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2018年05月07日

シンポジウム「ジェンダー・暴力・デモクラシー」開催報告(社会科学研究所)

2018年2月3日(土)、中央大学駿河台記念館620号室にて、下記のシンポジウムを開催しました。

 

【共通テーマ】ジェンダー・暴力・デモクラシー

【日 時】 2018年2月3日(土)13:00~17:30

【場 所】 中央大学 駿河台記念館620号室

【主 催】 第27回中央大学学術シンポジウム「理論研究」チーム

 (共 催:中央大学社会科学研究所 研究チーム「暴力・国家・ジェンダー」)

【プログラム】

◇第一部(13:00~)、司会:鳴子博子

 ・棚沢 直子(東洋大学名誉教授)

   「力関係の起源としての世代」

 ・平野千果子(武蔵大学人文学部教授)

   「ナポレオンと植民地—反乱・奴隷・女性」

 ・原 千砂子(桐蔭横浜大学法学部教授)

   「再生産における女性主体と暴力」

 ・堀川 祐里(中央大学大学院経済学研究科博士後期課程院生)

   「戦時期日本における既婚女性の就業環境」

◇第二部(15:10~)、司会:中島康予

 ・鳴子 博子(中央大学経済学部准教授、研究チーム員)

   「ジェンダー視点から見たフランス革命―暴力と道徳の関係をめぐって―」

 ・西海 真樹(中央大学法学部教授、研究チーム員)

   「構造的暴力としての言語政策:琉球/沖縄の言語をてがかりとして」

 ・武智 秀之(中央大学法学部教授、研究チーム員)

   「人口減少時代の福祉とデモクラシー」

 ・中島 康予(中央大学法学部教授、研究チーム員)

   「投票デモクラシーとポピュリズム」

 

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【報告要旨】

 地球社会はシリアや周辺地域の紛争、世界各地で繰り返されるテロ、ヘイトクライム、北朝鮮のミサイル発射で高まった核の脅威など、さまざまな暴力に晒されている。核の脅威からDVまで、暴力には大きさの違いもあれば、物理的、精神的、構造的といった質の違いもある。あらゆる暴力の根絶は目指すべき目標ではあっても、その道のりは遠く、楽観を許すものではない。それゆえ私たちは、暴力から目をそむけずに、哲学、歴史学、経済史、法学、政治学等の分野から共通テーマ「ジェンダー・暴力・デモクラシー」にアプローチし、さまざまな暴力に通底するものを炙り出し、共通のテーブルについて議論することをシンポジウムの目的とすることにした。二部構成8名の報告(各20分)の概要は以下の通りである。

 

 第一部は外部(理論研究チームメンバー以外)の研究者に報告いただいたが、冒頭の棚沢報告は、事実上の基調報告とも言うべき迫力に満ちた報告であった。人間の水平関係の平等を求めてきたフランス、なかでも人権宣言(第1条「人間は生まれながらに自由で、権利において平等である」)は世代関係を考慮していないこと、ゆえに世代を力関係、権力関係、暴力の起源として考える必要のあることが力説された。報告者は育児や介護を、他者の生命を守り人間関係を成立させる労働と捉えるがゆえに、ケアではなく世話労働と呼ぶ。力関係の中でなされる世代継承、世代革新のダイナミズムが語られた。

 平野報告は、ナポレオン時代、カリブ海地域の奴隷制は革命の理念によって廃止されたわけではなく革命の二面性が表れていることやナポレオン軍と戦った民衆反乱をめぐるものだった。本国での革命の推移とその変質と連関した錯綜する植民地情勢の中、ハイチではなく周縁中の周縁のグアドループに分析を絞り、グアドループの民衆反乱を論じ、それに加わった「混血女性ソリチュード」の存在にも言及された。

 原報告では、産む性にかかわる言説をボーヴォワール、アレントに始まり、森崎、リッチ、クリステヴァ、ヤング、イリガライ、棚沢と続き、ギリガン、ルディックまで渉猟し、明快に提示された。人間を産む性として捉えることは哲学と政治学を変革しうるかという大きな問いを掲げた示唆的、刺激的な報告であった。

 堀川報告は、日本の戦時期に経済的な理由から労働現場に出た既婚女性の就業環境をめぐるものだった。古沢嘉夫(労働科学研究所)や赤松常子(産業報国会)には既婚女性労働者保護の視点はあったが、政府には既婚女性への配慮はなかったこと、彼女らの戦争協力責任を問うには慎重な判断が求められること、労働者が戦争協力を拒否できる社会づくりが必要であることが強調された。

 

 第二部は理論研究チームメンバーが報告した。鳴子報告は、フランス革命の民衆の直接行動(バスチーユ攻撃とヴェルサイユ行進、8月10日の蜂起、最高存在の祭典)をルソーの「革命」概念を分析視座とし、暴力行使の時期、暴力の質に着目して、暴力とジェンダー、暴力と道徳の関係を論じた。なかでもヴェルサイユ行進は、約230年前、大砲を引き槍で武装したパリの7千人もの女性がヴェルサイユまで国王にパンを要求しに出かけ、二日がかりで国王一家をパリに連れ帰り、以後、国王一家を衆人環視の下に置き、人権宣言を国王に裁可させることに成功した歴史的な意義をもつ直接行動であったことが強調された。

 西海報告は、まず明らかな、あるいは重大な危機にある言語に分類される琉球諸語に対して日本政府と沖縄県が採ってきた言語政策の歴史を振り返った。共通語の強要が構造的暴力、文化多様性の否定である一方、共通語の奨励が沖縄人と本土人との対等性を求める「社会的に強いられた願望」でもあったことが指摘された。次に、地域言語、少数言語保護の国際的状況について、欧州地域言語・少数言語憲章とUNESCOの活動が、それらへの評価と批判とともに紹介された。

 武智報告は、地方自治体レヴェルの3つの参加デモクラシーの制度(市民会議とパブリック・コメントと市民協働事業)が福祉やジェンダーの課題解決のためにいかなる意味をもつのかを検討した。効率、有効(効用)、正統性という3つの観点から、これらの制度の特徴、長短所が分析され、それらが他の直接・間接デモクラシーの制度とあわせて、目的に応じて採用、運用されることが求められると結んだ。

 中島報告は、ポピュリズム(応答)と投票デモクラシー(参与)との関係を検討するために、ポピュリズムとデモクラシーの間に切れ目を入れること、間接・直接民主政の二分法を一旦棚上げすることを試みる。ポピュリズムの両義性(大衆迎合主義と人民主義)に着目し、グローバル化の下での広義の(左右/上下)ポピュリズム―80年代の権威主義的ポピュリズムから新しい人種政治まで―にまつわる問題が分析された。さらに投票デモクラシーの多層性と多元性、住民・国民投票(イギリスのEU離脱や日本の大阪都構想など)の多用の事実が指摘された。

 

【質疑応答・その他】

 第一部と第二部とも4人の報告が終わったのち、フロアとの質疑応答に移った。質疑応答は第一部・第二部終了後、各30分の予定であったが、第二部報告後の質疑応答を20分延長するなどフロアとの議論の時間を確保することに努めた。第一部報告後の質疑は、共通テーマと報告者個々のテーマとの関係を改めて問う質問から始まった。第二部報告後の質疑では、20分ずつの盛りだくさんの報告で勉強になったが、もっとじっくり聞きたい報告内容なので報告数を絞った方がよいのではとの意見も出た。しかしフロアとのやり取りが進むにつれて、問題意識の共有はもちろん、問題の重なり、報告間の交差、連関が見えてきて、各報告は独立しつつもシンクロしていることが実感できたとの発言も出て、議論は熱を帯び盛り上がった。多岐にわたる議論の一部を記せば、少数性、複数性、多数性の精査が必要なこと(棚沢報告の強調点でもあり、原報告ともかかわる問題)、正義は釣り合いであり、倫理性を含んでいないのではないかとする原報告への疑義など、重要な論点が浮かび上がった。

 当日は「社会新報」(社民党機関紙)の取材が入り、同紙2月28日号5面に記事が掲載されたこと、参加者にアンケート(自由記述)をお願いしたこと、理論研究チームが60頁のシンポジウム報告書(3月1日)を冊子化したことを付記させていただく。報告者に若手の堀川氏が加わり、フロアの質疑では院生の質問も出て、世代的な幅も広がった。シンポジウムの成果を何らかの形で発展、継続するべく現在、検討中である。

 なお、シンポジウム終了後、ビストロ クルル(神田駿河台)にて懇親会を行った。

(主催チーム記)