社会科学研究所

公開研究会「ワシントン条約とTRAFFIC」開催報告(社会科学研究所)

2017年02月20日

2017年1月27日(金)、多摩キャンパス研究所会議室2にて、下記の公開研究会を開催しました。

【テーマ】 ワシントン条約とTRAFFIC

【講 師】 若尾 慶子(トラフィックジャパンオフィス代表)

【日 時】 2017年1月27日(金)15:00~17:00

【場 所】 中央大学多摩キャンパス研究所会議室2

【主 催】 研究チーム「グローバル・エコロジー」(社会科学研究所)

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【要 旨】

 TRAFFICは、野生生物の取引を監視・調査する国際NGOであるWWF(世界自然保護基金)とIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムとして1976年に発足した国際組織で、現在、20カ国以上のネットワークで活動している団体である。報告者の若尾慶子氏は、TRAFFICジャパンオフィス代表で、報告のテーマは「ワシントン条約とTRAFFIC」である。
 報告者はまず、生物多様性保全に力を入れているという観点から、現在、生物多様性が減少し、2万種を超える動植物が深刻な絶滅の危機に瀕している点を指摘し、その主要な原因として、生物資源としての利用、農業・養殖業、住居や商業的開発、汚染、気候変動などを挙げた。次に、野生生物取引の現状について触れ、日本は野生生物の一大輸入国であり、たとえば、生きた哺乳類と爬虫類の輸入において、生きた哺乳類の輸入について日本は第2位、生きた爬虫類の輸入については第5位となっていると指摘した。また野生生物の違法取引については、日本から海外に流出した事例として、未加工象牙やタイマイが中国の青島で押収されたことを紹介した。野生生物の違法取引の背景にある原因は、第1に、種の保存法の適用除外のものが日本から流出したことである。たとえば、日本に生息し、日本で適法に捕獲されたウミガメが、装飾用剥製やべっ甲製品として流出されるケース、また、日本に生息し、日本で適法に捕獲されたツキノワグマのクマノイ(胆汁・胆嚢やその製品)が流出されるケースなどである。第2の原因として、野生生物のアジアにおける需要の増大がある。たとえば、象牙に関しては、それが富と地位の象徴となっていることから中国とタイに大きな需要があり、また犀角に関しては、ベトナムで需要が増大しており、その理由は、富と地位の象徴に加えて、万病特効薬、滋養強壮として珍重されているからである。とりわけ犀角は、南アフリカでのサイの密漁と関連しており、アフリカ全土で1,305頭以上捕獲されているという。
 こうした現状を踏まえて、2014年2月に、世界的な違法野生生物取引に対処するための断固として緊急措置を制約する「ロンドン宣言」に参加46カ国が署名した。さらに野生生物をめぐる世界の動きとして、2015年の第69回国際総会と2016年の第70回国連総会で、「決議Tackling illicit trafficking in wildlif」を採択し、野生生物の違法取引、野生生物製品、密漁等、環境に影響を与える犯罪の深刻な問題を、防ぎ、対処できる効果的な措置を各国に求めた。
 ワシントン条約については、報告者は、附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの内容について紹介され、日本の国内体制の問題点について触れた。特に、日本の野生生物の国際取引に関しては、外国為替法や外国貿易法に関連して、輸入承認成・事前確認性、輸出承認制があるが、税関の対応能力の向上のためにマニュアルの整備や職員の訓練が必要であり、また日本の「種の保存法」(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)で、譲渡し・譲受け、引渡し・引取り等の禁止がなされているが、象牙、べっ甲類については、例外的に認められている(業者の届け出義務要件あり)ことに問題がある点が指摘された。最後に、報告者はワシントン条約を履行するためには、国際環境NGOとの協力と連携が必要である点を強調した。

(主催チーム記)