2025.08.05
2025年2月の第98回全日本学生スキー選手権大会で、スキー部の中澤拓哉選手(経済4=大会当時3年)が男子1部ノルディック複合で優勝した。中澤選手は2024年に続く連覇となり、この前月(1月)の第103回全日本スキー選手権の複合も制覇した。最終学年で挑む2025~26年シーズンの個人戦連覇、インカレ団体での総合優勝を目指し、オフシーズンのトレーニングに励む中澤選手に、インカレと全日本スキー選手権の勝因、今後の目標などを聞いた。
右手を突き上げてインカレ優勝を喜ぶ中澤拓哉選手(写真提供:「中大スポーツ」新聞部)
インカレでは前年王者としてのプレッシャーがあった。「失敗はできない」と挑んだ前半のジャンプ(ノーマルヒル)は79.5メートルを飛躍。スキー部の後輩で、ジャンプが得意な山﨑叶太郎選手(経済3=当時2年)の82メートルに次ぐ2位につけた。
後半のクロスカントリー(距離、10キロフリー)は26秒差で山﨑選手を追いかける展開。もともと走力に自信があり、クロスカントリーは得意だ。「(後半スタートで)45秒差以内なら逆転できる」と力強く走りだした。
言葉どおりに追いついた後は、2人で競り合いながら後続を引き離す作戦を考えていたが、徐々に独走態勢となり、2位の山﨑選手に44秒3の差をつけてフィニッシュ。アップダウンが多く、「集団で走ったほうがペースは上がる」というコースを最後は“一人旅”で攻め切った。
ジャンプを飛ぶ前は「バクバクと心臓の音が聞こえそうなほど緊張した」と振り返ったが、高校生の頃から緊張した方が気合が入り、力を発揮できるタイプだと自己分析している。
インカレのノルディック複合で、前半のジャンプを飛ぶ中澤拓哉選手(写真提供:「中大スポーツ」新聞部)
勝因を尋ねると、ジャンプの強化を挙げた。ジャンプ台のアプローチを滑り降り、カンテ(踏み切り台)を飛びだす速度は80キロを優に超える。足の親指の付け根の膨らみ「母指球」に重心をかけて踏み出すことを徹底し、助走姿勢が安定するようになったという。
クロスカントリーの課題としては、疲労から後半にフォームが崩れがちになることを挙げる。最後まで走力を保つ持久力を今以上につけるため、体幹トレーニングで、腹横筋、腹直筋、腸腰筋といった体の深層部(インナー)にある筋肉を鍛えている。
体力を温存しながら最後まで走り切ることが大事で、ワールドカップ(W杯)ノルディック複合で最多の76勝を挙げたヤールマグヌス・リーベル元選手(ノルウェー)の姿勢を理想に挙げ、「走るフォームが美しい」とたとえている。
インカレの前月(1月)に制した第103回全日本スキー選手権の後半クロスカントリーは、「競技人生で初めて」というトップスタートだった。力強い走りで後続を突き放し、「追われる緊張感というのも新鮮な経験だった」と語り、1分以上の大差で逃げ切った走りに満足そうな表情も浮かべた。
昔から、ジャンプで自分の飛行順になると良い風が吹いたり、クロスカントリーで知らず知らずのうち集団の中で良い位置を占めていたりと、不思議な運に恵まれているという。しかしその理由は、決して運やツキではなく、自身の強みに挙げる「継続する力」にある。
「僕はスキーのセンスがなくて、ジャンプの形もきれいではない。努力しないとすぐ下手になる」と謙遜(けんそん)気味に打ち明けるが、それが慢心せずに努力を続ける姿勢に結び付いているのだ。
2024年のインカレでは、中大の2学年先輩である木村幸大選手(現岐阜日野自動車)と畔上祥吾選手(同)、山本侑弥選手(SWCC、当時早大4年)らW杯の転戦経験がある強敵を退けて優勝した。2025年も「(山﨑選手ら)レベルの高い相手に勝てたのは自信になった」と笑顔を見せた。
来季(2025~26年シーズン)の目標を聞くと、インカレの個人3連覇とインカレ総合優勝、全日本2連覇を挙げた。W杯に次ぐレベルのコンチネンタルカップでポイントを重ね、W杯に出場してポイントを挙げることも目指す。
夏場はローラースキーを履き、人けの全くない早朝に起伏のある多摩キャンパスを走ることもある。頭が下がると尻が下がり、姿勢が「く」の字になる。あごを引き、視線をしっかり前に向けることを意識しているという。
全日本選手権の後半クロスカントリーは、降りしきる雪の中を力走した(中澤選手提供)
☆ 中澤拓哉選手
なかざわ・たくや。群馬県出身。長野・飯山高卒、経済学部4年。172センチ、60キロ。ノルディック複合では高校3年でインターハイ優勝、中大1年時にユニバーシティーゲームズ男子団体銀メダル。ジャンプや複合を始めたのは中学入学後で、小学校ではサッカー部に所属していた。趣味はロードバイク(自転車)。最初はスキーのトレーニングの一環だったが、大学2年の頃から本格的に取り組むようになったという。中大で寮が同部屋だった2学年上の木村幸大選手を尊敬している。
☆ 中央大学学友会体育連盟スキー部
1947(昭和22)年創部。布目靖則部会長。今井博幸監督。戸谷椋主将。部員数は25人(男子22人、女子3人)。内訳はアルペンスキー13人、クロスカントリー7人、ノルディック複合5人。
ノルディック複合
前半種目のジャンプのポイントを、後半のクロスカントリーのタイムに換算して争う。クロスカントリーは筋力や持久力、ジャンプは瞬発力などを求められ、総合的な運動能力が試される。複合王者は欧州で「キング・オブ・スキー」と称される。
第103回全日本スキー選手権大会 ノルディック複合
(2025年1月28~29日、長野県白馬村・白馬ジャンプ競技場ほか)
総合タイム ジャンプ クロスカントリー
① 中澤拓哉(中央大) 28分59秒1 106.2p 28分59秒1
② 小山祐(岐阜日野自動車) 30分09秒5 100. 2p(+24秒) 29分45秒5
③ 清水亜久里(日本ビール) 30分48秒3 96. 8p(+38秒) 30分10秒3
第98回全日本学生スキー選手権大会 ノルディック複合
(2025年2月21日、岩手県八幡平市・田山コンバインドクロスカントリーコースほか)
総合タイム ジャンプ クロスカントリー
① 中澤拓哉(中央大) 28分16秒3 109.5p(+26秒) 28分16秒3
② 山﨑叶太郎(中央大) 29分00秒6 116.0p 29分26秒6
③ 千葉大輝(日本大) 29分04秒4 107.0p(+36秒) 28分54秒4
※いずれも上位3人。前半ジャンプはノーマルヒル、後半クロスカントリーは10キロフリー。ジャンプの p はポイント。カッコ内は後半クロスカントリーのスタート時の1位とのタイム差。記録は全日本スキー連盟のホームページより抜粋
インカレの表彰式で。中央が中澤選手、左は中大後輩の山﨑叶太郎選手(中澤選手提供)