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受賞論文【佳作】地球環境の未来を目指して

神奈川県立中央農業高等学校 養豚部(2年 有馬 はるか)

現在日本では、年間約1,900万トンもの食品廃棄物が焼却により処理され、私たちが住む地元神奈川県でも食品廃棄物が大量に廃棄されている。食品廃棄物がここまで増えた理由として、食べ物が簡単に手に入る時代となり、食に対する意識が薄くなってしまったことなどが挙げられる。例えばコンビニエンス・ストアでもその多くが24 時間営業していて、消費者に新鮮な食材を届けるために商品を短期間で入れ替え、賞味期限が切れて余った食品は廃棄されてしまうという現状がある。大量の食品廃棄は環境に大きな負荷が掛かるが、この現状を改善していくためには、食に対するひとりひとりの意識の向上や、食品廃棄物の「再利用化」に向けた取り組みをしていくことが必要である一方で、国内消費量に占める輸入豚肉の割合は45.6% と、食肉の需要増大に伴い、海外からの安価な輸入畜産物が年々増加している。しかし、日本の飼料自給率は28%と家畜飼料はほとんどを輸入に頼っており、近年はバイオ燃料の増加や世界的な気候変動により飼料価格が上昇しているため、日本の畜産はさらに厳しい状況にある。これらは日本の養豚農家戸数の減少につながっており、飼料自給率の向上、飼料コストの低減が必要とされている。このような現状を畜産科目の授業や、専門研究部での活動を通して学んだ私たちは、食品廃棄物を飼料として再利用することで、焼却処理による環境負荷の軽減だけでなく、飼料自給率の向上や飼料の低コスト化にもつながるのではないかと考え研究を行ってきた。平成24 年度から、(株) 日本フードエコロジセンターが食品工場などで廃棄された野菜やパン、ヨーグルトなどの食品残渣を粉砕し乳酸発酵させ製造したエコフィードであるリキッド発酵飼料を導入し、肥育豚に給与した。リキッド発酵飼料を給与したところ、豚の嗜好性が高く増体も良くなることが分かり、さらに飼料コストも大幅に削減することができた。しかしリキッド発酵飼料の臭いが豚肉に移行してしまうことや、肉の締まりが悪くなり脂肪の質が低下するなど、肉質面での課題があることがわかった。

そこで私たちは、地元のビール工場から大量に廃棄されているビール粕に注目した。ビール粕は、ビール製造の過程で麦芽を粉砕、ろ過した際の残渣で、その地元ビール工場でも一回の仕込みで浴槽約4杯分のビール粕が排出されている。また、不飽和脂肪酸であるオレイン酸の割合が高く、リノール酸の割合が低いことが分かっており、豚に給与する事で豚肉の食味が向上し、また脂肪を白く固くすることができる麦類が原料となっているため肉の締まりの向上、脂肪の質の改善が期待できるのではないかと考えた。さらに発酵しているため豚の嗜好性も良いのではないかと考えた。そして私たちは、平成2 7 年1 2 月に厚木市にある、地ビール会社(株)サンクトガーデンを訪問し、ビール粕についてお話をきき、約2 t のビール粕を頂くことができた。さっそく飼料成分分析を行った。結果、ろ過の際の糖やデンプンなどの損失により、N F E が7.1% と低下していることが分かり、また水分含有量は83.5% と非常に多く成分の偏りや保存性での欠点が見つかった。そこでこれらの欠点を補うための食品廃棄物を探すことにした。そこで見つけたのが、地域のパン工場から排出されるパンくず。パンくずはビール粕同様、白く固い脂肪をつける麦類が主原料であり、N F E が豊富に含まれているため脂肪に甘みが出るなどの効果があり、ビール粕の成分の偏りの改善が期待できる。また、水分量が多いビール粕とは逆にパンくずは乾燥しているため保存性も高い。このような特徴からパンくずはビール粕の欠点を補うことができると考え、パンくずとビール粕を1:1で混合し、酵母発酵させることにした。ビール粕に残留する酵母菌により酵母発酵させることで、不飽和脂肪酸が増加しさらに甘く美味しい脂肪を形成することができ、酵母による分解でリキッド発酵飼料による悪臭の抑制や、過剰な脂肪の沈着防止も期待できる。密封し3週間酵母発酵させた。Y M 培地を用いた培養試験を行ったところ酵母のコロニーを確認することができ、酵母発酵していることが分かった。さらに4ヶ月経過後も腐敗することがなく、保存性に優れていることが分かった。飼料成分分析の結果、可溶化無窒素物も31.2 %と増加、水分含有量も56.7 % まで減少させることができた。さらに、粗タンパク質含有量は6.8% と低く、成分的にもタンパク質による代謝をほどよく抑え良質な脂肪を沈着させる、肥育後期用飼料に適していることが分かった。私たちはこれらの飼料を「中農B . B 発酵飼料」と命名し、給与試験を開始することにした。

中央農業高等学校がある海老名市周辺ではかつて高座豚として中ヨークシャ一種の飼育が盛んであった。しかし大量生産が可能な外国種が入り、一般化したことにより飼育頭数が激減し、「幻の豚」 と呼ばれるまでになった。こうして一度は絶滅の危機に陥った高座豚だが、1 9 8 0 年代半ばから地元の養豚農家による中ヨークシャ一種の改良が重ねられ、新たに地元良食味品種として復活した。私たちは筋繊維がきめ細かく脂に旨みがあり、食品残渣の利用性も高いという特徴があるこの中ヨークシャ一種に、繁殖性に優れたランドレース種、発育性に優れた大ヨークシャ一種、産肉性や強健性に優れたデュロック種を交配させ、生産性と食味を兼ね備えた中農オリジナル交雑種、L W Y D を作出。このL W Y D 育成豚に30kg までは市販の人工乳、30~80kg はリキッド発酵飼料、80kg~出荷までは市販の肥育後期用飼料と「中農B . B 発酵飼料」を33% 混合し給与した。さらに対照区としてビール粕、パンくずの利用性を確かめるため80kg~出荷までを変え、酵母発酵パン飼料のみを給与した。肥育試験を行った結果、給与した際の食いつきがよく、食べ残しもみられないなどの高い嗜好性を確認することができた。そして、約6ヶ月で出荷体重に達し出荷した。180日齢体重、飼料要求率とも、家畜改良増殖目標を達成することができ、1 頭あたりの飼料コストも通常より41.9%、生産コストも31.9% 削減することができた。肉質実験を行ったところ、加熱損失は19.81% で市販の豚肉よりも多汁性が高く、また脂肪融点は上昇融点が33.5℃、透明融点は41.3℃でその差が大きいことから脂肪の旨味や甘味が程よく保たれ、ジューシーな豚肉であることがわかった。食味アンケートでも対照区の豚肉より、食感、香り、脂の甘みなどの項自での高い評価や、「とても美味しい」などの感想を頂くことができた。こうして、新たな未利用資源を活用した飼料から発育性、経済性、肉質に優れた環境に優しい中農オリジナルブランド豚肉の開発に成功した。

私たちはこれらの豚肉を「ちゅのとんB .Bよ~く」と命名し、学校生産物販売会などをとおし、地域未利用資源を使用した資源循環型飼料について広く地域の方々にP Rした。5月31日に行った生産物販売会では20分余りで約600パックを販売することができた。さらに、利恵産業と共同開発したちゅのとんのギフトハンバーグは、新たに「中農B. B 発酵飼料」 で育てた豚肉を原料に高島屋で全国販売することになった。そして(株)サイトウミートと連携し、これらの豚肉から生まれた「ちゅのとんB.B 粗挽きソーセージ」を使ったオリジナル商品の開発を進めている。パンくずをいただく地元パン工場と連携した「ちゅのとん B.Bサンド」、ビール粕をいただいている(株)サンクトガーレンの地元ビール工場とコラボしたギフト商品の開発も進めている。これらによって、地域企業と連携した新たなリサイクルループを生み出すことができた。そして、これらの取り組みは神奈川県専門高校研究・実践活動発表会、全国学芸サイエンスコンクールなどをとおし、地域や全国の方々に発信し、地域未利用資源を活用した資源循環型飼料の利用性、経済性などを啓発した。

今回の研究の結果、飼料コストの大幅な削減と肉質の向上による枝肉販売額上昇により、学校農場の粗利益は100頭当たり約170万円で、全国平均を大きく上回り未利用資源を活用した畜産物の新たな可能性を導くことができた。今回「中農B.B発酵飼料」は肥育後期用飼料に33% 混合したが、今後は配合比率向上を目指し研究を続けてしいきたい。具体的には、肥育後期用飼料と混合することで粗タンパク質などの栄養価を飼養標準に近づけ成分の偏りを補うだけでなく、今後は肥育後期用飼料に代わる地域未利用資源を見つけ、環境に優しい新たな飼料の開発をしたいと考えている。そして私たちは今後も「中農B. B発酵飼料」のさらなる品質の向上・給与体系の改善、「ちゅのとんB.Bよ~く」の新たな加工品の開発・普及・P R活動を進めていきたい。そして、さらなる地域未利用資源を活用し新たな資源循環型飼料の開発・普及に取り組んでいきたいと考えている。

大量の食品廃棄物が焼却により処理され大気汚染の原因となっている中、世界規模での資源の枯渇が問題となり、食のリサイクルや循環型社会の構築が課題となっている。そんな今、私たちができることは、食品廃棄物などの地域未利用資源を有効活用した資源循環型飼料の普及をさらに進め、環境を守る畜産の実現に向けて地元、全国に私たちの取り組みを広め伝えていき日本国内の食品廃棄物、地域未利用資源の削減に取り組み、環境保全につなげていくことだと考えている。それが日本の畜産、ひいては地球環境の未来につながると思う。

【参考文献】

  1. 泉谷眞実 エコフィードの活用促進-食品循環資源飼料化のリサイクル・チャネル
  2. 食品廃棄物削減と食品リサイクルの現状と課題-専修大学
    http://www.senshu-u.ac.jp/~ off1009/ PDF/nenpo48-4.pdf
  3. 食品廃棄物の処理と利用
    http://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/chart/fkagaku17.pdf