ドイツ語文学文化専攻

Dorothée de Nève教授講演会「ドイツの難民問題」が開催されました

2017年01月19日

日 時  2017年1月17日(火)13:20~14:50

場 所  多摩キャンパス3352教室(文学部3号館低層棟3 F)

講演者  Dorothée de Nève教授(ギーセン大学)

題 目  Geflüchtete in Deutschland - Willkommenskultur und Gewalt

     (ドイツの難民問題―難民を歓迎する文化と暴力)

使用言語  ドイツ語(日本語逐次通訳つき)

 

 

 2017年1月17日に開催された講演会「ドイツの難民問題―難民を歓迎する文化と難民に対する暴力」では、「現代ドイツ事情」の授業の一環として、ギーセン大学のDorothée de Nève教授(政治学)に、ドイツにおける難民問題の現在についてお話をうかがいました。
 シリアと周辺地域の政情不安、ヨルダンやレバノンの難民キャンプの惨状などのために多くの難民が殺到したことにより、ヨーロッパは、2015年には「難民危機」と呼ばれるほどの事態に立ちいたりました。ヨーロッパ各国のメディアが難民の大量流入についてセンセーショナルに書き立てるなか、講演では、最新の統計を用いながら正確な数字を用いて議論が進められました。
 まずは、ヨーロッパ各国における移民・難民・庇護申請者等の人口比、彼らの出身国、2010~2015年の間の難民の増加率、難民流入の背景について正しく把握したうえで、国際社会とドイツにおける難民受け入れの法的基盤、ドイツ国内における論争点(庇護申請者に対する支援の規模と形態、「安全な母国」・「安全な第三国」の規定を通じた難民の流入制限、難民の受入れ上限をめぐる議論と基本法で保障された庇護権の齟齬など)について説明がありました。
 難民に対するドイツ社会の対応は割れています。2015年以降、現在にいたるまで、メルケル首相は難民を歓迎する姿勢を一貫して示し、また、ドイツ社会には難民を支援しようとする動きが今も大きく広がっています。他方、難民の流入に対する不安や恐れのために、難民に敵対的な言説の力が増し、難民収容施設への放火のような事件も起こっています。しかし、講演では、ドイツ国内の各州における難民数と暴力事件の件数に鑑みて両者のあいだには相関関係がないこと、ドイツ社会に多大な衝撃を与えた2016年12月のベルリンでのテロの実行犯は難民の避難ルートを使って渡欧した人物だが難民ではないこと、したがって難民がテロの危険を高めるという議論には問題があることが指摘されました。
 人口8000万人のドイツが100万人の難民を迎え入れるということは、80人が1人をケアすればよいということであり、1年間に4日半を難民のために使えばよいということでしょう?という先生が投げかけた問いには考えさせられた学生が多かったようです。難民問題という極めて今日的で学生の関心も高いテーマについて、分かりやすいドイツ語で、簡潔で明確な議論を展開していただき、大変に有意義な講演会になりました。

(川喜田敦子)