国際連携・留学

【2013日越国際シンポジウム】ベトナムの「生態村」モデルと環境保護法の発展―ハノイ国民経済大学 グエン・チ・タイン・トウイ教授

(司会:松谷研究員):次の報告者は、ハノイ国民経済大学・経済法律学部副学部長のトウイ教授にお願いします。トウイ教授は、かつて中央大学の大学院で経済学を研究され、博士号を授与されております。当時、ベトナムの女性が海外で博士学位を取得することは大変稀有なことだと伺いました。その後、ベトナムの各地大学で特別講義を持つばかりでなく、ラオス国立大学でも集中講義を担当されています。本日は、ベトナムにおける新しい環境保護の側面を報告していただきます。よろしくお願いいたします。 

(トウイ教授):私はトウイと申します。今日は、自己紹介の原稿を準備してきましたが、いま松谷先生が全部紹介してくれました。ありがとうございます。私は、中央大学大学院で経済学を勉強しました。ベトナムに帰ると、母校のハノイ国民経済大学(NEU)も大幅な教育改革と新校舎のラッシュでした。写真(写真1)は、国道1号線とハノイ=ホーチミンを結ぶ国家鉄道に面した場所に新校舎を建設している現場です。高層ビルの中には、諸外国と提携してグローバルな研究教育システムを導入する予定です。

私が中央大学での博士課程を修了してから12年になります。私は、いま経済法律の講義を担当しています。ベトナムでは、日本語で講義する機会はないので、最初は英語論文を執筆してきました。それは、本日の配布資料に収録してあります。しかし、日本での留学時代を思い出して、日本語での報告にチャレンジしてみたいと思います。皆さんよろしくお願いします。(拍手)

先ほど緒方先生とチン先生からベトナムの「生態村(エコビレッジ)」についてお話していただきましたが、私は、ベトナムの「生態村」について、法的側面から発表したいと思います。実は、ベトナムの「生態村」を最初に提案したのが、グエン・ヴァン・チュン教授です。チュン教授はその業績で国家賞を授与されています。チュン教授は、ベトナムの「生態村」の研究をスタートさせました。生態学の研究で有名な先生です。かつて、以下に報告されるアインさんの生態経済研究所(EcoEco)に勤めていました。

ここでは、最初にベトナムの歴史を少しだけご紹介させていただきます。ベトナムは歴史的には長い間中国に支配されており、その後およそ100年間フランスの植民地として搾取されてきましたから、すごく貧しい国でした。その後、アメリカとも30年間にわたり戦争を続けていましたから、伝統的な社会資本が破壊され、本当に貧しくなりました。そういう歴史的な事情で、ベトナムの農村や農民たちの中には貧乏な人がいまだに大勢います。そうした状況に直面して、チュン教授の研究が始まりました。これは、先進国の「エコビレッジ」の形成過程と基本的に異なります。

ベトナムは基本的には農業国であり、今でも人口の約70%の人が農業に従事しています。ベトナムは北部・中部・南部に分けられますが、ベトナムを生態地域学的視点から見ると「生態村」を3つの地域に分類できます。ベトナムは4分の3が山岳地帯です。そこから大河が流れ、下流に湿地帯やデルタ地域を形成しています。さらに沿岸には広大な砂地が形成されています。ベトナムの北部を見ると、以下の3つの生態的地域に分けられます。1つは中国との国境地域の山岳地帯、2つ目はハノイ周辺の紅河デルタ地域、3つ目はゲアン省の南側に位置するハーティン省から中部フエに至る沿岸砂地で不毛地帯です。

ベトナムの北部には四季があるものの、冬に雪が降るほどにはなりません。北部でも夏は暑く、コメの二期作が行われています。夏には台風が襲います。毎年、大雨のあと洪水に襲われる地域があります。こうした立地と生態系の特徴があります。

ここで、ベトナムの3つの生態地域の特徴を紹介します。1つ目はベトナム北部で、中国との国境にあるラオカイ省です。そこには観光地・エコツーリズムでも有名なサパ(Sa Pa)があります。そこは世界遺産にも指定されています。当地は、かつてフランス植民地時代には避暑地でしたが、いまは少数民族の大きな市場になっています。先ほどの緒方先生やチン先生がご紹介されたハノイ郊外の山岳地域バヴィ(Ba Vi)では、少数民族により漢方薬が作られています。薬草を山野から収集するのは女性の役割です。特殊な樹木の樹皮や枝や根も含まれ、それぞれの効能に分類され、それらの組み合わせで効能を高めるようで、それは秘伝です。収取した薬草や樹木は細かく裁断してから庭で乾燥させます。その後、大窯で煮だし、煮汁の水分を発散させて固形化します。それらの漢方薬を販売し生計を立てています。それらを町まで運び販売するのは男性の役割だそうです。

2番目の紅河デルタにあるハイズオン省の「生態村」やナムディン省の「生態村」では、デルタ特有の低地や湿地帯を掘り起し、灌漑用水や貯水池を作り、そこで魚を育てます。その池の土壌を盛り土に利用して果樹園や家畜小屋を作ります。それを「VAC循環農業」と言って、家畜の糞を果樹園の肥料や魚の餌にし、乾季には池の水を活用します。有機農業として高い評価を受けています。

3番目は、国道1号線に並行した海岸線に沿って砂漠の不毛地帯がありますが、そこに人口増加によって住み家を探している人々が「生態村」を設立しています。生態経済研究所(EcoEco)が海外から支援を受けて、道路や電線などの社会インフラを補助し、「生態村」の運営は村落コミュニティ委員会が受け持っています。毎年夏季に台風に襲われ、洪水をおこします。乾季には、池は砂地ですので渇水しなかなか水を貯める事ができず、「VAC循環農業」は思うように進んでいません。それでも、養鶏や養豚などで「生態村」の形成に挑戦しています。

ベトナムの「生態村」では、ベトナムの各地域の立地や生態系を考慮して、それぞれ「VAC循環農業モデル」を構築しようと模索しています。昨日の「グローバル・フィールド・スタディーズ(ベトナム研修)報告会」で、緒方セミの皆さんから食料供給に対して「安全(Safe)」,「安定(Stable)」,「安価(Cheap)」の頭文字をとった「SSCプロジェクト」の提案があり、そこでベトナムにおける有機農業による「VACモデル」を紹介してくれました。「生態村」では、農薬を使用せず、有機農業で安全な食料を供給していますので、「生態村」での平均寿命は高く、100歳を超える農民が依然として元気に野良仕事に出かけています。

私は、「VACモデル」について写真を使って皆さんにご紹介したいと思います。これはVuon(果樹園)です。バナナ、パパイヤ、マンゴー、ランブータン、ライチなど、まさに「トロピカル・フルーツの天国」です。これは池(Ao)です。魚やカメの養殖を行っています。また池は、気温の緩和とともに耕作地との温度差によって微風を呼び込んでくれます。自然の扇風機です。これはChuong(家畜小屋)です。豚、鴨、鶏を飼っています。最近は、家畜の病気、例えば鳥インフルエンザの問題がありますので、獣医と共同で養育の管理を行っています。これらの果樹園、養魚、家畜をベトナム語のVuon=Ao=Chuongの頭文字をとって「VAC」と呼んでいるわけです。また地域によっては、田畑(Ruong)あるいは森林(Rung)も入れて、「VAC+R」と呼ぶ場合もあります。

また私たちは、緒方先生やチン先生との共同研究グループとして、ベトナムの「生態村」地域に対して社会調査を実施しております。VACに基づく持続可能な経済発展のために、農民たちの収入が上昇するとともに環境保全も進んでいます。それは、特に紅河デルタ地域のコミュニティや山岳地域の少数民族のコモンズ(共有地)において効果を発揮しています。もし皆さんがベトナムを訪問する時、観光案内の地域だけでなく、こうした伝統や歴史の残る地域で生活体験をするとよいと思います。

ベトナムは社会主義国ですので、国家による計画経済が基本でした。しかし「ドイモイ政策」を導入し、市場経済化を進めていますので、法律の改革は不可欠です。私は、中央大学で緒方先生から市場経済と社会インフラのあり方を学びました。さらにヒューマンの条件も学びました。その中で、市場における制度や契約の守り方、基本的人権の認識がすごく大切だと思います。ベトナムの「ドイモイ政策」の促進という中で1つ言えることは、ベトナム政府は日本の法律の経験を参考にしながら法制度の改革を行っているということです。しかし経済開発の最初の頃は法律がそれほど重視されていませんでしたが、経済開発による環境破壊による被害が起こり始めた1993年ごろから色々な法律が策定されました。「ドイモイ政策」が促進されたのは1986年からですが、環境保護に関する法律は1993年から施工されています。

 

いま司会者から制限時間のサインをもらいました。急いで残りを報告します。ベトナムは2005年に世界貿易機関(WTO)に加入しましたので、世界水準で環境保護法を改定しなくてはなりません。2005年、2014年の法改正の詳細は、本日の配布資料に収録されていますので参照して下さい。現在も環境保護法をまだまだ改定する必要があります。どうしてかと言うと、最近では多くの外国企業がベトナムに投資し、環境が悪化したためです。また特に中国の大気汚染が風にのって越境し、ベトナムにも来ています。ベトナム政府は、国際的な環境保護をしなければならなくなっています。そういう形で、今年も国会で新しい環境保護に関する法律が策定されました。その法律の新しい点は、環境被害の賠償額の計算問題です。ベトナム政府・天然資源環境省でも、チン先生の研究所(ISPONRE)では、現在それについての研究をしています。これからも日本と情報交換をしながら、ベトナムでも環境アセスメントや環境被害額の計算が可能になると思います。

最近、多くの日本企業がベトナムに投資していますが、日本の厳しい環境基準を守っています。しかし外国の企業はあまり環境を守りません。そのために、環境保護制度を確立し、法的措置をとらざるを得ないのです。またベトナム政府は疑問に思っていることがあります。それは多くの中小企業が環境を守っていることです。それは設備投資額が少なく、環境面にまで目が届くからかもしれません。私は、配布資料にベトナムの具体的な事例をたくさん紹介しておきました。時間がありませんので、詳しくご紹介できませんが、配布資料を参考にしてください。最後に、緒方先生と一緒にゲアン省で作成したベトナムの「新しい生態村」モデルの写真(写真2)を紹介します。こうした「生態村」がホーチミンルートに繋がってゆくと、チン先生が主張している「緑の経済回廊」となると思います。

ご清聴をありがとうございます。(拍手)