2023.03.28

「楽しそうに走ってる」 背中でわかる選手の息遣い
「世界へ行くんだ」 監督の熱い声かけに身震い
陸上競技部マネジャーが見た、感じた「箱根駅伝」

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中央大学が総合2位となった第99回箱根駅伝(2023年1月2、3日)で、藤原正和・駅伝監督の運営管理車に同乗して、選手に伴走したのが、出納(すいどう)佳さん(商4)、炭山遥香さん(経済4)の陸上競技部長距離ブロックのマネジャー2人だった。

 

選手を奮い立たせる監督の言葉を間近で聞き、仲間の背中を見続けた記憶、思いを振り返ってもらった。
(競技写真はすべて月刊陸上競技提供)

運営管理車で多岐にわたる“仕事”

炭山さんが1月2日の往路、出納さんは3日の復路で、助手席の藤原監督から対角にあたる運転席の後ろに座った。“仕事”は多岐にわたる。5キロごとに計る走破タイムは監督の声かけの基本データとなり、中継所で待機する選手に付き添う部員と連絡を取り合って、スタート前の最後の指示を出す監督との仲介役も務める。

 

各区間に配置されたマネジャーが計った他校とのタイム差や、リアルタイムの気温、風向き、太陽の出方などもLINEで情報共有する。刻々と変化する気象の情報は、たとえば手袋の着用の有無などを判断するのに役立つ。区間配置のマネジャーはそれぞれ電車で移動しながら複数の区間を受け持つという。

 

往路で運営管理車が伴走したのは2区の途中、復路は6区途中から。炭山さん(往路)、出納さん(復路)の記憶やさまざまな思いを紹介する。

1年生で1区を任された溜池一太選手

2区で区間賞を獲得した吉居大和選手

3区区間賞の中野翔太選手の走り

「じりじりする思い」「でも走れちゃう、すごい」

往路1区・溜池一太選手(1年)=スローペース。関東学生連合の選手が飛び出したが、誰もついていかず、集団を引っ張る選手もいなかった。「じりじりする思い」でスマホの画面を見つめる

2区・吉居大和選手(3年)=「お前は世界に出ていくんだから、ここで 負けるわけにはいかない」。藤原監督の熱い声かけに身震いした。その言葉もあって最後は足が動いたのかな。

3区・中野翔太選手(3年)=調子を崩し、2022年11月の全日本大学対校選手権を走れなかった。練習量は十分だろうかと気をもんだが、「でも走れちゃう、すごい」

4区・吉居駿恭(しゅんすけ)選手(1年)=青山学院大に追いつかれたときは「置いていかれがちになり、しんどそうだった」。でも1年生として良い経験。「来年こそ納得のいく走りを見せてほしい」

5区・阿部陽樹選手(2年)=最初の入りで前を行く駒澤大との差を詰めていった。監督の声かけもあって、行けると思ったんですが…

1年生の吉居駿恭選手は区間5位と踏ん張った

2年連続で山を上った阿部陽樹選手(左)

「どうしても区間賞を-」「やっぱり中澤だな」

復路6区・若林陽大(はると)主将(4年)= スタート前、リラックスした笑顔が頼もしかった。箱根湯本駅を過ぎた終盤から伴走し、どうしても区間賞を取らせたいという監督の気持ちのこもった声かけが耳に残った

7区・千守倫央(ともひろ)選手(4年)=これまで箱根ではいい記憶がなかったが、4年生になって奮起し、殻を破った。私は全然不安はなかった。監督の熱い声かけは「駒澤が見えている。お前ならいける」。

8区・中澤雄大選手(4年)=前回 (8区3位)の走りからも安心して見ていられた。襷(たすき)をつなぎ、運営管理車の監督と走ってきたコースに向けて、気をつけの姿勢で一礼する様子に「やっぱり中澤だな」と改めて感じた。

9区・湯浅仁選手(3年)=前回(9区3位)の良い走りの印象があり、心配はなかった。誰よりも努力する選手で、周りの信頼も厚い。

10区=助川拓海選手(4年)=いつもあと少しでメンバー入りを果たせなかった。「来年こそ」が続いた選手。日差しを浴びて輝いていた

4年連続で山下りに挑んだ若林陽大主将

区間4位で7区を駆け抜けた千守倫央選手(左)

前回に続き8区を走った中澤雄大選手

9区を任された湯浅仁選手

フィニッシュした助川拓海選手(右)は田井野悠介選手らに迎えられた

選手に「納得のいく結果」「幸せな思い」を
マネジャー 炭山遥香さん(経済4)

LINEの情報共有など運営管理車での仕事を説明するマネジャーの炭山遥香さん

4年前の入学直後、多摩キャンパスで陸上競技部のマネジャーから、たまたま入部勧誘のチラシを受け取った。陸上競技のことは全く知らなかった。入部したのは「何かを頑張っている人のそばにいる。そうすれば自分も本気で頑張れる」と思ったからだ。

 

当時は「マイペースで考え方も自分中心」と感じていた自身が、マネジャーの活動を通して変わったという。

 

「選手が日本一を目指して成長するなら、マネジャーも成長しないといけない。これまでと同じことをしていたら、それは後退だ」。常に前を見据える藤原監督の言葉を励みにして、日々、選手の努力や喜怒哀楽を一番近くで見てきた。

 

「雨は嫌いだけど、真夏なら選手には恵みの雨」。そう自然に思えるようになった自分を不思議に感じている。

 

「選手本人が納得いく結果を出してほしい。陸上を知らない私だからこそ、一緒にやってきた選手には幸せな思いをしてほしい」。そんな気持ちを胸に走り続けてきた4年間だった。

 

コースを走り切った選手の笑顔に、マネジャーとして報われた思いがしている。

「この同期生たちでよかった」
マネジャー 出納佳さん(商4)

運営管理車への同乗で印象に残ったことを尋ねると、10区を笑顔で走る助川拓海選手(4年)の姿を一番に挙げた。伴走車からは背中しか見えない。選手の表情は分からないが、足取りも軽く、スキップするような走りに見えた。普段の練習で走りの特徴をつかんでいるからこそ、背中で表情まで推し量れた。

 

ソフトテニスに打ち込んだ高校時代、けがでプレーヤーとしての活動が難しくなった時期もあった。部活動の顧問の教諭から「仲間のために何ができる?」と言われ、マネジャーを担当。選手を支える人の存在の大切さを知り、大学ではマネジャーの道を選んだ。

 

10区の後半10キロの車内はほとんど言葉もなく静かだったという。ふと監督に目を向けると、まぶたに手を当てていた。その様子を見て、出納さんも堪えていた涙があふれだした。

 

10区を走る候補には同じ4年の田井野悠介選手の名も挙がっていた。田井野選手は大手町でフィニッシュする助川選手を笑顔で迎え、襷を大事そうに握りしめた。

 

「こういう人がチームにいたからこそ2位にもなれた。私は田井野の姿が誇らしかった」。出納さんはそう言って同期生の皆に感謝した。

同期の選手たちとマネジャーの出納佳さん(右端)。2年生当時の懐かしい一枚(出納さん提供)

第99回箱根駅伝 総合成績

順位 大学名 記録(時・分・秒)

①  駒澤大   10・47・11

②  中央大   10・48・53

③  青山学院大 10・54・25

④  國學院大  10・55・01

⑤  順天堂大  10・55・18

⑥  早稲田大  10・55・21

⑦  法政大   10・55・28

⑧  創価大   10・55・55

⑨  城西大   10・58・22

⑩  東洋大   10・58・26

⑪  東京国際大 10・59・58

⑫  明治大   11・01・37

⑬  帝京大   11・03・29

⑭  山梨学院大 11・04・02

⑮  東海大   11・06・02

⑯  大東文化大 11・06・08

⑰  日本体育大 11・06・32

⑱  立教大   11・10・38

⑲  国士舘大  11・13・56

⑳  専修大   11・19・28

(参考記録)

関東学生連合  11・17・13

 

 

第99回箱根駅伝 中央大学 区間記録

区間 選手名(学部・学年) 記録(時・分・秒)

 

1区  溜池 一太 (文1) 1・03・02 ④

2区  吉居 大和 (法3) 1・06・22 ①

3区  中野 翔太 (法3) 1・01・51 ①

4区  吉居 駿恭 (法1) 1・01・49 ⑤

5区  阿部 陽樹 (文2) 1・10・36 ③

       往路2位=5時間23分40秒 

 

6区  若林 陽大 (法4)   58・39 ②

7区  千守 倫央 (商4) 1・03・15 ④

8区  中澤 雄大 (経済4)1・04・58 ⑦

9区  湯浅 仁  (経済3)1・08・54 ⑥

10区  助川 拓海 (経済4)  1・09・27 ③

       復路2位=5時間25分13秒

       総合2位=10時間48分53秒

※丸数字は区間順位

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