2024.08.02
学生記者 合志瑠夏(経済3)
スキー部の山﨑叶太郎(きょうたろう)選手(経済2)が2024年2月にスロベニアで開催されたノルディックスキーのFISジュニア世界選手権で、複合の混合団体メンバーとして銀メダルを獲得した。翌月の全日本スキー選手権の複合個人でも優勝を飾っている。
「世界ジュニアはチャレンジャーの気持ちで、チームとして良いパフォーマンスができた。銀メダルは今後へのモチベーションになる」。好成績を残した2023~24年シーズンに満足することなく、「いずれは世界のトップに立ちたい」と目標を高く掲げている。
FISジュニア世界選手権の後半クロスカントリーで隊列の先頭に立つ山﨑叶太郎選手
「ジャンプの調子が良く、(海外勢に)引けを取らない飛躍ができた」と振り返りながらも、「ジャンプは練習のときのほうが良かった。練習でできたことを試合で出せなかったのが悔しい」と唇をかんだ。ジャンプの好調さは、 2023年11月のフィンランド合宿で回数を多く飛び、しっかりとトレーニングを積めたことが裏付けていた。
ドイツに続く2番手でスタートした後半のクロスカントリーでは、スターターの1走を任された。一時は順位を3位に下げたが、粘りの走りで2走へとつないだ。気温が下がりアイスバーン状になった急カーブで転倒しながらも奮起した2走の池田葉月選手(北海道・札幌日大高)と、3走の藤原柚香選手(札幌市立東月寒中)の女子選手2人の力強い走りに、間近で声援を送りながら心を揺さぶられたという。
ジャンプ、クロスカントリーという求められる能力が異なる種目で競うノルディック複合は、どのような体づくりがベストなのか。複合のアスリートたちは頭を悩ませ続ける。山﨑選手も「ジャンプは足裏の筋肉を使って飛ぶ。飛躍には体重が軽い方が有利だが、クロスカントリーは上半身や脚を中心に筋力が要る。いわば真逆の肉体を求められる」とたとえる。
ジャンプのほうが得意という山﨑選手自身は「ジャンプのパワーは複合選手の中では強い」と自覚し、「それだけではなく、クロスカントリーの持久力に通じる心肺機能を強化したい」と力を込める。もちろん、ジャンプの精度を上げるため技術面の向上も図るつもりだ。ワールドカップ(W杯)や、2026年のイタリアでの冬季五輪出場を目指すためにも、「今年は特に大事な年になる」と考えている。
山﨑叶太郎選手の前半ジャンプ
インタビューではしっかりとした受け答えが印象的だった
表彰台で喜ぶ日本チームの4人。左端が山﨑選手
「緊張感を持って臨みますが、試合で上がってしまうということはない」
山﨑選手の特長の一つはたくましい精神力だろう。どのように培われてきたのかを尋ねると、中学時代までにサッカー、陸上(中長距離)、体操、水泳、自転車など数多くのスポーツを経験する中で、「いろいろな体の動かし方ができるようになり、こうすればうまくいくという感覚をつかめた」と教えてくれた。「『できる』と思うことを強みにしていきたい」とも。ポジティブな思考がパフォーマンスの支えになっているのかもしれない。
来季(2024~25年シーズン)は、世界ジュニアの個人、 団体制覇に照準を当てている。W杯出場のためには、W杯に次ぐレベルのコンチネンタルカップを転戦してポイントを重ねる必要もある。
目標の選手は、2020~21年シーズンにW杯を総合3連覇したヤールマグヌス・リーベル選手(ノルウェー)。一歩でも早く近づけるよう、努力を積み重ねていく。
山﨑叶太郎選手
やまざき・きょうたろう。新潟県上越市出身、長野・飯山高校卒。経済学部2年。 高校時代はインターハイ複合個人で優勝。今回の世界ジュニア翌月の「第102回全日本スキー選手権」の複合個人でも優勝した。父の正晴さんは1988年カルガリー五輪のクロスカントリー日本代表。
171センチ、64.5 キロ。シーズン中は63キロに減量するが、転戦する中での体重管理はとくに難しいという。中大スキー部には、ノルディック複合の木村幸大選手、畔上祥吾選手(ともに2024年卒)、中澤拓哉選手(経済3)ら実力のある選手が多く、進学を決めた。スキー部は先輩、後輩の隔てなく仲が良いという。
ノルディック複合
前半種目「ジャンプ」のポイントを、後半クロスカントリーのタイムに換算して争う。ジャンプは瞬発力、クロスカントリーは筋力や持久力などの能力を求められ、総合的な運動能力が試される。複合の王者は欧州で「キング・オブ・スキー」と称される。今回の世界ジュニアの混合団体は、1チーム男女各2選手が出場。各選手のジャンプ1回のポイントをクロスカントリーのタイム差に換算した上で、1走と4走の男子が5キロの距離、2走と3走の女子が 2.5キロで争った。
ノルディックスキー FIS ジュニア世界選手権大会 複合・混合団体
(2024年2月7日=現地、スロベニア・プラニツァ)
総合タイム ジャンプ クロスカントリー
① ドイツ 41分26秒5 459.7p 41分26秒5
② 日本 41分53秒7 424.1p(+36秒) 41分17秒7
③ ノルウェー 42分28秒7 422.0p(+38秒) 41分50秒7
④ オーストリア 43分06秒5 385.6p(+74秒) 41分52秒5
⑤ フランス 43分06秒9 381.8p(+78秒) 41分48秒9
(注)混合団体の日本代表は、山﨑叶太郎選手(クロスカントリー1走)のほか、 池田葉月選手(2走=北海道・札幌日大高)、藤原柚香選手(3走=札幌市立東月寒中)、成田絆選手(4走=秋田・花輪高)。所属は当時。 ジャンプのpはポイント、カッコ内はクロスカントリーのスタート時の1位からのタイム差。記録は FIS(国際スキー・スノーボード連盟)の公式ページより抜粋。
「世界大会で銀メダルを取れたのは、これまでに獲得したどのタイトルよりもうれしい。だけど、どうせやるなら1位を取りたい」。山﨑叶太郎選手は、世界ジュニア混合団体銀メダルという成績にも百パーセント満足せず、そう力強く語る。
中途半端なことが嫌いだといい、「負けん気が強く、自立している人だな」という印象を受けた。今回の世界ジュニアではチーム最年長で、「自分がしっかりしなければ」と気を引き締めて臨んだ一方で、クロスカントリーのチームメイトの力強い走りに気持ちを奮い立たせられた。]
世界の舞台で戦うことについて、「強豪選手が集う試合では、後半クロスカントリーで追いかける展開になることが多い」と、前半のジャンプでリードすることが多い国内大会との違いを語り、「どんなときも自分のベストを出し、食らいついていきたい」と強調する。
ノルディック複合を戦う山﨑選手が「難しい」と語ったのは、ボディーメイキング(体づくり)である。「ただ、やみくもに鍛えて、筋肉を多くつけるのではなく、自分にとって必要なものを考え、取り入れる」ことが大切だという。
ジャンプとクロスカントリーでは、使う筋肉が異なる。鍛えすぎると体重が増えてジャンプの飛距離に影響する。体力強化とともに、心肺機能やジャンプの技術面の向上などを課題に挙げ、ここぞというところで、もう一段階、ギアを上げられるように改善していきたいと話した。
中大スキー部の仲間や全国で戦う選手たちは、山﨑選手にとっては「良き友であり、そしてライバルでもある」。試合が始まれば、「自分が勝つ」とハングリー精神にスイッチが入る。
スポーツが好きで、サッカー、陸上、体操、水泳など中学時代までにさまざまな競技に取り組み、いろいろな体の動かし方を学んだ。こうした経験が、山﨑選手の中に「こうすれば、うまくいく」という選択肢、成功体験を育んでくれた。
活躍の裏には両親の支えもある。両親ともスキー経験者 で、幼いころからスキーは身近な存在だった。五輪のクロスカントリー代表選手だった父の正晴さんが、山﨑選手の試合でワックスマン(スキー板の滑走面に塗るワックスを調整する専門家)を務めたこともあるという。母は練習場所への送迎や、おいしいごはんを用意してくれた。
将来、目指すのは「世界のトップになりたい」という一点。 名前のごとく、夢を叶えるために高く跳び、駆け抜ける山﨑選手の勇姿に注目していきたい。
クロスカントリーで外国人選手と競り合う山﨑叶太郎選手(左)