ドイツ語文学文化専攻

古石篤子先生講演会『「言語権」を考える 〜真の多文化共生のために〜』が開催されました

2016年12月22日

日 時  2016年12月9日(金)11:00~12:30
場 所  多摩キャンパス3101教室(文学部3号館高層棟1F)

講演者  古石篤子先生(慶応義塾大学名誉教授)

題 目 「言語権」を考える~真の多文化共生のために~

 

 

 2016年12月9日(金)、古石篤子先生を(慶應義塾大学名誉教授)をお迎えして、講演会が開催されました。演題は、『「言語権」を考える 〜真の多文化共生のために〜』でした。ドイツ語、フランス語そして日本語を例に、グローバル社会と多言語教育について考えようという企画の一環として、実施したものです。
 冒頭、古石先生は、「多文化共生」をうたっても、日本の外国語教育政策が英語一極集中であることは、「国語と英語」という二重の単一言語主義を生み、多様性を共有する社会にはつながらないこと、ドイツとフランスのように「隣語」である互いの言語を学ぶことは、第三言語である英語を学ぶのとは、また異なる価値をもつこと、更に、異なる言語を学ぶことは、言語能力の単なる量的増加ではなく、「外国語やその文化に接する際の複眼性など質的変化を伴う」(ドイツNRW州教育省)ことなどをお話し下さいました。
 また、「言語権」について考えるにあたり、日本国憲法、国際人権規約、国連の移住労働者権利条約などを紹介しながら、言語マイノリティ(言語的少数者)に焦点をあて、多くの問題提起をなさいました。言語マイノリティの例として、移住労働者の子どもをはじめとする「外国につながる児童生徒」があげられます。彼らをめぐる問題は、国籍ではなく、制度であり、言語教育の問題であることも具体例とともに示されました。さらに、言語マイノリティの視点から、ろう児の言語権をめぐる問題点も指摘されました。ろう児の用いる日本手話は、日本語の口話とも日本語対応手話とも違い、語順などの文法体系の異なる言語であること、すなわち、いわゆる「日本語」とは別の言語であることをお話し下さいました。それを聞いた学生たちは驚き、これまでの認識をあらためていました。また、フランスではバイリンガルろう教育も行われているという事実に、日本における言語教育について考え直そうとする学生もいました。講演後には、移民の子どもやろう児のように、母語の習得の権利が保証されない子どもたちもいる中で、自分たちが母語のほかに、2つの外国語を学べることがいかに恵まれているかを実感したという感想が多く見受けられました。
 講演に先立ち、古石先生から「人文学とは、職業人の土台にある人間を創る学問であるので、社会の流れを判断する能力を身に付け、さらにドイツ語のプロの能力も身に付けてほしい」というエールをいただき、学生たちは大いに勇気づけられたようです。グローバル社会と多言語教育について他人事のように表面的に知識を語るのではなく、自分自身の言語プロフィールを振り返りながら自己を見直す機会にもなったようで、たいへん実り多い講演会でした。
(林 明子)