2022.12.07
弓道は、人生そのものに喩えられます。(中略)上達するにつれて、技術を学ぶだけではなく、自己の人格を磨くことが必要だと気づくようになるのです。(中略)心と技を一体とし、内面の価値を高め、人生を深く豊かなものにするために、弓道は高い指標「真・善・美」を掲げています。(全日本弓道連盟ホームページより抜粋)
第34回全国大学選抜大会の女子の部で初優勝した松井和華選手、半田まゆか選手、三浦友莉選手、石井澪選手(左から)
弓道部が2022年6月に開かれた第34回全国大学選抜大会の女子の部で初優勝を飾った。女子部員たちにとって団体では初のビッグタイトル。「誰かが外しても、誰かがカバーして立て直す」。出場した半田まゆか選手(文4=女子主将)、三浦友莉選手(商2)、石井澪選手(総合政策1)、松井和華(のどか)選手(商1)の4人のチームワークの良さが、栄冠となって結実した。
半田まゆか選手(女子主将)
半田選手「優勝の可能性についてはあまり考えていま せんでした。自分たちのやるべきことをやり切ろうと考えて臨みました」
三浦選手「大学で弓道を始めて初の団体戦。一本一本を後悔のないように引こうと思っていました」
石井選手「当時の持っている力をすべて出せました。当日は調子もよく行けると思っていました」
松井選手「不安も、優勝したい思いも強くありました。 一戦一戦(に全力で)という気持ちでした」
4人はそれぞれの思いを胸に弓を引き、勝因として 「チーム一丸となれた」「皆で支え合えた」と口をそろえた。普段の練習と変わらない雰囲気、流れで挑み、石井選手は「初めて訪れた(試合会場の)明治神宮も楽しんでいた自分がいた」と語った。大舞台でも4選手とも冷静に矢を射ることができたようだ。
決勝トーナメント1回戦は明治大との顔合わせ。2部に降格してしまった昨年のリーグ戦(東京都学生弓道連盟主催)の入れ替え戦で争った因縁の相手だった。的中数9-7で下して雪辱を果たし、松井選手は「初戦では当たりたくない強豪だったが、勝って(チームに)勢いをつけることができた」と振り返った。
三浦友莉選手
入賞のかかった準決勝の信州大戦では4選手が16射中14本を的中させた。女子主将の半田選手は「大会中の最高の的中数を出せたことが自分たちの自信につながった」と胸を張った。決勝の関西大戦は12-10の僅差で勝利をつかみ、喜びをかみしめた。4選手のモチベーションも最後まで高いまま維持できていたという。
半田選手「中学1年で始めた弓道で、9年間の努力が報われたという気持ちが強かったです」
三浦選手「初めは実感がわきませんでしたが、素直にうれしかった。チームのメンバーに支えられ、結果を出せてうれしい」
石井選手「日々の努力が結果につながった安心感が強く、今まで感じたことのない達成感がありました」
松井選手「弓を引いている時間は長いようで短かった。(優勝の)実感がなかなか、わかなかったです」
「正射必中」。正しい射法で放たれた矢は必ず中(あた)るという弓道の言葉だという。正しい射法を目指し、弓を引くという所作を繰り返す中で、技を究め、揺るがぬ精神力と集中力を培う。そこにあるのは、自己との闘いと果てしない鍛錬だ。
10月上旬、多摩キャンパスの弓道場で練習中の4人に話を聞いた。袴姿が凛々しい。弦音が響く道場には独特で神聖な緊張感が漂っていた。ただ、4人を含む部員たちは、ときに冗談も言い合い、屈託なく笑う。緊張とリラックス。やはりメリハリも必要なのだろう。
今回の優勝を糧に、4人の精進の道は未来へと続いていくはずだ。
松井和華選手
選手4人に弓道の魅力や面白さ、弓道と向き合う姿勢などを尋ねた。
「技術を高めるため自分と向き合い、理想に近づけるよう工夫と練習を重ねること。それが目的であり、 弓道の神髄です」(半田まゆか選手)
「弓を引くという繰り返しの中で技術を究め、心身ともに落ち着き、ぶれない精神力と集中力を養うこと。常に自己との闘いです」(三浦友莉選手)
「中(あた)る射を見つけても、そこで終わらずに探求し続けられる。『正射必中』を目指す過程が魅力です」(松井和華選手)
「弓道とは求道なり」と、ひざを叩きたくなるような言葉が多く返ってきた。
高校時代のインターハイ出場の頃から、弓道の魅力を深く考えるようになったという石井澪選手は「弓道は楽しい。でもその一言で片付けられるほど単純ではない。表向きは簡単に見えるかもしれませんが、 誰もが深い沼にはまり、複雑で決して一筋縄ではいかないところに魅力を感じる」と説明する。
石井澪選手
石井選手の言葉をさらに続けよう。
「職人が作り出す弓の曲線美、人それぞれに異なる羽、異なる色の矢、弓が戻り、弦がかえることで生まれる弦音、射法八節に込められた無駄のない所作が生みだす身体の美しさ。私はさまざまな点に美を見いだしています」
「弓はただの道具ではなく、素直でよごれ一つないクリアな鏡のようなものです。感情が所作や手先、指先を支配し、面白いくらいに弓に反映されます。弓を究める道を進むことで、未だ見ぬ自分に出会える競技です」
競技であるとともに、芸術である点も弓道の魅力なのだと、石井選手は強く感じている。
半田まゆか選手
はんだ・まゆか。栃木・作新学院高卒、文学部4年。女子主将。姉の影響で中学1年から弓道を始める。集中力が長く持続するのが自身の弓道の特長で、プレッシャーにより強くなることが課題。
リーグ戦の1部昇格と、昨年に続く都学十傑(東京都の大学の選手の中で的中率上位10人)入りが目標。負けず嫌いな性格という。
三浦友莉選手
みうら・ゆり。神奈川・中央大学附属横浜高卒、商学部2年。弓道経験者の祖父の影響で、大学から始めた。日頃の稽古から納得のいく射を増やせるようにと意識を高めている。
今回の選抜大会では「他の3人の足を引っ張れない」と気合を込め、大崩れせずに安定した的中率を誇った。祖父に優勝を報告すると「すごいなあ」と褒められたという。
石井澪選手
いしい・みお。長野・松本県ケ丘高卒、総合政策学部1年。弓道歴は高校1年から。弓道のアニメ「ツルネ」を見て、「美しい弦音を私も響かせたい」と弓道の世界に憧れた。
安定して的中を取れるようにするのが課題。完璧主義なところがあるという。ライバルであり、目標の選手は同期の松井和華選手。
松井和華選手
まつい・のどか。静岡・小笠高卒、商学部1年。自身の弓道の特長は「矢を放つ瞬間のキレの速さ」。「大学でこんなに早く結果を残せて信じられない思い」という。
高校時代には全国選抜大会で団体3位の実績があり、当時の弓道部顧問の教諭から「弓道に本気で打ち込むことでしか見えない景色がある」と教えられ、大学でも弓道を続けようと決心した。
弓道は、矢を弓で射て、的に中(あ)てるという動作を通した心身の鍛練を目的とする武道。遠的(60メート ル)、近的(28メートル)のうち、一般的な試合は近的で行われる。的は直径36センチ。的中数を競うが、中央に中(あた)っても端に中っても、同じ的中に変わりはない。中央に近い黒色の円の部分を星(直径12センチ) という。
全日本弓道連盟は「射法八節」という、矢を射る一連の動作を8つの節に分けて紹介、指導している。射法八節とは「足踏み」「胴造り」「弓構え」「打起し」「引分け」「会」「離れ」「残心」のこと。矢を射るときの体勢、弓を引く動作、矢を放つ動作、放った後の姿勢などを指す。日々、弓を引く鍛錬を重ね、腕の筋力、腹筋、背筋、体幹を鍛えることが必要とされる。
第34回全国大学弓道選抜大会
(2022年6月25、26日、東京都渋谷区の全日本弓道連盟中央道場=至誠館第二弓道場・明治神宮武道場至誠館弓道場)
〈女子団体予選〉
中央大学は的中数11(半田1,石井4,三浦2、松井4)、5位で予選通過
(上位16校が決勝トーナメント進出)
〈女子決勝トーナメント〉数字は的中数
▽1回戦 中央大 9-7 明治大
(半田1、石井2、三浦3、松井3)
▽2回戦 中央大 11-9 日本大
(半田3、石井3,三浦2、松井3)
▽準決勝 中央大 14-8 信州大
(半田4、石井4、三浦3、松井3)
▽決勝 中央大 12-10 関西大
(半田3、石井4、三浦2、松井3)
渡辺泰和監督 (教士六段、昭和44年度卒)の話
「女子の部の初優勝は本当にうれしい。下級生も上級生もしっかりと頑張った。互いにカバーし合い、何よりチームワークが良かった。次は女子リーグ戦で、1部復帰を目指して精進してほしい」
【中央大学弓道部】
1924年創部。主将=八木橋優杜選手(経済4)、女子主将=半田まゆか選手(文4)。男子24人、女子22人が所属。全国大学選抜大会と全日本学生選手権大会(インカレ)、全日本学生王座決定戦・女子王座決定戦での優勝は男女計18回、全関東学生選手権大会での優勝は男女計12回。