2022.12.14

勇躍、ポルトガルの海へ スナイプ級世界選手権に出場
ヨット部の廣瀬翔大選手(法4) 熊倉優選手(理工3)

学生記者 芳賀葵(法3) 白井美有(国際経営2)

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「風が強いな」-。真夏のポルトガルの海は、慣れ親しんだ江の島の海に似ていた。江の島は神奈川・葉山町の中大ヨット部合宿所から近く、「ホームシー」といえる海だ。

ヨットは帆(セール)に風を受けて揚力が生まれる。強風でハイクアウトをかなり頑張らないと艇は横倒しにされてしまう。1カ月前の「江の島スナイプ」(ノースセールカップ東日本スナイプ級ヨット選手権大会)で、相模湾沖の南から寄せてくる強風と大波に、しっかりと対応できた経験が2人の自信になっていた。

 

   ※ハイクアウト=帆が強風で横倒しにならないように、傾きと反対側の方向にヨットの縁から身体を乗り出し、艇の平衡を保つ動作。太ももや腹、背中に負担がかかり、それぞれ筋力を求められる。

スナイプ級世界選手権に出場した熊倉優選手(左)と廣瀬翔大選手

ヨット部の廣瀬翔大選手(法4)、熊倉優選手(理工3)のチームが、2022年8月18~25日にポルトガルで開催された「2022 SNIPE CLASSWORLD CHAMPIONSHIP」(スナイプ級世界選手権)に出場した。参加87艇中の34位と目標の10位には届かなかったものの、世界の舞台での経験はヨットマン2人にとって未来への大きな糧となった。

首都リスボンの西十数キロに位置するリゾート地、カスカイス市のマリーナ沖がスナイプ級世界選手権の舞台。もともとは日本開催のはずだったが、コロナ禍により開催地が変更された。廣瀬選手と熊倉選手のチームは2021年12月に葉山沖で開催された「第74回全日本スナイプ級ヨット選手権大会」で20位に入り、コロナ禍や海外での開催などを理由に上位チームに辞退が重なって、世界選手権の出場枠を獲得した。

風を読む能力、ハイクアウトの力
世界の舞台で試す

「大舞台でどれくらい力が通用するかを試したい。トップクラスの選手たちからスキル(技術)を盗み取りたい」(熊倉選手)と果敢にチャレンジした。中学時代からヨット経験のある廣瀬選手は「まずは大会を楽しむ。そして、大学に入って自分自身がどれだけ成長したかを知りたかった。ベストは尽くせたし、また世界の舞台に立ちたい思いが強くなった」と振り返る。

強風の中で、よりスピードを競う過酷な「サバイバルコンディション」(廣瀬選手)の下でのレースとなり、ヨットマンに求められる風を読む力と、しっかりとしたハイクアウトを可能にする体力・筋力の強さを試された。2人にとって、目標のインカレ団体戦(2022年11月)につながる経験を得るという意味合いも大きかった。

陸に上がったセーラーたちが交流するパーティーに参加し、本場のレセプション文化も味わうことができた。学生や日本国内で経験したことのない機会であり、もてなしだったという。

クラウドファンディングで渡航費など調達

リゾート地、カスカイスの海辺の風景

渡航費や艇の手配料、高額なセール購入費などは、自分たちだけでまかない切れないため、原資の一部をクラウドファンディングに求めた。2022年6月からの約2カ月間で、目標額90万円を上回る91万円の資金が支援者50人から集まった。2人は「学生の挑戦に対する応援という意味が強い支援だったと理解しています。本当に感謝しています」と話す。

ヨットの魅力を尋ねると、廣瀬選手は「ヨットは生活の一部。ヨットのない自分を考えるのが怖い。海というフィールドでの練習を通して、ほかの大学の選手とも交流し、つながりが生まれている。自分を成長させてくれているのがヨット」と語り、熊倉選手は「普段の努力が“見える化”できるところ」と答えた。

「ヨットは生涯スポーツであり、社会人になっても続けたい」と廣瀬選手。海の男たちの挑戦に終わりはない。

☆ヨット(セーリング)競技

大学生の競技は、スナイプ級、470(よんななまる)級で競われる。帆(セール)の数がスナイプ級は2枚、470級は3枚で異なる。470級は艇の全長470センチから名づけられた。ともに2人乗りで、海面に浮かべたブイ(マーク)を決められた順序、決められた回数で回り、走破順を競う。

ほかの艇との戦いであるとともに、波の高低や潮の流れ、風の強弱など自然との闘いでもある。東京五輪ではウインドサーフィンなども含めて10種目が実施された。

 

廣瀬翔大選手

ひろせ・しょうた。神奈川・逗子開成高卒、法学部4年。海という自然を相手にするヨット部のチームリーダーとして、普段の練習から安全を最優先した判断をするよう常に心がけている。スナイプ級世界選手権では、艇の後方に乗り、帆を調整しながら舵を取るヘルムスマン(舵取り役)を務めた。

 

 

熊倉優選手

くまくら・すぐる。千葉・千葉敬愛高卒、理工学部3年。中学高校の6年間、柔道に打ち込んだが、自然を間近に感じられる競技に魅力を感じ、大学入学後にヨットの世界へ。スナイプ級世界選手権では、艇の前方に乗ってバランスを取る役割のクルー(船員)を務めた。

【編集後記】
初志貫徹「決めたらやり切れ」
ヨット部のミーティングにはトム・クルーズ風の格好で?!
学生記者 芳賀葵(法3)

ヨット部の廣瀬翔大選手、熊倉優選手の2人の取材で楽しい時間を過ごせました。まじめな人柄の熊倉選手と、明るくて周りを笑顔にしてくれる廣瀬選手。ヨットの知識が乏しい私にも、分かりやすい言葉で、目を見て話してくれたことが印象に残っています。

熊倉選手は、私と同じ2020年に中央大学に入学しました。ちょうどコロナ禍で、私自身は課外活動をしていなかっ たのですが、熊倉選手はヨット部に入部。当初から「世界選手権に出る」という明確な目標を立て、今回のスナイプ級世界選手権出場で「有言実行」を果たしました。尊敬に値する実行力です。

また、「決めたらやり切れ」という両親の教えについて何度も言及し、熊倉選手が本当に大切にしている言葉なのだと感じました。「もう一度世界を目指したい」という目標が果たせるよう、私も応援しています。

廣瀬選手は、ヨット部のミーティングなどの際、映画「トップガン」の俳優、トム・クルーズのようないで立ちで現れるなど、部員の雰囲気を和ませるパフォーマンスも行うそうです。チームリーダーとして周囲をよく観察しているところは、見習おうと思います。取材時も一瞬にして私たち学生記者を笑顔にしてくれ、積極的に話しかけてくれたことで、取材はスムーズに進みました。持ち前の明るさで部員からも慕われる先輩なのだろうと感じました。

取材を通して、廣瀬選手、熊倉選手の2人ともヨットが何よりも好きだということが伝わってきました。「ヨットなしの生活は考えられない」と話した2人の充実した表情。とてもまぶしく映りました。

(左手前から時計回りに)熊倉優選手、廣瀬翔大選手、学生記者の白井美有さん、芳賀葵さん

【編集後記】
「やる気を注入してくれる存在」「ヨットの師匠」
互いに刺激し合い成長する2人
学生記者 白井美有(国際経営2)

「尊敬する人はいますか」という質問に対する廣瀬翔大選手の答えは意外なものだった。「僕は全員尊敬しています。この質問をされたとき、ぱっと一人が浮かぶことはよくないと思っていて…」。詳しく聞くと、とても深い考えに裏打ちされたものだった。

廣瀬選手は次のように説明してくれた。誰しも尊敬している人物はいるだろうが、その人物のすべてを正しいと考 え、神格化すべきではない。すべてにおいて正しい人物がいないように、すべてにおいて間違っている人物もいない。誰にも正しい、尊敬すべきところがあり、そこを見るべきだという意味だった。こうした考えを言語化できるほどに自分のものにしていることに驚いた。この考えはスポーツに限らず、廣瀬選手の学生生活や就職活動にも生かされているのだろう。

熊倉優選手は、少なくない同期のヨットマンが世界の舞台を経験しており、世界選手権出場という高い目標を掲げるきっかけになったと話した。初志貫徹する意志の強さが、ヨット部への入部を反対していた両親を説得し、仲間たちと一緒に部活動の充実に向けて力を尽くすことに結び付いているのだと感じた。「もっと強くなって、もう一度世界の舞台へ」と言葉に力を込めた熊倉選手の目は輝いていた。

2人は互いに刺激し合いながら成長している。廣瀬選手は「自分がたるみそうになったとき、やる気を注入してくれる存在。ヨットへの情熱を思い出させてくれる」と熊倉選手をたとえれば、熊倉選手は「ヨットの師匠が、部活動への熱意が人一倍ある廣瀬さんでよかった」と1学年上の先輩に感謝する。

「ヨットの沼にはまってしまいました」と笑う2人の顔が印象的だった。沼とは、もちろん、ヨットの魅力であり、奥深さだろう。この記事をきっかけにヨットの魅力に気づく人が増えたら何よりうれしい。

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