況に追い込まれたが、その強敵イングランドに勝ち、決勝トーナメント進出を手繰り寄せた。準々決勝でも再びイングランドを破り、3位決定戦にも勝利して、目標の銅メダルを獲得した。
「初戦の負けがあったからこそ成長にもつながった。イングランドに2度勝利して3位になり、日本のラクロスの歴史を変えられたと思う」。しっかりとした口調、まっすぐな視線で話す河瀨選手を見て、目標や好きなことに一生懸命な人なのだと感じた。
取材中、ラクロスの戦術、対戦相手や試合の研究、自身の食事、U20世界選手権のことなどを記した「ラクロスノート」を見せてもらった。そこには、細かく丁寧に文字や図が書かれていた。自身のことを「面倒くさがり」とたとえていたが、到底そうは思えなかった。ストイックな競技への情熱が読み取れたからだ。
しかし、ラクロス一色の学生生活かというと、そうとも言えないようだ。ディズニーが好きで、年4回は東京ディズニーリゾートに足を運ぶ。チームメイトでマネジャーの目黒朋香さん(商2)、ディフェンスの内藤あさひさん(法2)によると、仲間同士でカラオケを楽しむときは場の空気を盛り上げるムードメーカー的な存在だという。
河瀨選手は、ラクロスの仲間とともに、父の勝さんと母の有香さん、4歳上の姉、瑞季さんの家族を大切な存在に思っている。有香さんは朝練に向かう河瀨選手のため、4時起きで朝食を用意してくれる。U20世界選手権の開催地、香港まで駆けつけて応援してくれた3人の姿も励みになった。
大学時代の目標に掲げていたU20世界選手権出場が決まったとき、家族は泣いて喜んでくれたという。家族への感謝を語る河瀨選手の表情から、深い家族愛が伝わってきた。
写真提供:日本ラクロス協会