研究支援室(理工学研究所・研究開発機構・CLIP)
教養講座
赤ちゃんを科学する③
文学部教授 山口真美
朝日新聞 2007/10/21 日曜版s7面 朝日新聞社から転載許諾を得ています。無断転載禁止。
「見る行動」から調べる
古い心理学や教育学の教科書を開くと、生まれたばかりの赤ちゃんは目も見えず、耳も聞こえないと書かれている。その常識が覆されたのは、60年代のこと。それまで育児日誌の延長にすぎなかった赤ちゃん研究に科学のメスが入れられた。
アメリカの心理学者ファンツが、言葉の通じない赤ちゃん向けの実験を開発したのだ。
赤ちゃん実験の基本は「見る行動」にある。赤ちゃんは見ることが大好きで、飽きるまで見続ける。この行動を使うのだ。
私たちの実験も「見る行動」を使っている。図を二つ並べ、どちらをどれだけ長く見るかをチェックするのである。
どちらか一つを好んで見るためには、二つの図を見比べ区別することが必要となる。好みがあれば、そこには区別がある。こうして赤ちゃんの見る能力を調べるのである。
私たちの研究分野は「知覚心理学」。赤ちゃんの見ている世界を解明するのが目的で、さまざまな知覚研究者と一緒に研究を行っている。
赤ちゃんに見せるのは、主にコンピューター・グラフィックス(CG)だ。ほんとうに色や形が見えていることを調べるためには、映像のある部分を誇張したり単純化したりして確認する必要がある。それにはCGが不可欠なのだ。
もっと自然な映像を見せた方がいいと言う人もいる。とはいえ知覚実験は視力検査のようなもので、ほんの数分で終了する。こうした映像をずっと見せ続けているわけではないのである。
私たちの実験室は東京郊外にあり、毎年300人ほどの赤ちゃんが集まる。おじいさんが一緒に来る家族、きょうだい全員が実験に参加した家族・・・・・・。それぞれ楽しんで実験に参加している。
裏方の実験者は、昼は実験で赤ちゃんと接し、夜は分析のために赤ちゃんの顔を見続ける。まさに赤ちゃん漬けの日々を過ごしている。
こうした成果を、小児医療に役立てることも考えている。詳しくは、別の機会にお話ししよう。
(左)お母さんに抱っこされて、画面を見る赤ちゃん
(右)実験者は別の部屋で赤ちゃんの様子をモニターする
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