今年1月の第99回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)で、中央大学陸上競技部は総合2位という好成績を収めました。目標の3位を越え、私が現役時代に出場した第77回大会(総合3位)以来、22年振りに表彰台に登る快挙です。近年低迷していただけに「名門復活」を強く世間に印象付けましたが、私としては1年1年、強いチームにするために地道に取り組んできたことが実った結果です。特に監督に就任して最初の3年間は「戦うマインド」を根付かせるため、日々の生活も含めて厳しく指導しました。求めるレベルに達した4年目以降は「君臨型」から「伴走型」に切り替え、選手たち一人ひとりが強くなろうとする“自走型”の取り組みをサポートしています。選手各々の能力や性格を踏まえ、苦手な分野にアプローチすることにより、全方位に高まった個の力が結集して強いチームに成長しています。直近の目標は第100回大会での箱根駅伝総合優勝。節目の大会で優勝を飾ったうえで常勝チームを作り、日本代表選手を輩出するとともに、ゆくゆくは五輪代表選手を育成するのが目標です。
私の学生時代は楽しい思い出ばかり。陸上選手としては走れば走るほど記録が伸び、幼い頃から憧れ続けた箱根駅伝をはじめ、大学三大駅伝(箱根・全日本・出雲)に4年間出場。最後の箱根駅伝では「花の2区」を疾走しました。一方で学業も手を抜かず、専攻の日本史学では古代史を選んで、古代史の権威である故・石井正敏教授のゼミに所属しました。卒業論文のテーマは古代朝鮮半島にヤマト王権の出先機関があったのかを論じる挑戦的な試みでしたが、石井先生のご指導により自分なりの結論が導けたと思います。
文武両道を学風とする中央大学では体育連盟生であっても特別扱いされることはなく、同級生も同じ目線で接してくれました。特に専攻で学んだ仲間の数名は一生の友人になり、今でも親しく交流しています。試験前には皆で友人宅に泊まり込んで勉強したものです。また彼らは競技と勉強に明け暮れる私を遊びや旅行にも誘ってくれました。自分の知らない世界を経験するのは刺激的で、人としても視野が広がり、豊かに成長できた4年間でした。
社会人選手時代はケガにも悩まされ、大学とは逆に苦労の連続。
昔の自分を追うのはやめ、一からランニングフォームを改造して東京マラソンで優勝も果たしましたが、自分としては最後まで納得いく走りができませんでした。しかしこの時期に苦しんだ経験は、いま監督として活かされています。困難に直面したときどう乗り越えるか、実感をもって選手たちに寄り添えるからです。もちろん監督として競技成績はシビアに評価しますが、それ以上に意識しているのは「選手一人ひとりの4年間をどう成長させるか」です。
社会に出て活躍できる土壌を作ろうという思いで選手たちに接し、下級生には潜在力とモチベーションを、上級生にはコーチングを通してリーダーシップを引き出しています。長距離走とは人間性の成長がない限り、伸びないというのが私の持論。さらに駅伝は個の力に加えてチームプレーです。箱根駅伝が10区間にわたるのも意味があり、往路5人・復路5人で襷をつなぐように、人生も役割を意識し協調して走り抜ける力を養ってほしいと期待しています。
日常の練習から試合までのメニューの組み立てが的確なのが藤原監督の尊敬できるところ。さらに部員からの相談に、ご自身の言葉で答える人柄も、信頼を集める理由だと思います。そのおかげで、上下関係なく、言わなければいけないことをきちんと伝えられる関係ができている部です。2024年度の目標は大学三大駅伝(出雲・全日本・箱根)を制覇し三冠を達成すること。チーム一丸となって突き進んでいきます。