2023.12.08

クイーン・オブ・アスリート  未来のオリンピアン目指す
七種競技で日本インカレ2位
女子陸上競技部 松下美咲選手(文3)

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走って、跳んで、投げる―。陸上の七種競技のアスリートは日々、自身の体の総合力を高めようと、試行錯誤を重ねている。体格や体形に、簡単に“正解”は見いだせない。どのような体を作り上げていくかは自身の判断に委ねられる。今年9月の日本インカレ(第92回日本学生陸上競技対校選手権)の七種競技で2位となった女子陸上競技部の松下美咲選手(文3)も、能力の限界に挑み続ける一人だ。強くなるために取り組んでいることや課題、競技の魅力などを尋ねた。

得意種目の100 メートルハードルの飛越

けがに苦しんだ今季 それでも自己ベストに肉薄

 

けがとの闘いだった2023年シーズン。太ももの肉離れや両アキレス腱炎、ジャンパーひざの炎症に苦しんだ。痛み止めでごまかしながら練習を重ねたが、6月の日本選手権は欠場した。

優勝を目指して挑んだ日本インカレでは、「けがをして、練習も十分でなかったのに、この点数を出して2位になれた。まだ上を目指せる」と、最終種目の800メートルでフィニッシュした瞬間、すぐに前向きになれたという。7種目の合計5222点は自己ベストにあと55点と迫る好記録だった。

七種競技では2日間にわたり、走力や瞬発力、筋力など求められる能力の異なる7つの種目に挑む。体への負担も小さくなく、かなりハードだ。松下選手は、自ら理想とする体格や体形に近づくため、「たくさん食べて、筋肉をつけるようにしている」。しかし、たとえば砲丸投げの記録が伸びる筋力がついても、走り高跳びの記録向上に結び付くとは限らない。自分で判断して体を作っていくしかない難しさがあるという。

ヘンプヒル恵選手や五輪選手と練習
大きな刺激に

7種目で、満遍なく好成績を上げるのは並大抵のことではないうえに、どの選手にも得意種目、苦手種目はある。松下選手の得意種目は100メートルハードル、苦手なのはやり投げ、砲丸投げで、苦手種目を克服していくやり方が全体の総合点を上げる近道と考えている。

「いつも、やり投げで順位を落としてしまう。やり投げの記録を伸ばせれば1位を目指せる」と自信をのぞかせる。

今年2~3月は米国サンディエゴに滞在し、七種競技で4度日本選手権を制した中大OGのヘンプヒル恵選手や、五輪出場経験のある米国選手らと一緒に練習した。負けまいと必死で食らいついたが、筋力やスピードの違いを実感した。ヘンプヒル選手が師事し、七種競技のトップアスリートを数多く育てているクリス・マック・コーチの指導にも、大きな刺激を受けた。

貴重な経験を今後の糧として、「筋力をアップさせ、社会人になっても通用する体、海外の選手のように走れる、投げられる体を作っていきたい」と話す。

競技の魅力について聞くと、「走る、跳ぶ、投げるという、いろいろな能力を競い合えるところ」と説明し、「2日間、選手はもちろんライバル同士なのですが、同時に皆で一緒に乗り切ろうという空気感も生まれる」と明かす。

最後の最後までだれが勝つか分からないというスリリングな要素もある。最終種目の800メートルでは、ゴールした選手が拍手や声援でライバルたちを盛り上げる光景がみられるという。

「陸上をやってみたら」 運動会の走る姿が転機に

多くの種目に取り組むルーツは、中学1年生のとき、陸上経験のある美術科の教諭に言われた一言にあった。「運動会で私の走る姿を見ていた先生が『陸上をやってみたら』と勧めてくれた」と振り返る。当時はDVD鑑賞や絵を描くことが好きで、陸上には全く興味がなかったという。

最初の専門は走り高跳びだったが、徐々にハードル走などに取り組み、「できることの幅が増えて、だんだんと面白くなってきた」。全国中学校体育大会の女子四種競技(200メートル・100メートルハードル・走り高跳び・砲丸投げ)で優勝し、陸上競技の指導者として名高い原田隆司監督を慕って滝川二高に進学した。高校時代から七種競技に打ち込み、高校生のランキング1位の座に上り詰めた。

大学の最終学年となる来季は「日本インカレは必ず優勝したい」と力強く語る。さらに「練習しないと不安になる。今季のけがは練習についていける筋力がなかったからだと思う」と分析し、この冬場の筋力アップを課題に挙げる。

ライバルは自分自身と捉え、「自分に勝つこと」を目指している。将来の目標は、いまだ日本選手が成し遂げていない七種競技でのオリンピック出場だ。

松下美咲選手

まつした・みさき。兵庫・滝川二高卒、文学部3年。身長162センチ。170センチ近い選手の多 い七種競技では小柄。日本インカレは2022年3位、2023年2位。中央大学OGのヘンプヒル恵選手を追いかけ、「強くなりたい」という思いから中大進学を決めた。

尊敬する人は両親。スポーツ栄養学を学び、高校時代の食生活に気を配ってくれた母親と、学校への送迎や、仕事終わりには奈良県の治療院まで車で送迎してくれた父親。2人に対する感謝の気持ちを常に抱いている。「両親がいなければ、競技をここまで続けられていないし、成績も残せていない。競技成績で恩返ししたい」と力を込める。

☆七種競技

1日目が100メートルハードル、走り高跳び、砲丸投げ、200メートルの4種目、2日目は走り幅跳び、やり投げ、800メートルの3種目で競う女子選手の混成種目。英語名はヘプタスロン。独自の数式で各種目を得点化し、総合点を争う。

10種目で競う男子の十種競技の勝者が「キング・オブ・アスリート」と呼ばれるのに対し、七種競技の勝者は「クイーン・オブ・アスリート」と称される。

第92回日本学生陸上競技対校選手権大会 女子七種競技 成績

(2023年9月16~17日、埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)

 

順位 選手名      100mH   走高跳び   砲丸投げ   200m   走幅跳び   やり投げ   800m   総合点

① 田中友梨 (至学館大) 14秒35(929) 1m55(678) 11m83(650)  25秒95(802) 5m39(668) 49m61(853) 2分20秒93(811)  5391点

② 松下美咲(中央大)  13秒70(1021) 1m60(736)   10m54(565)  25秒34(856) 5m55(715) 34m45(561) 2分24秒16(768) 5222点

③ 前田椎南(九州共立大)13秒80(1007) 1m63(771) 10m05(533) 25秒19(869) 5m40(671) 35m77(586) 2分24秒15(768) 5205点

④ 濱口実玖(国士舘大) 14秒59(897)  1m63(771)  12m01(662) 26秒15(784) 5m18(609) 41m51(696) 2分27秒67(722) 5141 点

⑤ 大菅紗矢香(中京大) 14秒04(973)  1m45(566)  12m31(682) 25秒98(799) 5m24(626) 41m46(695) 2分24秒76(760) 5101点

(注)上位5選手。カッコ内は種目別の点数。記録は日本陸連サイトより抜粋

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