2022.12.05

「見る人が頑張ろうと思う理由になる走りをする」
800メートル日本王者
陸上競技部の金子魅玖人選手(商3)

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スポーツそれも個人種目で日本一、インカレ王者に輝くような人は、幼少期からほぼ負け知らずだろうという勝手な思い込みがあった。陸上日本選手権(2022年6月12日)の男子800メートルで優勝した金子魅玖人選手(商3)は違った。もちろん中距離ランナーとしての素質、下地は肉体に秘められていただろうが、努力し、悩み、苦しんで、国内の頂点に立った。

不思議な感覚 「前にだれもいないぞ」

 

 

日本選手権の決勝。中大1、2年時は準優勝に終わっていた。「どの大会よりも勝ちたい」と、今度こその思いで挑んだ。ラスト300メートルで仕掛け、残り150メートルでも余力があった。4コーナーを回ってスパートというプラン通りの強いレー スを見せた。

ライバルたちを寄せ付けず、両手を高く上げてフィニッシュ。最後の直線では「前にだれもいないぞ、という不思議な感覚」を味わった。さまざまな大会で優勝しているが、やはり日本選手権で先頭でゴールするのは格別な経験だった。

800メートルは、選手間の駆け引きや位置取りが勝負を大きく左右し、実力者でも必ず勝てるという種目ではないという。位置取り争いの激しさから、1500メートルとともに「トラックの格闘技」とも呼ばれる。

金子選手は「走破タイムを上げていく以外の強さを磨いていかないと本当の強さは身につかない」と話す。タイム以外の強さとは戦術であり、レース経験の積み重ねがものをいう。 

「頑張って1位になる」 素晴らしさ

日本選手権の表彰台で笑顔を見せる金子魅玖人選手(中央)
=2022年6月12日、大阪・ヤンマースタジアム長居

「頑張って1位になることは、こんなにもうれしいんだ」。陸上人生の原点は小学校時代にある。マラソン大会で絶対に勝てなかった強敵の壁を、6年生のときに初めて越えた。父親と一緒に走りを重ね、練習に打ち込んだ成果だった。

「努力を積み重ねて勝つ素晴らしさ、喜びを知った。努力すれば結果はついてくる」。そんな思いが胸を満たした。ところが、貧血が原因で、中学から高校2年の冬ごろまで陸上選手としてどん底を味わう。不調が続いて思うように走れず、陸上を続けるかどうかすら悩んだこともあったが、貧血にしっかり対処できるようになると、高3のインターハイは800メートルで2位、国体では優勝することができた。

中高時代を思い返すと、現在の成長した自分は「予想もしていなかった姿。考えてもいなかった姿」に思えるという。 

「世界と戦える選手になる」

日本王者の地位に満足せず、世界と戦える選手になることを目指している。「こんなにきつい種目なのにあまりに注目されていない」という国内の現状を変えるため、五輪や世界選手権の舞台で活躍する姿を見せて、「800メートルへの関心を高めて盛り上げたい。800という種目の競技人口を増やし、裾野を広げたい」 という思いが強い。

取材の最後に「きついのになぜ走るのか」とストレートに尋ねた。

「きつい姿を皆が応援してくれる。走りが世界レベルに達すれば、皆に(自分も)頑張ろうと思ってもらえる。そう思ってもらうために僕も頑張る。誰かの頑張る理由になるような走りをしたい」

まっすぐな目と、返ってきた言葉に胸が熱くなった。

日本選手権男子800メートルで、トップでゴールする金子魅玖人選手(中央)
=2022年6月12日、大阪・ヤンマースタジアム長居

第106回日本陸上競技選手権大会

(2022年6月12日、大阪・ヤンマースタジアム長居)

 

〈男子800メートル決勝〉

順位 氏名 大学 タイム
1 金子 魅玖人(中央大)1分47秒07

2 薄田 健太郎(筑波大)1分47秒42

3 根本 大輝 (順天堂大)1分47秒49

想定外のレースでの反省と学び

 

駆け引きや戦術が重要視される800メートルで、想定外の意外なレース展開となって敗れてしまった場合、 金子魅玖人選手は反省点を突き止め、次回以降のレースに生かすという。

2022年10月の国体では、1周目のペースが遅く、いつもラスト300メートルでペースを上げる選手が残り400でスパートし、追いつくことができずに2着に終わった。「(調子が悪いなどの理由で)自信がないと後手を踏み、引き離されて追いつけない」というレースも経験した。このため、自信をもってレースに挑むことを、常に頭に思い描いているという。

圧倒的な力量差があれば、終始先頭で走り、そのまま後続を突き放してゴールするのが理想だ。金子選手は「国内で負けない力がつけば、そういうレースができる」と話している。

金子魅玖人選手

かねこ・みくと。千葉・鎌ケ谷高卒、商学部3年。176センチ、62.5キロ。自己ベストは800メートルが1分45秒85、1500メートルは3分41秒15。2022年6月の日本選手権男子800メートルで初優勝。今年の日本インカレは2位だった。2023年のハンガリー・ブダペストでの世界選手権(世界陸上)800メートルの参加標準記録1分44秒70の突破が当面の目標。
 

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