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2020年04月17日

研究科長から令和2年4月入学生へのお祝いメッセージ

 みなさん、中央大学ビジネススクールへのご入学おめでとうございます。入学に際して、みなさんを励まし、背中を押し、支えてくださっているご家族・ご友人・関係者のみなさまにも、心からのお慶びを申し上げます。
 中央大学ビジネススクールは、2008年に設立され、この4月で13年目を迎えます。この間で入学式を開催できなかったのは2回あります。東日本大震災の起こった2011年と今年です。世界では新型コロナウイルスが猛威を振るっており、この未知のウイルスのために、人と人との接触や行動が制限され、社会や経済に大きな混乱と不安をもたらしています。みなさんも、職場やご家庭で、今までにないご苦労をされているとお察しします。
 私は、東日本大震災の後に、岩手県の陸前高田市と大船渡市に数年間にわたって何度も通いました。震災で被害にあわれた漁業者のみなさんの復興をお手伝いしたいという思いからです。今日は、その経験から学んだことを2つお話ししたいと思います。
 一つは、「津波てんでんこ」という言葉です。その意味は、「津波が起こったら、それぞれが自分の判断で、てんでんばらばらに逃げろ」という意味で、津波から逃れるための東北地方に伝わる生きるための知恵です。この言葉には、いくつかのさらに深い意味が含まれています。まず、一番大事なのは「自分の命は自分で守る」こと。それと同時に、それぞれが自分の命を守るためにいち早く逃げることで逃げ遅れを回避すること。さらに、他の人が逃げる様子を見た人がそれに従って行動するように避難を促すこと。「津波てんでんこ」はそういう行動指針でもあります。
 その行動指針をみんなが実行すれば、多くの命を守ることにもつながります。そして離れ離れになっても「生きてさえいれば必ずまた会える」という、何度も津波に襲われてきた地方だからこそいえる暮らしの知恵なのだと思います。そこには、一人ひとりが自分で判断して逃げ延びるという自立・自助の精神が根底にあります。
 もう一つは、どんな大きな災害に襲われたとしても人は簡単には変われない。しかし、それをチャンスに変えるような人もいるということです。私が何度も訪問した三陸の漁師さんたちには、震災の被害を乗り越える過程で、「今までできなかった新しいことを試してみよう」と一念発起して取り組んだ方がいました。一方で、震災からの復興は、震災前の生活を取り戻すことだと考えて、「新しいことに取り組むなどとてもできない」と考える方も多数いました。どちらがよいか悪いかという問題ではないし、それを私たちがどうこう言うのはおこがましいことですが、私が出会った数人の漁業関係者の方々で、震災をきっかけに新しい漁業の方法にチャレンジしたり、新しく販路を開拓したりして、震災前とは違う世界を作ろうとした方がいるのです。たとえば、今までは捨てられていたムール貝(現地ではカラス貝と呼ばれホタテ貝につくやっかいな貝と思われていました)の養殖をはじめ、首都圏のレストランと直接取引をはじめた方は、今でも販路を拡大しつつ、見向きもされなかった貝を価値の高い商品にしたのです。
 この東日本大震災のときの二つのことから今の私たちが学べるのは、周りがどうであれ自分の意志で決断していち早く行動につなげる「自立自助の精神」と、絶望的な状況からでもそれを梃にして「ピンチをチャンスに変える」ことはできるということです。
 今は緊急事態宣言の下でわれわれの行動は制限され、人と人が直接出会うことから生まれる様々な価値を創造することが難しくなっていますが、困ったと嘆くだけで手をこまねいているいるよりも、「自立自助の精神」で、今までの常識を打ち破って「ピンチをチャンスに変える」、つまり、新しいことにチャレンジするのが、われわれが育成を目指すチェンジリーダーです。
 ビジネスの世界では、ピンチをチャンスに変えている企業があります。今まで宅配をやっていなかった飲食業の方がデリバリーに力をいれるのも、生産ラインをいち早く切り替えてマスクの製造を行うのも、ピンチをチャンスに変えるためのチャレンジでしょう。それ以外にも、今まで当たり前にできていたことができなくなったからこそ、生まれる知恵や工夫があります。
 全世界の教育機関で試みられている遠隔授業は、教育機関としてのチャレンジです。われわれCBSも、数年前から試行的に遠隔授業を導入してきましたが、今回は不可避的に全講義を遠隔授業に移行せざるを得ませんでした。CBSがもっとも大切にしている、人と人の直接的な出会いから生まれる新しい価値創造の場が限定されてしまったのです。
 CBSのほとんどの授業では、グループワークやディスカッションが頻繁に行われるため、濃厚接触なしには成立しません。しかし、新型コロナウイルスが蔓延しているからといって、みなさんの学びたいという「心の火」に水をさすことは、CBSとしては絶対にしてはいけないことです。初めての試みが多数あり、未知の世界でもありますが、これを機会に遠隔授業に真摯に向き合うことで、新たな気づきが生まれるかもしれません。これがわれわれの新たなチャレンジです。
 みなさんも、入学していきなりの遠隔授業となり、対応が難しい面が出てくるかもしれません。また、今回の新型コロナウイルスの蔓延で、お仕事や家庭に様々な変化があり、学業との両立がより難しくなっているかもしれません。しかし、このような状態でも多くの学びや気づきが得られる場にするために、ぜひとも協力をお願いしたいのです。単なる教育サービスの受け手としてではなく、一緒によい学びの場をつくっていく「仲間」としてみなさんをお迎えしたいと思います。
 さあ、今日から新しい学びの始まりです。CBSへようこそ!  
 

  令和2年4月11日
  中央大学大学院戦略経営研究科 研究科長 露木恵美子