2025.12.19
弓道部の田口宜知(よしとも)選手(理工1)が、2025年8月の第56回全日本学生弓道遠的選手権大会で優勝した。高校1年で始めた弓道で初めて獲得した「日本一」のタイトルに、「調子が良く、いい緊張感で大会に臨むことができた。自信もあった」と胸を張り、中大在学中に「都学十傑(東京都学生弓道連盟のリーグ戦の的中率上位10人)に入りたい」と新たな目標を掲げている。
全日本学生弓道遠的選手権で優勝した田口宜知選手=多摩キャンパス弓道場
「遠的」は60メートル離れた的を射る競技。一般に広く知られている弓道は28メートル先の的を射る「近的」で、的の直径は近的が主に36センチなのに対し、遠的は1メートルを超す。的までの距離が長いと矢が左右にぶれやすくなり、「近的以上に真っすぐに矢を放つことを意識する必要がある」(田口選手)という。
今回の学生遠的選手権は約380人が参加し、予選を通過した38人が決勝に進出。決勝は5本目まで直径1メートル、6本目以降が79センチの的で行われた。最後は1本ずつ矢を放ち、的中者だけが次の矢を射ることができる「射詰(いづめ)」という方法で、田口選手の優勝が決まった。
田口選手は「射詰では中(あ)て続けるしかないと思っていた。優勝は素直にうれしい」と笑顔を見せ、「自分が打ち込んできた弓道は間違いではなかったとわかり、自信になった」と振り返った。
タイトル獲得で、より注目される存在になったが、「今後プレッシャーを感じるかもしれないが、結果を出さなければとは考えず、自分の射(しゃ)に集中して取り組んでいきたい」と落ち着いた表情で答えてくれた。
田口選手には、試合で緊張しすぎないで弓を引く姿勢のチェックポイントがあり、これを練習のときと同じように実行できている感覚があれば、矢は的中する。周囲の音が耳に入らなくなり、無心になれる瞬間といっていいのだろう。
この感覚を初めてつかんだのは東京農大三高3年の関東大会のとき。直前の練習では調子がいまひとつだったが、「チームのために」と集中力を高めると、田口選手は予選全的中を達成し、チームは団体3位になったという。
自身の弓道の特長は、弓手(ゆんで=左手)にあると考えている。矢を放つ瞬間、弓手がぶれずにしっかりと安定している状態。それを常に意識して練習に臨んでいる。射型は、力んで腕の力だけで弓を引いてしまうのを避け、「肩と胸を開き、骨盤を立てる意識で体で引く」のが理想だ。「弓を引く筋肉は、練習で弓を引かないと身につかない」と語る。
弓道に打ち込み、ある程度、矢が的中するようになってくると、的中と不的中の違いを考えるようになり、メンタルも一つの要素だと気付いた。緊張状態のメンタルの自分や、そのときの自分の射型を理解、把握することで、大丈夫だと自らを落ち着かせることにつながるのだそうだ。
インターハイ団体3位の実績のある東京農大三高時代も、中大弓道部の今も、目指す道として、日本一とともに「人間形成」を掲げ、あいさつや礼節、自分を律することに心を配り、活動する。「良い結果が出たときに一緒に喜び合えるから」と語り、実は個人戦以上に団体戦に力をそそいでいるそうだ。2026年は東京都学生弓道連盟のリーグ戦1部昇格、団体のインカレ優勝などとともに、「都学十傑」を目指す。
部の練習が休みの月曜日も多摩キャンパスの弓道場で弓を引くことを欠かさない。週末は練習試合が組まれ、“弓道漬け”の毎日を送っている。趣味を尋ねると、即座に「弓道です」と答えた。最初は高校の部活見学で「格好いい」と感じて始めただけだったのに、取り組むうちに心ひかれ、とりこになった。「弓道が好きで好きでたまらない」。田口選手の目がそう語っていた。
☆ 田口宜知選手
たぐち・よしとも。埼玉・東京農大三高卒、理工学部1年。歴史と伝統のある中大弓道部で指導を受けたいと入部を決めた。日野市の南平寮で暮らし、授業は後楽園キャンパス、部活動は多摩キャンパス弓道場と忙しい日々を送る。
第56回全日本学生弓道遠的選手権大会
(2025年8月21日、全日本弓道連盟中央道場=明治神宮至誠館第二弓道場)
〈男子の部・決勝射詰結果〉
優勝 田口宜知(中央大1年) 〇〇〇〇〇 〇〇
準優勝 稲葉侑真(筑波大4年) 〇〇〇〇〇 〇✕
3位 藤鷹暉士(明治大1年) 〇〇〇〇〇 ✕
4位 松澤優大(工学院大2年)〇〇〇✕
5位 松岡奏汰(筑波大1年) 〇〇〇✕
(注)〇は的中。的の直径は5本目まで1メートル、6本目以降は79センチ。4位、5位は遠近競射(より中心に近いところに矢を放った方の勝ち)で決定。記録は全日本学生弓道連盟サイトより抜粋