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インターナショナル・ウィーク
12月18日(火)講演会

日本は没落と苦悩に喘ぐ国となるのか -否、若者がいる

本日は再び中央大学で、こういう貴重な機会を与えていただいて大変有難うございます。今月の6日に、多摩キャンパスで講演させていただく機会がありました。今日は、理工系のみなさんにお会いできて大変光栄です。数学や物理が苦手だった私には、皆さんすべてが天才のように思えます。文科系のひとが理科系のことを理解するのは難しいのですが、理科系の人は文科系のことをたやすく理解するといわれます。今日は、その文科系の話しにお付き合いを願います。

私は今年3月末に国連を退職したのですが、国連におりました時から中央大学にはアカデミック・インパクトという国連と世界の大学をつなぐネットワークに積極的にご協力いただいおります。福原総長、加藤副学長をはじめ、お世話になっております先生方にお礼を申し上げます。

今日は、私の国際機関での経験なども踏まえて、日本の将来について日ごろ考えていることをお話したいと思います。少しでも皆さんの将来のためにお役に立つようでしたら、大変幸いです。

右肩下がりの日本の未来

先般、アメリカの大統領選挙で敗れたロムニー共和党大統領候補は、今年8月に行った演説の中で、「アメリカは日本じゃない。10年も100年も没落と苦悩にあえぐ国にはならないのだ」と言いました。無視できない日本を侮辱する発言でした。

また、韓国の青瓦台(大統領府)によれば、李明博大統領は、今年8月13日の国会議員らとの午餐会で、竹島を数日前に訪問したことに関して、強く反発している日本の反応は「予想していたことだ」と述べ、「国際社会での日本の影響力は以前と同じではない」との認識も示したと報じられています。

さらに、シンガポールのビジネス・タイムズ紙の東京特派員は、11月1日付の記事で、「日本の政治は混乱しており、経済は崖っぷちかすでに転落しており、外交は酷いことになっている。そして最悪なのは無力感が蔓延していることである。こういった状況のもと、日本は、ますます内向きになっており、孤立感が深まり新ナショナリズムが強まっている」という論説記事を書いています。

月刊誌「文藝春秋」は今年の3月号で、予言の書「日本の自殺」再考という記事を載せました。学者たちによる「共同執筆グループ1984年」というのが、1975年に文藝春秋に掲載した論文の再掲載でした。その論文によると、あらゆる文明は外からの攻撃ではなく、内部からの社会的崩壊によって破滅する、没落の真の危険は、日本人がこの危機や試練を正確に認識する能力を失いつつあること、この危機や試練に挑戦しようという創造性と建設的思考を衰弱させつつあること、さらに日本の若者については、過保護と甘えのなかに育てられて、自制心、克己心、忍耐力、持続力がなく、強靭なる意志力、論理的思考能力、創造性、豊かな感受性、責任感を書いた欠陥青少年が大量に発生することとなった、と慨嘆しています。この論文が最初に出たのは37年前です。

「ミスター円」と呼ばれた元財務省財務官の榊原英輔さんも、2007年に出版された「日本は没落する」という著書の中で、「日本は今、没落へと向かいつつあるのではないかという強い危機感を感じています」と言い,翌年の「没落からの逆転」という著書で、その対処策を示しました。

果たして日本は、この人たちが言うように、「没落と苦悩に喘ぐ国」になりつつあるのでしょうか。野田総理も今年10月29日の臨時国会での所信表明演説で、日本は、「アジアの片隅に浮かぶ、老いていく内向きな島国として衰退への道へと向かってしまうのか」と自問しています。

基本的なデータを見てみましょう。

まずは、日本の人口です。今年1月末に国立社会保障・人口問題研究所が発表したところによると、2010年に1億2,806万人だったのが、2048年には1億人を割って9,913万人となり、2060年には8,674万人になると推計されています。今後50年間で4,000万人以上の減少が見込まれるということです。しかも、65歳以上の老年人口の割合は、2010年の23%から2060年には40%へと増加すると見込まれています。

今年4月、経団連21世紀政策研究所が発表した2050年のシュミレーションを見ると、日本の人口は、2010年には中国、インド、米国などに続いて世界で9番目の位置にありました。それが、2050年には、メキシコ、フィリピン、ベトナム、エチオピア、エジプトに追い越されて、世界第14位にまで下がります。

日本の国民総生産(GDP)の成長率は2030年以降マイナスが続き、2050年時点での日本のGDPは、楽観的シナリオでは中国、米、インドに続いて4位ですが、中国、米の約6分の1の規模にとどまります。他方、悲観的なシナリオですと、日本は、中、米、インドのほか、ブラジル、ロシア、イギリス、ドイツ、フランスにも抜かれて世界9位で、インドネシアと大差ないぐらいになります。

ゴールドマン・サックスによると、現在のG7メンバーのうち、2050年時点で経済規模が世界の上位7カ国に入るのは、アメリカのみで、あとは、中国、インド、ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコであろうと予測しています。

今年11月9日に発表されたOECD(経済開発協力機構)のレポートでも、世界のGDP(購買力平価ベース)に占める日本の割合は、2010年の7%から、2060年には3%まで下がると予測しています。2060年時点で、中国の割合は28%でトップ、2位がインドの18%、3位米国の16%となっています。

一人当たりGDPは、経団連の楽観的シナリオでは世界20位から18位に上昇しますが、韓国は14位で日本を追い越すと見込まれます。英国のエコノミスト誌が2050年の世界を予測する本を今年夏に出しましたが、それによると、2050年の一人あたりGDPは、米国を100とすると、韓国は107、日本は58.3になると予測しています。2050年の中国は、52.3ですから、日本と大差ないレベルまで上昇します(いずれも購買力平価ベース)。

皆さんに関係の深い科学技術関連の日本政府の予算は、ここ10年ほど年額約3.5兆円で横ばいが続いています。米、EUと比較しても相当低いレベルにあります。2000年度から2009年度までの推移を見ますと、日本の停滞とは反対に、中国が急速に予算を伸ばしており、また、韓国などもそれなりに予算を伸ばしています。GDPに占める政府の研究開発費(R&D)の比率を国際的に比較すると、日本はフィンランドや韓国、米国などより相当低いレベルにあります。

国連から見た日本というのも、最近10年位の間にずいぶんと小さくなりました。まず、過去10数年間にわたって政府開発援助(ODA)は、5割以上も削減されてきました。1997年度のODA予算は約1兆2千億円でしたが、2012年度のODA予算は5、612億円です。日本のODA実績は2000年までは約10年間世界第1位を誇っていましたが、その後は、アメリカ、英国、フランス、ドイツに抜かれて、今や世界第5位の座まで落ちました。

次に、日本の国連予算への分担率は、ピーク時の2000年には20.573%にまで達していましたが、その後の世界経済に占める日本経済の割合の低下に伴いどんどん下がって、2010年からは12.530%となりました。今年の分担率の見直しの際にはさらに下がって11%を切るでしょう。ここまで来ると負担が減り続けることを喜んでおられません。それは必ず日本の影響力の低下につながるからです。

国連に働く日本人職員数も、圧倒的に少ない状況が続いています。2010年末の国連統計によれば、国連事務局、ユニセフや国連環境計画などのファンズ&プログラム、それにWHOなどの専門機関を合わせて国連全体の専門職員数約3万人中、日本人は786人、すなわち全体の2.6%でしかありませんでした。国連事務局だけに限った場合は、2011年7月末現在、専門職員1万2千名中,日本人は214名で、たったの1.7%です。

国際機関のヘッドや国連幹部の数でも、日本の現状は嘆かわしいかぎりです。日本は、1990年代中ごろには、WHO(世界保健機構)事務局長に中嶋宏、UNHCR(国連難民高等弁務官)に緒方貞子、国連本部の事務次長に明石康の3氏を擁して、日本人の顔が国際場裏で目立った時期がありました。しかし、ユネスコの松浦事務局長が2009年に退任したあと、2年余り国連の専門機関や基金などの国連ファミリーのヘッドに日本人は誰もいなくなり、ようやく2012年から、国際海事機関(IMO)のトップに関水康司さんが就任しました。ファンド&プログラムの長はゼロのままです。

世界の15箇所で展開されている国連の平和維持活動を率いる国連事務総長特別代表、特定地域や国のための20数人の事務総長代表ないしは特使、さらには個別問題のための約30名の事務総長の特別顧問の中に、目下日本人は一人もいません。

さらに、最近日本の若者が海外に出たがらなくなったと言われます。海外への日本人留学生の数は、2004年の8万3千人をピークに、その後年々減少しています(2009年は、約6万人)。特にアメリカへの日本人留学生の数が急速に減っています。アメリカでは、日本の留学生数は1995年ごろは4万人を大きく超えて、世界最大の留学生数を誇っていましたが、近年、中国、インド、韓国などに次々と抜き去られました。2010年から2011年の米国への留学生数は、中国が15万8千人でトップです。前年比23パーセントの伸びです。2位がインドで、10万4千人。3位が韓国の7万3千人。その後は、カナダ、台湾、サウデイ・アラビアと続いて、日本は7位、前年度比14パーセント減で、2万1千人でした。日本は最近ずっと減少を続けています。

日本駐在の外国メデイアの数も、1997年の295社から、2012年の202社へとずいぶん減少しました。他方、中国では、2004年の210社から、2011年の356社へと大きく増加しています。この結果、日本から海外に流れるニュースよりも、中国から流れるニュースの数の方が上回っています。報道によれば、11月8日に開幕した中国共産党大会には、5年前に比べて50%増の1704人の外国メデイアの記者が取材申請したといいます。

このように、たくさんのデータが、今後数十年間日本の国力は右肩下がりの様相を示すと予測しています。他方、隣国の中国や韓国の将来は、日本よりもずっと明るい展望が示されています。

さらに、止めを刺すように、日本の最近の世論の動きも相当内向きです。テレビやマスコミの動きを見ていますと、世界の動きへの関心度が日本では明らかに低くなっています。テレビ番組の多くが、クイズ番組か料理番組ですね。もちろん中国、韓国、ロシアとの領土問題や北朝鮮の拉致問題などには大きな関心が寄せられてきました。これらは直接日本に利害関係が及ぶものです。しかし、シリア紛争、中東情勢、イランの核開発問題、南スーダン、コンゴでの女性への暴力といった世界の大問題への関心度は決して高いとは思えません。

今から100年近く前に、近衛文麿が第1次世界大戦後のパリ講和会議に日本代表団の一員として参加して、その感想を「戦後欧米見聞録」に載せています。彼は、「わが国民は、自国に直接利害関係ある場合には非常な熱心を持って騒ぎ立てるが、東洋以外のこととなると、我関せずの態度を取る傾き無しとせず」と言っているのですが、100年たっても、我々日本人の性向は変わっていないということでしょうか。

大国の条件には、自国以外の問題にどれほど関心を持つかということが入ると思います。その意味では、確かに、アメリカ、イギリス、フランスはさすが大国と思わせるところがあります。これらの国のテレビやインテリ向けの新聞、雑誌などを見ると、中東問題やアフリカの紛争などについて、それなりの関心を示しています。日本で一番読まれている雑誌は「文藝春秋」でしょうが、タイム、エコノミスト、レクスプレスなどと比べるとこの違いが明白です。

また、元気一杯でエネルギッシュな人というのは、見ただけで分かりますね。態度や声が普通の人とは違って勢いがあり、周りを賑やかにする華やかさがあります。同じことが国単位でも言えるのですね。国連で仕事をしていた時に、右肩上がりの国力を背景に昇り盛りの勢いのある国とそうでない国との違いをひしひしと感じました。元気な国の勢いを感じさせたのは、インド、中国、韓国、ブラジル、トルコ、カタールといった国々でした。大きな国際会議、オリンピック、万博、ワールドカップなどもこのような国に集中しています。

私たち団塊の世代が皆さんのように若かった時代の日本は、まさにその右肩上がりのエネルギ-にあふれていました。司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んで明治の時代をしのびながら、明日は必ず今日よりもよくなるという進歩主義的な考えが支配していた昭和時代に青春を過ごしました。しかし、皆さんは、右肩下がりの日本で、「明日は今日よりも悪くなるかもしれない」という難しい時代を生き抜いていかなければなりません。

ただ、考えようによっては、面白い時代の到来といえるかもしれません。戦争も無ければ、極端な貧困、イデオロギーの対立もなくなった時代に育った我々の世代は、戦争を含む社会の劇的な変化を経験した親の世代に比べて確かにもやしのようにひ弱です。他方、これからの若い人たちは、ひょっとしたら没落の道を歩むかもしれない日本を何とか支えて、これをできれば反転させるという大きな仕事を抱えています。再び野性味あふれる若者のエネルギーが必要とされる時代が来ているのです。難しいが、エキサイテイングな時代が来るのです。

国の勢いを取り戻すために

私は、日本の将来が悲観的なシュミレーションに描かれたほど暗いとは思いません。この国がこれから1世紀も没落と苦悩にあえぐ国になるとは思いません。「アジアの片隅に浮かぶ、老いていく内向きな島国として衰退への道へと向かう」とも思いません。なぜなら、日本、日本人にはまだまだ底力が残っているからです。

去年の東日本大震災の際に、日本人の底力は世界中の人々をびっくりさせました。大地震、大津波、原発事故という三重苦が一時に発生した大災害でしたが、よその国だったら起きたであろう略奪や放火などがまったく起きませんでした。それどころか、多くの人々は沈着冷静に自制心を持って対処し、お互い助け合い、励ましあって困難に耐えました。この被災者の方々の整然とした対応振りは、世界の人々が驚嘆し、同時に賞賛して止みませんでした。私は、去年8月にバン国連事務総長に同行して福島の被害現場と避難所を訪れたのですが、事務総長も感心することしきりでした。

それに、日本の強みは、自由、民主主義、基本的人権、法の支配などの普遍的な価値への信頼が揺らいでいないことです。国連が実現しようとしている理想の社会には欠かせない価値が日本では揺るぎなく尊重されています。これは、戦後培ってきた民主的な教育の賜物だと思います。日本にも色々問題はありますが、それでも政府を批判したからと言って逮捕されることはありませんし、自分の家や財産は勝手に奪われることもありません。

昔「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と日本を持ち上げましたが、最近は日本について悲観的になっているといわれるエズラ・ボーゲル・ハーバード大学名誉教授も、今年11月3日付のワシントン・ポストへの投書で、「日本にはまだまだ良いところがたくさんある。犯罪率は低く、基礎的な義務教育の質は依然として世界最高水準であり、産業における品質管理も世界で最も優れている。海外では日本は平和国家として尊敬を集めている。社会には秩序があり、日本での生活は快適である」と言っています。

このように、日本にはすでに底力があるわけですから、その強みを生かして国の勢いを取り戻しましょう。具体的には何をやれば良いでしょうか。3つ、4つ、私の意見を述べます。

まず第1に、日本経済の持続的な成長が大事です。経団連や、エコノミスト、OECDなどのシュミレーションは、日本経済の将来については相当悲観的に、中国やインド、ブラジルなどの新興国については相当楽観的に見ています。しかし、このような予測が正しいのかどうかについて、最近のフォーリン・アフェアー誌などの論文で疑問が提示されるようになっています。日本についても1970年代に、将来アメリカ経済を追い抜くような予測がありましたが、まったく的外れでした。そもそも経済学者の未来予測は大きく外れることが多いのです。

日本はマイナス成長に突入するという予測を覆しましょう。そのためには、日本の人口の減少に歯止めをかける必要があります。人口が減り続けると予測されていますが、これはあくまでも予測です。政府が色々と家族政策を講じれば、そして若い人たちが将来たくさんの子供を育てるなら、この予測を覆せるはずです。スエーデンやフランスでは、積極的な政府の家族政策のお陰で、低かった出生率が近年ぐんと高くなりました。子供を育てるほど大事で楽しいことはほかにありません。皆さん、是非大家族を目指してください。

第2に、労働力不足を補うためにも、女性の活躍と社会進出がもっと必要です。国会議員に占める女性の割合は世界全体では20%ですが、日本では13.4%でしかありません。女性社長率は全国平均で10%強です。国の本省課長室長相当職以上は2.4%。日本で働く女性の60%以上が第1子出産後に仕事を離れます。女性にもっと頑張ってもらえるような環境を整えないといけません。女性の労働力率を高めることが出来れば、経済成長率も高くなりますし、少子高齢化の影響もかなり相殺できるでしょう。女性の皆さん、頑張って、国会議員に、部長、社長に、なってください。子供を生んでも仕事を辞めないでください。

第3に、日本政府に国際的な責任を果たす場を与えるために、念願の国連の安全保障理事会入りを実現しましょう。そうすれば、日本はアメリカや、イギリス、フランスのように世界の動きに否が応でも敏感にならざるを得ません。そして日本は、世界の平和と安全のために責任感を持って貢献することによって、世界の注目も集め、かつ国の勢いも取り戻すことが出来ると信じます。

私は、将来の日本の国力の衰えを考慮に入れるとき、早く安保理改革を実現しないともうチャンスは二度とめぐってこないのではないかという焦燥感がして仕方がありません。日本政府も最近やっと重い腰を上げて、すぐに常任理事国といかなくても、長く安保理にとどまれるような「準常任理事国」の創設という提案を行ったようです。現在の2年という非常任理事国の任期を長くして、一定期間のあとに常任に変わりうる可能性を持つ新たな枠組みの提案と報じられています。

覚えて置いてください。安保理の中にメンバーでいるのと外にいるのとでは月とすっぽんぐらいの違いがあるのです。国連では何事につけ安保理が最も大事な決定を行います。そして国連加盟国は全員その決定に従うことを義務付けられています。安保理で1年7000億円かかる平和維持活動の開始や継続を決めたら、自動的に日本は12.53%、すなわち877億円を支払わなくてはならないのです。こんな大事な決定を、日本が参加もせずに米、英、仏、ロシアや中国だけに任せていていいはずがありません。もうそろそろこんな不条理で不都合な現状にとことん腹を立てて、「いい加減にしろ」とちゃぶ台をひっくり返してもいい時です。

戦前の日本は、満州事変の後国際連盟を脱退しましたが、あの国際連盟で日本は設立当初から、英国、フランス、イタリアと共にずっと常任理事国だったのです。ぜひ一日も早く、長く安保理にとどまれる新制度を実現してもらいたいと思います。そのためには、政府を後押しする国民レベルでの盛り上がりが不可欠です。ぜひ皆さんも、総理官邸や外務省、あるいは選挙区の国会議員あてに、フェイスブックやツイッターで、早く安保理改革をという激を飛ばしてください。

もう一つ我々ができることは、日本人として自信と誇りを持つことです。日本には、清潔、誠実、他者への思いやり、忍耐力、清貧の思想、質実剛健、教育の重視や老人子供を大事にすることなど、伝統的な価値観に他の国々にはない良い面があると思います。このような価値観や美徳、文化、生活様式、自然との共生、急速な経済発展の経験と得られた教訓、そして新しい技術や知識の受容性などは、異なる文化をもつ他国の人々を刺激し、魅力する大きなパワーを有しています。日本のアニメやファッション、映画、寿司などの食文化、さらにはJ-Popなども海外にたくさんのファンがいます。ここに日本没落の気配は微塵もありません。

私はこれまでに英国やマレイシア、スイス、ブラジル、フランス、米国など海外で25年ほど過ごしましたが、日本に戻っていつも感心したのは、お店や仕事場で働く人たちの丁寧で、優しい振る舞いと心配りです。特に女性の優しさ、優雅さには特別なものがあります。チップを求めての卑しい行いではなくて、他人への思いやりと自然と身についたたしなみが強く感じられます。こんな国民性を持った国は他にたくさん見つけられません。

この間、こういう新聞記事に出会いました。ちょうど尖閣諸島問題で中国では激しいデモが起こっていた時期のことです。中国人女性が出張で日本に来て仲間の中国人とある店で食事をしていたら、店主がやってきて、「中国人か?」と聞いてきた。彼女は、てっきり中国人への憎しみの言葉が投げつけられるものとびくびくしていたら、頼みもしない料理が運ばれてきて、そこには「中国謝謝」と書かれていて、店主が、「日本に来るのを取りやめる中国人が多い中で、こういうときに来てくれてありがとう。日中友好を望んでいます」と言った。中国に帰った彼女は、素晴らしい日本人店主に会えたことの感動を料理の写真と一緒にネットに乗せたら、思いもよらない共感の声が寄せられたという話です。

こういう話を聞くと本当にうれしくなります。そして、このような振る舞いこそ、日本人の持つ気高い寛容の精神であり、日本人であることを誇りに思います。こういう話を世界の人々に知ってもらいたいとも思います。

ですから、我々は自らに自信を持って、このようなソフトパワーを確実に維持、強化していかなければなりません。特に日本の若い人たちが、日本の良い伝統的な価値を将来に受け継いでくれることが大事です。余り保守的になって、だから日本は世界で一番いい国なんだと自己満足してしまっては、この先進歩がありません。独善に陥ることなく、世界に通じる普遍的な価値への信頼という共通の土俵の中で、そういう日本の良い面を保持してこそ、日本は国際的に名誉ある地位を占めることが出来ると思います。日本はそういうことが出来る数少ない国のひとつです。

私の今の仕事は、外国報道関係者の日本取材を支援し、あわせて日本の価値ある情報を世界に発信することですが、日本及び日本人の素晴らしいところをもっと海外に報道してもらいたいと願って、様々なニュースや話題を提供しています。そうすることによって、日本の国の勢いを取り戻したいと思います。

若者よ、世界へ出でよ

今日最後にお話ししたいことは、日本が決して「没落と苦悩」に喘ぐ国にならないために、皆さんのように若く元気な人たちが世界へ出て頑張っていただきたいという私の願いです。

これまでに見た2050年のシュミレーションには、技術革新とイノベーションの果たす役割が欠如しています。日本の人口や経済にしても、過去の傾向が続くか、あるいは更に悪くなることを前提にしています。こうした前提は、皆さんの若い力で切り崩すことが出来ます。

経団連の2050年シュミレーションは、環境変化に対応した新たな人材を育成せよとの提言を含んでいます。日本の長期的繁栄の根本的な鍵は人材力であり、若者ががんばることの出来る環境整備が重要であると。このため、抜本的なイノベーションを生み出す「個性」と「異端」の資質を備えた人材が必要だといっています。不確実性が増大していることは、過去やパターンに捉われない「柔軟な発想」と「自ら考える力」、タフネスを持つ人材が求められていると。そして、日本人の留学機会の増大と留学生の更なる受け入れを提言しています。なぜなら、留学は、「語学力向上のみならず、グローバル人材に必要な力を養う役割が大きい」からです。

このようにタフな人材が求められています。若い人たちにはぜひこのようなチャレンジに挑戦してほしいと思います。

日本青少年研究所が今年4月に発表した日、米、中、韓国の4カ国の計7200人の高校生を対象にした生活意識と留学に関する調査は、日本の若者についてあまり元気のある結果が出ていません。日本では、「自分はダメな人間だ」、「自分の将来に不安を感じている」、「人並みの生活が出来れば十分だ」といった項目での比率が他の3国に比べて際立って高い。また、日本の高校生は海外留学への関心が4か国中もっとも低く、「留学したいと思わない」という日本高校生が5割強にも上っています。その理由は、「自分の国が暮らしやすいから」、「言葉の壁があるから」、「外国で一人で生活する自信が無いから」、「面倒だから」が多く挙げられています。

新入社員のグローバル意識にも内向き傾向が見られます。産業能率大学が新入社員を対象に行った調査では、海外で働きたくないというのが2001年度は3人に1人だったのが、2010年度には2人に1人に増えています。特に、新興国や発展途上国で働くことを希望する若者の割合は低いという結果が出ています。

ですから、最近のワシントン・ポスト紙は、日本の若者は、「リスクを避け、野心に欠け、安定と居心地の良さを最優先していると見られている」と報じています。

私は、声を大にして、若い人たちに言いたい。安定と居心地の良さだけを求める毎日を送り続けて、人生に何の価値があるのですか、と。若い時にリスクを避け、新しいことにチャレンジしないで、いつするというのですか?人生はあまりにも短く、気が付くと秋風の吹く老人になっていますよ、と。

日本では、これまでにも、役所や企業などのどの組織にも、国内派と国際派がありました。そして、関係者との根回しや泥臭い付き合いなどに強い国内派の人たちが、組織の中で重要なポストにつく傾向がありました。しかし、これからの時代の日本は、国民全員、特に若い人たちが否が応でも国際派にならなくてはいけません。

日本企業のこれからのビジネス展開を考えた場合、これからますますグローバルな人材を必要としていることは明白です。成長の中心のアジア諸国を始めとして、日本企業の海外シフトはますます加速するでしょう。企業で求められているのは、海外事業展開を担えるグローバル人材です。現地社員を上手にマネイジでき、ITからマーケテイングなどの専門知識と英語力が不可欠です。

日本はこれから人口、労働者数、経済力、製造業、資本投資など、どの分野をとっても右肩下がりです。今若い人たちが「居心地の良い日本」に満足しているとしたら、その状態は長くは続かないでしょう。若い人たちが、元気を出して、海外にも雄飛し、日本の活力を呼び戻してくれなければ、日本は本当に「没落と苦悩に喘ぐ国」になるかもしれません。

グローバル人材に必要なのは、まず語学です。英語の能力では、2010年のTOEFLスコアのランキングで、日本は163か国中135位でした。アジアの中では、30カ国中27位で、韓国、中国、アフガニスタン、モンゴル、ベトナムなどの後塵を拝しています。これは何とかしなくてはいけません。皆さん、外国語は、1ヶ月や、1年間でマスターできるものではありません。一生かけてやるものです。そう観念して、こつこつと努力してください。それしかいい方法はありません。特に、グローバルに活躍する理工系の研究者には、論文、専門書、ウエブサイトなどを読みこなすために、また、研究成果を学会やセミナーで発表するために、英語は不可欠です。

私は、日本の若者が、グローバル人材への我々の期待に応えてくれると信じます。政府や企業もそのための環境整備を整えようとしています。これまで懸念の強かった海外に留学したあとの就職についても、最近の傾向としては、かなり改善を見ていると思われます。例えば株式会社デイスコの採用活動に関する2012年2月の企業調査では、グローバル人材としての日本人留学生への関心が高まっており、特に1,000人以上の大手企業では3社に1社以上が留学生を採用すると答えています。このように障害が取り除かれれば、海外留学生数も増えるでしょう。

一昨年ノーベル化学賞を受賞された根岸栄一教授は、新聞記者やテレビでのインタビューで、「日本の若者よ、海外に出よ」とおっしゃっていましたね。「日本は居心地がよいし、海外のほうが優秀とは限らない。しかし日本を外から見る機会がこれからますます重要になる」と。

皆さんのように理科系の人は、海外留学も文科系に比べてたやすいはずです。数学などは、世界各国どこに行っても同じですから、言語や文化の違いによるハンデイキャップはありません。世界の人たちとすぐに競争できます。ノーベル物理学賞の江崎玲於奈、医学生理学賞の利根川進、化学賞の根岸栄一氏などは、みなアメリカに留学して大成された人たちです。

海外で学んだり、仕事をして、何が役に立つかというと、それは、一にも二にも、自分に自信がつくことです。自分を世界の水準で計ってみることが出来るようになります。それから、外国人を「外人」と思わなくなることです。世界中の人たちが、自分の同僚や友人、あるいは自分と変わらない人たちだということが、肌で感じるようになります。これは経験してみないと出来ません。

実力を試す分野、たとえばスポーツの世界や音楽、美術、映画、ファッション、アニメ、小説、料理などでも、どんどん世界が小さくなっています。是非とも若い皆さんには、世界水準で物事を考え、競争し、行動していただきたいと思います。

世界は広く、自分の可能性を試す機会が山とあり、元気のある日本の若者を待っているところが世界中に一杯あります。大学や、研究機関、国際機関、特に国連がまさにそうです。NGOやボランテイア活動などもそうです。日本人は、真面目で責任感が強く、しかもチームワークを大事にしますから、どこでも高い評価を得ています。特に国連では、日本人職員数が少なすぎて、もっと増やそうとしているところです。国際機関のスタッフとなった人たちから、将来トップのポストを狙ってもらおうではないですか。

世界中で日本人がリーダーとして活躍することで、日本へのイメージも変わるでしょう。日本の国際的な影響力も増すでしょう。日本人の良いところも見直されるはずです。そうすれば、もう誰も「日本没落」などとはいわなくなるでしょう。ロムニーさん、あなた間違っていましたよ、と見返してやってください。

日本が、いろんな分野で活気があって、世界の国々から尊敬されて国の勢いを取り戻すようになるためには、皆さんのような若い人たちが、世界に打って出て、世界水準で考え、世界で活躍されることが不可欠です。内にこもることなく、自信を持って世界を相手に大きく羽ばたいてください。

皆さんのこれからの活躍を期待して、私の拙い話を終えたいと思います。ご清聴ありがとうございました。