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受賞論文【佳作】シラコバトに未来はあるか

お茶の水女子大学附属高等学校 1年 齊藤 玲奈

私の生まれ育った越谷市ではシラコバトの減少が問題となっている。シラコバトとは、全長30 cm 前後で乳白色だが首には一本の黒い線が入っている鳩である。

シラコバトは1956年に「越ヶ谷のシラコバト」として国の天然記念物に指定された。また1965年に埼玉県で、「県民の鳥」に、1988年には越谷市で、「市の鳥」に指定され、多くの市民に親しまれてきた。

しかし、近年、越谷市ふるさといきもの調査による指標生物発見報告状況では、主な生息地は非公表とされているが、メッシュ数、発見報告総数ともに減少していることが明らかとなった。(表1)

また、環境省レッドリスト2015では、絶滅危惧IB類(EN)に指定され、IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いとみなされている。さらに、埼玉県のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定され、大部分の個体群で個体数が大幅に減少し、大部分の生息地で生息条件が明らかに悪化しつつあると指摘している。(註1)

しかし、減少の原因についてはっきりとは明らかにされていない。

そこで、私はシラコバ卜の減少の原因を明らかにし、私たちに今できることを検討していきたい。

第一に、農家の宅地化が考えられる。シラコバトは周辺の農地や草地で採食することから、田園環境の指標的存在となる動物とされる。越谷市の統計によると、2008年までの50 年間で農地割合が72 %から27 %になり、約3分の1 程度に減少した。一方で、宅地割合は2008年までの50 年間で8 %から36 %になり、約4.6倍に増加している。また、総人口もこの50年間増加を続けている。

かつての越谷は、水田地帯で、多数の水路が通り、畑や果樹園、屋敷林を巡らせた人家が点々と存在している農村地帯であった。しかし、人口の増加によって農家の宅地化が進み、シラコバトの採食場が不足していった。

また、宅地化による水飲み場の減少も考えられる。越谷市は、一級河川や多くの河川用水が流れ、古くから「水郷こしがや」と呼ばれてきた。しかし、維持補修のために県が管理する一級河川約1400kmのうち、約150 kmの河川敷や堤防などに生えている雑草を刈り払い、転落防止用フェンスを設置している。また、治水対策のため、ほとんどの河川で堤防をコンクリートで高くする護岸化が進められている。ハトは、餌を食べるとすぐ水を欲しがる性質がある。シラコバトが生息しにくい環境が作られてきたのである。

第二に、えさ場として畜舎の減少が挙げられる。『天然記念物緊急調査報告』によると、シラコバトの食性について、「植物質が主で、いろいろな雑草の種子、その他にイネ、大豆、小豆、ムギ、モロコシ、アサ等の植物を食べている」とあった。2)越谷市で養鶏場を営む堀井さんにインタビューしたところ、養鶏場の飼料の原料は主に6割がトウモロコシ、3割がマイロ、ほかに大豆や米の粕であった。さらに、シラコバトが目撃されていた時代では、米や魚の粕が使われていたとわかった。越谷市の養鶏業は1968年に飼養戸数500戸、飼養羽数100万羽に達していたが、都市化の進展に伴って急速に減少し、2013年3月1日には、養鶏場が市内に1戸のみとなっている(註3)。埼玉県全体でみても、家畜飼養戸数が1977年は20630戸であったのに対し、2017年には577戸になり、40 年間で約17800戸が減少している。(註2)

また、2004年に烏インフルエンザが流行したことで畜舎の動物が大きな被害を受けた。そのため、畜舎でのウイルス対策が進むとともに、野鳥が入りにくい構造が普及していった。

越谷市で養鶏場を営む堀井さんへのインタビューで、越谷市が越ヶ谷町であった1958年までの頃、養鶏業は盛んに行われ、養鶏場でシラコバトは多く目撃されていたが、価格競争が進み、養鶏場はほとんどなくなってしまったということ、現在、それらの土地のほとんどは住宅や倉庫になっていることが分かった。

第三に、農家の宅地化による屋敷林や生け垣の減少がある。シラコバトは広い耕作地をえさ場とし、その中に点在する屋敷林や人家の生け垣で営巣する習性がある。越谷では、屋敷林が風よけのための宅地林として使われてきた。『越谷市 緑の基本計画』によると、越谷市内の屋敷林の箇所数は、1989年は386 箇所だが、2014年には156箇所になり、25年間で約4割減少している。また、面積でみると、1989年に12438haだが、2014年には3806haになり、約3割に減少している。(註4)シラコバ卜が生活する場が約3割に減少したといえる。

第四にシラコバトの乱獲が挙げられる。明治時代以降、多くの野生鳥獣の乱獲が行われ、シラコバトを含めた各種の野鳥たちが急速に減少したといわれ、三島(1957)は「大正9年頃の東京の鳥市場でシラコバトの死体が山積みになるほど入荷されていた」5)と指摘する。1887年に宮内省は越谷に鴨場を設け、その周辺を禁猟区に指定したが、この地域外では相変わらず狩猟が続けられたため、次第に数が減少し、分布が狭められていった。また、戦中から戦後の深刻な食糧不足の時代には、食料として密猟の対象にされて、さらに減少していったのではないかと考えられる。

現在、市は、崎玉県に協力し、「埼玉県シラコバト保護計画」を進め、継続的な生息状況調査を行っている。今後、営巣地の保護、採餌に適した環境の維持、野生復帰させることを検討している。(註6)

越谷市にあるキャンベルタウン野鳥の森では、2008年よりシラコバトの保護増殖を行い、2014年10 月に市内で初めて飼育増殖に成功した。2015年にはさらに4羽増え、飼育数は14羽となっている。また、同年にシラコバト保護増殖施設を整備した。

しかし、市の環境政策課へ取材を行ったところ、越谷市が主体となった対策は実施されておらず、現持点ではシラコバトの保護団体も存在しない。

私は、市民に現状を知らせ、関心をもたせることが必要であると思う。現在、シラコバトは「コバトン」として越谷市のマスコットキャラクターとなって親しまれている。だが、その背景には絶滅の危機にさらされているという現状を知っている人は多くはいない。さらに、私がそうであったように、シラコバトという名前は知っているが、特徴等を知らな

い人も多い。市役所の方によると、シラコバトの発見報告を募集しているが、多くの市民がキジバトをシラコバトと間違えて連絡してくることがほとんどだという。2012年の時点では、シラコバトは20メッシュから27件の発見報告に対し、キジバトは456メッシュから1874件(註7)であり、市民が間違えてしまうのは無理もないとわかる。つまり、シラコバトについての知識、関心を持つ人が広がることで、シラコバトの保全に対する人々の意識が向上することが期待できる。それと同時に、シラコバトの生息環境を守るために簡単にできる心がけを提案していく。例えば、家の周りに樹木を植えるときは、もともとその地域に生えているものを使う・むやみに野草をとったり傷つけたりしない・河原などでは決められた場所以外には車を乗り入れない、などである。このように、当たり前のことを意識することで、シラコバトが生息するのに厳しい環境が緩和されるのではないかと考える。特に、子供のシラコバトについての環境教育を整えることが必要であると考える。

また、長野県松本市の「環境教育の実施に伴う効果測定事業」によれば、環境教育、特に小さいころからの教育に大きな効果があるという。(註9)そこで、児童館でシラコバトについてのワークショップを開催するのはどうだろうか?越谷市教育委員会が発行している『わたしたちの越谷』にシラコバトの写真と共に特徴や歴史を掲載することも考えられる。小学生がキャンベルタウン野鳥の森等への校外学習を行うことを促すなどすることで、シラコバトへの関心を持たせることが保護への大きな一歩となると考えられる。

市民の関心を引き、シラコバトの保全に対する人々の意識を向上させることが重要である。

今回、私はシラコバトを取り上げたが、現在、世界では動植物合わせて約2万種が、絶減の危機に瀕している。その中には、いまだその危機が明らかになっていない生物もたくさんいるといわれる。私たち人類は、このような環境の中で生きていくことができるのであろうか。人間も動物の仲間である。一つ一つの種の絶滅が、近い将来、ドミノ倒しのように次々に人類を含めた、地球上の生物の絶滅につながっていく可能性がある。要因は人間活動にあるのだ。私たち一人一人の心がけが世界を大きく変えられるのは確かである。シラコバトというローカルな視点から、グローバルな視点に広げ、より大きな問題に応用していくことが私の今後の課題である。

地理環境論文 参考文献

註1)『埼玉県レッドデータブック2008』 平成20 年3 月改定

註2)『天然記念物緊急調査報告 越ヶ谷のシラコバト』1982年 埼玉県教育委員会

註3) 『越谷市の農業』 2013年3月 越谷市環境経済部

註4) 『越谷市 縁の基本計画(改訂版)』 2016年3月 越谷市都市整備部公園緑地課

註5)『シラコバトの観察、鳥獣集法』1957年 三島冬嗣

註6)埼玉県 シラコバト保護計画(閲覧日8月12日)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0508/sub-tayouseihozen/documents/614427.pdf#search=%27%E8%B6%8A%E8%B0%B7%E5%B8%82+%E3%81%97%E3%82%89%E3%81%93%E3%81%B0%E3%81%A8+%E6%B8%9B%E5%B0%91%27

註7) 『第4次ふるさといきもの調査 平成24年度』2014年1月 越谷市・越谷市環境部環境政策課

註8) 松本市 環境教育の実施に伴う効果測定事業(閲覧日8月12日)
https://www.env.go.jp/recycle/food/kanren_siryo/H27_matsumoto.pdf#search=%27%E7%92%B0%E5%A2%83+%E6%95%99%E8%82%B2+%E5%8A%B9%E6%9E%9C%27

註9)『県民の鳥 シラコバト』1974年 埼玉県環境部自然保護課

インタビュー
越谷市環境政策課職員 長谷部氏(2017年8月7日)
養鶏場 堀井徳一氏(2017年8月8日)

メールでの取材
越谷市環境経済部農業振興課
埼玉県議会事務局政策調査課
埼玉県畜産安全課
埼玉県環境部みどり自然課 伊藤麗子氏

参考資料

表1 越谷市ふるさといきもの調査による指標生物発見報告状況
『平成28年度 越谷市環境白書』平成28年11月 越谷市環境経済部

  平成24年度 平成19年度 平成14年度 平成9年度
  報告メッシュ数 発見報告総数 報告メッシュ数 発見報告総数 報告メッシュ数 発見報告総数 報告メッシュ数 発見報告総数
シラコバト 20 27 38 62 88 178 140 286

表2 埼玉県 シラコバト確認数
『平成28年度 越谷市環境白書』平成28年11月 越谷市環境経済部

区分 調査機関 確認数
繁殖期 平成24年6月1日~8月1日 24羽
越冬期 平成24年12月1日~25年1月31日 76羽
越冬期 平成25年12月1日~26年1月31日 107羽
越冬期 平成26年12月1日~平成27年1月31日 103羽