研究支援室(理工学研究所・研究開発機構・CLIP)
教養講座
赤ちゃんを科学する⑩
文学部教授 山口真美
朝日新聞 2007/12/9 日曜版s7面 朝日新聞社から転載許諾を得ています。無断転載禁止。
複雑な図形が好き
赤ちゃんでも、錯視を楽しむことができるだろうか。筆者のパートナーの、淑徳大学金沢創准教授の研究だ。
錯視で有名な北岡明佳先生が作った「蛇の回転錯視」。止まっているのに、ぐるぐると回って見える錯視である。これを赤ちゃんに見せてみた。
図にあるのが、赤ちゃん実験用に作り替えた錯視。左右で動きが違って見える。色の並びを変えただけで、左は錯視が見え、右は錯視が見えないようにできている。
北岡明佳さんの作品として知られる「蛇の回転錯視」。ただし回転して見えるのは左だけ
この錯視を前にして生後六ヶ月の赤ちゃんは、錯視のある方を一生懸命見ようとした。
赤ちゃんでも錯視が見える。そして大人が錯視を楽しむように、赤ちゃんも錯視を見るのが好きなのだ。
なぜ赤ちゃんは錯視を好むのだろうか?赤ちゃんを引きつける、図の法則がある。複雑なもの、大きく見えるもの。そして止まっているよりは動いているもの、二次元よりも三次元のもの。
より複雑そうなものを好んで見るのには、理由がある。発達途中の目や脳を刺激して、さらなる発達を促すためと言われている。
いずれにせよ、見た目の情報量が多いほど、赤ちゃんにはよいようだ。そもそも錯視は、情報を水増しする効果がある。「蛇の回転錯視」では、存在しないはずの動きが見えた。北岡氏によれば、「美しいものには錯視が隠れている」という。錯視の好きな赤ちゃんは、美しいものが好きと言えるのかもしれない。
私たちは科学技術振興機構から援助を受け、赤ちゃんや子ども向けの「デジタルメディアコンテンツ」を開発している。市場に出まわる、子ども向けの玩具にも、子どもの好みが巧みに利用されている。とはいえそれらは作り手や企業の経験的な知識によるもの。最新の発達科学に基づいたものを作り出したら、どうだろう。とっつきやすいものから、科学的根拠のあるものへ。そしてより美しいものへ。赤ちゃんや子どもに、良質なものを提供したいと考えるのだ。
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