2025.04.08

伸びやかな泳ぎで世界へ 飛躍を期す
ジャパンオープン女子200メートル平泳ぎ優勝
水泳部 楠田夢乃選手(文2)

学生記者 合志瑠夏(経済4) 荒田智海(文2)

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水泳部の楠田夢乃選手(文2=大会優勝時1年)が2024年12月のジャパンオープン女子200メートル平泳ぎで優勝した。シニア世代を含む長水路の全国大会で初めて頂点に立ち、2025年7月の世界水泳(シンガポール)の代表選考会となる日本選手権(同3月開催)に向けて弾みをつけた。代表選出と、今秋のインカレでの水泳部としての優勝を目指し、日々練習に励んでいる。

優勝したジャパンオープンでの楠田夢乃選手の泳ぎ(写真提供:「中大スポーツ」新聞部)

「ベストに近いタイム」に喜び

 

決勝のレースでは、加藤心冨選手(早大1年=当時)との激しい争いを制した。電光掲示の1位の名前を見て初めて優勝に気づく。目標としていた日本水泳連盟の定めるインターナショナル選手標準記録C(2024年度は2分24秒73)を上回れなかったことに悔いが残ったものの、「久しぶりにベストに近いタイムが出た」と喜んだ。

 

インカレ(2024年9月)は加藤選手が制し、楠田選手は3位。100~150メートルで力を温存した加藤選手に最後でかわされるという悔しさを味わった。約3カ月後のレースとなった今回は、その雪辱を果たした形となった。

 

決勝は自身が4レーンで、加藤選手は6レーン。隣のレーンだと駆け引きなどを意識せざるを得ないが、離れたレーンだったことが幸いし、「最後まで伸びのある泳ぎができた」と振り返った。

 

女子200メートル平泳ぎは、インカレ決勝進出の8人のうち5人が大学1年生(当時)、ジャパンオープンも決勝の上位4人が大学1年生(同)と、成長著しい同期生による切磋琢磨(せっさたくま)が今後も続いていきそうだ。

表彰式後、笑顔を見せる楠田夢乃選手(中央)(写真提供:「中大スポーツ」新聞部)

ひざ下が弧を描く泳ぎ

 

キックが得意で、伸びやかに進む泳ぎが特長だ。「伸びがあって無駄のない泳ぎをする」と周囲の評価が高い。秘密はひざ関節や股関節の柔らかさにある。キックでは、ひざを直線的に曲げ伸ばしするのではなく、引き付けた脚を弧を描いて開くように動かせる。より水をかく量が増えて、推進力が大きくなるという。

 

小学3年で所属した藤村スイムスクール(藤村水泳教室=東京都武蔵野市)のコーチからも「この足(の動きをする選手)はなかなかいない」と驚かれた。2016年リオデジャネイロ五輪200メートル個人メドレーに出場し、平泳ぎを得意としていた今井月(るな)・元選手(昨秋に引退表明)も、ひざ関節が柔らかく、似たような脚の動きをしていたという。

理想は「細マッチョ」な体格
家族の存在が支えに

写真提供:「中大スポーツ」新聞部

背筋、腕など上半身の強化を課題と捉えている。無駄をなくしたスリムで軽やかな泳ぎ、「細マッチョ」な体格を理想としており、軽めのダンベルの上げ下げや懸垂で筋持久力を鍛える。現在も藤村スイムスクールで中高生らと一緒に練習し、一日に泳ぐ距離は3500~5000メートルに達する。楠田選手より速く泳ぐ男子に引っ張られ、元気や活力を得ているそうだ。

 

肺炎を患い、心臓を強くするために水泳を始めたのが2歳の頃だったという。競技と向き合う上で、今も父母や祖母ら家族の応援が大きな支えになっている。

 

競泳の魅力を尋ねると、100分の1秒の小差で勝敗を決するところと、たとえ8位の最下位通過で決勝に進んでも優勝の可能性のある「誰が勝つか最後までわからないところ」を挙げた。

 

平泳ぎは、脚力が強い選手は体が伸び切ってゆったりした印象を与える泳ぎ、腕の力が強い選手はピッチの早い泳法と、それぞれ泳ぎ方に個性や特徴がみられるという。

 

2024年パリ五輪女子200メートル平泳ぎの金メダリスト、ケイト・ダグラス選手(米国)が目標の存在で、スケールの大きい泳ぎは「私も似ているところがある」と感じている。

 

将来のオリンピック出場も目標だ。2028年ロサンゼルス大会は、中大卒業間近の同年3月の日本選手権が代表選考のレースとなる可能性が大きい。そのときまで――。一歩一歩、実力を蓄えていくつもりだ。

 


 

2025年3月22日の第100回日本選手権女子200メートル平泳ぎで、楠田夢乃選手は2分25秒02の自己ベストで3位となった。2025年7月開幕の世界選手権(シンガポール)への派遣標準記録を突破したが、派遣条件の上位2位以内に届かず、惜しくも世界水泳出場はならなかった

 

☆ 楠田夢乃選手

 

くすだ・ゆめの。東京・藤村女子高卒、文学部2年。168センチ。藤村女子高が運営する藤村スイムスクール所属。自己ベストは200メートル平泳ぎ2分25秒02(2025年3月=日本選手権)、100メートル平泳ぎ1分09秒37(2024年9月=日本学生選手権)。美容やメイク、洋服などの“おしゃれ”や、スポーツ栄養学、海外文化などにも興味・関心がある。

 



 

ジャパンオープン女子200メートル平泳ぎ決勝

(2024年12月1日、東京アクアティクスセンター)

 

  選手名   所属          記録

楠田 夢乃 藤村SS/中央大            2分25秒74

②加藤 心冨 スウィン鴻巣/早稲田大 2分26秒06

③小畠優々美 神奈川大/NECGSC玉川   2分26秒91

④松本 悠里 コナミスポーツ/関西大 2分28秒59

⑤鍵谷 柚月 東海大         2分29秒23

⑥中村 美羽 レイSC倉敷      2分30秒55

⑦河原 彩華 アテナAMC/武南高  2分32秒22

⑧齊藤 結菜 イトマン/四條畷学園高 2分33秒95

 

(注)記録は日本水泳連盟サイトより抜粋

質問に笑顔で答える楠田夢乃選手=2025年2月6日、多摩キャンパス

〈取材後記〉水泳にストイックに打ち込む
メイク、美容、スポーツ栄養学…さまざまな分野に好奇心も
学生記者 合志瑠夏(経済4)

取材でまず目に留まったのが鮮やかな青色のネイルだった。藤村女子高校時代からメイクに興味があり、水泳や勉強で忙しい中でも合間におしゃれを楽しんでいたという。スポーツ栄養学や美容に関心があり、さらに外国語の学習や国際交流にも意欲を見せていた。さまざまな分野に好奇心を持つ一方で、水泳に対してはストイックな一面が感じられた。

 

ジャパンオープンの優勝について尋ねると、「優勝は狙っていなかった。1位になったけれど、目標のタイムに及ばなかったので納得はしていない」と語った。言葉から、アスリートとしての記録へのこだわりや、自分自身と闘う強さが伝わってきた。

 

小学3年生の頃から所属する「藤村スイムスクール」でトレーニングを積み、現在も中高生の男子との練習から刺激を受けることがあるという。水泳を始めたきっかけは、兄弟の影響と病気の克服がきっかけで、競技生活の支えとなり、食事や送迎などでサポートし続けてきてくれた家族への感謝を言葉で表していた。

 

平泳ぎについては、「選手それぞれに泳ぎ方や体の使い方が異なるのが面白いポイントです。腕の力が強く、速いテンポで泳ぐ選手もいれば、足の推進力を生かす選手もいる。泳ぎのスタイルの違いにも注目してほしい」と教えてくれた。

 

実は私自身、中学生の頃にスイミングスクールに通っていた。平泳ぎが最も苦手で、何度も不合格になった苦い経験がある。取材を通して、自分が上手に泳げなかった原因が、体の硬さのせいで水をしっかり蹴れていなかったことにあると気づいた。この学びを生かして、取材後にストレッチを始めることにした。そして、いつか平泳ぎを“克服”したいと思っている。

 

競い合う大勢のライバルたちを「友達でもある」とたとえた楠田夢乃選手。今後も仲間とともに水泳に打ち込む姿を想像し、応援したい気持ちがさらに強くなった。

〈取材後記〉自己管理、分析力の高いアスリート
緊張感も楽しめた初の取材経験
学生記者 荒田智海(文2)

「人と競うことは、そこまで好きではない」「レース中は、早くレースが終わらないかなって考えています」

 

そう聞いて驚いた。これまでに多くの実績を残し、どこまでも負けず嫌いと想像していたからだ。「のびのびとした泳ぎをしたい」と語る楠田夢乃選手は、自分に集中し、自分と闘うレースをしようと心がけているという。「大会当日に不安な感情があると、レースに悪影響が出るため、当日までにいかに自信をつけるかが大事」とも口にした。水泳に多くの時間を注ぎ、やってきたことが自信につながることを熟知しているからこその言葉なのだろう。

 

幼いころから平泳ぎを得意としていた彼女の強みは、ひざ関節の柔らかさだ。無意識に足を動かしていたそうだが、コーチの助言から、より水をかく量が増えるという自分の持ち味、強みといっていい泳ぎ方であることに気付いた。レース前には「自分はどのように戦うべきか」を考え、最後まで自分らしい泳ぎができるよう努めているという。

 

取材中にたびたび、自分とほかの選手の泳ぎ方を比較する言葉が聞かれた。日々の積み重ねの中で自分の特徴をつかみ、結果を出す姿から「自己分析力が高いアスリートだ」と感じた。自身の強みを理解し、戦略的に行動することは、スポーツに限らず学業や仕事の面でも役立つのではないかとも思った。

 

楠田選手は、時間の管理も意識している。午前は大学の講義を受け、自宅に戻って昼食を取り、トレーニングに向かう。夜11時には就寝、8時間の睡眠確保を心がけているそうだ。競泳に打ち込む日々の中で、気分転換として楽しんでいるのが、メイクや洋服店巡りだという。オフの日には、古着屋を訪れたり、メイクのための店に足を運んだりすることが好きと、笑顔を交えながら教えてくれた。将来を見据えて、国際交流やスポーツ栄養学についても学びたいと語っていた。

 

私にとって今回が初めての学生記者としての取材だった。一つひとつの質問に真摯に向き合わなければ、その人の内面にあるものを知ることはできないと感じた。気を抜いていると、取材の現場から置いていかれる――。そんな緊張感も楽しむことができた。

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