社会科学研究所

公開研究会「イタリアにおけるオペライズモ(労働者主義)の理論と実践について」開催報告(社会科学研究所)

2017年09月08日

中村 勝己 氏

2017年7月5日(水)、多摩キャンパス研究所会議室2にて、下記の公開研究会を開催しました。

【日 時】 2017年7月5日(水)17:00~19:30

【場 所】 中央大学 多摩キャンパス2号館4階 研究所会議室2

【テーマ】 イタリアにおけるオペライズモ(労働者主義)の理論と実践について

【報告者】 中村 勝己 氏

      (中央大学法学部兼任講師、中央大学社会科学研究所客員研究員)

【主 催】 研究チーム「暴力・国家・ジェンダー」(中央大学社会科学研究所)

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【要 旨】

 報告の目的は、スターリン批判とハンガリー事件を経て始まった戦後イタリアの社会主義・共産主義勢力の改革運動のひとつ、オペライズモ(労働者主義)と呼ばれる思想潮流の二人の創設者、ラニェーロ・パンツェーリ(1921-64)とマリオ・トロンティ(1931-)の思想を説明することである。彼らは、今日世界的にも注目されているイタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリ(1933-)の先駆者でもある。

 オペライズモの特徴は、1960年代前半にピークを迎えた高度経済成長によりイタリアの資本主義は大きく変貌をとげたこと、したがってその変革の構想も練り直しが必要であることをはっきりと指摘した点にある。それゆえ、今日言われる〈フォーディズム論〉の原型、そして〈先進国革命論〉の原型がオペライズモにはある。

 トロンティのマルクス読解は、〈社会的工場論〉と呼ばれる理論に結実した。社会の基幹的生産力である大工業の影響力が社会総体に及び社会総体を包摂する事態を「工場と社会との関係が有機的になった」とし、トロンティはこれを社会的工場の成立と呼んだ。この認識からすれば、トロンティの構想した〈階級闘争〉は、狭く工場に限定されるものではなく、社会のあらゆる領域(学園、家庭、街頭など)が〈階級闘争の舞台〉となる。60年代前半に唱えられたこの理論は、その数年後、青年・学生たちの急進的な反乱によって実現されることになる。

 パンツェーリのマルクス読解は、イタリアでも本格的に始まった技術革新(第二次産業革命)を批判的に分析する技術論に結実した。イタリア共産党系の技術者・労働運動指導者のシルヴィオ・レオナルディの議論(邦訳『技術の進歩と労働関係』)を、技術革新がもたらす工場内部の労使の力関係の強化(労働者の資本への従属の強化)を見てとることのできない〈技術決定論〉として批判した。彼がそれに対置した〈労働者自主管理〉の構想は、具体的な展開がないままに彼の死により中断してしまったが、今も続く技術革新の動きにどのような態度で臨むべきかを考える上で再読すべき価値がある。

 報告者の研究は、今後もオペライズモの理論と歴史をめぐって展開される。

(報告者 記)