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精密機械工学科教員が新入生に薦める本

良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。人生は短く、時間と力には限りがあるからである。
(ショーペンハウエル)

■井上英夫 教授(生産環境工学)

  1. 国産カメラ開発物語,小倉磐夫 著,朝日選書684,朝日新聞社
    諸君が精密機械工学科で学ぶ意義を具体的に自覚し,大きな目標と自 信を持ってもらうために読んで欲しい好著である.世界に誇るカメラを 作るという「もの作り」に関わった技術,人,社会,政治,思想がいき いきと語られている.高い目標と使命感を持った企業家と技術者が優れ た精密機械を生み出すストーリーは諸君が4年間学ぶことの意義を実感 させてくれるはずである. 本書を読んだ後で精密機械工学科の履修要項と講義要項を見て欲し い.学科の学習内容が実産業社会においてどのように貢献できるか具体 的に理解できるはずである.どの科目も君が卒業後に活躍するためには 意欲的に深く学んでおくべきものばかりであり,君はその学びのスター トラインに今立っているのだ. 同じシリーズの『自動車が走った,中岡哲郎 著,朝日選書618,朝日 新聞社』も実社会で精密機械工学がいかに有用で技術者をひきつける学 問であるかを確信できる好著である.
  2. ねじとねじ回し,ヴィトル リプチンスキ 著/春日井晶子 訳,早川書房
    本書は精密機械工学を学ぶ諸君の信念を揺ぎ無いものにするねじの 歴史物語である.本書の推薦文は,本書帯に書かれたニューヨークタイ ムズブックレビュー記事で十分であろう.すなわち「精密さを尊ぶ近代 科学など,機械的な精度なくしてはすまないものはすべて,シンプルな ねじと,それを作りだす複雑きわまりない機械の発明が可能にした.著 者の論旨を勝手に広げさせていただければ,この千年最大の快挙である DNAの2重らせん構造の発見さえ,ねじ山のらせんなくしてはなかった はずである」.高校の物理で学んだ「斜面の力学」が「ねじ工学」を支 えるバックボーンとなっていることも本書で理解できよう.
  3. 質問力,齋藤 孝 著,筑摩書房
    「技術者は寡黙なり」などは現代では通用しない.就職試験などでも コミュニケーション能力が第一位で要求される.しかし諸君がしゃべり 下手かというとそうでもない.友達同士ではうるさいくらい良くしゃべ っている(授業中の雑談は厳禁です!).携帯電話でもあきれるほどの 長電話である.それにもかかわらずなぜ企業から高いコミュニケーショ ン能力が要求されるのだろうか.それは「おしゃべり」と「対話・会話」 はまったく違うということである. 本書は「相手に質問する」ことの重要性に注目し,その能力の高さが 有意義な会話を生み出し,対話を継続させることを具体的に解説してい る.本書からどのように質問すべきかを読み取って欲しい. 大学の講義などで,「質問があればどうぞ」などと学生に問いかける と,実は良く理解できていない講義内容があるにもかかわらず「どう質 問していいかわからない」という返事が少なくない.講義,研究発表な どで学生からの質問はほとんどでない.しかし企業では有効な質疑応答 が継続的に成立しなければ組織,チームとしての連携機能,向上機能は ゼロとなる.本書を読んで質問力を磨き,実社会で通用するコミュニケ ーション能力の向上につなげて欲しい.4年間の学生生活には質問力修 練の場が無数に用意されているはずである. 先ず最初の講義で教員をうならせるような質問がでることを期待し つつ本書を推薦したい.

■井原 透 教授(知能化機械加工)

  1. テクノロジストの条件,ピーター F.ドラッガー 著/上田惇生 訳,ダイヤモンド社
    若者に進路を助言するのが先輩の役割だといわれる. 21世紀におい て最も価値のある資産は知識だと言われている世相を慮ると,先輩であ る私が薦める進路のひとつとして「知識労働者」をあげたい. 本書は, 知識労働者としてテクノロジストを紹介している. テクノロジストとは, 車の修理技師や歯科技工師のような「専門知識を用いた労働を行なう技 術者」である.いわば,専門知識を用いた労働を行なう医者や弁護士の 技術者版である. 本書では知識労働の生産性向上の条件として,①テクノロジストは目 的意識を持つこと,②自らに責任を課すこと,③継続してイノベーショ ンを行なうこと,と記載されている.この「イノベーションを行なうこ と」に書かれている内容が傾聴するに値する.イノベーションを行なう ためには新しいものへの貪欲さが必要であり,イノベーションの成果は 測定できるものではないので判断力が非常に重要になるとされる. すなわち,テクノロジストになるためには,新しい学問への貪欲さと 的確な判断力を養うことが重要となる。この貪欲さと判断力養成を目指 して大学生活を過ごせば,新入生である貴方の進路のひとつに,テクノ ロジストという「知識労働者」が有望な選択肢として付け加わる.
  2. デザインとテクノロジー,ジェームス ガラット 著/ 高坂文雄 訳,コ スモス
    イギリスで16 歳までに学ぶ教科書として使われている本の訳書であ る.図や絵が多くて,分かりやすく,しかも幅広い内容が含まれている. 加工に関しては,形削りや仕上げなど基礎的な事柄が材料に対応させて 説明されているし,射出成型機も解説されている.面白いのは,トレー ニング問題として,多くのプロジェクトと生徒の解答例が紹介されてい る点と「大量生産された製品」の章で,TQM(企業や組織における経 営管理技術),チーム活動(日本で実績のある経営手法)などについて 触れている点である.日本の中等教育ではこのような仕組みに興味を持 たせる教科書や項目内容が少ない.そこで,新入生である貴方のための ものづくり入門書として薦めたい.なお,内容例は次のURLにある. http://dt.ncosmos.co.jp/special.html
  3. 乗り物をつくる機械,伊東 誼 著,テクノライフ選書,オーム社
    前述の書に何となく物足りなさを感じるようであったら,本書を薦め たい.機械の初学者に分かりやすくと書かれているが内容は高級であ る! 本書を読んでない中堅機械技術者に,本書で得た専門知識を吹っ かけてみると(怪我をするかもしれないが)面白いやつだと思われるだ ろう.プロを良く観察した上で,小生意気に話かけるという日本風エン ジニア文化へのイニシエーションが済んでしまうだろう.しばらくの精 進後に認められれば,中堅どこの豊富な体験談を入手できるかもしれな い.この手の専門知識の補強には姉妹編である『機械をつくる機械,伊 東 誼 著,テクノライフ選書,オーム社』の一読も面白い. なお,同著者の非売品の書に,工作機械の原案図(計画図),組立図, 大物部品図がたくさん入った『物つくり立国への道標』という本がある. 世界に誇る工作機械つくりの息詰まるような記録である.残念ながら入 手困難であるが,機械系を志す人にそうした息吹を伝える本が他にもあ るように思われるので,機会があったらそうした書にも一度は触れたほ うが良い.鬼気迫る技術屋 (テクノロジスト) 魂が垣間見れる.
  4. のめり込む力,川上真史 著,ダイヤモンド社
    就職を意識しだすといろいろなハウツー本を読むようになるもので ある.そうした読者層を狙っている本にも思えるが,面白いこと(自尊 感情やワークライフバランスの重要性,上司世代のコミュニケーション の違い)を言っているので取り上げてみたい. 自尊感情とは「自分にはこれができる」という明確なイメージを持つ ことである.これを持つことによって「あの人はここが優れている」と 他人と共感できそれがシナジー効果を生むという.これは,新入生であ る貴方がこれからの大学生時代に「自分にできること」を見つけ,身に つけることが重要である,という隠喩として受け取ると良いだろう. ワークライフバランスとは仕事と趣味/家庭を両方とも楽しみなさい ということであるが,そのポイントは楽しむ時間の配分ではないそうで ある.ポイントは精神的な重みのバランスだそうで,つまり,残業を減 らせばバランスが取れると単純に考えてはいけないそうだ.やるときに は睡眠時間を減らしてでも徹夜してでもやり,それを乗り切ったら完全 な休みを取る,といったふうに長期的スパンでバランスを取ることが重 要であるようだ.4年生になったときの卒業研究での終夜実験と通じる ところがあり,私には面白い内容だった. 上司世代のコミュニケーションの違いも面白い.新入生の貴方はおそ らくメールを送ればすぐにチェックして即返信するのが当たり前だと 思っているであろう.ところが貴方の上司世代に対応する年齢である私 は学生時代にメールなどなかった.したがって今でもメールをこまめに チェックする習慣はない.ツイッター(Twitter)をするなど信じられ ないことだという世代である.貴方が,そういう上司世代の人とコミュ ニケーションを取る場合には,伝えたい「中身(内容)」を直接会って確 実に伝えることが必要だそうだ.夢にも何となく「脈絡(文脈)」で通じ るだろうなどと思ってはいけないようだ.昨今の就職活動時期に良く 「今時の若い者はコミュニケーションができない」と言われる.その言 わんとするところに上記のような世代間断絶のあることを知っておく ことは貴方にとって有益である.今後,上司世代の人には直接会って「中 身(内容)」を確実に伝えるようにすると良い.貴方が「コミュニケーシ ョンのできる奴」と評価される手助けになること請け合いである.

■梅田和昇 教授(計測工学)

  1. 百億の星と千億の生命,カール セーガン 著/滋賀陽子・松田良一 訳, 新潮文庫,新潮社
    著名な天文学者であったカール・セーガン氏が書いたエッセー集.科 学に関する広範なテーマを扱っており,幅広く教養を身につけつつ,地 球温暖化に対する考え方,科学が,あるいは我々が今後どのように進む べきか,などについて深い示唆が与えられている.科学技術に携わる者 としてグローバルな視点を養うために薦められる1冊である.
  2. パラサイト・イブ,瀬名秀明 著,角川書店
    有名なホラー推理小説である.小説のストーリー自体の面白さにプラ スして,副次的ではあるが,大学の研究室での研究・学会活動とはどの ようなものかを垣間見ることができるのが推薦の理由である.なお,瀬 名氏には「あしたのロボット」(文庫版は「ハル」)という現在のロボ ット技術をベースにしたSF小説もあり,これも切なくも面白い.
  3. 日本語の作文技術,本多勝一 著,朝日文庫,朝日新聞社
    代表的なルポライターである著者が書いた,論文・レポートなどの技 術書を書くための技術をまとめた本.句読点や助詞の使い方をはじめ, 良い文を書くために参考になる内容が満載である.
  4. 銀河鉄道の夜,宮沢賢治 著,新潮文庫,新潮社
    とても美しく優しい小説.できれば小説を読むだけでなく自分自身で 銀河をながめ,宇宙の調べを感じて欲しい.農学者でもあった宮沢賢治 の小説は,人への愛情に満ちたものが多く,他にも「グスコーブドリの 伝記」などお薦めである.工学者として,それ以前に人として,何を目 指せば良いか,ヒントが見えるかもしれない.

■大久保信行 教授(機械力学)

  1. 機械と運動の科学 - マシン・ダイナミックス入門,レオナルド モン ダー 著/大田 博 監訳,日経サイエンス社
    英国の王立協会におけるクリスマス講演での内容にもとづき,機械の 運動に関する興味ある実験などが図入りで紹介されている.この講演は 一般向けであるにもかかわらず長い歴史を誇り,だれでもが知っている 偉大な科学者が話をしている.前書きにある「動くものは,静止してい るものよりも目にとまる」(シェークスピア,ユリシーズのアキレスへ の忠告)の意味をこの本を読んでよく考えてみよう.
  2. 図解雑学 機械のしくみ,大矢浩史 監修,ナツメ社
    身の回りの機械のしくみについてそれぞれ解説1ページ,図1ページで 説明している.一見,複雑そうな機械でも基本的でシンプルなしくみの 組み合わせでできていることがわかる.普段あまり気にしていない機械 の原理について改めて考えることができ,これからの大学での勉強のス タートに役に立つ.

■大隅 久 教授(ロボット工学)

  1. ゾウの時間ネズミの時間,本川達雄 著,中公新書,中央公論新社
    自然界に存在する動物のサイズの根拠を科学的に解説している.日常 の何気ない現象に対して科学的な目を持つためのヒントになる本であ る.
  2. ロボット21世紀,瀬名秀明 著,文春新書,文藝春秋
    ホンダのアシモ,ソニーのアイボ等をきっかけに,最近,人間型のロ ボットに関する関心がにわかに高まっている.しかし,人間型ロボット に対するマスコミの取り上げ方と研究者の認識は,必ずしも一致してい ない.本書は,豊富な研究者への取材を通じて,ロボットとは何か,ロ ボット研究を通じて何がわかるのか,ロボット研究はこれからどんな方 向に向かおうとしているのか,を研究の現状レベルを踏まえ,的確にま とめ上げたものである.大学でロボットを研究したいと考えている諸君 にはぜひ一読して欲しい.
  3. カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー),赤と黒(スタンダール), ファウスト(ゲーテ)
    これら世界の名作と呼ばれる小説は,中学や高校で推薦図書として取 り上げられているが,決して子供向きに書かれたものではない.大人に なって読んでこそ,その良さを実感できるはず.まだ読んだことが無い 諸君には,ぜひ一読を勧める.
  4. 理数オンチも科学にめざめる! 高校物理"検定外"教科書,山下芳樹 著, 宝島社新書,宝島社
    今は教科書で当たり前に教えられる様々な物理法則の発見されてい くプロセスが,図解や漫画を利用してたいへんにわかりやすく紹介され ている.歴史的に名を残す人々が行った思考実験の考え方は,将来新た な問題に出会った時にも大いに参考になると思う.
  5. 学問のすすめ 現代語訳,福沢諭吉 著/斉藤 孝 訳,ちくま新書,筑 摩書房
    かの有名な"学問のすすめ"の現代語版で,大変に読みやすい.明治 時代に書かれたにもかかわらず,今の若者のために書いているのではな いかと思われるほど現代にマッチしている.この本を読んで志を高めて 欲しい.

■辻 知章 教授(材料力学)

  1. 天才数学者たちが挑んだ最大の難問 - フェルマーの最終定理が解け るまで,アミール D.アクゼル 著/吉永良正 訳,ハヤカワ文庫NF,早 川書房
    「Xn +Yn = Zn は,n が2より大きいとき,自然数解を持たない.」 17世紀のアマチュア数学者ピエール・ド・フェルマーは,本の余白に数 行のメモを書き残した.これこそが,のちに "史上最大の難問" と呼ば れ,数学者たちを悩ますことになった「フェルマーの最終定理」である. その後何世代にもわたって,有名無名の数学者たちや数学ファン,さら にはコンピュータまでもが…. ドラマチックな部分もあり,感動できる本である.海の向こうでの話 ではなく,2人の日本人数学者の物語が絡み,非常に身近に感じること ができる.数学が嫌いな人にぜひ読んでもらいたい1冊である.ちなみ に,定理の解説をするための本ではないので,数式を見ると眠くなる人 が安眠するために読んでも効果はない.
  2. 折り紙ヒコーキ進化論,戸田拓夫 著,生活人新書,NHK出版
    「切らない」,「貼らない」,「動力なし」.そして,よく飛ぶこと. それが,折り紙ヒコーキの定義である.オリジナルの折り紙ヒコーキを 25年以上研究し,立体折り紙ヒコーキ「スペースシャトル」の作者であ り,滞空時間18.10秒(室内)の記録を持つ著者が,飛ばし方のコツや折 り紙ヒコーキの未来予測を語る.読んで,折って,飛ばして楽しむホビ ー新書. 大学生の頃,一時期紙ヒコーキに凝っていた時期があった.今では折 り方をすっかり忘れてしまった.日本の伝統,折り紙.ケータイで親指 ばかりが器用になっていないだろうか? 左右両手を使う根気のいる 作業で,脳も活性化される.宇宙から折り紙ヒコーキを飛ばして,地球 に軟着陸させる計画もあるとか! 理論的には可能らしい.
  3. 考えないヒト - ケータイ依存で退化した日本人,正高信男 著,中公 新書,中央公論新社
    通話,通信からデータの記憶,検索,イベントの予約まで,今や日常 の煩わしい知的作業はケータイに委ねられている.IT化の極致ケータイ こそ,進歩と快適さを追求してきた文明の象徴,ヒトはついに脳の外部 化に成功したのだ.しかし,それによって実現したのは,思考力の衰退, 家族の崩壊などの退化現象だった.出歩き人間,キレるヒトは,次世代 人類ではないのか.霊長類研究の蓄積から生まれた画期的文明・文化論. 諸君には耳の痛い話かもしれない.専門家が今のケータイ依存社会を どのように見ているか? 「自分はケータイが必要だと思うから,聞く 耳持たない!」とつっぱねないで,反論するか,賛同するかは,まず意 見を聞いて,じっくり考えてみてからにしよう.ちなみに,辻はまだケ ータイを持っていない.
  4. なっとくする材料力学,辻 知章 著,講談社
    まずは出版社の宣伝文から.面白くて圧巻,わかって快感! 背たけ よりも高いスパゲッティーの塔を作ろう! 材料力学は難しくてツマラ ナイというのはウソである! 本当はやさしくて面白い.本書では,ス パゲッティー,豆腐といった身近にあるものを使って,応力,せん断力, はりの曲げなど,材料力学の「キホンのキ」から応用までを2時間でな っとくしてもらう.「目からウロコ」間違いなし! 続いて,著者であり推薦者である辻の言葉.教科書ではなく,読み物 を目指して書いた本である.したがって,この本を2時間で一気に通読 したとしても,材料力学の問題がスラスラ解けるようにはならないので, ご注意のほどを.力学と名のつく学問が苦手な人にぜひ読んで欲しい. 材料力学を勉強する前の予備学習に,あるいは,どうも材料力学は難し くて性に合わないと思う人に,お薦めである.
  5. 強さの不思議 - ものづくりで遊ぶ材料力学,日本機械学会 編,技報 堂出版
    先生とA君の会話形式で進む話題のページ,それについて詳しく説明 する解説のページ,さらに詳解する学習のページに分け,難解な材料力 学を平易に学習できるよう構成している. 私も編集の手伝いをしている.難しい本(専門書)だけでは何となく 実感が湧いて来ない人は是非読んで,実践して見てほしい.ものを作る ためには,実体験が必要である.色々なものを実際に手に取って見て, 変形や力の加わり具合,壊れる様子の体験無くして,良いものができる はずがない.中学校高学年程度からでも分かるように工夫されている. 野山を駆け回って遊んだ経験が無い人は必読!

■戸井武司 教授(音響システム工学)

  1. 五体不満足,乙武洋匡著,講談社
    先天性四肢断裂のため生まれつき両手両足のない障害を持ちながら, 早稲田大学政経学部を卒業した筆者の前向きに生きる姿勢が紹介され ている.車椅子での生活でも「障害は不便です.だけど不幸ではありま せん.」と思いながら,人生を楽しみ,自分を小さな枠にはめ込まない 考え方を学んで欲しい.
  2. 考える力を養う情報収集法,草野 厚 著,太陽企画出版
    情報過多の現代において,多くの情報を如何に取り入れ,整理するか, またこれらを如何に活用するかについて書かれている.書籍,新聞,雑 誌,テレビなどからの情報収集法と多面的なものの見方を身につけて欲 しい.
  3. 音の何でも小辞典,日本音響学会 編,ブルーバックス,講談社
    身近な音に関して,80項目を取り上げてわかりやすく解説している. 音声,音楽,コンサートホールから騒音低減のための技術まで幅広く紹 介されており,本書から音の世界の扉を開いていただきたい.
  4. トコトンやさしい音の本,戸井武司 著,日刊工業新聞社
    音には,人を快適にする音(快音)と不快にする音(騒音)があり, 自動車や家電,OA機器,カメラなど低騒音化は必ずしも快適な音環境 を創り出すことにはならない.図を多用してわかりやすく解説した本書 から,音の基礎知識,音の分析と評価手法,音の可視化,快音設計など を学び,身近な現象を洞察する力を養っていただきたい.

■中山 司 教授(流体工学)

  1. 鳥と飛行機どこがちがうか - 飛行の科学入門,ヘンク テネケス 著/ 高橋健次 訳,草思社
    飛行機に興味を持ち,飛行の原理や流体力学を学びたくて大学へ入学 した諸君も少なくないであろう.本書は,カモやガチョウ,ツバメ,蝶 などの飛翔データを利用して航空機の飛行性能を論じ,飛行の諸法則を 解説したものである.鳥と飛行機は同じ原理で飛んでいることが明らか にされ,飛行機は理想的な鳥であることが示されている.本の帯にある とおり「肩のこらない楽しい航空学」の本である.しかし,飛行の原理 を説明するのに数式と数値は欠かせない.そこで本書でも数式と数値デ ータがかなり登場する.それは著者が「序」でことわっているように, 「まったく公式を避けると,説明に必要な数値を空中から魔法で取り出 したかのように思える.それでは読者の理解にはあまり役立たない」か らである.しかし恐れることはない.数式は簡単な代数式で,微分や積 分などは使われていない.「肩のこらない楽しい」という帯の宣伝文句 は伊達ではない.数式が混ざった縦書きの文章を読むのに違和感を覚え るかも知れないが,これも理科系ではない読者のためを考えた訳者と出 版社の配慮であろう.本書を読んで飛行の原理に興味を持った諸君は, その基本である流体力学の理論を学んでみるとよい.
  2. イルカに学ぶ流体力学,永井 實 著,テクノライフ選書,オーム社
    英国ケンブリッジ大学の著名な生物学者グレイ(J. Gray)は,イン ド洋の航海から帰ってきた他の学者の観察記録として,体長2mのイル カが船に並行して秒速約10mの速さで遊泳したと紹介した.そして,そ の数値を元にして,そのイルカの筋肉重量あたりの発生パワーを0.074 馬力と見積もった.これは,よく鍛えられたヒトあるいはイヌについて 報告されている約0.01馬力の7倍にもなる.グレイは,海洋性哺乳動物 の筋肉が陸生哺乳動物のそれの7倍ものパワーを発生するのはとても考 えられないとして,新たなパラドックス(背理)を提起した.なぜイル カはこのように速く泳げるのであろうか.本書は,イルカをはじめ海や 川などの水域に生きる動物たちの高速遊泳のしくみを解き明かしなが ら,流体力学の原理をわかりやすく解説した流体力学の入門書である. さらに,本書では,著者の研究室(琉球大学工学部)で開発された自動 機械魚についても述べている.水中ロボットに興味のある諸君にもおも しろく読める1冊である.
  3. おもちゃの科学(全6巻),戸田盛和 著,日本評論社
    高校の物理で力学を学び,力学アレルギーを持ってしまった不幸な人 は多いだろう.無味乾燥な,そしてなぜそのような式が成り立つのか理 由もわからない公式がやたらと登場し,それを暗記しなければならない のだから,当然である.本書は,その力学アレルギー解消の特効薬であ る.やじろべえ,だるま落とし,コマ,凧といった身近な"おもちゃ" の動きを,力学的に考察しており,力学の使い方や力学的な考え方が平 易な文章で語られている.しかし,おもちゃの運動を分析しているだけ ではない.たとえば,おもちゃのやじろべえの話から「やじろべえ工法」 という橋の作り方の話へ発展したり,凧の話から流体力学が登場して航 空機の飛行の原理に発展したり,たいへん興味深い.たとえば第1巻の 内容は,人形の競争/やじろべえ/だるま落とし/蛙のぶらんこ/ぶら んこ・きつつき/歩くやじろべえ/平和鳥とポンポン蒸気船/磁石のお もちゃ/ういてこい/こまの不思議/ヨーヨー・フラフープ/やわらか なばね,となっている.豊富な図が理解を助けてくれる.1巻あたり12 ~20のおもちゃが取り上げられており,どの巻を先に読んでもかまわな いし,特定の章だけを拾い読みすることもできる.とりあえず,どれか 1巻を読んでみてはどうだろうか.君は力学の虜(とりこ)になる.
  4. 新版 きけ わだつみのこえ - 日本戦没学生の手記,日本戦没学生記 念会 編,岩波文庫,岩波書店
    諸君は「学徒動員」という言葉を知っているだろうか.太平洋戦争た けなわの1943年9月,大学高専生の徴兵猶予(学校在学者の徴兵時期を 特例として延ばす措置)が停止され,満20歳に達した学生は直ちに全員 徴兵検査を受け,入隊することが指示された.諸君と同年代の若者達が, ペンや絵筆を銃に持ち替えて戦地へ赴き,学問への思いを残しながら, また祖国と愛する者の未来を憂いながら死んでいった.この本はそのよ うな若者達の日記,手紙,遺書を集録したものである.この本を読んで 戦争と平和について考えるのもいいが,時代の流れに翻弄され,学びた くても学ぶことを封じられた20代の若者達がいたことを知るだけでも いい.何不自由なく勉学に没頭できることがどれほど幸せなことかを考 えて欲しい.

■平岡弘之 教授(生産情報システム)

  1. 夜間飛行,サン テグジュペリ 著/堀口大学 訳,新潮文庫,新潮社
    この著者は日本では「星の王子様」で有名になりすぎて童話作家のよ うに思われているが,私はこの本や「戦う操縦士」の方が気に入ってい る.誰でも,自分の仕事には日毎の糧をかせぐ以外にどのような意味が あるのだろうと,一度は考えたことがあるのではないだろうか? なぜ このようなことに一所懸命になる必要があるのか? 多くの文学者や哲 学者がさまざまな答えを用意しているが,まだ夜に飛行機を飛ばすこと が今の宇宙飛行のように危険だった時代に夜間飛行に乗り出す人々を 描くことでサン・テグジュペリが示した答えは,私の心につよく響いた. 技術に携わる者の心意気のあり方の良い手本と思う.この本を推薦する 理由である.
  2. 男子厨房学入門,玉村豊男 著,文春文庫,文藝春秋
    我々は眼前の問題の対応に追われて小手先の処置でものごとをすま すことが多いが,より高い視点,より広い視野で問題を解決することこ そが技術の進歩に繋がる.この著者は文学部の出身で,この本は題名か らもわかる通り料理の本である.しかし,その手法は,視点を変えるこ とによる問題の統一的解決という,我々技術屋を悩ます難問の解決例の 好例である.私はたいへん感心した.目から鱗,笑って読み終われば, 諸君も自分の難問に挑戦する元気が出るに違いない.
  3. オイラーの贈り物,吉田 武 著,ちくま学芸文庫,筑摩書房
    私は数学が苦手である.精密機械工学の問題を扱うのに数学がとても 有用であることはわかるが,できれば避けて通りたいほうである.数学 の先生方には悪いと思いつつ,何を好きこのんで数学なんか研究するの かと思っていた.それがこの本を読んで数学者が数学にのめり込む理由 がわかった.この本の優れているところは,第一に文庫本であることで ある.すなわち,家で寝転がって,あるいは電車の中で読まれることを 想定している.そのために,高校の数学程度の基礎があれば他の文献を 参照せずに読めるようわかりやすく書かれている.(とはいえ,数学の 本ではあるので,私の場合やはり他の文庫本より時間はかかった.)第 二に,脇道はいろいろあるものの(そしてそれらがそれぞれとても楽し いのではあるが),一つのテーマ(オイラーの式)へ向けて話が進めら れている点である.そしてその終着点のオイラーの式の不思議さは,感 動的でさえある.我々の住む世界は,なんでこんなことになっているの だろう.本書は,専門の話をいいかげんでなく,わかりやすく,しかも 楽しく話すという我々教員がめざす難しい目標をあざやかに実現して いる.貴君もぜひ,隣のサラリーマンが漫画を読んでいる電車の中で, 数学の不思議さを堪能してみてほしい.
  4. ローバー,火星を駆ける,スティーブ スクワイヤーズ 著/桃井緑美子 訳,早川書房
    2010年に小惑星探査機「はやぶさ」が帰還したときは日本中が興奮し た.関連する映画を見たり本を読んだ人もいると思う.この本も同様に 惑星探査の話で,米国が打ち上げて2004年1月に火星へ到達した2台の火 星探査車(ローバー),スピリッツとオポチュニティの開発物語である. 当初は3ヶ月もてば良いという予定であったのが,はるかに超えてスピ リッツは2011年まで活動し,オポチュニティは8年 (!)が過ぎた今もま だ探査を続けている( ローバーの最新情報は http://www.nasa.gov/mission_pages/mer/index.html 参照).著者がミ ッションの研究代表者なので内容は正確であるが,それでいて楽しく読 める.諸君らも4年次になると卒業研究を行うし,大学院まで進学すれ ば研究中心の生活になるが,研究とは,予算(あのNASAでさえ,やは り予算は十分でない)と時間(地球と火星の位置関係がちょうど良い時 期にロケットを打ち上げなければならない)に追われながら,思わぬ問 題や失敗に四苦八苦しつつ,みんなで何とか夢を実現する作業であるこ とがよく描かれている.そして,火星探査計画が何度も危機に瀕しなが ら成功へ至った原動力が,優れたエンジニアたちの不断の努力にあるこ とがよくわかる.本書は,科学者である著者からの,与えられた課題を 気配りと想像力と頑張りでこなすエンジニアたちへの賛辞である.我々 のめざすエンジニアの姿がそこにある.
  5. 予想どおりに不合理 - 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわ け」,ダン アリエリー 著/熊谷淳子 訳,早川書房
    物の値段は,その性能や品質に対してちょうど良いところで,つまり 需要と供給がバランスするように決まるというのが経済学の説くとこ ろである.ほとんどの人間は,商品の内容に比べて高すぎるような買い 物はせず,いちばん得になるような「合理的な」判断ができるというの が前提である.ところが実験して調べてみると,人間の行動はぜんぜん 合理的でなく,しかもみんな同じように間違える,つまり「予想どおり に不合理」である,というのがこの本の内容である.行動経済学という 新しい学問であるらしいが,そんな難しい話はちっともなくて,いろい ろな楽しい実験とその結果に,思わず「たしかに」とにんまりしてしま う.基本的な前提であっても「ほんとにそうか」と疑ってみること,実 際に実験して確かめてみること,が大切なことがよくわかる.

■松本浩二 教授(熱工学)

  1. 世界がもし100人の村だったら,池田加代子 再話,マガジンハウス
    現在,地球上には63億人の人が住んでおり,その中で,宗教や人種の 違いなどで,世界各地で内戦やテロが起こっている.地球上の富はごく 少数の人で占められ,貧富の差はますます拡大していく.その一方で, 環境の汚染や破壊は地球全土に広がっている.そこで,もし世界を100 人の村にたとえてみると,今まで見えてこなかった数々の事柄の本質が 見え,今我々が何をすべきかを考えさせてくれる.今こそ一読すべき書 である.
  2. 氷の科学,前野紀一 著,北海道大学図書刊行会
    水は人間が生きていく上で最も重要な物の一つである.水は安全・安 価で,環境汚染も起こさない.そんな水から生成される氷が冷熱エネル ギー貯蔵の観点から注目されている.また,氷は非常に身近であるが, 例えば,多くの物質が液体から固体に相変化するとき体積が減少するの に対して,水から氷に相変化するときは逆に体積が増大する等,実は非 常に特異な特性を有している.この本はそんな氷の特性(物理学)につ いて数式を全く使わず分かり易く説明している.
  3. 失敗百選,中尾政之 著,森北出版
    「人は誰でも同じような失敗をする.そこで,過去の失敗事例を知る ことができれば,失敗予知能力が高まるはずである.」との観点から, 過去の機械エンジニアリングに関する実際に起った事故,事件の200例 近い事例について41個に分類し,それらの事例を事故名,事件名と発生 年及び時系列,主な原因及び同じ分類に入る事故名等を示してわかり易 く解説している.その中では,機械系の学生にもなじみ深い言葉である 「熱応力」,「振動」,「金属疲労」等が事故の主要因である旨記載され ている.この本は,機械系エンジニアを目指す我が精密機械工学科の学 生には必読書と考える.

■中村太郎 准教授(バイオ・メカトロニクス)

  1. 物理の散歩道,ロゲルギスト 著,岩波書店
    「ロゲルギスト」とは外国人ではなく,1960年代に計測と制御の問題 を中心に集まった日本の物理学者の集合である.この本は,このロゲル ギストの人々が,身辺の種々雑多な事柄を捉えてこれを物理学的な見方 で掘り下げた随筆風の小編を幾つか集めたものである(本文引用).確 かにこの本は「散歩道」というにふさわしい自由で開放感のある物理学 を展開しているように感じる.いまから40数年前というと,現代制御理 論の分野においては,学問体系として確立されはじめた頃にあたると考 える.このような時期にグループを作り,ある身近な現象について議論 し,物理現象を探っていくことは,さぞ楽しかったことだろうと察する. 通常の参考書のように人に教えるための書ではないので,不自然さを感 じる人もいるかもしれない.しかし,普段からこのようなことを考えた り感じたりすることの喜びを,本書を読むことで知ってほしい.
  2. 理科系の作文技術,木下是雄 著,中公新書,中央公論新社
    私の友人に,非常に分かりやすくかつ簡潔に論文やレポートを書く大 学の教員がいる.この友人に「なぜそんなに文章がうまいのか?」と尋 ねたところ,彼は「私はある1冊の本に書かれた内容を忠実に再現して いるんだ.」と答えた.その本が,この「理科系の作文技術」である. 私が見渡した限り(狭い範囲ではあるが),この本を参考にして文章を 書いている先生は多い.私もこの本の内容になるべく忠実に文章が書け るよう日々努力をしている. 日本ではなじみがない講義だが,米国の大学では学生の専攻を問わず 「イングリッシュ・コンポジション」や「レトリック」といったコース を取得し,情報や自分の意見を正確にかつ有効に記述する訓練が行われ ている.日本語でもこのような言語によって情報や意見を明快に効果的 に表現・伝達するための方法論を勉強する必要がある. 私は100%このような本に盲従する必要はないと考えるが,重要だと 思ったところに線を引きながら,この本を読み進めていくと,多かれ少 なかれ影響を受けることだろう.
  3. 僕の音楽武者修行,小澤征爾 著,新潮文庫,新潮社
    この本を読んだ後,清々しさと勇気が湧いてきて,私も何か大きな目 標を持ち,世界を相手に修行したい気分になった.この本は,著者が「外 国の音楽をやるためにはその音楽が生まれた土地,そこに住んでいる人 間をじかに知りたい」といって,24歳のとき宣伝用に提供してもらった スクーターでヨーロッパ一人旅したときの回想録である.現在では,著 者は世界でも指折り数える有数の指揮者だが,その彼が若い時どのよう なことを感じ,行動していったかが書かれている.音楽の指揮者の留学 というと温室育ちでハイソな生活を送ったのでは?といったイメージ がある.しかし彼の場合は,バックパッカーさながらの「武者修行」を しながら,雑草のように生き生きとして,情熱とチャレンジ精神に溢れ た生活を送ったようだ.さらに彼の文章には「辛い」という言葉が一つ も出てこない.楽しむことが成功への近道なのだと感じさせられる1冊 である.

■米津明生 准教授(材料強度学)

  1. 決定力を鍛える -チェス世界王者に学ぶ生き方の秘訣-,ガルリ ガス パロフ 著/近藤隆文 訳,日本放送出版協会
    いわゆる自己啓発本の一種であり,この本以外にも関連図書は数多く ある.私は,僅かな期間ではあるが会社勤務していたときに,仕事に対 する判断(決定)力について上司から意見された(ような記憶がある). 当時の私は,もっと深く考えて自分自身で納得してから,判断する傾向 にあったが,会社では時間も重要であり,短時間で最善の決断が必要と のことであった.ここで紹介するのは,仕事や人生のある局面において, どのようにして最善の判断をすべきか,という「決定力」についてチェ スの世界王者カスパロフが執筆した本である(ちなみに私はチェス,将 棋,囲碁とは無縁である).内容は,チェスの戦略や戦術のみならず, 歴史的な時事や大企業の成長戦略などから学べる事例を解説し,仕事や 人生全般に活かせる戦略・戦術・決断の重要性を説いている.同様に, テレビで放映されていた某大学の講義でも「選択」の科学を取り扱い, 人生における選択は直感か理性かという問題をテーマにしていた.情報 量の多い現在,選択しにくい局面は多々あるが,自分自身の確固たる知 識,経験,失敗に基づく直感が大事なようである.直感力を鍛えるため には,今までの決断や選択した日記をつけて,自分自身の思考プロセス を見直し改善することを薦めている.貴君らもなぜ本学科に入学したの か,今後どのような会社に入社したいのかという決断に迫られる場面は 多々ある.また,社会人では時間も重要であり,短時間での最善な決断 が求められる.貴君らには,十分な時間を確保できる学生生活の間で確 固たる基礎学力と様々な経験を積み上げ,的確な決定力を身につけてほ しい.
  2. 100年の難問はなぜ解けなかったのか 天才数学者の光と影,春日真人 著,日本放送出版協会
    私は数学が苦手なため,学生時代に数学を使わない研究室を選んでし まい,今も苦労し,数学ができる人に憧れている.この本の主人公は, テレビでも取り上げられた有名な数学者ペレリマン博士であり,数学界 の難問(ミレニアム問題と呼ぶ)の一つポアンカレ予想を証明した人物 である.私は,数学の内容はよく分からないが,主人公の生き方,真の 研究者の振る舞いに強く関心を持った.主人公は,名声や富,有名大学 からのオファーなど全て断ち切り,一つの研究課題に全身全霊で没頭し て,誰も解けなかった難問を見事に解いた.数学に興味がある人や,漠 然と"研究"という分野に興味がある人にこの本を薦めたい.一つの研 究テーマを突き詰めることで,どれくらい世界的にインパクトを与えら れるのかというスケールの大きさも感じられる(学生時代に自分の信念 を貫ける何かを見つけてほしい).
  3. 材料力学史,S.P.ティモシェンコ 著/最上武雄・川口昌宏 訳,鹿島 出版会
    タイトルのとおり,1年生後期から始まる講義「材料力学」の歴史で ある.材料力学の講義を受講し,また辻知章先生ご推薦の「なっとくす る材料力学」「強さの不思議」を読まれ,この分野に深く関心を持った 方に,この本をお薦めする(ただし,内容は結構難しいのでご注意を). 材料力学関連の学生実験で,材料力学の考え方から計算した結果と実験 結果が合わない場合,必ず「実験結果がおかしい」「測定器が壊れてい る」という考察(むしろ感想?)をレポートでよく見る.つまり,講義 で習った"理論"は絶対に正しいという固定観念があるようである.材 料力学は複雑な変形問題を手計算で解けるよう色々な仮定や束縛条件 を加味して単純化している.講義内容は綺麗に纏められているため,ど んな問題でも解けるような完全理論のように思われがちであるが,実は そうでもない.この学問体系を築き上げた先人の研究者らは,どのよう な苦労や工夫をされたのかという点が記されている本であり,新入生と いうより少し大学で勉強して,この分野に興味を持った方や,講義と並 行して読むことをお薦めする.

■土肥徹次 助教(マイクロシステム)

  1. エンジニアが30歳までに身につけておくべきこと,椎木一夫 著,日本 実業出版社
    ひと昔前には「一流企業に就職すれば一生安泰」,「エンジニアは口下 手で技術バカでも問題ない」,「努力すれば報われる」などの考え方が通 用したかもしれない.しかし,10年後に「勝ち組エンジニア」になるた めには上記の幻想を捨て,自分のキャリアを自分自身でマネージメント し,コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力を磨き,会社を 儲けさせる特許を取ることが重要だと,著者の経験を交えて述べている. この本は社会人に成り立ての20代のエンジニアに向けた本ではあるが, 卒業研究や修士・博士課程における研究活動や就職活動を行う際にも役 立つことが多く書かれていると思うので,一読をお勧めする.
  2. すべてがFになる,森 博嗣 著,講談社
    N大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が,孤島のハイテク研 究所で起きた密室殺人に挑む推理小説.『すべてがFになる』はS&Mシ リーズ(犀川のSと萌絵のM)の第一作で,工学的なトリックなどが多く 出てくる森 博嗣氏の代表作のひとつである.精密機械工学科で学ぶ内 容がトリックとして登場することもあるので,ミステリー好きの学生に は特にお薦めの本である.
  3. ビールの科学,渡 淳二 監修/サッポロビール価値創造フロンティア研 究所 編,講談社
    この本は,日本人が最も飲む機会が多いであろうビールについて,ビ ールの「おいしさ」を科学的に探求している.ビールの歴史に始まり, おいしいビールの作り方,飲み方,一緒に食べるとおいしい料理につい て書かれている.この本を読み終わる頃には,ビールの「おいしさ」を 最大限引き出して飲みたくなると思う.(未成年時の飲酒や,一気飲み は絶対にしないこと)
  4. 坊ちゃん,夏目 漱石 著,岩波文庫/新潮文庫など
    漱石が松山中学に在任中の体験を背景とした初期の代表作.大学の在 学中に多くの本を読むことになると思うが,その中の1冊として坊ちゃ んや他の夏目漱石作品を薦めたい.既読の学生も多いと思うが,在学中 に再読するのもお薦めであるし,また,未読の学生には一読を薦めたい.

■新妻実保子 助教(人間ロボット共生学)

  1. 知性はどこに生まれるか - ダーウィンとアフォーダンス,佐々木正人 著,講談社現代新書JEUNESSE,講談社
    人と共生するロボットを作るためには,<賢さ>が必要です.<賢さ >というと,どんな計算もパパッとできて,何でも覚えていられるコン ピュータは,すでに賢さを持っていると思うかもしれません.しかしそ れだけの機能では,私たち人間が生活する環境で活動できるロボットを 作ることはできません.では<賢さ>とは何か,知能とは何か.私たち は想像以上に身体を通して環境から多くの情報を獲得し,差異を見つけ, 適応し,行動しています.<賢さ>は埋め込めるものではなく,身体と 環境との相互作用の中から引き出されるものかもしれません.本書で紹 介される人を含む生きものの振る舞いを通して,生きものの意外な賢さ に出会えるのではないかと思います.
  2. 段取り力,齋藤 孝 著,筑摩書房
    限られた時間の中で,それぞれのものごとに対して最適なパフォーマ ンスを引き出すには,それだけの準備が必要です.大きな目標へ向かう ための小さな階段を,あなたなりのやり方で見つけてください.日々の 生活から人生設計に至るまで,段取りを組めるようになることは無駄に はならないと思います.

■川原田 寛 助教(生産情報システム)

  1. 高校数学でわかるフーリエ変換 - フーリエ級数からラプラス変換ま で,竹内 淳 著,ブルーバックス,講談社
    学生が分からないことを掘り下げていくと,高校以前の内容が理解で きていないことが原因であることを知らされる.仕方なくそこから教え ることが多々あるが,大学とは高校以前の内容を教える場所ではない. 大学の講義は高校の内容を把握していることを前提としているので,高 校の内容は復習して確実に身に着けておいて欲しい.そういう意味では 高校で使った教科書こそ,新入生に薦める本であるが,復習をしている 間にも講義は進んでしまい,その時期は講義内容が理解できないだろう. 新入生と言わず2, 3年生の人も今すぐ高校の内容を復習してほしい.理 解できない時期はなるべく短い方が良い.私の感覚ではその時期の学費 は非常にもったいなく感じる. 本書を含む高校数学でわかるシリーズは,高校の知識だけで大学の講 義内容を解説している良著である.高校の復習を終わらせたら,この本 で独学することで,すぐに大学の講義に追いつくことができるだろう. これにより理解不能な講義に出席することによる健康上の問題を回避 することができる.
  2. 図解入門シリーズ よくわかる物理数学の基本と仕組み - 物理,工学 のための数学入門,潮 秀樹 著,秀和システム
    本書は大学1, 2年次に習うであろう数学関連の講義内容を平易にまと めた良著である.いち早く読んで講義の予習としてもよいし,後から読 んで復習としてもよい.この本に同じことが書かれているからと講義を さぼることも可能ではあるが,教員の立場からは"講義ではもっと分か りやすく教えてくれるか,もっと深いところまで教えてくれるのでなる べく出なさい"と言うしかない.少なくとも私はそうするつもりである ので,講義とバイトの時間を被らせるのはなるべくしないで欲しい. この図解入門シリーズは刊行数が多く,様々な分野に渡っている.コ ンプリートしろとは言わないが,興味のある分野のものはぜひ手に取っ てみて欲しい.
  3. CPUの創りかた - 初歩のデジタル回路,動作の基本原理と製作,渡波 郁 著,毎日コミュニケーションズ
    今日では精密機械といえどもソフトウェアで制御するものがほとん どである.ソフトウェア(プログラム)を教える際に,学生に質問する と自分たちの使うPCがソフトウェアの集合体であることは知っている が,PCにも精密機械にもソフトウェア(プログラム)を処理するCPU(も しくはその下位互換品)という装置が搭載されていることを知る人は少 ない.さらにCPUがどのようにしてプログラムを処理しているか知って いる学生は皆無である.工学では部品や機能をブラックボックスとして 使用するのが賢いという風潮もあるが,CPUの動作を教えないままプロ グラムの授業をしても,多くの学生が"何か分からないが課題のレポー トが書けたので良し"と思いかねず,非常に重要かつ有用な技術を学習 したという実感が得られないのではないだろうか.ゆえにCPUの動作を 教えたいのだが,残念ながら情報科学科でもなければ講義の時間が足り ないのも事実である. 本書は初等的な電子工作の知識さえあれば,(非常に原始的ではある が)CPUを自分の手で作成できるという驚異の本である.この本の挿絵 に惑わされずに,十分な時間をこの本の内容に注ぎ込めば,電子回路の 理解もそれ以降のソフトウェアの理解も格段に上昇するであろう.

■田村雄介 助教(ロボット工学)

  1. 数学版 これを英語で言えますか?,保江邦夫 著,エドワード ネルソ ン 監修,ブルーバックス,講談社
    工学の分野では,様々な数学を取り扱うことが必要になる.また,近 年では技術者には様々な場面で英語でのコミュニケーションが求めら れる.数式というものは万国共通のものであるので,「2次方程式の解の 公式を書け」と言われればほとんどの人が数式を書くことはできると思 う.では,「2次方程式の解の公式を口で説明せよ」と言われたときに, これを英語で言うことができる人はどのくらいいるだろうか.この本を 一冊読むことで(手元に置いておくことで),大学で学ぶ数学の多くを 英語で表現できるようになるだろう.
  2. ロードバイクの科学 - 明解にして実用!そうだったのか!理屈がわ かれば,ロードバイクはさらに面白い!,ふじいのりあき 著,スキー ジャーナル
    ここ数年,自転車に乗る人が増えてきているように思う.ふだん自転 車に乗ると,スピードを出せば出すほど空気抵抗を強く感じると思う. これは,空気抵抗は速度の2乗に比例するということを考えると当然の ことである.この本は,自転車に関する様々な物理現象について,実験 結果を交えながらわかりやすく説明している本である.この本の著者の ように,身の回りの物理現象について科学的・工学的な観点から理解を するという姿勢は非常に重要なものである.

少年老い易く学は成り難し,一寸の光陰軽んずべからず
(朱子)