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受賞論文【優秀賞】幸せをつなぐ割り箸

お茶の水女子大学附属高等学校 2年 青柳 菜々子

「森」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。きっと緑豊かな木々や様々な動物、森を流れる小川など多くの自然が頭に浮かぶはずだ。「森林浴」や「森林セラピー」といった、医学的にも解明された言葉が存在するように、森は私達の心を癒し、幸せな気持ちにさせてくれる。私は、学校の総合的な学習の時間の一環として、「幸せとは何か、幸福とは何か」について、環境問題の側面から探求を行っている。環境問題が深刻化する現在において、地球環境を考えることなしに「幸せ」を語ることができない。地球温暖化の原因の一つとしても世界の森林の減少が挙げられるが、果たして日本の「森」の今はどうなっているのだろうか。また、これからの日本の「森」はどうあるべきなのか。「幸せ」とは何かを考えながら、考察したい。
まず、現在の日本の森林の現状を見てみよう。国連食糧農業機関の統計によれば、2015年の日本の国土面積に対する森林の割合(森林率)は、67パーセントと、73パーセントのフィンランドに次いで世界第2位である。森林率から見ると、日本は森林資源に大変富んでいる。前述した森林浴や森林セラピーという観点から考えると、日本にはこれらを行う機会が多く存在し、幸福度が高いという見方もできる。
ところで、森林は大きく分けて、天然林と人工林がある。さらに、天然林は人の手が入っていない原生林と、伐採しても植林をせずに自然に再生させる、天然更新林に分類できる。このうち、原生林以外の人工林と天然更新林は、人の手で下刈(雑草を刈り払うことで苗木に光が当たるようにする作業)・間伐(木の密生を防ぐために適当な間隔で不要な木を伐採する作業)・枝打ち(節のない材木を作るために樹木の枯れ枝や下枝を切り落とす作業)といった様々な手入れをしなければ維持できないという。佐藤敬一氏ら1)によれば、「特に間伐という作業は過密になり暗くなった森林に光を入れ、地面近くの植物の成長を促す重要な手入れであり、土砂災害の防止や、二酸化炭素の吸収の効率化による地球温暖化の防止にもつながる」とのことだ。
しかし、現在は地方の過疎化や高齢化、林業の衰退によって森林の手入れは行き届いているとはいえない状況にある。1960年代から始まった木材の輸入の自由化によって、外国産の安い木材が大量に輸入されるようになり、日本の木材自給率は大幅に下がった。現在は、20パーセント近くと世界第2位の木材輸入国になっている。
ここで注意したいのが、日本の森が抱える問題と世界の森が抱える問題は大きく異なるということだ。日本の森は、管理ができないことによる荒廃と森林内の木々の増加が問題だが、海外では乱伐による木々の減少が問題となっている。
つまり、日本は世界有数の森林率であるが、人の手を必要とする林業が衰退してしまっている。森林が放置されてしまっているがために、森林内で木が増加し、本来の光合成の働きが非効率化しているのだ。これは、森と人間の関わりが薄れつつあることでもあると言える。
では、具体的にどのような対策をすれば、日本の森林は守ることができるのだろうか。先日総合的な学習の時間に、講師としていらしてくださった認定NPO法人JUON(樹恩)NETWORKの事務局長・鹿住貴之氏によれば、森林を救うカギとなるのは、「割り箸」だという。ちなみに、JUON(樹恩)NETWORKとは、「大学食堂のゼロエミッション(廃棄物を資源として循環させ排出しない)構想」を掲げ、1998年に設立された認定NPO法人である。
割り箸と聞くと、環境に悪い印象を抱く人も多いだろう。私も、今まで割り箸は全て環境に悪いものだと思っていて、コンビニエンスストアなどで割り箸を断ることで日本の森林保全に貢献できているつもりでいた。実際、山崎真由子氏2)によれば、「日本では年間約250億膳の割り箸が利用されている」というデータもあり、これだけを見れば割り箸が木の無駄遣いに感じるのももっともだ。日本で利用されている割り箸の約9割は中国製に依存しており、その中国の割り箸の材料は、主に丸太からできた薄い単板だ。
しかし、JUONの割り箸のような環境保護に配慮した国産割り箸においては、国産の木材を製材した際に残った部分、すなわち廃材を使っているため、森林の木を無駄なく利用することができている。かつて「マイ箸」運動が注目されたことがある。マイ箸運動とは、割り箸を使わず何度も使用できる箸を持参する運動のことだ。マイ箸が注目されるようになった背景には、割り箸という、使い捨てる行為が森林を破壊するという考えが根強かったことがある。しかし、前述の国産割り箸のような廃材を利用した製品であれば、割り箸を使うことが森を守ることにつながるとともに、使い捨てすることで衛生面でのメリットもある。マイ箸の場合は衛生面を考え、使用した後は洗剤である必要があり、水質を汚染する可能性も生まれる。さらに、プラスチックの箸は永久に使えることはなく、交換のために箸を捨てると原料である石油が環境に悪影響を与える。主に大学食堂で利用されている前述の国産割り箸は、使用後も回収され、家具などに利用される材料である、パーティクルボードなどに生まれ変わることで最後まで無駄なく利用されている。
だが、問題点もある。国産の割り箸は、国産の木材を使用することや手作業による生産効率を考えると、大量生産される中国産の割り箸よりもコストがかかってしまうということだ。実際、中国産の割り箸は1膳1円なのに対し、JUONの国産割り箸は1膳2.7円と割高である。このことから、お茶の水女子大学の大学食堂では、コストの面から導入を見送ったという。
このようにコストの面では輸入物の割り箸に太刀打ちできないが、前記の国産割り箸を例にとると環境面だけでなく、障がい者の方々に国内の割り箸工場で働いてもらうこと、すなわち雇用の提供という、福祉面での役割も担っている。仕事の場が少ない障がい者にとって、働くことができることは幸せなことではないだろうか。
コスト面を克服する一案として、NPO法人エコメディア・ファンデーションの例を挙げたい。それは、「アドバシ」、つまり「アドバタイズメント(広告)+バシ(箸)」であり、箸袋に広告を掲載することで広告収入を得て、価格を低くすることができる仕組みだ。中国産と同じ価格帯になれば、国産を選ぶ人も増えるだろう。ただし、ここでも課題は後継者不足である。森林を管理し、木を伐採する人がいなければ、国産割り箸の需要が増えても生産量は増やせない。
今まで、「割り箸」の観点から、日本の森林について考察してきたが、やはり根本的な問題には「後継者不足」が挙げられるようだ。
まずは、できるだけ多くの人に日本の森林の現状について知ってもらうのが大切であろう。私は、これらの普及活動の一つに「割り箸」が活用できると思う。森林に関する取り組みを行っている団体は、NPO法人をはじめ多くある。それらの活動を他の広告と合わせて国産割り箸の袋に印刷したらどうだろうか。現在利用しているのは、主に大学食堂である。これからを担う若者たちを中心に、森の活動について宣伝することができ、広告収入により割り箸のコストも削減できる。先ほど挙げたコストの面から導入を断念したお茶大生協は私が通う高校と同じキャンパス内にあり、利用したこともある。現在はプラスチックの箸を繰り返し利用しているが、コストの削減が実現すれば、交渉して改めて国産の割り箸を検討してもらえるのではないか。私も利用者の一人として、今回学んだことを大学に伝えて再度検討してもらえるように提案出来たらと思う。ほかにも昨年参加した、日本地理学会による「高校生ポスターセッション」に今回の考察をポスターにして掲示したい。ポスターセッションが行われる学術大会には、全国の高校生が集まるので多く人に知ってもらうきっかけになるだろう。また、同じ高校生という立場で他者の発表や自身の発表を通して、森林をはじめとする環境問題の解決について新たな切り口を見つられるかもしれない。
また、幸せの観点を踏まえると、私はこれから「What Makes You Happy?」をテーマに世界の高校生の幸せについて、日本語と英語の2か国語でWEBページを制作していて、発信活動をしていく予定だ。日本と世界の森林の状況が大きく異なるように、国によって抱える環境は違い、それによって皆が考える幸せも変わってくるはずだ。今回の森についての考察も、幸せのひとつの指標として発信できると思う。このように私にできることは限られているかもしれないが、身近なところからアクションを起こしていきたい。
今回、日本の「森」の環境について考察する中で、「割り箸」という言葉がキーワードにあがった。国産割り箸は日本の森を守り、その森は私たちに安らぎを与えてくれる。また、林業が発展すれば若者が農村部に住むようになり、森だけでなくその地域に活力を与えてくれるだろう。
「幸せ」は一言では言い切れないし、人によって大きく異なるものだ。しかし、国産割り箸は環境面でも人間活動の面でも双方に良い影響を与えている。これは、どちらにとっても「幸せ」なことではないか。以上のことから、今までとは違った観点で「幸せ」について見つめなおすことができた。まさに、割り「箸」は人間の幸せと森の幸せをつなぐ架け「橋」といえる。

引用・参考文献

・1)『割り箸が地域と地球を救う』
佐藤敬一 鹿住貴之 創森社
2007年10月15日発行

・2)『林業男子 今の森、100年後の森』
山崎真由子 山と渓谷社
2014年5月25日発行

・3)『割り箸はもったいない?』
田中淳夫 ちくま新書
2007年5月10日発行

・4)国立研究開発法人 森林総合研究所
ホームページ https://www.ffpri.affrc.go.jp/
2016年8月7日閲覧

・5)認定NPO法人JUON(樹恩)
NETWORKパンフレット
「ニコはし」

・6)国連食糧農業機関2015年版統計データ