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研究支援室(理工学研究所・研究開発機構・CLIP)

教養講座

理工学研究所


長周期地震で発生する浮屋根式タンクのスロッシング現象を減衰させるための装置の開発 中央大学総合政策学部教授 平野 廣和


中央大学父母連絡会発行 「草のみどり」 2004.6( 第 176 号 )「教養講座」 ( 第 164 回 ) から転載

はじめに

2003 年 9 月に発生した北海道十勝沖地震の影響により,北海道苫小牧市の出光興産北海道製油所内において浮屋根式石油貯蔵タンクの屋根が沈没し,石油貯蔵タンクの全面火災にまで拡がり大きな社会的影響を与えたことは記憶に新しい。このような事態が生じた原因の一つとして,約 3 ~ 15 秒のやや長周期の地震動が発生し,石油タンク内の液体が地震波に共振して「スロッシング」と呼ばれる大きな揺れ状態になる現象が生じ,タンクの浮屋根が損傷を受け沈み,空気に触れた石油の揮発成分が何らかの原因で引火したと考えられている。

ところで,この長周期地震, 2004 年 1 月の NHK スペシャルに取り上げられてから広く一般に知られるようになってきた。一般に長周期地震は,阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)や 2004 年 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震に代表されるよな直下型地震ではなく,近い将来発生が予想されている東海地震や東南海地震などの沖合のプレート境界地震(海溝型地震)で発生するような巨大地震で発生するとされている。阪神淡路大震災はマグニチュード 7.2 であるが,東海地震は同 8 クラスが想定されている。なお, 2003 年 9 月に発生した北海道十勝沖地震のマグニチュードは気象庁発表で 8.0 であった。

一方,東京湾に目を移すと,東京湾沿岸周辺には苫小牧で被害を受けたタンクと同形式である浮屋根式石油貯蔵タンクが616基余り点在している。土木学会「巨大地震災害への対応特別委員会」(委員長:濱田政則早大教授)の試算によれば,東海地震と東南海地震が同時に発生した場合,約 1 割の 64 基で内容液がスロッシングによって貯槽から流出するという試算結果を発表している。また, 2004 年 9 月 15 日付時事通信によると,『 9 月 5 日の紀伊半島沖を震源に最大震度 5 弱を観測した連続地震で,周期の長い揺れに石油タンク内の液体が共振して動揺するスロッシング現象が,震源から 400km 余り離れた千葉県の京葉コンビナートで起きていたことが 14 日,独立行政法人消防研究所(東京都三鷹市)の調査で分かった。今回の地震では共振の規模が小さく,油漏れなどの被害はなかった。』との報道もなされている。また, 10 月 2 日付朝日新聞でも『大阪府堺市で 225cm ,千葉県市原市で 35cm ,三重県四日市市で 30cm の液面動揺が観測された。地震の周期は,市原市で 11 ~ 12 秒,堺市で 6 秒程度の周期の揺れが大きかった。』との報道もなされている。

このような社会的な要求から,中央大学では, 2004 年 2 月より理工学部土木工学科の國生剛治教授,樫山和男教授と筆者が中心となって「スロッシング」勉強会を発足させて,現地調査から開始をした。これを基に中央大学及び民間企業((株)十川ゴム,中井商工(株))の産学共同で研究を進めてきた結果,スロッシングを抑制して早期に浮屋根の運動を減衰させ,火災等の災害発生を防ぐ基本的な方法を開発するに至った。ここでは,この開発の経緯を紹介するとともに,愛知工業大学耐震実験センターの全面的な協力により 1/10 モデルの実験を実施し,その効果も確認することができたので紹介を行う。

石油貯蔵タンクのスロッシング対策の現状

石油貯蔵タンクのスロッシング現象が初めて注目を集めたのは, 30 年前の 1964 年 6 月 16 日の発生した新潟地震で,新潟市の昭和石油新潟製油所のタンク火災である。 1983 年 5 月 26 日に発生した日本海中部地震においても秋田市の東北電力(株)秋田火力発電所内の原油の浮屋根タンクでリング火災が発生した。また,この地震では,新潟県内の浮屋根タンクでもスロッシングにより危険物の溢流が生じた。このようにスロッシング現象による被害は, 40 年前から発生をしている。同じく新潟地震で注目を集めた地盤の液状化現象に関しては,この 40 年余りの間,対策技術は大幅に向上したのに対し,スロッシング対策技術に関しては色々な試みがなされが,決定的な対処方法が見いだせないでいる。出光興産北海道精油所での対処方法としては,主なものとして以下のことが同製油所のホームページで示されている。

  1. 液運用レベル低下
    スロッシングによるタンク側板上部からタンク外への油の溢流防止ため,液運用レベルの低下を行う。
  2. ダブルデッキ型浮き屋根
    大きなスロッシングに対しては,ポンツーンの強度が不足していることが判明したため,製油所で一番大型の 10 万キロリットルのタンクは浮き屋根を二重化したダブルデッキ型に改修する。また,その他のタンクでもポンツーンの構造を強化して,今回のような地震でも損傷しないようにする。
  3. 大容量泡放射砲の導入
    万一発災した場合でも,迅速に消火するために,大容量泡放射砲を 2 基導入した。

新しい技術の提案

図 1 タンク屋根端部の制振材配置状況

図 1 タンク屋根端部の制振材配置状況

全国には 10,000 キロリットル以上の大型屋外タンク貯蔵所は,総務省消防庁の調べで 2003 年 3 月末現在,全国に約 2,000 基あり,東海地震エリアには 150 基余り,東南海・南海地震エリアには 740 基余りあると言われている。これら既設のタンクに安価かつ簡単でスロッシングの発生を抑える技術を開発することが,今,求まられていることである。

そこでまず,開発に際して 40 年余りの技術開発に関する文献,特許公報など調査を行った。例えば,タンクの中に漁網の様な網を入れ,網の目を流体が通過することで減衰を得ようするものなども提案されてはいるが,実用に至っていない。さらに,これらの技術は,基本的に新設タンクを対象としたものであり,既設のタンクへの適用を考えたものはほとんど見あたらない状況であった。さらに,スロシング現象を止めることは,現状では不可能であることがほぼ分かってきた。このようなことから,スロッシングを止めるのではなく,地震時にスロッシングで揺れることは許すが,これを素早く抑えて揺れを止める方向に導くことに発想の転換を行った。具体的には,浮屋根に何らかの方法で減衰装置を付けて減衰を付加して,揺れても直ぐに揺れが収まる方法を考案することとした。

前述の様に既存のタンクに減衰装置を装着することを前提としているので,それぞれの分野での実績のあるメーカーの方々に声をかけることとした。まず,減衰材料として最も一般的なのは合成ゴムである。工業合成ゴムでたいへん実績のある(株)十川ゴムへ声を掛けた。さらに,既存タンク内での取り付け作業などの現地工事があることから,現地工事にたいへん経験がある中井商工(株)にも声をかけた。両社は,本学と共同研究で標識柱や道路照明柱用の制振装置(通称コロコロダンパー)を共同で開発し,首都高速道路公団へ納入した実績があることから,担当者は皆,気心の知れた仲間であった。

図 2 開発した減衰材( 1/10 モデル用)−バッファーとワイパーシール−

図 2 開発した減衰材( 1/10 モデル用)−バッファーとワイパーシール−

さて, 2004 年 4 月から中央大学,(株)十川ゴム,中井商工(株)の産学連携で共同開発を開始した。三者での勉強会の過程で(株)十川ゴムが,工業用水用のタンク(直径 100m ,高さ 30m クラス)ではあるが,浮屋根の水平移動を押さえるために浮屋根の周辺にバッファー材として弾性体ゴムを採用した実績があることがわかった。 1987 年に九州電力岸浜火力発電所, 1998 年に四国電力橘湾火力発電所で実用化されていた。

ここで採用されたのは,弾性体ゴムである。弾性体ゴムとは簡単に言えばよく弾むゴムボールのことであり,浮屋根が側壁に衝突した時にエネルギーを吸収し,直ぐに元に戻ろうとするものである。

ところで,ゴム材料には,特殊な特性がある。一般に合成ゴムは原料ゴムに硫黄などの種々の配合薬品を加え,高温・高圧の釜の中に置き,材料としての安定化を計る加硫という工程がある。原料ゴムの特性及び硫黄などの配合薬品の加え方,量により色々な組成による特性を見いだすことができる。本開発では,浮屋根が側壁に衝突してから直ぐに反発するのではなく,一度変形した後,時間遅れを持ってから元に戻る粘弾性体としての特徴を持つ特殊なゴム材料を開発した。これで,位相差を得ようとするものであり,位相差が得られれば,動き出そうとするものの運動を初期段階から反対方向の力を掛けることになるので,結果的に減衰力を得ることができる。なお,ここでは簡単に言えば,弾まないゴムボールを作る訳であり,従来の弾性ゴム開発とは全く反対の方向を向いたことになる。これが発想の転換の一つである。この発想を基に図 1 に示す配置を考案した。浮屋根の浮力を得るために蓋(シングルデッキ)の周囲に付けられているポンツーンと呼ばれる鋼製の中空浮きとタンク壁面の間に粘弾性体合成ゴムの制振材であるバッファーと液面の漏れを防ぐためのシール材であるワイパーシールを配置した。 1/10 モデルにおけるそれぞれの形状を図 2に示す。

実験での効果確認

写真 1 Φ600 モデルでの実験状況

写真 1 Φ600 モデルでの実験状況

スロッシング現象のように,波の挙動と構造物の剛性との関係が複雑に絡み合う現象を縮尺モデルで再現するには,実際の構造物と縮尺模型との間に成り立つ相似則の算定がたいへん難しい。そこで,縮尺模型から実際の構造物の挙動を推定するには,いくつかの縮尺の模型で段階を踏みながら実験を行い,相似則を満足しているかを確認しながら研究を進める必要がある。そこで,本研究では,苫小牧で被害を受けた直径 40m のタンクを実基相当とし, 1/66 モデルと 1/10 モデルの 2 種類の縮尺のモデルで実験を実施し,効果の確認を行うこととした。

(1) 1/66(φ600)モデルでの実験

開発の第 1 段階として,直径 φ600 モデルでの浮屋根沈没対策に関し実験による検証を行った。実験模型を写真 1 に示す。

小型振動台にモデルを置き,正弦波で変位 ±0.92mm 約 4.4gal で強制加振を行った。その時の浮屋根に取り付けた加速度から得られた波形とスペクトルの結果を制振材の有無での効果の比較を図 3 に示す。制振材が無い場合は,最大加速度レベル 2.7 ~ 2.9 m/s2 であるのに対し,制振材を付けると最大加速度レベル0.9~1.0 m/s2と,約 1/3 になったことが分かる。同様の傾向は,加速度スペクトルの図からも見ることが, 1 次モードのピーク値を約 1/4 まで下げることができた。

1/66 モデルであるが,浮屋根の応答加速度が約 1/3 となり,ここで開発した方法が十分減衰効果があることが分かった。

図3 減衰材効果の比較(Φ600 モデル)

減衰材なしの状態の蓋の応答加速度(最大加速度レベル 2.7 〜 2.9m/s2 )

減衰材なしの状態の蓋の応答加速度(最大加速度レベル 2.7 ~ 2.9m/s2 )

減衰材なしの状態の蓋の加速度スペクトル

減衰材なしの状態の蓋の加速度スペクトル

減衰材を付けた場合の蓋の応答加速度(最大加速度レベル 0.9 〜 1.0m/s2 )

減衰材を付けた場合の蓋の応答加速度(最大加速度レベル 0.9 ~ 1.0m/s2 )

減衰材を付けた場合の蓋の加速度スペクトル

減衰材を付けた場合の蓋の加速度スペクトル

(2) 1/10(φ4000)モデルでの実験

写真 2 タンク模型と振動実験風景

写真 2 タンク模型と振動実験風景

写真 3 液面のスロッシング現象

写真 3 液面のスロッシング現象

実験の第 2 段階として苫小牧の 1/10 ( φ4000 )モデルでの実験を愛知工業大学耐震実験センター(センター長:青木徹彦教授)で実施した。 1/10 モデルは,直径 4m ,高さ 2.5m の円筒状で,これに水深 2m まで水を充填した。水を充填後の総重量は,約 30 トンである。これを水平方向に移動する台の上に設置し,大型油圧ジャッキを用いて水平方向から加振して,正弦波と苫小牧で発生した地震と同様の水平波を加えることで実験を行った。タンク模型と振動実験風景を写真 2 に示す。

最初に,浮屋根が無い状態で苫小牧で計測された地震波での加振実験を行った。浮屋根が無い状態での貯槽タンクは実際にはあり得ない状況であるが,液体の挙動を知るために実施した。ただし,加振の振幅は実際の地震の60%の振幅とした。この理由は, 100% の振幅で加振をすると模型タンクから水があふれ出すためである。タンク液面が運動している状況を写真 3 に示す。 この液面は時々刻々と変化をすし,特に地震波の加振を終了してからが特筆すべきことであり,タンク内部の液体にエネルギーが蓄えられ,最終的には波が砕波へ移行して行く。

次に浮屋根を装着し,本研究で開発した制振材の効果確認の実験を行った。正弦波での結果を図 4 に示す。加振は,タンクの固有振動数である 0.46Hz ( φ4000 タンク−水深 2m でのスロッシング固有振動数)で,変位 ±3mm ( 5 秒), ±5mm ( 10 秒), ±3mm ( 5 秒)の計 20 秒間の連続加振である。制振材なしの場合は加振が終了しても浮屋根の振動は収まらずにいる。これに対して制振材を付けた場合は,加振終了後 20 秒程度でほとんど浮屋根の揺れが収まっていることが分かる。また,加速度スペクトルは 1/6 程度まで小さくなっていることが分かる。

これらの結果からも,ここで開発した方法が十分効果があることが分かる。ところで,地震波に関しては現在解析中であり,別の機会に紹介をしたい。

なお,上記の実験は, 2004 年 9 月 9 日開催の土木学会第 59 回年次学術講演会にあわせて公開実験を行い,その模様は, NHK テレビ,日刊工業新聞,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,中日新聞などの報道機関に取り上げられた。

図 4 減衰材効果の比較( Φ4000 モデル)

減衰材なしの状態の蓋の応答加速度

減衰材なしの状態の蓋の応答加速度

減衰材なしの状態の蓋の加速度スペクトル

減衰材なしの状態の蓋の加速度スペクトル

減衰材を付けた場合の蓋の応答加速度

減衰材を付けた場合の蓋の応答加速度

減衰材を付けた場合の蓋の加速度スペクトル

減衰材を付けた場合の蓋の加速度スペクトル

おわりに

実際に研究に着手してから 6 ヶ月余りの短期間であったが,中央大学及び民間企業 2 社,(株)十川ゴム,中井商工(株)との産学共同で研究を進め,それぞれの得意分野を生かしながらかつそれぞれが有している既存技術を応用することにより,新たな展開を見いだすことができた。ここで得られた技術は, 2004 年 8 月に特許出願済である。

しかし,ここまでに得られた成果は,実際の石油貯槽タンクへ直ぐに適用するにはまだ十分とは言い難い。例えば,減衰材の形状がこのままで良いのか,合成ゴムの材料特性がこのままで良いのか,また,実際に貯槽するのは石油類であることから,合成ゴムと石油との間に生じる劣化の問題など解決すべき問題が残されている。さらに相似則の確認の問題も残されている。このようなことから,今後は,これらの問題を解決するために,さらなる実験を重ねる予定である。

謝辞

実験に際しては,本学にはこのような大規模な構造振動関連の実験を行う装置ならびに施設がないことから,愛知工業大学の全面的な協力を得た。愛知工業大学耐震実験センターは,大学所有施設の中では我が国で最も大規模な実験施設の一つである。特に施設を利用するに際し,前愛知工業大学総合試験所長・大根義男名誉教授(中央大学理工学部土木工学科 1956 年卒)ならびに同大学耐震実験センター長・青木徹彦教授の協力を得るとともに,研究・開発の両面でも多くの貴重な助言を得た。心から感謝の意を表す。

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