2024.07.25
学生記者 大山凛子(法4) 影原風音(文4)
オリンピックを楽しみ、笑顔で日本に、中大に帰ってきます―。7月26日に開幕するパリ五輪で、水泳部の池本凪沙選手(法4)が3年前の東京五輪に続き、ひのき舞台に立つ。東京と同じ競泳女子4 × 200メートル・フリーリレーのメンバーとして、予選9位だった東京を上回る決勝進出に目標を定めている。この3年間の精神面の成長を糧として、持てる力を出し尽くすつもりだ。
一線級のアスリートが競技と向き合う上で、精神面がいかに大事かを改めて知った。
池本選手にとって、東京五輪は「ネガティブなことを考えすぎて、不安要素が強くあった」という試合だった。「こういうタイムで泳げなかったら」「これで結果が出なかったら」と自分を追い込みすぎていた。目標タイム、自己ベストに届かず、「チームに迷惑をかけた」と当時、振り返っている。
東京五輪の後もタイムの伸びない時期が続いた。そこで、所属するイトマン東京のコーチと相談しながら、「パリまでの3年間は試合を楽しむ」「パリでは笑顔でポジティブな気持ちでレースに挑む」という方向へと、思考回路を変えた。気持ちの切り替えが上手にできるようになると、不調を乗り越えられた。
これが自信となり、さらに2023年に世界水泳(福岡開催)、アジア大会を経験し、大舞台に照準を絞って調子を合わせられるようになった。安定してタイムを出せるようになったのは、こうした精神面の成長があったからこそだという。
「4年に一度の特別な雰囲気の大会、競技人生の中でも一番の思い出となるだろう大会に出場できることをかみしめ、楽しみたい」と力を込め、フリーリレーでの決勝進出を達成し、「笑顔で日本に帰ってくる」ときっぱり。
日本から声援を送る現役の中大生、卒業生、保護者らへのメッセージを頼むと、「中大の名前を背負って大舞台に出場するからには、結果を出したい。中央大学の名前を世界に広めたい」と語り、笑顔を見せた。
東京五輪後は、足の前半分しかない一本歯の下駄を両足に履き、重りを手にしながらスクワットを繰り返すトレーニングを1年間継続して、下半身を強化した。これを基礎に、現在はベンチプレス、リフトなどのウエートトレーニングを行い、身体の強化に努めている。練習で一日に泳ぐ距離は10キロを超える。
泳ぎの特長はゆったりとした大きなストローク。水に乗り、頭がぶれず、水の抵抗を受けにくい泳ぎが理想だ。
リレーの何番手で泳ぐことになるかは、まだわからないが、「前半100 メートルは自分のペースを守って泳ぎたい」という。海外の選手についていこうとして、オーバーペースで飛ばしていくと、後半の泳ぎに響くからだ。「自分のレーンだけを見ていこう」と考えている。
無我夢中で一瞬のうちに終わってしまった東京五輪と違い、「本番に向けて、どう調整すればいいかはわかっている。自分の身体のことも把握できている」と話す。直前にパリで合宿に入り、競泳の試合会場でも練習する予定という。
「人生で一番の大勝負」という五輪では、気合が入りすぎるあまり、力んでしまう選手がいる。池本選手は肩の力を抜いた大きなストロークで、自然体で世界に挑むつもりだ。
4年後は個人種目で出場 自由形「世界の壁」に挑む
パリ五輪出場の懸かった2024年3月の代表選手選考会。池本凪沙選手は、女子100メートル自由形で2位(54秒20)、200メートル自由形で4位(1分58秒51)となり、派遣標準記録を上回れず、個人種目での出場はかなわなかった。日本女子にとって「世界の壁」が最も高いといわれる自由形で、「世界と戦える姿を見せたい」というのが、東京五輪以前から池本選手が胸に秘めていた目標だった。
池本選手は「選考会で全力のパフォーマンスをする難しさ、個人種目で出場する厳しさを改めて感じました。まだまだ力が十分ではなかった」と振り返り、「この悔しさをバネに、パリの次の4年後は個人種目でも出たい」と決意を新たにした。
世界水泳の女子100メートル自由形準決勝で力泳する池本凪沙選手=2024年2月、カタール・ドーハ(写真提供:共同通信社)
池本凪沙選手
いけもと・なぎさ。京都府出身。大阪・近大付高卒、法学部4年。中大水泳部・イトマン東京所属。身長171センチ。2019年の世界水泳(韓国・光州)、2021年東京五輪、2023年世界水泳(福岡)、アジア大会(中国・杭州)、2024年世界水泳(カタール・ドーハ)に出場。中大1年のとき、第3泳者として出場した東京五輪は予選9位だった。自由形の自己ベストは、100 メートル53秒92、200メートル1分57秒77。
すらりとした171 センチの長身、鍛え抜かれた体格。オリンピアンはこんなにもすごいのか。圧倒され、別世界の人のようにも感じられた。そして、一つひとつの質問に丁寧に答える姿が印象的だった。答えづらい質問にも、正直な思いを聞かせてくれた。
取材を通して、私たちにも通じる気づきを得た。まずは、池本凪沙選手のポジティブ思考である。変化が訪れたのは東京五輪の後だった。当時は本調子になく、タイムや結果を気にするあまり、波に乗れなかった。
そこで競技を楽しむという方向に気持ちを前向きに切り替えることで、精神面も記録も安定してきたという。現在は楽しんで試合に挑んでいると笑顔で語った。
このポジティブな姿勢、態度は、物事を捉える上で、誰にも必要な思考だと思う。池本選手は自分自身の泳ぎと向き合い、自分に足りなかったものに気づいた。
人生は山あり谷あり。苦い経験すらポジティブにとらえることで、人生をより豊かに感じることができる。自分の弱さと向き合うことも大切で、私も弱さに目を背けず、強さに変えていきたい。
コロナ禍だった3年前の東京とパリが大きく異なるのは、観客の存在だ。歓声の力について聞くと、福岡開催の2023年世界水泳で日本チームに送られた熱い声援によって、「不安がかき消され、自信に変わった」という経験を教えてくれた。
誰かが応援してくれることが自信になり、良い結果に結び付く。私たちも誰かを応援し、応援される関係性を築いていきたい。
リレー出場に向けて、池本選手は「海外の選手に惑わされず、自分のペースで泳ぐように心がけたい」と語った。世界の一線級のアスリートが集うオリンピックでも、自分の泳ぎに集中するつもりだ。私は、自分のペースを保つことの重要性とともに、他人と比べるのではなく、自分の人生を歩むことの大切さを教えられた気がした。
いわゆる“ 勝負飯”はないが、「おすしが大好き」という。フランスにおいしい店があるかは知らないが、オリンピックが終わったら、お腹いっぱい食べてほしい。
私は今回が学生記者として初めての取材・執筆だった。今後もインタビュイーの思いをわかりやすく伝えることに努めたい。
(左から)学生記者の影原風音さん、池本凪沙選手、学生記者の大山凛子さん
きらきらと輝く表情とまっすぐな瞳から「世界で戦う自信を兼ね備えている」というのが第一印象だった。同い年のオリンピアンである彼女に、私はとても引き付けられた。インタビューの話からは、ここに至るまでに、さまざまな壁を乗り越えてきたこともわかった。
東京五輪から現在に至る大きな変化。池本凪沙選手が挙げたのは、精神面に関する成長だ。「タイムが伸びなかったらどうしようと、ネガティブな気持ちで自分を追い込みすぎていた。気づいたら終わっていた」と、東京五輪を振り返る。オリンピックという舞台の緊張感は、ただものではないのだろうと感じた。
周りの雰囲気にのまれ、余裕がなかったという東京の反省から、パリでは「4年に一度の特別な大会をかみしめて楽しむ」というポジティブ思考で挑むという。精神面の成長は、2023年世界水泳やアジア大会といった大舞台で、安定してタイムを出せていることに結び付いているそうだ。
東京五輪での泳ぎは「沈む感じで重そうに見える」と、所属するイトマン東京のコーチから指摘されたが、現在は軽やかな泳ぎに見えるようになった。3年前はなぜ重そうに見えるのか自分では分からなかったものの、今は身体の使い方や、ベストな力の発揮の仕方が分かってきたと自己分析し、ジェスチャーを交えて分かりやすく泳ぎを解説してくれた。
また、池本選手が東京五輪と大きく異なる点として挙げたのは観客の存在で、「歓声は力になり、自信につながる要素だ」と語った。前向きな気持ちで泳ぐこと、さらに観客の声援も味方につけることで泳ぎに磨きがかかるのだろう。精神面や技術面だけでなく、声援という周囲の環境からもパワーを得られていると気づいた。
周囲を元気づける池本選手の笑顔はとても格好よく、魅力的だった。テレビの前で、私も楽しんで、池本選手を、競泳の選手たちを応援しようと思う。