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研究支援室(理工学研究所・研究開発機構・CLIP)

教養講座

理工学研究所


水と水素と金属(上) 深井 有(理工学部教授) 


中央大学父母連絡会発行「草のみどり」 1995.11(第90号) 教養講座(第69回)から転載

はじめに

ひとは昔からものに囲まれ,ものの恩恵を受けて生きてきた。そして,その性質をより深く知るにつれて,関わり方もより深くなってきたのである。ここでは,ものの代表として水と水素と金属とをとり上げて,その化学的,物理的性質がどのように認識されてきたのか,どのように人間と関わっているのかを2回にわたって述べてみようと思う。

紀元前の昔,水は「元素」であった。古代中国の陰陽説では万物は火と水,男と女という二つの原理から生成する物とされ,ギリシャ哲学では土,水,空気,火が世界の4元素とされていた。その後,金属精錬やガラス作りなどの技術の進歩と錬金術の追求の結果,物質についての人々の知識は次第に豊かになり多くの「元素」が見出されたけれども,根源的性質としての水の地位は2000年近くに渡って揺らぐことはなかった。

その水が元素としての地位を明け渡したのは,1783年,キャベンディッシュが金属に酸を作用させて得た軽い気体(燃える空気=水素)と空気の5分の1(生きている空気=酸素)が反応して水になることを見出したときであった。もっとも彼自身は水は元素であると固く信じていたので,水が化合物であるとは主張しなかった。そのことは,2年後,熱した鉄粉で水蒸気そのものを分解して得た軽い気体を使って同じように水ができることを確認した後で,ラウォアジェが初めて主張したのである。人々がいかに特別な思いをもって水に接してきたかがよく分かる。

その後,産業革命の進展にともない人々の化学的知識は急速に広がった。ちょうど100年後にはメンデレーフが周期律表を提案して多くの元素が系統的に分類され,また元素によっては幾つかの異なる質量をもつもの(同位体)があることも知られてきた。化学的性質を決めている電子構造は同じでも質量が違うとなると,これは原子核の構造が違うとしか考えられない。こうして人々の関心は元素から原子へ,そして原子核へと移っていったのである。

水素の同位体である重水素が発見されたのはかなり遅く,1931年のことであった。そして,ほぼ同じ頃に,原子核が陽子と中性子から成り立っているという描像が確立された。(軽)水素の原子核は陽子1個,重水素の原子核は陽子と中性子各1個から成り立っており,もう1つの同位体として後に知られた三重水素(トリチウム)は中性子をもう1個余分にもっている。天然には軽水素に対し重水素は0.015パーセント存在するが,トリチウムは殆ど存在しない。これはトリチウム原子核が不安定で,半減期12年でヘリウム原子核に変わってなくなってしまうためである。(図1参照)

1930年代からの量子論の発展は原子や原子核などのミクロな世界を支配する法則を明らかにし,今や全ての元素が宇宙空間での核融合反応で水素原子核から作られてきた過程を描き出しつつある。実は,水素はたんに水の素ではなくて,すべての物質の素なのである。

宇宙空間での元素の存在比を測定した結果(図2)を見ると,概ね重い原子ほど少ないという傾向になっているが,鉄のところにピークがある。これは,核融合によって原子核があまり大きくなり過ぎると二つに分裂して適当な大きさに戻るからである。そのために鉄の存在比は他の金属より何桁も大きくなっている。人類が鉄器時代に辿り着いたのは,まさに自然の理に叶っていたというべきだろう。

図1:水素同位体の原子核の成り立ち

図1:水素同位体の原子核の成り立ち

図2:宇宙における元素の存在比

図2:宇宙における元素の存在比

地球は水の惑星といわれる。水の大部分(98パーセント)は海水であって,海は地表の約70パーセントを占め,海水の総量は140京トン(1京は1兆の1万倍)と見積もられている。これは地球の中心を貫く直径440キロメートルの孔を充たす量である。大気中の水蒸気の総量はその10万分の1に過ぎないのだが,太陽から熱を受けての水の蒸発,凝固,流動による循環過程は地上の気候や生命活動を支える上で決定的に重要な役割を果たしている。

実は,水という物質は極めて特異な性質を持っていて,それがこの地球環境を作り出している。

まず第1に,水は大きな比熱をもっている。1グラムの水の温度を1度だけ上げるのに必要な熱量(比熱)は1カロリーであるが,これはあらゆる物質中で最も大きい。また氷を融かすにも1グラム当たり80カロリーという大きな熱量(融解熱)を必要とし,水を発熱させるには1グラム当たり536カロリーという,これまた例外的に大きな熱量(蒸発熱)を必要とする。蒸発熱が大きいために熱を加えてもなかなか蒸発しない。実際,水は同程度の分子量をもつ液体の中では飛び抜けて高い沸点をもっている。(表1参照)

水の状態変化に大きな熱量を必要とするということは,水が大きな蓄熱装置として働くことを意味している。これは地球の気候の温暖化をもたらし,また生命体の機能を維持するに必要な微妙な体温調節を可能にしている。

第2に熱膨張の異常がある。液体は固化すれば重くなって沈むのが普通であり,氷が水に浮くのは例外中の例外である。また,物体は熱膨張をして温度上昇につれて密度は小さくなるのが普通であって,水の密度がある温度(約4℃)で最大になるのも例外中の例外なのである。

これらの性質は水中で生命を維持するための天の配剤というべきだろう。もしも水が普通の物質と同じだったら,冬,表面でできる氷は順次に底に沈んでゆき,表面に残された最後の水が凍るときには水中の生き物もすべて凍死してしまう。これでは海中での生物の進化など,とても起こりえなかったに相違ない。

第3に,水が多くの物質を溶かす能力を具えているとこである。水ほど多くの物質を溶かすことの出来る液体(溶媒)は他になく,とくに無機化合物をイオンに分解して溶かす力は抜群である。水はまた結晶水や水酸基の形で他の結晶や鉱物と結合することもできる。これはかなり安定であって,結晶水は200℃位,水酸基になったものは600℃位に加熱しないと分解しない。

これらの性質は地球の進化を考える上で重要な意味を持つ。約45億年前に微惑星が衝突を繰り返しながら集積して地球ができたとき,その始源物質中に含まれていた水(結晶水または水酸基)は地球全体を覆うマグマ(マグマ・オーシャン)の中に溶け込むか,それを包む大気中に水蒸気として貯えられ,やがて隕石の衝突が止んで地球が冷えるにつれて原子海水となったものと考えられる。このとき原子大気中にあったはずの二酸化炭素は,やがて水に溶け,石灰石として固化されて大気から除かれたのである。(地球より太陽に近い金星では,太陽からの流入熱量が70パーセントほど多いために水が液体として存在できず,そのために金星を取り巻く大気は90気圧の二酸化炭素になっている。)

さて,このような水の性質は分子構造からおよそ理解することができる。水分子の形状は,図3に示すように大きな酸素原子に小さな水素原子が2個,104度の角度で結合している。水素原子の持っていた各1個の電子は酸素原子の方にいくらか移動して,その結果,酸素原子側は負に,水素原子側は正に帯電することになる。水分子はちょうど磁石が磁気的な南極と北極をもつように電気的な正極と負極をもっているのである。

図3:水分子の形状。

図3:水分子の形状。正負の電荷が非対称に分布して電気双極子を形成している

分子 分子量 沸点(℃)
H2O 18 100
アンモニア NH3 17 -33
メタン CH4 18 -160
ネオン Ne 20 -250

表1:水の沸点の比較

食塩(塩化ナトリウム)が水に溶けるときには,図4に示すように,ナトリウムの正イオンの周囲には水分子の負極(酸素原子側)が集まり,塩素の負イオンの周囲には水分子の正極(水素原子側)が集まる。このように正負の電荷が引き合うこと(水和現象)が水の溶媒作用をもたらしている。

図4:水溶液中でのナトリウム,塩素イオンの周囲には水分子が集まっている(水和現象)

図4:水溶液中でのナトリウム,塩素イオンの周囲には水分子が集まっている(水和現象)

図5:水分子の正四面体的配列

図5:水分子の正四面体的配列

水分子はお互い同士でも正負極が引き合って配列をする。その結果,図5に示すように,中心の水分子の回りには4個の水分子があって,酸素-水素-酸素を結ぶ線がほぼ正四面体を作るように配列する。1つの酸素に結合している水素は隣の分子の酸素ともいくらか結合して,水分子同士を結び付ける働きをしている(水素結合)。そして1個の酸素原子にはいつも2個の水素原子がついており,また2個の酸素原子の間にはいつも1個の水素原子がある,という形を保ちながら全体としてはいろいろな配列をするのである。

氷ではこのような秩序配列が長距離にわたって形成される。配列の仕方がいろいろあるので温度と圧力を変えることによって11種類の結晶ができ,それぞれ氷Ⅰ,氷Ⅱなどとよばれている。図6に示すように高圧下での氷は融点が100℃以上になっており,密度も大きくて水に沈む。また水を急冷することによって2種類の非結晶質の氷も得られている。このように複雑な相変態をする物質は他に例を見ない。液体状態の水では長距離秩序は存在しないが短距離秩序は常に存在し,温度が上がるにつれて徐々に壊れていく。

水の融解熱,比熱,蒸発熱が大きいのは,この分子間の水素結合を断ち切るために熱エネルギーを余分に必要とするのである。

図6:水(氷)の相図。

図6:水(氷)の相図。

余聞その1・ポリウォーター

1966年,ソ連の界面化学の大御所であるデリャーギンは,水をガラスの毛細管に通すと普通の水とは違う性質をもつものに変わるという報告をした。この「異常水」は普通の水の15倍の粘性と1.4倍の熱膨張率をもち,融点はマイナス15度から30度,沸点は400度以上であるとされた。

この発表は世界中にセンセーションを巻き起こし,多くの追試がされた。しかし,その結果はまちまちであった。一つの大きな問題は,この状態の水を作るには毛細管を通す以外に方法がなくて,得られるのはごく微量(たかだか1ミリグラム)に限られるということであった。そのために,毛細管の壁から何らかの不純物が溶け込んだのではないかという疑問がいつもついてまわったのである。しかし,それでもこうして得られた微量の試料をさまざまな測定法で調べた結果の中には,確かに普通の水とは非常に違った強い水素結合が存在することを示すものもあった。そして「異常水」のほうが普通の水よりも安定であるという理論計算さえも現れた。こうして「異常水」は多くの分子が結合している水という意味でポリウォーター(重合水)と呼ばれるようになったのである。

この頃の雰囲気を伝える文章を2,3引用してみよう。

「もしもポリウォーター陣営の人々が正しければ,科学と産業に及ぼすそのインパクトは壮大なものになるだろう。ある研究者によると,ポリウォーターはエチレン重合体からプラスチック産業が発展したとき以上の可能性をもっているという。ソビエトの科学者たちは,この液体は加熱すると固体になるかも知れない,と主張している。もしそうならば,文字通り水から作られるこの物質によって,実に広範囲の品物を生産できることになる。」(ウォールストリートジャーナル,1970年,197号)

「・・・・・・もしもそのような重合相が,われわれを取り巻く環境の中にある条件下で正常な水を消費して生成することができるとしたら,その結果は説明するまでもないだろう。相変態においては,凝集核がいったん現れるとその相は容易に成長するものである。ひとたびこの重合体の核が土壌中にまき散らされてしまうと,水はどんどんとこの重合相に変わってしまう。もはや何をしても遅すぎることになるのである。・・・・・・」(ドナヒュー,ネイチャー,1969年,224巻)

ネイチャー誌へのこの寄書に対し,科学史家であり,長年にわたって水と氷の研究に携わってきたバナールは次の一文を寄せている。

「異常な水に関するドナヒュー博士の人騒がせな一文が目に止まった。博士が事実として引用しているデータとは正反対に,この物質については,正確な性質はおろか,それが存在することさえもまだ確立してはいない。実験室内ではミリグラム以上の量を作りだすことは極めて困難であって,普通の水を消費してポリウォーターが生成するという証拠は何一つない。普通の水よりも安定な相の存在を認める上での最大の困難は,これが自然界で見つかっていないことである。ポリウォーターの生成条件 —石英の表面が水で濡れている状態— は何10億年ものあいだ自然界の至る所にあったにもかかわらず,である。・・・・・・」(バナールほか,ネイチャー,1969年,224巻)

ポリウォーターの研究はその後も世界中で続けられたが,1973年に,デリャーギン自身がガラスと水との界面で不純物が溶け込むことによって生じたものであることを実験的に証明して,幕を閉じた。

ひとは或はデリャーギンの軽率さを責めるかもしれない。あとで証明できたことなら最初から分かった筈ではないかと。しかし,私はそうは思わない。何年間にもわたって多くの人達が取り組んでも容易に分からなかったことではないか。研究が人間の手で行われるものである限り,常に完全ではあり得ない。そして過ちを犯すリスクは既存の枠から外へ踏み出そうとするときほど大きいものである。それを恐れていたのでは真に新しい研究を発表することなど出来はしない。ふつう大御所ともなると既存のパラダイムに安住しがちなものなのに,敢えてそれに挑戦し,そして自らの過ちを公に認めたデリャーギンの態度に,私はむしろ感銘を受けるのである。(この項はクロッツ著,四釜慶治訳「幻の大発見」,朝日選書,1989年による)

水素

地球のエネルギー源は何といっても太陽である。地球は毎日1平方センチメートル当たり700カロリーのエネルギー放射を太陽から受けている。そのうち42パーセントが吸収されて水の循環などに使われるが,やがては地球の外に逃げていく。入ってきただけのエネルギーが出ていくから地球の温度は一定に保たれる。地上のすべての生命活動は太陽からのエネルギーを一時借りることによって営まれているのである。

太陽は四方八方にエネルギー放射を行っているからその総量は莫大なもので,1秒当たりのカロリー数で表せば94のあとに0を24個つけることになる。(これを9.4×1025と書く。)そのエネルギー源は4個の水素原子核から1個のヘリウム原子核が作られる核融合反応であって,そのとき質量が0.7パーセント減ってエネルギーに変わる。(相対性理論によれば質量とエネルギーは同じもので相互に変換される。質量1ミリグラムは200億カロリーのエネルギーになる。)この反応が中心部で起こるために太陽の質量は毎秒400万トンずつ減っているのであるが,それでも太陽は今後100億年はもつだろうと見積もられている。当分,太陽が燃え尽きる心配はなさそうだ。

水素原子は正に帯電した原子核のまわりを負の電荷を持つ電子が雲のように取り巻いた球状をしている。その大きさは約1億分の1センチメートルである。この原子が2個結合して水素分子を形成する。その分子が真空中を飛び回っているのが気体であるが,これをマイナス250度位まで冷やすと液体になり,10気圧程度の圧力をかけると固体になる。その密度は水の10分の1程度である。100万気圧程度の超高圧下で固体水素の密度が水とほぼ同じになると状態変化が起こって,無色透明であったものが不透明になる。最近の研究によればこれは半導体になったためである。もっと圧力をかけると数100万から1000万気圧の間で金属になるものと予想されているが,まだ実測はされていない。

量子論によれば,電子を狭い空間に閉じ込めようとすると運動エネルギーが高くなってしまう。そのために超高圧をかけていくと,最初は原子または分子に束縛されていた電子があるところで束縛を離れて広い空間に広がり伝導電子になる。そして物質は金属になる。したがって物質が超高圧下で金属になること自体は珍しくない。水素の金属化が特別に興味を持たれているのは金属状水素が室温に近い温度で超伝導を示すはずだという理論的予測があることによっている。ただし超高圧下で超伝導になったとしても常圧下でその状態が保持されるという保証はない。

自然界では巨大惑星と呼ばれる木星と金星が殆ど水素からできており,その質量が大きいために(地球の318倍と95倍)内部の圧力もかなり高くなっていて,その結果,内部の大部分が超伝導状態になっているものと考えられている。

太陽ではさらに質量が大きいため(地球の33万倍),中心部の圧力は1000億気圧,密度は普通の状態での水素原子の体積中に原子核が100個詰め込まれる位になっている。また温度は表面で約6000度,中心部では1500万度と推定されている。このような状態では水素の原子核と電子は完全にバラバラになって激しく動き回る,いわゆるプラズマ状態になっている。そして原子核同士が衝突して核融合反応を起こすのである。

水素の核融合反応を人間の手で引き起こそうという試みが戦後半世紀にわたって続けられてきた。(ここでは軽水素同士よりは少し容易な重水素同士または重水素とトリチウムの核融合反応を利用する。)水素爆弾はその結果としてできたものである。しかし,その反応を制御し,エネルギーを取り出して利用しようという試みは未だ成功していない。むしろ研究を進めるにつれて新たな困難が浮かび上がってきて,今や殆ど実用の目処は立たなくなっているのが実態である。実用はおろか,高温・高密度のプラズマを作って保持しようという基礎研究にしても一国の予算では賄いきれなくなって,世界の4極(日,米,欧,ロ)の協力体制が求められているけれども見通しは全く立っていない。地上に太陽を作るのは,やはり容易なことではないようだ。

それよりは現実的なものとして,水素エネルギーシステムという考えがある。これは太陽エネルギーをうまく利用して海水を水素と酸素に分解し,得られた水素を燃料として使おうというものである。

石油や石炭などの化石燃料は古代の生物が営々として作った炭化水素が1億年ものあいだ地中に埋もれてできたもので,地球の貴重な財産である。それを消費してしまうのはわれわれの子孫に対して申し訳ないばかりではなくて,今まで眠っていた物質から熱と二酸化炭素を放出することで地球環境に影響することも懸念される。その点,水素エネルギーシステムは水から水素を作るということで太陽エネルギーを暫くのあいだ借りておき,それを燃焼させて水に戻すということであるから,熱収支からいっても物質収支からいっても,地球全体のバランスを崩すことのない理想的なシステムである。(太陽エネルギーではな原子エネルギー<原子炉または核融合炉>によって水から水素を作るシステムでも化石燃料を消費せず二酸化炭素を発生しないという点では十分に意義がある。)

これまで,水素エネルギーシステムは何度も国家プロジェクトとして取り上げられ,太陽光を利用した水素の製造,輸送,利用法が研究されてきたが,化石燃料が主流の現在,まだシステムとしては陽の目をみていない。しかしながら,いずれ近い将来に,地球規模でのエネルギーと環境の問題への解決策が求められることは必至であり,その中では水素エネルギーシステムの意義が再認識されることは間違いない。

通産省工業技術院では,1970年代から進めてきた新エネルギー,省エネルギー,地球環境技術の研究開発プロジェクトを統合・発展させるものとして,1993年にニューサンシャイン計画をスタートさせた。この計画は今までに例のない大規模な長期計画で,地球全体を視野に入れ,2020年までに1兆5000億円という国費を投じて,21世紀の地球のエネルギー・環境問題に貢献しようとしている。その中には水素利用国際クリーンエネルギー技術計画(World Energy Network;WE-NET)が置かれていて,その目標は水力・太陽光・地熱・風力などのエネルギー源に恵まれた地域でそのエネルギーを利用して水素を製造し,消費地へ輸送して使用する,世界的規模のクリーンエネルギーネットワークを構築することにあるとされている。

その意気や壮,ぜひとも成果を期待したいところである。

最後に,より身近なところで水素がどのように使われているかを知ってもらうために,わが国における水素利用の現状をまとめておこう。

わが国での水素ガスの年間需要量は130億立方メートル程度と推定され,このうち化学工業で58パーセント,石油精製で41パーセントが自家製造・消費されている。水素ガスとして市場に出るのは約1パーセントに過ぎない。

表2に水素の利用分野をまとめてある。これを見ると,水素の利用がいかに多岐にわたっているかが分かるであろう。普段われわれの目に見えぬところで水素は産業と国民生活を支えているのである。(山崎邦彦,ニューサンシャイン計画の概要,「応用物理」63巻,8号,762頁,1994年)

表2: 水素の利用状況

表2: 水素の利用状況

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