2025.03.27

努力を重ね、学生最後につかんだ栄冠
全日本大学レスリンググレコローマン選手権72キロ級優勝
レスリング部主将 石原三四郎選手(文4)

学生記者 木村結(法2) 小林莉子(国際情報2)

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  • キャリア

競技人生で常に大切にしてきたのは、対戦相手への敬意を忘れないという思いだった。レスリングも試合で組み合う相手がいて初めて、勝利の喜び、敗戦の悔しさを経験できる。誰に対しても礼節を尽くすという真摯な態度を貫いたレスリング部の石原三四郎主将(文4)は、最終学年で全日本大学レスリンググレコローマンレスリング選手権(2024年10月)の72キロ級優勝という栄冠を勝ち取った。

決勝の勝利の瞬間、雄たけびを上げる石原三四郎選手

「頂点を狙える。絶対に勝つ」

学生最後となった全国大会の舞台。決勝戦の試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、若くして亡くなった兄と親友の顔が浮かび、手を合わせて2人に真っ先に勝利を報告した。12 年のレスリング人生で一番の大きな支えとなり、試合会場で見守ってくれた両親とも笑顔で握手を交わした。

 

この2カ月前の全日本学生選手権(インカレ=2024年8月)は3位で悔しさを味わった。このときの上位2人は「学生生活で勝ったり負けたりを繰り返した」という実力伯仲のライバルだったが、今回のグレコローマン選手権には不出場だった。「2人に勝って終わりたかった」という思いとともに、「頂点を狙える。絶対に勝ちたい」とも感じていたという。

 

1回戦は大学1年の頃からしのぎを削ってきたライバルの一人、豊田峻真選手(拓殖大)との顔合わせ。練習でぶつかる機会も多く、手の内を知った者同士の対戦は、拮抗したせめぎ合いが予想されたが、練習を積んだ得意技「すみ落とし」を第1ピリオド中盤に決めて大量得点を奪い、流れをつかんだ。初戦を勝って波に乗り、頂点に駆け上がった。

「やりたいレスリングをやる」

優勝できた理由を尋ねると、大会に臨むにあたり「レスリングに真剣に向き合えたことです」と答えた。試合本番をイメージして、「相手のあの攻めにはこう守ろう」「こう攻めていこう」などと事前の研究は以前から怠っていない。勝負の世界において、そうした研究は不可欠なのだが、今回は研究に比重を置くよりも、「自分自身がどのような動きをしたいか」を追求し、マット上で「自分のやりたいレスリングをやろう」と気持ちを切り替えた。

 

相手に向けていた“ベクトル”を自分に向けることで、やるべきことが明確になり、自信をもってマットに上がることができたという。

 

さらに主将として、4年生として、努力する姿勢やその大切さを少しでも後輩たちに伝えたいと感じていた。より多くの“結果”を出している後輩たちに負けられないという思いも強かった。レスリング部からは14年ぶりのグレコローマンスタイルのタイトル獲得となり、「伝統を守ることができてよかった」と熱戦を振り返っている。

決勝戦で相手と組み合う石原三四郎選手(右)

対戦相手への敬意、礼節

スタミナとパワーに自信がある。長距離走(駅伝)が専門だった父親の影響で、幼い頃から走ることが日課となり、持久力を培った。先手、先手で攻め込み、相手にプレッシャーをかけて追い込んでいくレスリングスタイルが持ち味だ。

 

得意技は一本背負いや胴タックル、背後から腰をロックして横回転するローリング。ほかの大学や韓国など国外に練習に出向き、納得できるまで自分に合った技や練習法を究めるほど、競技に対する探求心は旺盛という。

 

競技と向き合う上で、謙虚な姿勢を貫く。ほかの大学や国外での練習で「相手も努力し工夫をしている」と感じる一方で、練習で勝てる相手に試合で負けてしまうという経験も少なくなかった。そんなときは「相手の努力が一枚上手だったと思うようにしている」と話す。

 

どのスポーツにも通じることだが、勝ち負けがあるのは常に競った相手がいるからだ。「その相手への礼節をわきまえる。相手に敬意を払う」が、アスリートとして最も大切にしていることだという。こうした姿勢は、本格的にレスリングを始めた小学4年の頃、埼玉県入間市の実家近くのレスリング道場「飯能山中道場」に入門当初、「レスリングの試合は握手に始まり、握手で終わる」と指導されたときから培われていった。さらに、「グレコローマンレスリングの素質を見いだしてくれた高校の恩師にも感謝したい」と話す。

 

同期のほかの中大卒業生へのメッセージを頼むと、「恩を知り、恩に報いる」という言葉を贈ってくれた。

 

「入学して大学生活を送り、卒業の日を迎えることができたのは決して自分一人の力ではなく、たくさんの人の支えがあったからです。この恩を忘れることなく人生を歩んでいきましょう。皆さんの未来が輝かしいものであるよう願っています」

令和6年度全日本大学レスリンググレコローマンレスリング選手権大会72キロ級

(2024年10月23、24日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場)

 

〈石原三四郎選手の戦績〉

         対戦相手

▽1回戦  9-3  豊田峻真選手(拓殖大)

▽2回戦  9-0  谷川光星選手(周南公立大)

▽準決勝  9-0  久米田忠裕選手(天理大)

▽決勝   9-1  菊田創選手(青山学院大)

 

 (注)1回戦は判定勝ち、2回戦以降は8点差がついた時点で試合終了となるテクニカルスペリオリティー勝ち

 


 

石原三四郎選手

 

いしはら・さんしろう。埼玉栄高卒、文学部4年。レスリング部主将。170センチ、74キロ。公式戦前は2、3キロの体重調整を図る。レスリング部では週6日、朝2時間、夕方以降2時間、実戦練習や体力づくりを継続し、強靭な体に鍛え上げている。中央大学職員となる卒業後は業務の傍ら、砂浜で開かれる「ビーチレスリング」の大会に出場し、競技の普及にも努めたいと考えている。

 

文部科学大臣杯令和6年度全日本大学レスリンググレコローマンレスリング選手権大会72キロ級優勝。令和6年度明治杯全日本選抜レスリング選手権大会72キロ級準優勝。「UNIVAS AWRDS 2024-25マン・オブ・ザ・イヤー」優秀賞。

 


 

中央大学学友会体育連盟レスリング部

 

1946(昭和21)年創部。山本美仁監督、石原三四郎主将。部員数36人。過去に五輪金メダリスト5人を輩出している。

 

☆ グレコローマンレスリングとフリースタイルレスリング

 

大きな違いは「攻撃が許されている体の範囲」。フリースタイルは体のどの部分への攻撃も許されるが、グレコローマンでは腰より下をつかむことや、自らの足を使った技も禁じられている。グレコローマンは「ギリシア=ローマ式」という意味。

 

石原三四郎選手は高校時代まではフリースタイルレスリングを主軸に取り組んでいたが、自分自身のフィジカルの強さを生かせるのはグレコローマンだと考え、中大入学後からグレコローマンに本格的に打ち込むようになった。「上半身の攻防がメインで、豪快な投げ技やパワーのぶつかり合いが醍醐味」と魅力を話す。

レスリング部OBの天野雅之さん(現中大職員)との出会いが競技者としての転機だったと、石原三四郎選手は学生生活を振り返る。入学当初はグレコローマンスタイルの選手が少なく、専門的な指導を仰ぐには学外に出向くしかなかった。そこで、天野さんに指導を頼み、持てる技術の多くを授かった。石原選手は「今あるのは天野さんのおかげ。アスリートとして、人として尊敬しています」と感謝の言葉を述べている。

あきらめない意志で 学生王者の座へ
礼儀を重んじ、周囲を大切にする姿勢 仲間に慕われる人間力
レスリング部OB 天野雅之さん(2011年法学部卒)

2021年春、夢と希望を胸に入学してきた三四郎の姿を今でもはっきりと覚えています。入学当初は、体力的にも技術的にも未熟で、決して特別な才能に恵まれていたわけではないし、秀でた能力をもったわけではなかった。ただ、誰よりも礼儀を重んじ、家族や応援してくれる方々を大切にする心、そして、仲間から慕われる人間力があった。さらに、どんな状況でも「挑戦」をあきらめない強い意志を持ち続けていました。

 

思うように結果が出ず、悔しさに涙する姿を何度も目にしました。それでも、あきらめずに努力を重ね、全体練習後も一人残って練習し、自らを高める姿に心を打たれました。失敗や挫折は誰にでも訪れます。それをどう受け止め、どう次に生かすかが重要だということを、その姿勢で示してくれました。

 

夢や目標に真摯に向き合い、歩みを止めることなく努力し続けた結果、彼はチャンピオンの座をつかみ取りました。しかし、本当に称えられるべきはその栄冠だけではなく、どんな困難に直面しても決してあきらめず、何度でも立ち上がったその姿だと思います。それこそが、真の強さなのでしょう。

 

努力と姿勢は、きっと後輩たちの心にも深く刻まれていると思います。そうして受け継がれることで、次のチャンピオンを生むのでしょう。自分が歩んできたことの誇りを胸に、自信をもって歩んでほしい。さらなる飛躍を期待し、心からの敬意を込めてエールを送ります。頑張ってください。いつまでも応援しています。

 


 

天野さんは2011年に全日本選手権優勝、2014年世界選手権8位入賞(グレコローマン85キロ級)の実績があり、2024年5月の全日本選抜選手権(グレコローマン97キロ級)では史上最高齢となる35歳8カ月で優勝した。

〈取材後記〉「誠実」という言葉の似合うアスリート
学生記者 木村結(法2)

多摩キャンパス第1体育館のレスリング場を初めて訪れた。想像よりも広々とした空間が広がり、多くのトレーニング器具が並んでいる様子に目を奪われた。取材や写真撮影に応じる石原三四郎選手の姿は堂々として、とても格好よかった。

 

レスリングに必要な腕の力や体幹を鍛えるバトルロープサーキットというトレーニングを見学したが、私には到底できそうにないような激しい動きをいとも簡単にこなしていて、率直にすごいと感じた。

 

レスリングのこれまでの実績や実力だけでなく、内面の素晴らしさにも気づかされた。「誠実」という言葉がよく似合う方で、競技に真剣に取り組む誠実さはもちろん、考え方や人柄の誠実さも感じられた。学業とレスリングを両立しながら、ほぼ毎日トレーニングや練習に励み、主将としてチームをまとめ上げていると聞き、尊敬の念を抱いた。そして、取材を通して、特に印象に残ったのは次の2点である。

 

一つ目は、常に原点を大切にしていることだ。石原選手は小さい頃に通っていたレスリング道場を今でも訪れることがあるという。取材の前日にも足を運んでいたそうだ。指導者の方に礼節やリスペクトの精神を幼い頃から学び、その教えを心に刻みながらレスリングに取り組んできたと話していた。

 

自身のレスリングスタイルがずっと変わっていないことを確認するために定期的に道場を訪れ、初心に立ち返っているそうだ。指導者の方と話すことでリフレッシュできるとも語っていた。こうした一貫した姿勢が、大会での素晴らしい成績に結びついているのではないかと私は感じた。

 

二つ目は、チームメイトを大切にしていることだ。主将としてチームをまとめることは大変だと思うが、一人ひとりの意見に耳を傾け、チームをより良い方向へ導く努力を重ねていた。休日には同期や後輩とボウリングや食事に出かけ、練習以外の場面でも積極的にコミュニケーションを取ってきたという。そんな誰とでも打ち解ける人柄もチームメイトに信頼されている理由ではないかと思った。取材の合間には、後輩の学生記者である私たちにも気さくに接してくださり、良い先輩なのだと実感した。

 

まじめにレスリングに打ち込む姿や誠実な人柄、チームメイトを大切にする姿勢に感銘を受けた。卒業後は「成長させてくれた中央大学に恩返しをしたい」と、大学の発展に尽力

するため大学職員になるそうだ。4月以降、キャンパスのどこかでお会いできることを楽しみにしたい。

(左から)学生記者の小林莉子さん、石原三四郎選手、学生記者の木村結さん

〈取材後記〉努力と経験を糧にしてつかんだ優勝
学生記者 小林莉子(国際情報2)

「辛いことを辛いと思わないでゲームだと思うように」

 

逃げ出したくなることがあったときの自分との向き合い方を尋ねたときの言葉が印象に残った。このように強い気持ちを思えるようになるまでには、これまで多くの努力と経験を積み重ねてきたのだと取材から分かった。

 

石原三四郎選手は、全日本大学レスリンググレコローマンレスリング選手権の勝因について、「自分自身のレスリングに真剣に向き合えたこと」を理由に挙げた。以前から行ってきた対戦相手の研究だけでなく、今回は自分の過去の試合映像や練習日誌を見返したりイメージトレーニングや技の反復練習をしたりして、地道な努力を続けたという。

 

このような努力の継続は容易ではなく、誰にもできることではない。きっと思うような成果が出なかったり不安に襲われたりするときもあったはずだ。しかし、そのようなときには小学生時代に通っていた故郷のレスリング道場に足を運び、指導者の方との会話でリフレッシュしたり朝のランニングコースを走ってみたりして原点に返っていたという。

 

そこでレスリングの楽しさを再確認して自分を奮い立たせてきた。気持ちを切り替えて楽しみ、自分やレスリングと向き合い続けることで自分自身を強くたくましく成長させ、結果につなげられることを学んだ。

 

石原選手はこれまでのレスリング人生についても語った。埼玉栄高校時代の新型コロナウイルスによる試合中止の経験や、主将として同期や後輩をまとめた当時の苦悩、団体で準優勝した最後の全国大会の話も教えてくれた。チームをまとめるため、「率先して練習し、自分が頑張っている姿を見せた」と振り返った。大学で結果を残すことができたのは、苦悩から逃げ出さず、自分が一番に頑張るという高校時代の経験が生かされているのだと私は感じた。

 

レスリングと向き合う上で大切にしている「礼節」については、小学生時代に通った道場で最初に学んだという。現在も、支えてくれる家族や周囲の人々への感謝と礼儀を大切に思っているといい、取材中も学生記者の私たちに気さくに丁寧に接してくださった。そんな姿からも謙虚で真っすぐな心を持つ人だと分かった。

 

石原選手は経験の全てを自分の糧にしてレスリングに生かしてきたのだと感じた。これはスポーツだけでなく、人生において大切なことである。私も何事も楽しみながら経験を積み重ね、自分自身を成長させていきたいと思っている。

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