研究開発機構

研究成果プレスリリース:ことばを獲得する前の赤ちゃんもモノの素材の音と視覚の結びつきがわかる

2018年06月25日

文学部教授 山口 真美、研究開発機構助教 氏家 悠太(「顔と身体表現の文化差の形成過程」ユニット)が、日本女子大学・鹿児島大学との共同研究でなした「乳児におけるモノの素材知覚の脳内処理」に関する研究成果をプレスリリースしました。本研究成果は、平成30年6月18日、イギリスの Nature Publishing Groupが出版するオープンジャーナル、Scientific Reports誌に論文が掲載されました。
論文タイトル:“Crossmodal association of auditory and visual material properties in infants.”

 

ことばを獲得する前の赤ちゃんもモノの素材の音と視覚の結びつきがわかる~言語獲得以前の脳内メカニズムを探る~

私たちの研究は、モノの素材の見た目と音の関係が生後4ヶ月から脳の右半球で処理されるようになり、経験とともに処理できる素材が増えることを、世界で初めて証明しました。ヒトは、見ること、聞くことを通して、周囲の環境にあるモノの素材や状態を認識しています。例えば、ナイフやフォークなどの食器が、金属の素材で作られているのか、あるいはプラスチックにメッキ加工が施されたものであるのかを見分ける際には、素材の視覚的な光沢感だけでなく、モノを叩いた際に発する音も重要な手がかりとなります。今回の研究成果は、赤ちゃんが多様な感覚を通して、どのように現実の環境世界の物体を認識し、言語獲得に至るのか、そのメカニズムの解明につながることが期待されます。

 

私たちの実験では、言語獲得以前の乳児を対象に近赤外分光法(NIRS)を使用して、素材質感の視聴覚統合に関連した脳内処理の有無を調べました。具体的には、木や金属を叩く音とその表面材質(視覚刺激)が一致した刺激と不一致の刺激を観察したときの、左右側頭領域の脳血流反応をNIRSによって計測しました(図1、図2)。計測の結果、右半球の側頭領域では、素材を叩く音と映像が一致した刺激に対して脳活動が上昇しましたが、素材の音と映像が不一致の刺激では脳活動の上昇はみられませんでした(図3、図4)。一方、左半球では、どちらの刺激に対しても活動が上昇しないことが分かりました。このことから、乳児が視覚と聴覚を通して、モノの素材を認識する際には、脳の側頭領域の処理が関わっていると考えられます。さらに、このような脳内処理は、木の素材に対しては生後4ヶ月から、金属の素材では生後6ヶ月からみられ、素材によって獲得時期が異なることがわかりました。このことは、その素材が乳児にとってどの程度身近であったか、その接触経験が、素材質感の視聴覚統合の獲得時期に影響することが考えられます。


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