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【2013日越国際シンポジウム】ベトナムにおける「生態村」の特徴ー天然資源環境省戦略計画研究所 ライ・ヴァン・マイン研究員

(司会:松谷研究員):ベトナムの各地域の特性に応じて「生態村(エコビレッジ)」というものが形成されているというご指摘がありました。そのような様々な「生態村」について、今度はISPONREのマイン研究員の方から「ベトナムにおける生態村の特徴」と題して詳しいお話を聞かせていただきたいと思います。それではマイン研究員お願いいたします。 

(マイン研究員):皆様こんにちは。最初に、私の自己紹介からさせていただきたいと思います。私はライ・ヴァン・マインと申します。ベトナムの農業大学を卒業し、先の発表者でありましたチン教授と同じ天然資源環境省戦略計画研究所(ISPONRE)に研究員として勤務しております。中央大学の緒方教授から相談を受け、原山准教授や松谷研究員と一緒に、ベトナム北部山岳地域の「生態村」、紅河デルタの「生態村」、沿岸砂地の「生態村」などで社会調査を実施させていただきました。本日は、ISPONRE内部のリン研究員とも相談しながら収集した「生態村」データを分析し、現在のベトナムにおける「生態村」の特徴をまとめて、緒方教授に英文論文をお送りしました。本日の配布資料に収録されております。そしてこのような発表の場を設けていただき、本当にありがとうございます。私としては、海外で英語での発表が初めてですので、通訳さんもよろしくお願いします。皆様に本日お話ししようと思っている内容は「ベトナムにおけるLang Sinh Thai(生態村)の特徴」です。

こちらが私の本日の発表の概要になります。まず、「Lang Sinh Thai」とは、ベトナム語で「生態村」を表します。「Lang(村)」、「Sinh Thai(生態)」です。ベトナムの「生態村」の概要について皆様にお話しした上で、ベトナムの「生態村」の設立・開発・展開といった歴史をお話したいと思っております。そして2つ目の項目としまして、ベトナムにおける「生態村」の定義をお話ししたいと思います。3つ目の項目では、ベトナムにおける「生態村」の特徴をお話しさせていただきます。

ここでは、いくつかの情報を皆様に提供させていただきたいと思います。そのうちの1つが自然生態系の状況、そして2つ目がヒューマン・エコロジー(人間の生態的な条件)、さらに3つ目として、いろいろな知識がある中で、本来備わっていた伝統的な知識と近代的な知識がどのように「生態村」モデルに反映されているかをお話ししたいと思います。そして最後にベトナムの「生態村」モデルの成功例とその限界についてお話したいと思います。

こちらが実際の「生態村」モデルの紹介になります。「生態村」モデルというのは、生態学(エコロジー)への理解、そしてもともと備わっていた伝統的な知識と近代的な科学的な知識の調和をベースにして出来上がっております。それだけではなく、実際に生活空間の配置や構築、そして地域コミュニティーの設立、また教育や文化、ヘルスケアといった地域コミュニティーに欠かせない様々な活動が共通の要素として取り込まれているところです。そして「生態村」のモデルというのは、実際に各地域が持つ利点、強みを検出するプロセスや、それを実際にどのように利用するのかといったところに貢献しております。

この「生態村」モデルは、1993年以降、アイン研究員の生態経済研究所(EcoEco)によって具体的に支援・展開されています。そしてベトナムにおける「生態村」モデルは、生態系が非常に脆弱な3つの地域に特に着目して展開されています。そのうちの1つ目が紅河デルタ湿地帯地域、2つ目は北部山岳地域あるいは山肌がむき出しになったような傾斜地、3つ目が沿岸砂地であります。そして最も大切なのは、各地域には同時の異なった生態に基づく自然条件や経済・社会条件に依存しているということです。

いま申し上げました3つの生態的地域特性のなかで非常に脆弱な地域においては、それぞれの特徴を包含した形での「生態村」になっています。ここでは、ベトナムにおける伝統的な村落を構成する社会経済の要素を全体像として示しています。私たちは、ベトナムにおける農村あるいは地方の情報を収集・分析しています。

それでは、ベトナムにおける村落がどういったもので構成されているのか、その中核因子とは何かを説明します。その中には、個人、世帯、家族といった親族というものよりも、より中心的な存在として、コモンズとしての村落があります。これがベトナムの村落あるいは村落共同体です。また、実際にベトナムの社会経済を構成する要素も不可欠であり、その要素は政策に反映され、実際に地域の再開発、社会インフラの開発として取り込まれています。そして、ベトナムの村落の重要な課題は、実際に村を形成する一つ一つの要素がつながっているところです。緒方教授が、「生態村」を「社会的共通資本」や「社会関係資本」の観点から把握するように強調している問題です。したがって、村落の社会経済の構成要素は一つ一つを分離することが出来ず、お互い密接に関係し合い補完し合って村落が形成されていることを認識することが重要です。 

経済発展のモデルの構築にあたって、私たちの社会は非分離的な要素から構成されているので、すべて結合した要素を総合的な構成要素と見なさなければなりません。こちらは、ベトナムにおける「生態村」の歴史を示すスライドです。しかし、同じ内容をトゥイ教授が報告されましたので、ここでは詳しい説明を割愛させていただきます。

こちらは、ベトナムにおける「生態村」の追加情報です。まず左側の円グラフが、生態地域における「生態村」モデルの構造がどのようになっているのかを示しており、そして右側の円グラフが世帯数で「生態村」モデルの構造を示しております。お手元の資料を参考にしてください。

こちらは、ベトナムの「生態村」の定義と特徴を示しております。詳しく説明します。ベトナムでは、「生態村」はコミュニティとしての生活空間をもった一つの生態系と一般的に定義しています。その場合、生態系の機能は、自然生態系を破壊しない社会的・持続可能な方法によって、生産活動の維持を目的に最大限に活用されます。

「生態村」モデルは、伝統的に以下の7つの特徴をもっています。

(1)原材料、燃料、エネルギー、そして自然資本を最大限に活用している。

(2)枯渇しないが劣化しうる要素(土地,水,そして,大気)、生命をもった要素(生き物〔living being〕、消費の対象となる生命体、その他との間において相互関係を確立し、自然生態系の法則にのっとってその関係を安定化させている。

(3)自然界と調和した、人間を含む多数の生命体の生活環境が、持続可能な構造を形成している。                          

(4)生態系による資源の保全にかかわる開発規定の基盤を形成し、生活環境を整えている。                                      

(5)「生態村」は、一つの象徴的な生態系であり、そこでは物質の循環、そしてエネルギーの循環システムに関して、人間が最も重要な要素となっている。

(6)自然条件(土壌,気候,水,地形,地理的条件など)および社会的条件(生活様式、伝統文化など)に基づいて、各地域特有の生態村が形成されている。

(7)「生態村」は、生態系の特徴に関する基礎的知識に加えて、地域固有の知識と科学技術の新しい知識とが融合することによって形成されたモデルである。

こちらは、ベトナムにおける「生態村」の全体像、それぞれの「生態村」がどのように成り立っているかを示したものです。言い換えれば、ベトナムにおける「生態村」がどういった構成要素によって出来上がっているのかを示すものです。ここに書かれているすべての要素が「生態村」の構成に関わっています。つまり、生態学的な特徴が兼ね備わっている生態的な知識、そして近代的、科学的、技術的な知識と結びついて、ベトナムにおける「生態村」が形成されているということです。

そしてこちらのスライドでは、ベトナムにおける「生態村」モデルがどのような役割を担っているのかということを書かせていただいております。ベトナムにおける「生態村」モデルは、実際に貧困の減少などに有効なツールとして用いられています。つまり「貧しい人々に対して魚ではなく釣竿を与えよ」というベトナムの諺のもとに、地域コミュニティーのもつ潜在的な能力を発揮させて、ひいては貧困を減少させていく、そのツールとなるのが「生態村」だということです。また「生態村」の担う重要な役割として、生物種多様性の保全と環境保護があります。さらに「生態村」モデルは、全世界が晒されている気候変動問題への緩和策や適応策を作りだし、実際に実施していく場でもあります。

また「生態村」は、歴史的・文化的な遺産を保護し推進していく役割も担っています。こちらは、実際に一般の生態系と経済系の各機能を比較したものです。緒方教授が指摘するように、実際、生態的環境保全と人間の幸福には相互関係があると、私自身この表を作りながら認識しました。そして私は、国連開発計画(UNDP)という国際機関が提起する地域コミュニティーの役割や社会関係資本(Social Capital)の機能を、ベトナムの「生態村」にも適用できると認識しております。

ここからは、ベトナムにおける「生態村」モデルの3つの特徴をお話ししたいと思いますが、時間の関係もありますので足早に進めていきたいと思います。こちらでは、生態系が脆弱な3つの「生態村」モデルをもとに発表いたします。それぞれの地域が、自然条件、人間的条件といった視点でスライドの写真を選んでみました。まず1つ目が山岳地域あるいは山肌がむき出しになったような傾斜地の「生態村」で、少数民族の地域(写真1)です。

2つ目が紅河デルタ・ハイズオン省の「生態村」で、「VAC循環型農業」の地域です。雨季に大雨ふり洪水が広がる地域でしたが、灌漑用水路や灌漑用の池を掘り、その土壌を盛り土にして果樹園を作ります。スライドの写真(写真2)の手前が養殖池、背後が果樹園です。ライチの樹木が見えると思います。右側に住居と家畜小屋があり、池のお蔭で夏でも涼しい微風が流れています。現地社会調査のさいには、このVAC農家に笑顔で迎えられました。

こちらは、ベトナムにおける海岸沿いの砂地地域にある「生態村」モデルの写真です。先ほど申し上げました自然生態系の条件、人間生態系の条件、生物資源を示しており、海岸沿いの砂地地域で人間の生態的条件が示してあります。この指標は、生態経済研究所によって2009年に確立されたものです。この写真(写真3)は、ご覧のように砂地ですので、周辺に植林して流砂を防いでいます。この土地の農民は、土壌の肥沃度が低く、野菜の生育が悪く、この年はスイカを植えたが、つるや葉の生育はおそく、スイカの果実の付き方も少ないと嘆いておりました。この畑には、ドラゴン・フルーツを植えていました。

こちらのグラフを見ていただきますと、先ほどから話している3つの地域のそれぞれの特徴の違いが見て取れるかと思います。人的生態的な条件、あるいは他の特徴によって地域ごとに特性が出ております。右側のグラフで「青」で示されているのが実際に中央部に位置する海岸地域の「生態村」、「赤」が紅河デルタの「生態村」、そして「緑」が北部山岳地域における「生態村」の特徴を示しています。

こちらのグラフでは、ベトナムの「生態村」の成功と限界についてまとめてあります。もちろん、ベトナムの「生態村」において、このように成功も収めておりますが、右側に記載してある通りその限界も見えております。実際に実験的なモデルとして構築されておりますので、広く展開していく「生態村」モデルには様々な問題があることも認識しています。

こちらのスライドが、私の本日の発表のまとめになります。気候変動があり、環境悪化がますます深刻化していっている状況の中で、やはり「生態村」の取り組みは地球温暖化問題の解消あるいは抑制につながり、さらに「グリーン経済」の実現に向けての基本的なツール(道具)となると考えております。

以上、ご清聴をありがとうございました。

(司会:松谷研究員):マインさん、ありがとうございました。ベトナムにおける「生態村」は、緒方教授が中心になって、これまで数回にわたり生態経済研究所やISPONREの研究者チームと現地調査を行っておりますが、本日のマインさんの発表によって、ベトナムにおける「生態村」の定義と地域ごとの特徴について詳細な説明をいただくことが出来ました。さらに理解が深まり、とても素晴らしいプレゼンテーションだったと思います。まだ時間がありますので、どなたかご質問、コメントはありませんか?

(大学院:森氏):私は、中央大学大学院で森林管理とガバナンスの研究をしております。大変興味ある発表をありがとうございました。特に先ほどトゥイ教授の方でも発表のあった「生態村」を生態地域の特徴を3つの基準に分けて発表していただいたことで、より理解が深まりました。しかし1つの質問があります。最後のところで気候変動の問題と「生態村」のかかわりについてのご説明がありましたが、もう少し詳しく関連性をうかがいたいと思います。

(マイン研究員):実際に「生態村」では、化石燃料を使用せず自然環境と調和したライフスタイルですし、二酸化炭素を吸収する植林や「カーボンオフセット」活動を行っていますので、気候変動の軽減につながっていると考えています。「生態村」の機能というものが、グローバルな気候変動に対応する実行可能なソリューション(解決策)の1つだと考えております。もちろん「生態村」モデルは、具体的に環境保護と経済発展を両立させることを意味しています。これまで経済開発が優先されてきましたが、将来的に「生態村」モデルをもとに、現在のライフスタイルが見直されれば、気候変動を軽減する1つの重要な役割を担えると考えております。

(緒方教授):マインさん、ベトナムでの「生態村」現地社会調査に対する協力、そして本日は論点を整理したプレゼンテーションをありがとうございました。本日の発表の中で、ベトナムの「生態村」の成功例の紹介がありました。私自身も、ベトナムの多くの「生態村」を訪問調査していますので、成功している「生態村」では、その村民はみな幸福感に満ち溢れ、微笑みを絶やさず、私たちの訪問を歓迎してくれました。しかし、先ほどその「限界」を指摘されましたが、失敗例もあると思います。私の経験では、ハノイ郊外の山岳地域バヴィが挙げられると思います。バヴィには、もともと2つの「生態村」があり、1つは漢方薬で成功しておりましたが、もう1つは都市化の波に飲み込まれ、既に「生態村」が存在しないと言われました。また沿岸砂地で形成された「生態村」も非常に貧しく、農地としての土壌条件が良くありません。ある「生態村」では何人かの村民が元の地域に戻り、家屋が空き家になっているところもありました。ただこうした貧困な砂地の「生態村」でも、村長さんはじめ人的な条件、信頼関係や絆も整っていて、「社会関係資本」がしっかりしているところでは成功していました。同じ砂地の「生態村」でも成功しているところ、失敗しているところがあると認識しております。そこで、現在「生態村」として存続が危惧されるものを、今後どのように整備していくのか、ご意見をお聞きしたいと思います。

(マイン研究員):緒方教授、コメントをありがとうございます。私にとっても非常に興味深い質問であります。同時に難しい質問でもあります。その回答として、1つ目は、特に失敗してしまった地域においては、社会経済的な条件を再度分析し、他の「生態村」との比較をしながら、村民からの情報収集に取り組むことが必要だと考えております。緒方教授は、ほとんどの「生態村」を訪問し、詳しく社会調査を行っていますので、よくご承知かと思いますが、ベトナムにおける「生態村」モデルというのは、国際的な組織によって資金が投入されております。IUCN、CCND、CIDAといったような国際支援機関から資金提供を受けて「生態村」モデルというものが開発され実施されています。また公的な機関ばかりではなく、日本のTOYOTAという民間企業も「Go Green!」というプロジェクトを推進しています。したがって、「生態村」の今後の運営をどのように展開するか、また失敗したものをどのように復興するかについては、支援をいただいた当該の機関に報告し、新しい方針の下で次の支援を得るというところに、その解決の糸口があると思います。緒方教授の報告で指摘された「社会的共通資本」の自然資本、制度資本、社会インフラの相互関係や「社会関係資本」という人間関係の絆の重要性は、国連開発計画(UNDP)の方々からも指摘されているところです。今後も、生態地域と地域コミュニティの意見を基盤に支援してゆきたいと思います。

(司会:松谷研究員):ありがとうございました。時間になりましたので、次の報告に移ります。