国際水環境理工学人材育成プログラム

「世界水環境・水災害情報研究センター」設置記念講演会を開催

2014年04月22日

 2014年4月22日、本学後楽園キャンパスにおいて理工学研究所附属「世界水環境・水災害情報研究センター」(以下「センター」)設置記念講演会が開催されました。
 
 このセンターは、世界水環境・水災害情報のアーカイブとこれを用いた土木工学分野における適用策に関する研究を推進することを目的として、2014年4月1日に理工学研究所に設置されたもので、国際水環境理工学人材育成プログラム(以下「プログラム」)との関連では、水環境・水災害専門研究者の育成活動を支援するものです。
 
 講演会には、水環境・水災害情報分野で先導的に活躍する研究者、国際水環境理工学人材育成プログラム連携企業・公的機関関係者、プログラム履修学生など約200名が参加しました。
 
 本講演会は、(1)最先端の水環境の世界を知り、世界レベルの水に関する研究開発とこれを支える政策に対する理解を促進すること、(2)本学の水に関する教育及び研究体制について広く紹介することを目的に開催しました。
 
 講演会では、冒頭、石井靖理工学部長・理工学研究科委員長(国際水環境理工学人材育成プログラム運営委員会委員長)から、参加者に対し歓迎の意が表されました。石井教授は、日本人は水と空気、安全はタダであると理解していたが、水環境の悪化は深刻さを増し、高度成長期以降、それは神話であると理解した。本学がこの度「水を巡る総合的なセンター」を設置出来たことは大変光栄なことであり、ぜひこれを発展させていきたいと挨拶しました。
 
 続いて、独立行政法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センターの竹内邦良センター長による最初の基調講演が行われました。
 
 竹内氏は、「水防災の国際目標とモニタリング」と題する講演の中で、
 世界の災害のうち、水に関連する災害は、80%を占め、そのうちの40%がアジアで発生している。全体発生件数は減少しているが、被害人口は増えており、その86%はアジアが占める。被害の大半は、中国とインドで発生しており、その原因の半分以上が洪水によるものである。他方で、死傷者数は近年減少している。これを以て科学の成果がそれをもたらしたという者もいる。しかし実際はどうなのか。小規模洪水が多発し、経済損失は増えている、実態はそうした災害がデータ化されないところに問題がある。このギャップを埋めるためには、信頼性の高いデータの収集、それに基づく対策が必要である。そのためには特に脆弱な開発途上国の参画も視野に入れたグローバルなデータ収集の体制作りや収集するデータの標準化が必要である。こうした分野における日本のリーダーシップへの期待は高く、これは我が国にとって重要な国際貢献の一つになる、と紹介しました。
 
 続くフロアーとの意見交換では、現地事情を勘案したモニタリング体制づくりや関連人材育成の重要性、国際ネットワークの形成の促進などが提案されました。
 
 次に、本学研究開発研究機構の松井三郎教授(京都大学名誉教授)による2番目の基調講演が行われました。
 
 松井教授は、「世界の水環境の現状と技術協力の課題」と題する講演で、冒頭、国連環境計画(UNEP)報告が示す世界の水課題の概観に触れた後、次のように述べました。
 水の地域的偏在に加え、人口増よる水不足、水質汚染、土壌汚染、地球温暖化に伴う降水量変化など、水課題は深刻性を増している。こうした中で、水の確保、特に農業用水の確保は今後、最重要課題となる。
 世界の水インフラ需要は22.6兆ドル規模と見込まれる。にわかに脚光を浴びた水ビジネスで「チャンス獲得」と多くの国が凌ぎを削っている。自国システム輸出を念頭にビジネスモデル展開するケースも見受けられるが、機能性の点で課題がある。世界の多くは開発途上国であり、下水はおろか、屎尿処理もされていない。人口増に伴い、水質汚染、土壌汚染は進む一方である。日本は優れた下水処理システムを持つが、これをそうした国にそのまま持ち込むことは困難で、ビジネスにならない。
 さらに水と日本の食料の関係について概観する。日本は食料輸入大国である。その生産に必要な水は、国内での使用水量を上回り、世界の水不足や水質汚染の深刻化は、我が国の食料問題に直結する。食料安全保障の観点から、食料を自国生産に切り替える動きもあるが、リン肥料の確保がままならない。リン鉱石生産国である中国やアメリカはすでにこれを戦略資源と化しているからである。
 日本を含む世界の農業を救い、水環境を保全するためには、農業循環サイクル(有機農業)の発展・活用が重要である。こうした新たなビジネスモデルは日本(例えば、佐賀市の下水処理場の汚泥堆肥化とそれを使った有機農業振興)だけでなく、世界に広がりつつある、と紹介しました。
 
 続くフロアーとの意見交換では、持続可能な農業開発における女性の視点の重要性、「水循環基本法」の制定による水問題の取扱における日本の変化などの情報が共有されました。
 
 この後、本学理工学部教授であり、プログラム取組実施責任者である山田正教授の司会の下、パネルディスカッションが行われました。
 2名の基調講演者、前国土交通省事務次官である佐藤直良氏と公益財団法人フォーリンプレスセンター理事長である赤阪清隆氏が参加し、「世界レベルの水に関する研究開発とこれを支える政策」について、意見交換しました。
 
 冒頭、山田教授は、近年深刻化する様々な水課題の現状に触れ、国内外では「防災の主流化」がキーワードになり、これに取り組む人材の必要性が増していることを紹介しました。
 
 これを受け、佐藤氏は、
「水」を専門とする大学院教育を切望していたところ、中央大学がこれに応え、「国際水環境理工学人材育成プログラム」を開設してくれた。右に感謝したい。
 仕事柄、開発途上国の政府要人と対話をすることが多い。その際、要人から、国際投資を呼び込むための自然災害に起因するカントリーリスクの低減や民生安定化のため災害低減技術の確立、雇用創出を目的とする周辺国下水道処理技術者の訓練コースの設立など、水環境に関連した日本の協力が要望される。しかし、これらニーズに対応する際、日本標準をそのまま持ち込んでもうまくは機能しない。経済振興の目覚ましいベトナムなどは、近年、円借款を使った単体施設建設援助から複合的な機能を包含するPPPへと事業形態がシフトしてきている。かかる環境変化から、「学」が先行し、その後、「産官学」が連携し、このような期待に応えていくといった必要性も高まってきている、と述べました。
 
 続く、赤阪氏は、国際連合事務局や経済協力開発機構(OECD)で、持続可能な開発を担当した立場から、
 2015年9月の国連総会で、持続可能な開発目標(SDGs)が設定されることになる。水に関する目標の盛り込みに関し、ミレニアム開発目標(MDGs)にあるクリーンな水へのアクセスできない人口の半減という目標は達成済みである。よって引き続きSDGsに水関係目標が盛り込まれる可能性は低い。他方、防災は新たな目標に入る可能性がある。水関連目標の盛り込みのためには、産学からのインプットが重要である。気候変動枠組条約については、温暖化の原因を取り除くことの重要性が指摘されている。適応策レベルではなく、法的拘束力強化の盛り込みも今後の方向性として可能性が出てきた。OECDでは、ファイナンスの側面から水問題を捉える研究が進行中であること等を紹介しました。
 赤阪氏は、最後に、日本は水関連分野のトップドナーであり、その援助金額は、全体の約3割を占める点に触れ、引き続き、日本が水分野でリーダーシップを発揮すること、関係者には水と相互依存関係にある、エネルギー、環境を総合的に捉えた対応を期待したいとまとめました。
 
 続いて、山田教授が、パネリストに「次世代人材の育成」に対し考えることを求めました。
 
 竹内氏は、日本の安全保障は、日本が世界に尊敬される国であって確保されるものである。「人づくり」通じた国際貢献は、日本が世界で尊敬される地位を得るにふさわしい方法である。今の時代は、よい師のところに学生は集まってくる。よって、(分野を問わずこうした)人づくりへのコミットメントがあることを明らかにすることが重要である。学生は、そうした場所で、ネットワークを広げ、自分の夢を実現していく。日本語による教育も素晴らしいが、こうした人材を早期に増やすには、英語による教育も重要である、と述べました。
 
 赤阪氏は、日本は、国際連合に対し、財政面では約11%の貢献(分担)をしているが、職員割合は1%と少ない。日本は、人的面での更なる貢献が期待されている。今しがた、司会者より、国連職員として活躍するには、他国の人材と渉りあえるよう、自己主張が強いことが重要かとのご質問を受けたが、国連職員に求められるのは、「使命感」「高い技術力」、とりわけ重要なのは「コミュニケーション力」である、と述べました。
 
 松井教授は、まずは、「自分が日本人であること」、「日本がどのような国であるか」を理解し、そのうえで、国を異にする人(学生)が、その人(学生)の国をどのように理解し、誇りに思っているのかを適切に理解する必要がある。国際的な仕事は、そうした理解の基礎に立ち、「使命感」を以て当たることが重要である、と述べました。
 
 パネルディスカッション終了後、水に関する本学の教育及び研究体制について、本学担当教授が紹介しました。
 
 最初に、山田教授が、本年4月1日に、理工学研究所附属センターとして「世界水環境・水災害情報研究センター」を設置したこと、また本学研究開発機構に「次世代環境産業形成研究ユニット」を設置し、機構教授として松下潤氏(前芝浦工業大学システム理工学部環境システム科教授)を招聘したことを報告しました。
 
 松下教授は、自己紹介を兼ね、自身がライフワークとして取り組む「循環型社会を形成」について紹介しました。松下教授は、
 資源輸入国の日本が発展を続けるためには、循環型社会を形成することが重要である。これまで、これに必要な要素技術の導入やソフトな仕組みづくりは行われてきたが、On-site型で、個別分野単位での対応が多かった。長期的な視点と構想力があれば「環境と経済の好循環」の実現は可能である。自身は、例えば亜臨界水技術反応を使ったごみ処理とその副産物を活用した農業生産など画期的な技術と社会を結び付けた研究活動を展開してきた。今後は、中央大学の機構教授として、「丁稚の前垂れかけ」の精神(奉仕の精神)で、こうした研究と人材教育に尽力したい、と述べました。
 
 続いて、「国際水環境理工学人材育成プログラム」の総括コーディネーターである大平一典理工学部特任教授と現在プログラムで学ぶ留学生が登壇し、プログラムについて紹介しました。
 
 最後に、本学副学長(国際担当)である加藤俊一理工学部教授は、
 水環境分野は日本が世界に貢献できる分野である。プログラムを契機とした本学の水環境への取組は、新たな研究組織の設置など、点から面へと広がり喜ばしい限りである。持続可能な社会の形成に資するため、本学は、引き続きイニシアチブを発揮していきたい、と述べ、本講演会の結びとしました。
 
文責:
 国際水環境理工学人材育成プログラム事務局