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教養講座


赤ちゃんを科学する⑨
文学部教授 山口真美


朝日新聞 2007/12/2 日曜版s7面 朝日新聞社から転載許諾を得ています。無断転載禁止。

影の存在に敏感

「この子は、大人に見えないものが見えるようです」。赤ちゃんをもつ親から、こんな話を聞くことがある。何もない、がらんどうの部屋の片隅を、赤ちゃんが興味深そうに見て笑っているというのである。オカルト映画のような話だが、トリックはある。現場を押さえたことはないが、犯人はおそらく影だ。

子どもは影が大好き。影ふみや、影絵遊び、幻灯機・・・。影を使った昔ながらの遊びはたくさんある。

赤ちゃんも、影が好きだ。観察すると、影を見ることが多いのがわかる。天井をじっと見つめる赤ちゃん。視線の行く先を確かめると、複雑に映る影がある。何もない壁にも、影が映っていた可能性が高いのだ。

大人は気づかないが、影は目立つ。写真に写った影の輪郭をマジックでなぞると、影の存在に改めて気づく。

影は、輪郭がぼやけていることが大切なのだ。ぼやけた輪郭をマジックでなぞると、もはや影でなくなる。輪郭がはっきりした影は、床と明らかに色が違う。これほどはっきり色が変わっているのに、影は無視されているのだ。

まだらに影が映りこんでいても、それをシミや模様として見ることはない。円の前にある半透明の四角形(上図)。白と黒の円が映りこんでまだらになっていても、大人には四角形があると感じられる。この四角形、生後三ヶ月の赤ちゃんでも見ることができる。そのうえ、こうした面を見るのが大好きなのだ。

赤ちゃんは、大人よりも影にこだわるようだ。たとえば大人は影より顔が大切。お面をひっくり返したようなへこんだ顔(下図)。平面の写真にすると、大人はどうしてもへこんだ顔を見ることができない。顔はでっぱっていると無意識に決めこんでしまうので、へこんだ影の顔も、でっぱって見える。ところが赤ちゃんにこの顔を見せると、影の法則の通りにへこんだ顔を見ることができる。赤ちゃんは、影に敏感なのである。

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