2025.12.19
脚本家としての創作活動と、学業を両立している学生が文学部にいる。2025年春に前後編が公開され、話題となった映画「女神降臨」で、脚本を担当した文学部3年の鈴木すみれさんがその人。幼い頃から小説や漫画を読むことに喜びを覚え、脚本を手がけたいと考えている作品は数多いという一方で、オリジナルの脚本の創作にも意欲的に取り組んでいる。「うそ(虚構)であればあるほど、真実に近づく瞬間があると思う」と、フィクションの世界と向き合う理由を話している。
「女神降臨」は韓国のコミックが原作で、鈴木さんにとって最初に脚本を担当した映画作品。鈴木さんのプロット(物語の大まかな筋や構成)をもとに、監督やプロデューサーと相談しながら書き上げたという。
脚本は、登場人物の行動や動作、状況や心情を描写する「ト書き」と、人物が話す「せりふ」などで構成される。原作のある作品の脚本をつくる際、鈴木さんは、原作の素晴らしさを別の媒体でも豊かに表現できるように飛躍させる役割があると考えている。小説でもコミックでも、原作を読み込むたびに新たな発見があるという。
ただ、原作をもとに、しっかりとした脚本を書き上げる上でも、「原作に頼り切らないように」オリジナルの脚本を書けるようになる力が必要と考え、その創作力、表現力を身につけていくことを課題と捉えている。
創作活動の原点は、小学1年の夏休みの自由研究で小説を書いたことにある。「私も書きたい」という表現への意識が常にあり、小学6年までの毎年の自由研究に、オリジナルの小説を提出していた。アガサ・クリスティーや星新一の小説を模倣したこともあったそうだ。
そして、小学5年のとき、脚本家の坂元裕二さんが手がけたドラマ「Mother」(日本テレビ系)を見て、「せりふも物語も面白かった。こんなにもすごい世界があるんだ」と胸に深く響いた。坂元さんの脚本集を読むなどして、独学で脚本について学び始め、中学2年のとき、初めて書き上げた「ココア」という作品で第30回フジテレビヤングシナリオ大賞を14歳で最年少受賞した。
実際にドラマとして放送され、受賞によって「脚本の道で生きていきたい」という気持ちが固まったという。ヤングシナリオ大賞は、若手脚本家の登龍門とされる賞で、くしくも第1回の受賞者は坂元さんだった。
オリジナルの脚本の創作と向き合うとき、鈴木さんは、とくに人を描くことを大事にしている。その意図は、「たとえば、ある方向に物語を進めたいからといって、わざと登場人物を苦しめたり、不自然な動きをさせたりしない。物語の構成を優先しないということ」と説明する。つまり「物語があって人が動くのではなく、人が生きているから物語が生まれる」と教えてくれた。
この人の動きと構成のバランスを創作上、上手に保つことは容易ではなく、「人の心の機微を自分の都合(=構成)に合わせて無視しない」ことを意識している。
文章を書く、表現したいという欲求は、どこから、なぜ、わいてくるのか。その源泉を尋ねると、「フィクションはうそ(虚構)であればあるほど、真実に近づく瞬間があります。真実に触れたいというのは人間の根源的な欲求なのではないでしょうか」と答えた。「事実ではなく真実を書ける」。フィクションである小説を読むと、そう感じるという。
文学部では国文学を専攻している。方言や異文化理解の授業では「いろいろな方言や、文化的に異なる背景の人同士の会話などを知り、学ぶことができる」と語り、脚本の創作に刺激を受けるような内容もあるそうだ。
すきま時間にアイデアが浮かび、書き留めることもある。せりふを思いついたり、「海辺で制服姿の男女が向き合っている」というふうに、絵(情景)からストーリーをひも解いたりするという。
「脚本はそれだけで完成形というわけではなく、ト書きとせりふによる“設計図”」と位置づけ、その設計図をもとに、どのような演出が生まれ、どのように演じられるのかが醍醐味と語る。「脚本家として経験も浅く、まだまだ学んでいる最中です」と謙遜しながら、せりふや人物の動き、構成など脚本について考えている時間が、「もっとも集中でき、充実感を覚える」という。
現在は、2026年に日本テレビ系で放送予定のドラマ「俺たちの箱根駅伝」(池井戸潤さん原作)の脚本づくりに取り組んでいる。脚本家としてオリジナルの面白い作品を映画やテレビドラマ、配信などさまざまな媒体で、より多くの人に届けられるようになりたいと、未来を描いている。
鈴木すみれさん
東京・中央大学高校卒、文学部3年。自身が原作・脚本の「ココア」で第30回フジテレビヤングシナリオ大賞を史上最年少の14歳で受賞。趣味は、短歌の創作やギターでの作曲など。音楽は洋楽、邦楽を問わず、さまざまなジャンルが好きで、折坂悠太さんのファン。
☆ 女神降臨
鈴木すみれさんが初めて脚本を手がけた映画作品で、韓国のコミックが原作。「メイクによって女神に変身した主人公の心が、イケメンの男性2人の間で揺れ動く」というストーリーの青春ラブコメディー。主演はモデルで俳優のKōkiさん。前後編の映画として、「女神降臨Before高校デビュー編」が2025年3月、「女神降臨Afterプロポーズ編」が同5月に公開された。
☆ ココア
鈴木すみれさんのオリジナル脚本。中学2年生のときに第30回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、ドラマ作品として2019年1月にフジテレビで放送された。女子高校生3人の群像劇で、「居場所がない」「両親の裏切りを許せない」「かつていじめをした自責の念から逃れられない」という3人それぞれの葛藤や苦しみが描かれている。
鈴木すみれさんが脚本を担当した「女神降臨」
Ⓒ映画「女神降臨」製作委員会