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ドイツ語文学文化専攻
大学院生の声

Goethe-Institutにおける教員養成プログラム “Grünes Diplom” に参加して/坂本真一

「どうしたらドイツ語の教師になれるのだろうか」と考えたとき、大学において教職課程を修了し教員免許を取得する、という道が真っ先に考えられます。私は学部時代に教職課程を修めなかったのですが、それに代えて、東京のGoethe-Institut (ゲーテ・インスティトゥート:日本国内ではドイツ文化センターとも呼ばれる)で行われているドイツ語教員養成コース “Grünes Diplom” に参加しました。

Goethe-Institutとは、ドイツ連邦共和国から委託を受けたドイツの文化機関です。現在94ヵ国に159のInstitutがあり、それぞれドイツ国外においてドイツの文化を紹介したり、交流事業を行ったりすることを主な目的としています。「ドイツ語教育」も主な活動の1つで、ドイツ語を学ぶ学習者のために講座を開設したり検定試験を実施したり、またドイツ語を教える教師のための研修や教員養成などを行ったりもしています。“Grünes Diplom” を取得すると、世界中のGoethe-Institutでドイツ語の教師として勤務する資格を得ることができます(ただしドイツ国内での採用には別の条件があります)。

Goethe-Institutの目指すドイツ語教育では “Sprache und Kultur(言語と文化)” の2つがコンセプトの中心に位置付けられます。つまりただ単に、ドイツ語ということばの仕組みや使い方を学ぶことだけではなく、ドイツ、オーストリア、スイスなどのドイツ語圏の文化にまつわる知識を学び理解することを重要視しています。また授業における特徴的な点として、媒介語を使用せずに、ドイツ語のみで授業を行うという姿勢が挙げられます。これは世界中で徹底されています。

「ドイツ語のみで授業が行われる」という点について、ドイツ語を母語としない人は教師になれないのではないか、と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。Goethe-Institutの教師になるためには、教師がドイツ語を母語としていることは必要条件でも十分条件でもありません。ドイツ語圏の言語と文化の両方に関する十分な知識を持っていることは当然ですが、より重要なのは、それを学習者に伝達するための授業や教室内活動を運営する能力です。そのため、教員養成講座 “Grünes Diplom” は「外国語としてのドイツ語(Deutsch als Fremdsprache)」の理論と実践の両方の側面を経験的に習得できるプログラムとなっています。特に、実際の学習者を相手とした、授業実践のトレーニングから学ぶことは非常に多く、このプログラムの魅力ともいえるでしょう。

プログラム後半には、2週間にわたってドイツのGoethe-Institutで実施されるセミナーに参加します。このセミナーはLandeskunde(地誌情報)の授業で、教科書にはない内容も扱えること、あるいは、教科書に掲載された情報をさらに豊かなものにするために、教師自身が自ら現地に出向きフィールドワークを通して情報やデータを収集することを目的としています。私は「Caféにおける日独の違い」をテーマとして、Caféにいる人々の活動の観察やインタビューを行いました。その結果、日本人ドイツ語学習者がドイツへ旅行に行きCaféを訪れた際に直面することが予想される問題点を見つけ出し、それを実際の授業で扱うための教材作成を行いました。

プログラムの期間は約2年間で、大学での研究と並行して研修を受けていたので大変な時期もありましたが、無事に修了することができました。今では実を結び、2014年の4月以降、東京のGoethe-Institutで実際に非常勤講師としてコースを担当しています。1つのコースを任されるようになったとはいっても、まだまだ未熟な点はあります。授業が計画通りに進まなくなるのはよくあることですが、臨機応変に対応できるようになったのも、このプログラムで実践面での訓練をしっかり積んできたおかげだと思います。教師は現場に立つようになってからが本番だと思い、常日頃から自身の授業について反省と改善を繰り返しています。

独文学専攻 博士後期課程 坂本真一(2014)

仲間と共に研究成果を発信する―日本独文学会でのブース発表―/西出佳詩子

研究活動の成果の一つとして、5名の大学院生が、2013年5月に開催された日本独文学会春季研究発表会(於:東京外国語大学)でLesekompetenz und Lesekonzepte – Ein Vergleich zwischen Leseverhalten und Lesestrategien bei japanischen Deutschlernenden – というテーマでドイツ語によるブース発表を行いました。

この研究発表のそもそものきっかけは、発表者全員が履修していた『ドイツ語上級特講』(担当:シュミット,マリア ガブリエラ兼任講師)での議論にありました。それは、日本人ドイツ語学習者によるドイツ語テクストの読みに関して、一字一句辞書を引いて訳を並べていくだけの読みが多く見受けられるなか、ドイツ語の授業で使用されることの多いドイツ語圏のDaF教材や検定試験が要求する読みがどういうものなのか、また、日独の「読みの姿勢(Leseverhalten)」の違いを意識しないでいることは、時に学習に支障をきたすのではないだろうか、という疑問提起でした。

そこで我々は、日独の読みの姿勢は文化に特有の「読みのストラテジー(Lesestrategie)」に起因するとの考えから、日独の主要なDaF教材にみられる読みのストラテジーを分析しました。加えて、教育現場における「読みのコンセプト(Lesekonzepte)」の意識づけと示し方についてもアンケート調査を行い、教材あるいは授業実践での読みの新たな扱い方について議論しました。とりわけドイツ語圏のDaF教材には、グローバルな読み(Globales Lesen)、選択的な読み(Selektives Lesen)、細かな読み(Detailliertes Lesen)を念頭に置いた練習問題がレベルに応じて数多くみられます。一方、日本で出版された教材には、こうした様々な読みの実践を主眼とした一部の教科書を除き、ある一定量のドイツ語テクストが提示されているものの、どのような読みを学習者に意識させようとしているのか明確でないケースが多くみられました。また、教育現場における読みのコンセプトの意識づけについては、日本人教員による授業では、学習者の理解度の確認として細かな読みを行う一方、ドイツ語母語話者による授業では、グローバルな読みを行うことで何について述べられたテクストなのか、テクスト中で重要な情報はどれなのかといったテクスト全体に目を向けるよう指導しているケースが複数あることがわかりました。

今回の研究発表は限られたデータ数に基づくもので、いくつか今後の課題も残されました。しかしながら、専門分野の異なる院生たちが、「ドイツ語テクストの読み」について疑問を投げかけ、シュミット先生の丁寧かつ気迫あふれるご指導のもと、一つのリサーチ結果を発信できたことは有意義なことでした。

日本独文学会2013年春季研究発表会(於:東京外国語大学)
ブース発表のタイトル Lesekompetenz und Lesekonzepte – Ein Vergleich zwischen Leseverhalten und Lesestrategien bei japanischen Deutschlernenden –
発表者 西出佳詩子(博士後期)、高次裕(博士後期)、坂本真一(博士後期)、古川佳尚(博士前期)、柏木せりな(博士前期)

独文学専攻 博士後期課程(中央大学杉並高等学校、聖徳大学兼任講師)西出佳詩子(2013)

日本人ドイツ語学習者によるドイツ語テクストの文章理解/西出佳詩子

私の研究テーマの根幹である、「文章を読むという活動において、人はどのように文章内容を理解するのか」という問いは、これまでに言語学や外国語教育、認知心理学など幅広い分野で注目されてきました。例えば、文章理解のプロセス解明を目的とした研究では、発話思考法や文章内容の書き換えや見出しの作成といった記述式問題、眼球運動測定など様々な方法を用いて、読み手の情報処理に多角的なアプローチがなされています。またそうした研究で得られた知見から、外国語学習支援システムなども開発されてきました。こうした中、私の身近にいる日本人ドイツ語学習者の読みについて、ドイツ語学あるいはドイツ語教授法の分野で何か実証的研究があるのかというと、必ずしも多くはありません。

私は現在、日本人ドイツ語学習者の文章理解のプロセスを、ドイツ語の評論や報道記事を用いて、文の重要度判定課題と要約課題のデータから探ろうとしています。読み手がテクスト内容を理解する上で重要だと判断する情報は何か、その判断の根拠は明示的な言語指標に拠るのか、あるいはそれ以外の要素なのか、そして、文章内容を結果的にどのように理解したのか、多肢選択式問題のように設問に左右されない要約という形で、読み手自らの情報の再構築、産出という点から分析を行っています。

2013年度に評論文を用いて行った調査では、取得データ数に限りはあるものの、文章の階層性を段階的に示す言語標識やテクストの小見出しの内容を詳述している箇所、筆者の見解が示されている箇所が特に内容理解の上で重視されていることがわかりました(詳細は西出(2013)を参照)。文章理解の解明においては、使用するテクストのジャンル、長さ、難易度、読み手の語学能力、既有知識、当該言語での読みの習慣といった多くの要素が複雑に影響するため、分析・考察も困難を極めますが、現在はデータ数をさらに増やし、報道文を用いた調査を進めています。

人は普段、大学・大学院に限らず社会に出た後も、膨大な情報の中から自分に必要な情報を選択するために、限られた時間内でいかに効率的に文章を読み、理解するかが必要とされます。そうした読みの能力は外国語教育や外国語学習においても不可欠であり、一語一句日本語に解読するボトムアップの読みではなく、文章全体を見渡し、マクロ構造を捉えるトップダウンの読みのさらなる支援を視野に、本研究から得られた知見をドイツ語の文章理解研究や読解教育に今後生かしていきたいと考えています。

西出佳詩子(2013)「日本人ドイツ語学習者によるドイツ語テクストの読み ―重要度判定課題と要約課題から観察できる情報の理解と再構築に関する一考察―」 『人文研紀要』第75号 中央大学人文科学研究所 145-180頁
(Versuch einer Beschreibung des Leseverhaltens von japanischen Deutschlernenden bei einer deutschsprachigen Erörterung : Anhand Bewertung der Wichtigkeit von Textinformationen und Textzusammenfassung)

独文学専攻 博士後期課程(中央大学杉並高等学校、聖徳大学兼任講師)西出佳詩子(2014)