2024.07.22
学生記者 髙橋璃々(経済3) 松岡響紀(経済1)
5年ぶりの優勝を喜ぶGarnetsのメンバー
大会には中央大、日本体育大、玉川大の日本の3校と、米西海岸を中心とした大学の計13校が出場した。Garnetsは演技のスキルの高さや正確性、振り付けの見事さ、ショーマンシップなどが高く評価された。
チームの見せ場はステージ上の16人の一糸乱れぬフェッテや、2023年に初めて入部した男子部員、久保井七豊(ななと)さんのジャンプシーンなど。2分間の演技の中で、「米国の大会では日本以上に表現力やショーマンシップが重視されるため、より魅せる演技を心がけた」(楠本さん)という。村田麻里コーチからは「十分に練習を積んできた。自信をもって堂々と、楽しんできて」とステージに送りだされた。
2023年のこの大会は5位。今年はもちろん優勝を目指していた。「去年は雰囲気にのまれていた。(舞台に立たない)サポートの部員も積極的にチームのために動いてくれ、『全員で』挑めたことが今年の勝因」と黒江さん。それとともに、「国内大会よりも観客が近く、アットホームな雰囲気の中で、何より全員が楽しんで踊れた」(楠本さん)ことも勝因に挙がる。
2023年夏にスタートした現在のチームは、ミーティングで話し合いを重ね、練習方法を改善しても、目標としたどの大会でも1位に手が届かなかった。そんなチームの成長のきっかけは、3位に終わった 2023年11月の全日本チアダンス選手権大会。演技直後、満足できない演技に泣きだしてしまうメンバーが何人も出た。
ミーティングで一人ずつ気持ちをぶつけ合い、全員が「このチームで勝ちたい」と思いを新たにした。どん底から光が見えた瞬間といっていかもしれない。
「主将になって最初の3カ月は逃げ出したいと思っていた」と当時の心境を思い返した楠本さんを、黒江さんが「主将は背負うものが大きいから」と思いやる。黒江さんは「一人ひとりで考え方や価値観が違うのは当たり前だけれど、一つのチームにまとめるのは難しい」と続け、2人は「チームの仲間とのコミュニケーションと、団結力の大切さを学んだ」と振り返った。
トロフィーを手にする楠本彩夏さん(右)と、黒江菜月さん
ナンバーワン!
チームのまとめ役として、黒江さんは「メンバー一人ひとりにしっかりと寄り添う。周りを見る力が大切」と力を込め、楠本さんは「主将の声色や表情で練習の雰囲気も変わる。いつもチームを明るくできるような態度、姿勢を心がけています」と話す。
ソングリーディング、チアダンスの魅力は「一体感」だという。2人は「皆で演技を創りあげていく。全員が主役というところが魅力なんです」と笑顔を見せ、「チーム愛をはじめ、先輩から受け継いだものを後輩たちに伝えていきたい」と語る。今回の優勝を糧として、次は8月のチアリーディング&ダンス選手権大会で日本一になるのが目標だ。
中央大学ソングリーディング部「Garnets」
2008年創部。村田麻里コーチ、楠本彩夏主将。部員数 32 人。チーム名の愛称は村田コーチの誕生石から命名。2023 年に初めて男子部員が入部し、「Garnet Girls」から改名した。
▶4年生=小峰日和
▶3年生=赤間愛 楠本彩夏 黒江菜月 小林静流(せら) 徳永実優 中島晴香 藤原捺未(なつみ) 舩津花々実 望月紗良 矢田莉子 米田里桜(りお) 千田葵 三神さくら 西部実尭 若松侑里
▶2年生=小澤茉侑(まう) 久保井七豊(ななと) 小町美空(みく) 千葉心渚(ここな) 吉田さくら
▶1年生=青木美咲希 牛嶋さやか 梅園茉優 小川奈乃春(なのは) 高橋結里(ゆいり) 瀧和花(のどか) 土屋紗蘭(さら) 寺田楓 中井さとよ 平井愛海(まなみ) 宝達優苗(ほうたつ・ゆな)
USA Collegiate Championships
USA(Untied Spirit Association)は、チアリーディング、チアダンス競技の指導・育成・普及団体で、米国西海岸に本部がある。Garnetsが優勝したPom 4-Year College部門は、楕円形のポンポンを使うチアダンスの4年制大学の部門という意味。アップテンポな楽曲をBGMとして、2分間の演技の中で、振り付け、技の難易度、正確性、ショーマンシップ、フォーメーション(隊形)などを基準に、4人の審査員が評価した。
夏のチアリーディング&ダンス学生選手権大会(USAジャパン主催)、秋の全日本チアダンス選手権大会(日本チアダンス協会主催)、冬のUSA Regionals(地区大会)とUSA Nationals(全国大会)と並んで、Garnetsが目標としている大会である。
ソングリーディング
肩に人を乗せるなどのアクロバティックな動きは禁じられている。見どころは、体のターンやジャンプなどチアダンスとしての技や動きの切れのほか、片方の足を伸縮させながらもう片方の足を軸に全員でそろって回転するクラシックバレエの動き「フェッテ」など。
「ソングリーディング」という言葉、競技名を私は初めて知った。しかし、主将の楠本彩夏さん、副主将の黒江菜月さんの話を伺っていくうちに、大いなる魅力を感じることができた。そして、米国大会優勝までの喜びや苦悩を知ることができた。
インタビューで 2 人からは、「団結力」と「楽しむ」というキーワードが多く出てきた。やはり集団で踊るには団結力が必須であるが、「楽しむ」に至るまでの背景として、2人からは「苦労した」というコメントも多かった。
現在のチームで主将、副主将の立場になってからは他の部員とのコミュニケーションに悩み、大会での成績が芳しくなかったという苦い経験から、誰一人として取り残さずに、全員が同じベクトルを向いて練習することの大切さを痛感したと語っていた。
楠本さんは自分の表情、声色に気を配り、練習では笑顔でいることを心がけた。また、国内の大会との雰囲気の違いに戸惑う部員たちを平常心にさせたのは、「全員で楽しもう」という普段からの心がけや、コーチの言葉であったという。うれしかったことも苦労したことも笑顔ではきはきと語っていた表情は、こうした心がけの賜物なのかもしれない。
話を聞けば聞くほど、2人の「Garnets愛」を感じ取ることができた。なんと、2人とも入学前から入部を決めていたそうだ。そのために高校の勉学に一生懸命励んだというエピソードを聞いた。実際に「憧れのチームの一員になれたことが本当にうれしかった」という。
私自身、大学入学後の目標も漠然としている中で、入学後のビジョンをはっきりさせた上で目標を実現させた2人には脱帽するばかりだ。
新しく仲間になった1年生との練習も含め、今のチームに適した練習をしたいと意気込む2人。2023年に入部した初の男子部員の存在も新しい魅力となっている。練習に取り組む姿勢や、目標への熱い想いを聞いて大いに心を動かされた。大げさかもしれないが、学生が模範とすべき姿勢、態度ではないかと思った。日々進化するGarnetsのさらなる飛躍を期待したい。
本番前の緊張感―。輪になって意思統一を図る
Garnets主将の楠本彩夏さんと副主将の黒江菜月さんに大会での経験や、ソングリーディングの魅力などをインタビューした。
チームのモットーやスローガンを尋ねると、「守らない、攻める。楽しんで魅せる」「負けるな、笑え」と教えてくれた。この言葉が特に印象に残っている。つらいときも口角を上げて、笑顔で演技することを大事にしていたという。
2023年夏から現在のチームになり、なかなか結果が出ないときが続いた。それまで続けてきた練習方法を変え、何度もミーティングを重ね、時には選手同士で意見し合い、涙を流したこともあった。そして、チームの全員が同じ方向へと目を向けられるように互いの対話を何よりも大切にしてきた。
ソンググリーディングは人を肩の上に乗せるチアリーディングのようなアクロバットな動きが禁止され、ポンダンス、ヒップホップ、ジャズ、バレエなど、さまざまな踊りの要素を含んでいる。村田麻里コーチが創るGarnetsの振り付けは、アームモーション(腕の動き)に肩や胸の動きを加えた曲線的な要素を含んでいるのが特長という。
米国での大会は日本と違い、観客との距離が近い。観客の声援もよく聞こえるため、ファイナルでは、盛り上がっている雰囲気を力に変えて演技に臨んだ。前年の大会は雰囲気にのまれてしまい、思うような結果を出すことができなかったが、今回はその雰囲気を生かして頑張ろうという考えに切り替えることができた。
勝因はとにかく演技を精いっぱい楽しめたことにあった。もちろん結果は大切だが、積み上げてきた練習の成果を発揮できるよう、舞台に立つことができなかったメンバーを含めて一人ひとりが全力を尽くした。
困難な壁が立ちはだかったとしても、「このチームだから頑張れる」「このチームで勝ちたい」という気持ちが今回の素晴らしい結果をもたらしたと、インタビューを通して感じた。3年生は、8月の大会で引退するが、チームが代替わりしても、「チーム愛」のたすきは後輩たちにしっかりと受け継がれていくだろう。また新たな目標に向けて、ソングリーディング部の活躍に期待したい。