キャリアサポート

面接編

株式会社リコー
櫻井 裕邦

はじめに

この文書では、過去に就職活動をされた先輩方の事例(失敗例)とその原因を紹介していきます。どのような失敗があり、どのような事が問題なのかを考えることで、本当に伝えたいことや伝えるべきことを理解し、皆さんが同じ過ちを繰り返すことなく本当の自分を出せる事を期待します。
ここでは面接(模擬面接を含む)における事例を紹介します。数年間のリクルーター活動を含み、これまでの就活支援にて経験した事実を基に記載しました。

注意事項

  • ここでの記載は、「就職活動における正解」ではありません。考え方を養う為の一例であり、皆さんがこれからおこなう就職活動においての責任は全て自己責任であることを忘れないでください。
  • 指摘事項やアドバイスは個人の感想です。自分の考えを持ち、書かれている内容と議論してください。納得・共感できるならば、すでにそれはあなたの考え方です。逆に納得できないことは自分の考えを通してください。
  • この資料に商用目的、採用目的の意図は一切ありません。
  • 面接で質問される内容は、企業によっても、同じ企業内においても当然異なります。ここでは汎用的に問われる「自己紹介(自己PR)」「研究テーマについて」などを題材とします。

面接事例

自己紹介にて履歴書を読み上げてしまう人がいます

まるでドキュメントの読み合わせのように、面接官の手元にある履歴書(自己PR)やエントリーシートで記載した事を、記憶してそのまま話す方がいます。その行動を否定はしませんが、提出した文書はそのまま残りますので同じ内容は簡潔に留め、そこにない価値を加えられるようにしましょう。
自己紹介をさせるのは、先ず声を出させてあげて緊張を和らげてあげようとする意図もあります。自己紹介(自己PR)、趣味などは最も話し易いであろう題材なので、企業側の配慮で最初に問われる事が多いです。
記憶したことを淡々と述べるのではなく、まず話をさせてもらう事で雰囲気を感じ、できるだけリラックスをしましょう。

話が長い人がいます

ひとつの質問に対しての回答が非常に長くなる方がいます。
どこまで話していいのかは難しいところですが、面接官の反応を見て理解頂けているかを確認しながら、適切な長さで回答しましょう。
なかには、自分が話し続けることで面接を乗り切ろうと誤った発想をする者もいます。面接の時間を乗り切ったとしても、自分を良いところやPRポイントを評価して頂く時間を一気に無くしてしまうだけなので、評価できる要素がなく無駄な時間となります。できるだけ多くの対話をして密度の濃い面接となるように努めましょう。

研究の紹介が苦手な方が多いです。

「面接で研究の説明をしてもなかなか理解してもらえなかった」
「同じことをしつこく質問された」
「理解できない方(面接官)が悪いんじゃないか・・」

この類の相談は非常に多いです。企業側の期待としては、理系学生の一番の強みが研究であることから、面接での中心となる要素が研究をテーマにした内容となります。
おこなっている研究について簡単に紹介して頂き、その研究の価値や頑張ったこと、進捗や成果などの質問をしていきます。その対話の中で、学生の専門性や特徴、資質や可能性などを評価していく事に意味があります。
しかし学生が研究を紹介した時点で、研究内容やその価値ではなく何を話しているのかを理解するために質問をしなければならないケースが多くあります。同じ専門分野の者にしかわからない用語を列挙したり、既存の計算式について延々と説明したりしています。その想いは「研究をしっかりやっているように思えるから(演出)」「説明の仕方がわからない(コミュニケーション能力が低い)」「相手よりも知識が高いようにみせて優位に立ちたい(勘違い)」など、学生の実情によりこのような理由があります。しかし理由がどれであってもそこから評価ができることは「何を言っているのか、何をしているのか分からない。信憑性がない。」などのように「価値無し」と判断されてしまいます。
むしろ、技術系面接官はそのような学生に対しても、本来の価値を引き出してあげたい、ちゃんと評価できる状態にしてあげたい、などの想いから理解しようとして質問をしたり、気になるところは再度確認したりと努力されていることがあります。
逆に、何にも聞かれずにひたすら褒められたとしたら、それは「文句なし」ではなく、「価値がないので相手にしない」と既に終わってしまっているかもしれません。 採用試験の面接は何を評価したいのかを考慮して、専門家にしかわからない研究内容を簡単な言葉で概要説明ができるように整理しましょう。

一方的な駆け引きをしてしまう人がいます

質問に対して 「言葉では○○と言っているが、本当は△△を試しているのでは・・」
のように勘繰ってしまう。

ほとんどの場合が一方的な思い込みです。特に技術職での採用面接であれば、駆け引きをする意味がありません。また面接官にもそのような(勘繰っている)学生の気持ちは伝わるもので、信用されていない気持ちを感じ取ってしまいます。面接の対話に勝ち負けなどありませんし、また内定を得られる正解の回答もありません。学生が返答した言葉ではなく、面接官はその対話の中で学生自身を評価し、判断をしようとしています。
質問に対しては無用な勘繰りをすることなく、その言葉とおりの意味で受け取り、正直な思いで返答をしましょう。

演出をしてしまう人がいます

「私は○○ができませんでした。(でも今は得意です)」

このように、何かを克服した話をする事があります。「以前は○○ができなかった自分が、努力して改善して、今では○○が得意になりました。」のように話すことで、○○が得意というPRを強く印象付けようとする演出です。しかしながら、これは「現在の克服した自分」を相手が知っていればこそ効果があるのですが、初対面でマイナスなアピールをするとマイナスなイメージが印象として残ります。
面接の途中で「お話が丁寧ですね」などと褒められたときに、「ありがとうございます。昔は苦手だったのですが、○○をすることで改善してきました。」と述べる分には「現在の克服した自分」を見て貰えているので大丈夫でしょう。

面接官に依存してしまう人がいます

「○○を質問してくれなかったから」
「こちらの事情を分かってくれていない」
「圧迫だった」

面接で思うようにいかなかった学生が報告される言葉です。これは面接官の質問の仕方やその質問内容によって大きく成果が変わってしまう事を意味しています。
ですがここで学生が話した意図は、面接官が上手に自分を引出してくれなかった、という事を責める理由です。
面接の練習をする際に、こんな質問をされるであろう、こう聞かれたらこう答えよう、というイメージをしながら自己分析やPRの進め方を検討されていると思います。しかし実際に面接を受けてみると想定外の質問ばかりであり、伝えたい事が言えなかった(本当の自分をわかってもらえなかった)、との感想を持ってしまいます。例えば、「定番と思っていた自己PRや志望動機を聞かれなかった。」などです。
しかしこれは勘違いと自己中心的な発想に過ぎません。相手は関心のあることを質問し、面接している学生から感じた印象や疑問、興味に対して質問をします。あなた自身の事を問われたならば、それは全て“想定内”の質問です。
面接対策とは、回答を予め用意することではありません。自問自答をしながら自分の考えを整理(自己分析)したり、頭で思い描いた内容を正しく言葉で伝える努力をしたりして、自らを知り、スキルアップをすることです

相手の意見や指摘を否定してしまう

「(根拠はないが)そんなことはありません。私は○○だと信じています。」
「(相手の意見を認めたら敗北だ!)いいえ、私は○○です。」

指摘を受けたり自分と異なる意見を言われたとき、とっさに反論をしてしまったり、頑として自分の意見を貫き通そうとする人がいます。信念と意固地な頑固は別です。
面接の場は勝ち負けを競うところではありません。

  • 「自分の考えを貫き通す人」という一見格好のいい人物像をイメージして、それを自己PRにして演じてみたり、相手の意見や指摘に聞く耳持たずに自分の考えを主張してみたりする人がいます。
  • 「指摘を受けてそれを認めたら、“負け”のレッテルを貼られるようなものだ」と恐れて頑として否定を続ける人がいます。

それは格好いいですか? 自己満足できればよいのですか?
前者の場合はメーカーを希望する学生に多い発想です。「頑固者の技術者(職人)で、(他人のように)人の意見に流されずに貫き通す事で成果を出します。」のような自分を演出しているのですが、表面上の頑固者は滑稽でしかありません。それによって不利益を伴っても構わないくらいの信念があったり、明らかな実力者であり実績をだせる根拠があったりしないのであれば、ただのワガママです。
後者においては、他人に対して自分が完成形だと認めさせたい想いであったり、指摘される事実を認めたくなかったり、単純に言われるのが怖かったりとの理由から発せられています。自己防衛のために作られた自分の内だけに存在するマイルールによる判定(勝ち負け)など、自分を甘やかしたいだけの自己満足にしか過ぎません。

自分を否定するのは怖いものですが、ほとんどの場合、実際に受けているのは否定ではなく指摘や助言だと思います。自分のために頂いた指摘や助言は感謝して受け取りましょう。自分がどのように考えていようとも、相手が受け取った事実を認めましょう。言い訳したい想い、反論したい想いはグッと抑えてください。言葉にして発してしまったとき、それは自己成長への急ブレーキです。もしも否定してしまった自分に気付いたら、即座にその言葉を訂正しましょう。自分が間違っていたならば、もっと良い考えや方法があったならば、それは今までよりも成長した自分になれるチャンスです。成長を恐れず、前向きにがんばりましょう。

これって圧迫ですか?

「自分は研究室配属もまだされていない3年生なのに、自分の研究を説明するように言われた。これは院生しかいらないという事なのか。」

初対面であり面接官がその学生の事を知らないだけのことです。事実(研究はこれからであること)を答えれば良く、相手はそれによって質問を変える事ができます。ところが思い込みによって回答することができずに黙ってしまったり、思いつき程度の回答をしてしまったりして失敗します。また、その質問を想定して研究室の先輩の成果を学んで挑む学生もいますが、話をすると大体ばれてしまいます。信憑性がない話はそのままの印象です。
あなたが面接官の事を知らないように、面接官もあなたの事をほとんど知りません。履歴書やエントリーシートを提出していても、多くの場合は事前にじっくりと読めるものではなく、面接の場で初めて見ることになります。読み終わってから質問したのでは時間が無くなってしまうので、ざっと拝見して対話をしながら読まれています。企業によっては、面接官は提出書類を全く見ない(提供されない)場合もあります。
「書類を出しているので企業側は自分の事を知っているはずだ」という思い込みがこのような圧迫感を与えているのかもしれません。

質問を求められたらどうしたらいい?

「面接の最後に「最後に一言ありますか?」と聞かれました。」

この質問をする面接が増えているようで、この質問の意図を迷う方がいます。迷う理由は質問の意味を深読みして勘繰っている場合がほとんどのようです。
ほとんどの場合は、学生が伝えたい事を言えなかった可能性があるので、企業側がこのような質問にて聞くように努めています。面接官によっては「何か質問は?」「聞きたいことは?」「伝えておきたいことは?」などと聞き方は色々です。これらは質問形式の一方的な面接において、問われなかったけど伝えたいこと、などを述べられるチャンスと考えてください。
緊張している面接の場での質問って難しいですよね。そういう時は「御社に入社して仕事をしたい!」って想いを伝えてください。

気づいていない面接事例

これまでの事例は、相手(面接官)が聞いたことを考えて評価される内容でした。ここでは、相手が感じた(見た、聞いた)事を評価される内容を紹介します。

他所を見て話している

癖であったり緊張であったりと理由はあると思いますが、相手から見えている姿が評価されています。下を見ながら話す人、右上の方(天井とか)を見ながら話す人、キョロキョロしながら話す人、あなたが評価する立場であるとしたらどのような印象を受けますか?

動作が落ち着かない

貧乏ゆすり、座りなおし、体を揺らすなど、いわゆる落ちつかない動作には感情表現が感じられます。単に緊張しているだけではなく、緊張をしていてイライラ感や焦り、不安などの感情が相手に感じられます。嘘を見破られて「しまった」という表情をしたのと同じようにわかり易いものです。

露骨な表情をしてしまう

話をしているとき、話を聞いているとき、質問を受けたとき、指摘されたときなど、自分がどのような表情をしているかわかりますか? 予想外の質問を受けたり、自分の伝えたい事が理解してもらえなかったり、または信じてもらえていないと感じたときなど、感情につられて表情に出てしまうことがあります。その瞬間、相手の言葉を否定する表情をしていませんか?
笑顔や明るさに自信がある方、笑顔を出していないときの自分の表情を知っていますか? そのギャップが高い分だけマイナスな印象を与える事もあります。 意識していないときの表情を確認してみましょう。

ハッキリと丁寧に話せますか?

小声になってしまう、早口になってしまう、ロレツがまわらないなどは意識することで抑えることができます。どんなに素晴らしい成果や研究の紹介をしたとしても、相手に届かなければ意味がありません。相手に正しく伝えられるように心がけましょう。

嫌悪感を与えるような癖はありませんか?

「チッ」と舌打ちするような音を立ててしまったり、「えーと」と砕けた表現がしつこく入ってしまったりなど、聞いている側にとって不快な気持ちを与えるような癖を持ってしませんか? 「これまで指摘されたことがない」と思われるかもしれませんが、仲が良い友人ならば気にしていないかもしれません。興味をもたれていなければ、嫌われるかもしれないような指摘はしません。

一番問題なのは、それが普段の癖である場合です。無意識に相手に対して誤解を与える行動なので、このような癖や動作はきっちりと直しましょう。「そんなつもりはないんだ」「あなた(相手)が私の事を知らないだけなんだ」などの反論は認められません。甘やかしてください、自分以外の人が自分に合わせてください、という発想であり、“学生気分”といわれる要素です。

「評価されるべきは技術要素であり、態度や容姿で判断されるべきではない」と思う方もいるでしょう。しかしそれは一方的な都合であり、思い込みに過ぎません。面接でどんな態度であったか、を評価しているのではなく、学生のひととなりを評価しています。
採用して勤めた場合に、ほとんどの業務に該当するような役割分担をして成果を出す業務に対応できるのか、お客様や取引先との交渉はできるのか、他部署との連携はとれるのか、将来は部下を育て成果を出させることができるのか、など技術面以外でも評価すべきことは多くあります。いわゆる「一般常識」「一般マナー」「ビジネスマナー」ですね。
「一般常識」や「一般マナー」の習得は“当たり前”となってください。

アドバイス

質問に対する回答に正解はありません。

あなた自身の事を問われているのだから、あなた自身の回答をしてください。ネットを探せば面接での対応例や、先輩達の成功談による事例、テクニックなどを参考にすることもあると思います。しかし、呪文を唱えれば内定が出てくるような、魔法の言葉(面接での正しい解答)などはありません。同じ言葉でも、発する人によって言葉の価値がまったく変わってしまいます。
そのような情報の活用方法は、Q&Aとして回答例を学ぶことではなく、その事例を基に質問の意図(何を知りたかったのか)と回答者にとっての回答(想い)を考えることです。知識をつけるのではなく、想像力を高めることと、面接官の質問で求めていることを理解できるように、コミュニケーション能力を高めることに活用してください。深読みしたり勘繰ったりするのではなく、質問の内容を素直に受け止め、自分にとっての適切な回答をできるようにしましょう。

嘘をつかない

面接では素直で正直な対応に努めてください。ハッタリや虚偽の回答は好ましくありません。やってはいけないとはいいませんが、信用をいただけなければ意味はありませんし、それによって疑われてしまえば挽回ができないでしょう。
多くの技術者はひとつのプロジェクトに対して役割分担をして仕事をしています。互いの役割ごとに責任を持ち、計画を立てて開発し、その成果物が製品として世の中にでてきます。トラブルが発生した場合やその可能性がある場合など、事実に基づいた対応が必要不可欠であり、また正直な対応が人間関係における信用に大きく影響します。技術者として活躍するならばその事実を理解し、発言に責任を持ってください。
後悔をしないためにも誠実な対応をしましょう。

面接官を恐れない

学生にとって面接官が何を考えているかわからないように、面接官も学生が何を考えているのかわかりません。わからないので質問をして、少しずつ理解をしていきます。同じように学生もただ言われた事、聞かれた事に返答するだけではなく、相手(面接官)が何を知りたいのか、何に興味を持ってくれたのか、を考えながら対応できるように努めましょう。誤解を少なく互いを知る為には、相手を知ろうとする気持ちが大切です。

何に緊張しているのかも自己分析しましょう。

ほとんど全ての学生が緊張してしまうと思います。しかし、何に対して緊張をしているのでしょうか?

「採用試験」という試験に緊張するのでしょうか
「採用試験」という試験に緊張するのでしょうか
「自己PR」という自分を紹介する行為に緊張するのでしょうか
「面接官」という自分の採用を決定する要素を持つ存在に緊張するのでしょうか
「社会人」という自分がまだ知らない分野の存在に緊張するのでしょうか
「初対面」という自分が知らない、自分を知らない存在に緊張するのでしょうか
「他人」という身内以外の存在に緊張するのでしょうか
「年上」という目上に人に対して緊張するのでしょうか

過去に経験した試験や面接、他人との接点などを振り返り、自己分析をしましょう。そこに苦手意識やコンプレックスなどが見つかるかもしれません。そのような意識は誰でも持ち合わせているものです。何かわからないから戸惑い、緊張へとつながります。克服・改善ができれば何よりですが、事実を理解することでも緊張した中で落ち着きを持つことができるようになれます。

さいごに

面接では多くの手段によるコミュニケーションがされています。提出した書類(履歴書やエントリーシート)、あなたが話した言葉とその内容、あなたの動作、あなたの容姿(身だしなみ、清潔感、姿勢などから与える印象)、あなたの声などです。
この機会に自分の動作や身だしなみ、口調などがどのように伝わるのかを認識しましょう。できるだけ他人に見てもらい、多くの指摘を頂いてください。しかし、頂いた指摘に対しては反論・言い訳はせずに真摯に受け止めてください。それは、自分がどう思っていようとも、相手にどのように伝わっているかが大事だからです。また、指摘してくださる方にも勇気がいる為、その行為に敬意を持って受け止めましょう。
この文章にて少しでも皆さんのスキルアップに役立つことができれば幸いです。

以上