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2025.12.12

磨きに磨いた「出鼻技」 大舞台で発揮
学生日本一 剣道部・村田結依選手(経済2)

取材&文/学生記者 小保方愛香(法4) 合志瑠夏(経済4)

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剣道部の村田結依選手(経済2)が、2025年7月の第59回全日本女子学生剣道選手権大会で優勝した。中央大学に入学後、日々の稽古で磨きをかけた「出鼻(でばな)技」が大舞台で威力を発揮し、学生日本一の座をつかみ取った。「稽古が自信につながった」と語り、道場で切磋琢磨している仲間の部員たちと、親身に指導してくれた剣道部の北原修監督に感謝している。

村田結依選手(後列右から3人目)とともに優勝を喜ぶ剣道部員ら=2025年7月6日、日本武道館

両親や北原監督へ、恩返しの優勝

 

日本一へ、準々決勝が一番の正念場だった。相手は関東女子学生選手権(2025年5月)の覇者、岩原千佳選手(筑波大)。熱戦は延長に突入し、最後は相手が打ち込んでくる一瞬をとらえた村田選手の「出鼻メン」が鮮やかに決まった。

 

冷静にすきを突いて一本を決めた瞬間、「自分の成長を感じた」と振り返る。出鼻メンや出鼻コテなどの出鼻技は、相手が打ち込むタイミングで技を繰りだす剣道の「応じ技」の一種。村田選手は中大入学後に稽古で技を磨き、実力の向上に結び付いたという。

 

中大の女子選手はこの大会で、2024年まで3年連続で準優勝とあと一歩で頂点に届かなかった。「先輩たちの思いも背負って、どうしても勝ちたかった」。その気持ちが最後まで集中を切らさない原動力となった。

 

「支えてくれた北原監督や仲間、そして両親に恩返しができた。それが一番うれしかった」。大会後、家族や仲間、友人からSNSなどに届いた数々の祝福の言葉を受けて、ようやく「勝ったんだ」と少しずつ実感がわいてきたという。

決勝戦で相手に挑む村田結依選手(右)(写真提供:「中大スポーツ」新聞部)

我慢強さが持ち味 「団体戦が好き」

 

剣士としての強みは、今回の決勝の舞台でも発揮された「我慢強さ」だ。剣道は技の多様さだけでなく、打突のタイミングが命。中大剣道部は総じて攻撃的なスタイルが持ち味だが、その中でも村田選手は我慢強く、しぶとく戦うことに長けているという。

 

高校時代から団体戦ではチームの勝敗を決する最後の大将戦を任されることが多いが、大事な局面でも冷静さを失わない。大将戦より前にリードを保ち、自身が引き分けでもチームが勝利するという状況では、無理に攻め込まず、チームの勝利を優先する冷静さも持ち合わせている。

 

一方で、課題は相手にリードを許した状況で攻めに転じる難しさだという。「相手に先に取られると、自分から取り返しにいくのが苦手」と自己分析している。

 

団体戦で大将同士の試合でも勝負がつかなかった場合の代表戦が好きで、「苦手ではない」と打ち明ける。チームの勝利が懸かり、個人戦以上に責任の重さ、プレッシャーを感じさせる試合のはずだが、剣道を通じて仲間との絆を育んできた村田選手は、「代表戦にはプレッシャーもありますが、勝った喜びも、負けて泣いた悔しさも全てを仲間と分かち合えるから好きなんです」と教えてくれた。

学生の頂点に立った村田結依選手(左)(写真提供:「中大スポーツ」新聞部)

親元を離れ、「剣の道」の修行へ

 

剣道を始めたのは5歳の頃。祖母の勧めで地元の山口県宇部市の道場に通い始めた。小学校時代の恩師に「もっと大きな舞台で戦いなさい」と背中を押され、より自分を鍛えられる環境に身を置こうと、実家を離れて強豪校の日本体育大学桜華中学校(東京)、守谷高校(茨城)に進学した。

 

稽古に励む日々を過ごし、中学の最初の頃は道場にいるとき以外は、故郷を思い涙に暮れることも少なくなかったという。それでも竹刀を持ち続けたのは、自身の努力に加え、支えてくれる家族、仲間、友人の存在があったからだ。

 

中学、高校では、心を磨く教えを受けた。剣道だけではなく、日常生活の中で人を喜ばせ、それを自分も幸せに思う「他喜自倖(たきじこう)」の精神を学んだ。

 

稽古を通して自分と向き合い、己の弱さを克服し、迷いに気付いて、それを乗り越えていくこと。相手を敬うこととともに、それこそが剣道の神髄だと、村田選手は話した。

 

学生日本一となっても気の緩みはない。「来年も再来年も大会はあるし、プレッシャーもある。また、一からという気持ちで頑張りたい」。次の目標は全日本女子選手権の優勝と、剣道部として団体で日本一になることだ。

 

☆ 村田結依選手

 

むらた・ゆい。山口県生まれ。茨城・守谷高校卒、経済学部2年。161センチ。出鼻技が得意。今後は、個人の日本一だけでなく、剣道部として団体での日本一を目標に掲げている。

 


 

中央大学学友会体育連盟剣道部

 

1893(明治26)年創部。北原修監督。山野慎治主将(法4)、猪原悠月副将(女子主将=経済4)。部員数は男子45人、女子20人。

 

 



 

 

第59回全日本女子学生剣道選手権大会

(2025年7月5、6日、日本武道館)

 

▽1回戦  村田結依(メ、一本勝ち)  北村沙羅(北教大札幌)

▽2回戦  村田結依(メ、一本勝ち)  鈴木来実(中部大)

▽3回戦  村田結依(ツ、一本勝ち)  鈴木小萩(早稲田大)

▽4回戦  村田結依(メメ、二本勝ち)中脇巴(中京大)

▽準々決勝 村田結依(メ、一本勝ち)  岩原千佳(筑波大)

▽準決勝  村田結依(メ、一本勝ち)  松山若樹(早稲田大)

▽決勝   村田結依(メ、一本勝ち)  佐藤悠月(山形大)

中大の道場で技を磨く 明るく前向き、積極的な性格
北原修監督の目

インタビューに答える村田結依選手(右)と北原修監督
=2025年10月10日、多摩キャンパス

村田結依選手の剣士としての優れた点や人柄などを、剣道部の北原修監督に尋ねた。

 

技術面では、剣道の仕掛け技、応じ技、引き技のうち、とくに応じ技に秀でているという。応じ技の中でも、相手が打ち込んでくる一瞬のタイミングで打ち返す出鼻メン、出鼻コテなどの「出鼻技」を、中大入学後に自分の技として身につけ、実力を蓄えていった。今回の全日本女子学生選手権では、準々決勝と準決勝で出鼻技が村田選手の有効打となった。

 

剣道部のミーティングでは、自分の考えをしっかりと持ちながら、個人やチームの活動の振り返りで的を射た発言をし、チーム全体を見たアドバイスを言える存在になっているという。公式戦の直前でも、誰よりも前向きに稽古に打ち込み、納得するまでやめないため、監督が止めに入ることもある。剣道への情熱を思わせるエピソードだ。

 

剣道の礼の精神を重んじながら、世界に誇れる剣士へ。タイトルを獲得し、注目される選手になったことで、北原監督は「超一流の選手として、誰からも応援される選手になってほしい」と期待を寄せている。

【取材後記】 自分を律する姿勢、努力を重ねる謙虚さ
人としての「芯」に気づく
学生記者 小保方愛香(法4)

 

優勝が決まった瞬間は、あまり実感がなかったという村田結依選手。時間が経ち、さまざまな祝福の言葉を受けて、「優勝できたんだな」と感じたという。故郷を離れて競技を続けてきた村田選手にとって、応援してくれた家族に感謝の思いを伝え、恩返しできたことが何よりうれしかったそうだ。

 

日本代表候補の強化合宿メンバーに選ばれなかった悔しさをきっかけに、今年3月から個別に朝稽古を始めた。「強化合宿に呼ばれる選手になりたい」。強い意志を伝えられた北原修監督も、その思いに応えるように朝稽古に立ち会った。技の種類や出すタイミング、攻撃と防御の両面を意識した稽古を重ね、二人三脚で積み上げた努力が大会で結実したといえる。

 

過去3年連続で準優勝だった中大の先輩たちの思いを胸に、「ここまで来たら優勝したいという気持ちが大きかった」と振り返る。会場の雰囲気や、相手の勢いにのまれず、自分のペースで戦えたことが勝因という。

「気の緩みが一本に」 剣道の怖さと深さ

 

印象に残った試合は準々決勝だ。相手の岩原千佳選手(筑波大)は関東女子学生選手権(5月)の覇者で、自分より格上の選手と考えていた。しかし「我慢強く戦えば、必ず、すきが出ると思っていた。最後に一本を逃さずに打つことができてよかった」と胸を張った。

 

勝っても慢心せず、常にスタート地点に立ち返る姿勢が印象的だった。優勝した翌日には、次の目標を見据えていた。「また一から頑張ろうと思いました。今回の優勝を意識し過ぎず、次のチャレンジをしていきたい」。来年は個人戦だけでなく団体戦でも日本一を目指すという。

 

ライバルは「いない」と答えた。常に自分自身と向き合い、稽古と試合に取り組む。「剣道は一瞬の気の緩みが一本につながってしまう。そこが深さであり、怖さだと思います」

 

練習だけでなく日常でも自分を律することを意識している。だから、剣道以外の面でも手を抜かない。たとえば、ごみが落ちていれば拾い、「徳や運を拾った」ととらえる。稽古でも「ここで手を抜けば試合で負ける」と自分に言い聞かせる。そうした日々の積み重ねによって、「たとえ試合で負けても、後悔なく終わることができる」と語った。

 

高校時代の指導者から言われた「人が喜ぶことをすれば自分も幸せになれる」という言葉を今も大切にしている。出身校の練習に参加し、後輩たちの喜ぶ姿に自身も喜びを感じるという。

 

取材を通して感じたのは、村田選手の“強さ”は剣道の勝ち負けだけでは推し量れないということだ。結果に一喜一憂せず、常に次へ向かう切り替えの早さ、努力を当たり前のように積み重ねる謙虚さ。その姿に人としての確かな芯を感じた。

 

北原監督が期待するように、「中央大学の村田結依」ではなく、いずれは「日本の村田結依」と呼ばれるような存在になってほしい。

【取材後記】 竹刀の向こうに見えた「お菓子」の香り
剣道を通して自分を知る
学生記者 合志瑠夏(経済4)

取材のとき、私を含む学生記者の4年生2人を前に、2年生の村田結依選手は少し緊張していたようだった。徐々に打ち解けていくと、実は明るくて快活な人だと分かった。そして、意外な一面も次々と見えてきた。

 

お菓子作りが好きで、オフの日にはクッキーを焼いたり、たまに食べ歩きをしたりするそうだ。稽古中の真剣な姿と、自分の好きなことについて語る、和やかな表情のギャップに思わずほっこりしてしまった。

 

村田選手の剣道は、高校時代の恩師による影響も大きいと感じた。試合に勝つことと同じくらい、心のありようを大切にしていることが伝わってきた。結果だけでなく、日々の積み重ねの中で自分を磨く姿勢に、剣道部の仲間たちが信頼を寄せる理由がわかった気がした。

 

北原修監督の話からも、村田選手が仲間を大切に思い、何よりチームの勝利を願っていることがわかる。勝負の世界でありながら、支え合いを大切にする剣道部。明るく真剣に剣道に向き合う村田選手の存在が、部の空気を柔らかく、かつ確かな方向へ導いているのだと思う。

 

「剣道は自分を知るための存在でもあるんです」。村田選手の言葉がいまも胸に残っている。強さとは、ただ勝つことではなく、自分を見つめ、周りを思うこと。その大切さを、彼女の笑顔がそっと教えてくれた。取材を終えた後も、村田選手の言葉を思い出し、温かい気持ちになれた。

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