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受賞論文【優秀賞】エコキャップ「運動」をやめた我がクラス

丸山 翼

「お母さん、明日キャップ持ってくからジュース1本買って!」すべての始まりは小学4年になる弟のこんな言葉からだった。

「リサイクル」今初めてこの言葉を聞いたという人はおそらくいないだろう。私たちのクラスでは、そんなリサイクル活動の中の1つ「エコキャップ運動」を昨年の11月に始めた。エコキャップ運動とは、ゴミになるはずのペットボトルのキャップを集めてリサイクルすることで、キャップを燃やすことで発生する二酸化炭素を削減し、さらに集めたキャップを換金してポリオワクチンにし、世界の子どもたちを救おうという活動である。私たちのクラスは国際科ということで、「自分たちの活動で世界の子どもたちを救うことができる」と、この運動に参加することを決めた。この活動では、ペットボトルのキャップ800個でワクチン1本分になる。回収されたキャップは「世界の子どもにワクチンを日本委員会」に集められ、そこから、東南アジアを中心とした世界の子供たちにワクチンが届くというしくみになっている。

徐々にキャップがたまっていき、ついに800個集まったぞと喜んでいるとき、クラスメイトの一人からこんな疑問が出た。「エコキャップって本当に環境にいいの?」彼女の話によると、電車の中吊り広告で「エコキャップ運動は偽善だ」という週刊誌の記事を見たという。他にも、2,3人が同じ記事を見ていた。家に帰ってさっそく、インターネットでエコキャップ運動について検索してみた。するとこんな意見が出てきた。

  • 本当に最後にはワクチンになっているのかわからない。
  • キャップを燃やさないことでCO2を削減しても、回収したキャップの輸送でCO2が排出されるため、意味がない。たしかにそうだ。弟に聞くと、学校では月に1回、校内で最もキャップを集めたクラス、1位から3位を昼の放送で発表しているのだという。そのランキングに載るためにクラス皆でより多くのキャップを集めようと頑張っているらしい。

ゴミに関する問題の解決策として4Rがある。①Refuse(ごみになるものを拒否する)②Reduce(減らす)③Reuse(再び使う)④Recycle(再資源化)。これらは①から順に有効であると言われている。しかし、現実には弟の話のように「キャップを集めるためにペットボトルを買う」という矛盾が生まれてしまっているのだ。エコ活動において最も重要なのは、ゴミを出さないことや減らすことであるのだが、リサイクルをすることで、あたかも環境に優しいことをしているような錯覚に多くの人々が陥っているのだ。弟の言葉とクラスメイトの疑問が胸に引っかかった私は、クラスの仲間と共に、静岡県内でエコキャップの回収をしている2つの企業をたずね、自分たちの活動について再検討することにした。

1ヶ所目は県内の某放送局。そこでは、エコキャップ運動の他にも、ソーラーパネルの設置や「緑のカーテン」運動が行われていた。私が疑問に思ったのは放送局であるのに、なぜいろいろなエコ活動を行っているのかということだった。それを担当の方に聞くと、現在、企業には会社の利益を地域に還元することが求められているため、自分たちの利益だけを追求していては会社として成り立たないということだった。この放送局は12年前に建てられた。11年前にはソーラーパネルが設置され、その頃から社内ではクールビズが始まっていたそうだ。11年前、つまり1998年。当時は今のようにエコブームは到来していなかっただろう。昔からエコに力を入れていたこの企業にとって、今エコキャップ運動を進めているのは自然な流れなのかもしれない。ことの始まりは、パーソナリティ1人の個人的な活動だった。個人的にエコキャップ運動の情報を入手し、ペットボトルのキャップを集めているということを2007年9月にラジオ番組内でリスナーに伝えた。すると問い合わせが多数あり、同年11月に回収イベントを実施し、11万6千個が集まった。その後、自発的にキャップを集め続けていたリスナーからの要望もあり2008年6月、会社としての回収活動をスタートさせたそうだ。

この放送局には、エコキャップ運動をすることで直接的な利益は出ない。しかし、今、企業は自分たちの仕事だけでは生き残っていけない時代なのだ。たとえ利益は出なくとも、このようなリサイクル活動を行うことで企業に何らかのプラスイメージを持ってもらえれば、ということらしい。

現在、静岡県内ではエコキャップ運動がとても盛んである。それは、この企業が放送局であり、電波を通じて情報を広く発信できたということも一つの要因になっているだろう。(2009年8月22日現在、この放送局に集められたキャップは19,478,680個、ワクチンに換算すると24,348人分)実際、他県の系列放送局や、都心にある大手百貨店からも運動についての問い合わせが跡を絶たないという。また、多くの小中学校からもエコキャップを届けたいという申し出の電話が毎日のようにかかってくるらしい。

しかし、どんどん集まるキャップに対してリサイクルの効率は下がっている。エコキャップ運動は、ポリプロピレンで出来たペットボトルのキャップを集めて資源化しているが、集まってくるキャップの中にはポリプロピレン素材ではないものが混ざっていたり、シールが貼ってあったりするものもある。これだと商品価値が下がってしまい、ワクチンを買うための寄付金額に影響が出てくる。すでに需要と供給のバランスが崩れてきているのだ。ラジオ局の担当者に「今はエコキャップ運動がブームのようになっているが、もしブームが去り、キャップが集まらなくなったらどうするのか?」という質問をすると、「キャップを集めようと声をかけ、もしキャップが1つも集まらず、ワクチンに換えられなかったとしてもそれはそれでいいと思う。キャップが集まらなくなったということはキャップが自分の周りにない(=ゴミが減った)ということだから。」と答えてくれた。つまり、キャップを集めることが目的なわけではない。4Rの中での優先順位を間違えては意味がないのだ。

2ヶ所目に訪れたのは県内の某工場。某放送局に集められたキャップはこの工場に届く。そして、プラスチックの再生ペレットとしてリサイクルされる。再生ペレットは樹脂原料として出荷され、新たに製品となる。焼津市にあるこの工場では、西は浜松市、東は三島市に隣接する長泉町までキャップの回収に行っている。CO2の排出について考慮したこの企業は、キャップを本来の業務内容の運送のついでに回収している。こうすることで、CO2を排出してしまうにしても企業の事業内での排出量内に抑えられるという。

この工場はまさに「リサイクル」を仕事としている。製品の製造過程で排出されるPP(ポリプロピレン)製のシート、ダンボール等の梱包に利用されるPPバンド、積んだダンボール等の荷崩れ防止に使われるPE(ポリエチレン)フィルム。ここからペレットやペレタイザーと呼ばれるプラスチックの粒を製造している。日々リサイクルに携わっている作業員の方々は、ゴミを分別していけば最終的には製品に戻るということを身近で体感している。この企業がエコキャップ運動に参加したのは、「地域の人々が、この運動を通して環境について考えることの始まりになれば……。」という理由からだそうだ。ちなみに、見学させていただいた工場の名前は「アースプロテクションセンター」。この名前からも、前述したように企業が自分たちのことだけでなく地域や地球環境についても考えなくてはいけない時代の様相がうかがえる。

「エコキャップ運動」という名前がついたこの活動だが、キャップを集めることが真の目的ではない。冒頭で書いた弟の小学校のように、「キャップを集めること」に焦点を当てた活動になってしまっているのは、エコキャップ運動の中に矛盾が生まれてしまっているからである。「ゴミを減らす」という観点からだと、キャップは少なくなったほうが良い。しかし、「キャップを集めるとワクチンになる」という観点からだとキャップはあればあるだけ良い。この矛盾点によって、エコキャップ運動は混乱を生んでしまっているのである。

アメリカではグリーンニューディール政策の観点からソーラーパネルの設置を推進している地域があり、家にソーラーパネルを取り付ける際、国と州から補助がでて本来の半分の費用で設置できる。このようにアメリカやドイツでは行政が環境に対して具体的な政策をたて、しっかりとした成果を出しているため、国民のエコに対する意識も高まっている。しかし、日本の行政が環境に対する具体案を示し始めたのはつい最近の話である。私たち国民にはまだ、環境のことを考える意識が足りず、意識を持っていても誤解したままエコ活動に取り組んでいる場合が多い。まずは、これから始まるであろう日本の環境対策の成功を願いたい。そして、自分も含め国民が環境に対する高い意識を持ち、誤解は正しい知識に変えていかなければいけないと思う。

今回見学させていただいたどちらの企業でも聞いた「キャップを集めることが目的ではない」という言葉。この言葉に共感し、今後私たちのクラスでは、エコキャップ『運動』をやめることにした。私たちの住む静岡県富士市では今年の4月から市指定のゴミ袋が導入され、それに伴ってゴミの分別方法が変わった。そんなこともあり、クラスではキャップを集めることを単なる「分別」の1つとして進めていくことにした。あくまでも自然に、キャップを集めることを意識したりはしないこと。最終目的は「Refuse」である。結果として長い時間をかけてキャップが一定数たまってしまったのなら、焼却処分ではなく「Recycle」でワクチンに換え、アジアの国々の子供たちのために役立ててもらおう。エコが活動ではなく、日常生活の一部になることを目指していきたい。