研究支援室(理工学研究所・研究開発機構・CLIP)
教養講座
赤ちゃんを科学する⑪
文学部教授 山口真美
朝日新聞 2007/12/16 日曜版s7面 朝日新聞社から転載許諾を得ています。無断転載禁止。
顔と顔しっかり合わせて
片手で器用に携帯メールを打ちながら、授乳するお母さんの姿を見たことがある。社会が変われば、子育てのスタイルも変わるのだろうか。
マサチューセッツ工科大(MIT)の脳科学者が、生まれたばかりの自分の子どもに小型カメラを着け、日々どんなものを見ているかを学会で披露した。赤ちゃんの目線に立ったカメラからは、大量の顔・顔・顔・・・。厳格な研究者が、満面の笑みをたたえたお父さんの顔となって会場のスクリーンに登場し、会場は沸いた。親の気持ちは万国共通なのである。
研究者の目線に戻ると、登場したすべての顔が赤ちゃんと目と目を合わせていたことに小さな驚きの声があがった。当たり前のようだが、寝ている赤ちゃんの顔を覗き込んで見るのだから、頭の方から覗き込んで上下逆さの顔になっても、横から覗き込んで傾いた顔になってもかまわないはず、と研究者たちは考えていたのである。しかしそうした予測は見事に裏切られ、大人は無意識のうちにしっかりと赤ちゃんの目線に立っていた。
実は正しい位置と方向で顔を見ることは、生まれたばかりの赤ちゃんにとっては大切だ。正面の顔がもつ、目が二つで口が一つの配置に敏感だからだ。図にあるように、新生児は目や口のように並んだものならなんでも注目する。しかも逆さにするだけで、とたんに見向きもしなくなる。
新生児にとっては、目が二つで口が一つの位置関係こそが大事なのだ。赤ちゃんにとって、こうした秩序の崩れた横顔を見るのが難しいこともわかっている。顔を見る時に活動する「脳の顔領域」の血流の変化を、正面を向いた顔と横顔を見た時とで比べてみた。実験の結果、横顔を見た時の脳の活動を示す脳血流の変化は、生後5ヶ月の赤ちゃんでは極端に小さく、生後8ヶ月になるにつれ、大きくなることがわかったのである。幼い赤ちゃんには、しっかりと顔を合わせることが大切。ということは、携帯メールを打ちながらの対応は禁物なようだ。
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