英語文学文化専攻

ヨーク大学教授、リア・ロバーツ氏による公開講演会および特別講義を行いました

2018年08月23日

6月18、19日、イギリス、ヨーク大学教授、リア・ロバーツ氏による公開講演会および特別講義を行いました。

詳細は下記の通りです。

 

研究者氏名: Leah Roberts (リア・ロバーツ)
所属機関:University of York / Department of Education / Centre for Research in Language Learning and Use (ヨーク大学 / 教育学部 / 言語習得・言語使用研究センター)
職 名:Professor (教授)

 

1、公開講演会
テーマ:Cross-linguistic influcences in second language sentence processing(第二言語の文処理における通言語的影響)
実施日:2018 年 6 月 18 日 ( 月 )
参加人数:約40 人
概要/summary:
 第二言語処理における母語の影響について、文法性判断タスク、読み実験、視線解析実験、脳波実験(EEG)等による研究成果を基に、お話しいただいた。まず、オランダ語を学習しているドイツ語母語話者とトルコ語母語話者を対象に、主語位置の代名詞に関する研究結果が紹介された。主語位置の代名詞の解釈を尋ねるoff-line実験では、オランダ語と構造が似たドイツ語母語話者がオランダ語母語話者に近い正答率を示した一方で、オランダ語と構造が異なるトルコ語母語話者は、正答率が低かった。しかし、視線解析実験においては、トルコ語学習者だけではなく、ドイツ語母語話者のように母語と第二言語の構造が似ていたとしても、学習者は言語処理の際に母語話者とは異なった方法を使い、言語処理においても母語話者よりも時間を要することが示された。それらの実験結果より、on-line実験には様々な手法(読み実験、視線解析実験、脳波実験等)があるが、off-line実験では判明しない学習者のリアルタイムな解釈を知ることができる点において、言語学的に興味深い問題を扱うことができることを示唆した。
  第二言語学習者における言語処理について、様々な実験の手法と豊富なデータが組み込まれた講義を、参加者が興味深く聴いている姿が印象的であった。近年、多くの研究者が取り組んでいるテーマであり、意見交換も活発に行われた。他大学からの教員や学生の参加も多く、実りの多い公開講演会となった。

 

2、講義

テーマ:Second language real-time sentence processing (第二言語の即時的文処理)
実施日:2018 年 6 月 18 日 ( 月 )
参加人数:約90 人
概要/summary:
 主に学部生(「英語学(心理言語学)」の履修生を対象に第二言語話者の文処理について講義がなされた。先行研究では、臨界期を超えた第二言語学習者の言語処理は母語話者の処理とは異なるとする仮説(Lenneberg, 1967)や、第二言語学習者は文法の知識はあるが、リアルタイムでその知識を母語話者のように用いることはできないとする仮説(Clahsen & Felser, 2006)が提唱されてきた。Felser and Roberts(2011)ではギリシャ語を母語とする英語学習者を対象に、二つのタイプの袋小路文(強/弱)を用いて読み実験(Self-Paced Reading task)を行った。その結果、弱いタイプの袋小路文(While the band played the song pleased all the customers.)に関しては母語話者と同じように再解釈できていたのに対し、強いタイプの袋小路文(While the band played the song pleased all the customers.)に関しては母語話者よりも再解釈に遅れが出ることを示した。心理言語学の授業で学習した文処理の研究について、著者から直接英語にて説明を受けるという経験にもなり、事前の準備をして臨んだ学生も多かった。学部生対象の講義だったこともあり、言語獲得研究の背景知識に関する説明や、グループごとに話し合いの時間を設けるなどの配慮があり、丁寧かつ明瞭な解説がなされた。学生たちも熱心に講義を受けて、積極的に質問をする学生もいた。学生からも良い刺激を受け学習意欲が高まったという感想が寄せられた。

 

3、講義

テーマ:Grammatical knowledge and L2 processing(文法知識と第二言語処理)
実施日: 2018 年 6 月 19 日 ( 火 )
参加人数: 12 人
概要/summary:
 主に大学院生( 文学研究科 『英語学特殊研究IV A』 履修生)と本学教員を対象に特別講義が行われたが、他大学の院生や教員の参加もあった。「第二言語としての英語のテンスとアスペクト」に関するロバーツ氏の共同研究のなかで、特にドイツ語話者とフランス語話者を対象にした読み実験研究(Roberts & Liszka, 2013) を中心とした講義がなされた。母語話者および第二言語話者共に、 ある文を読んでいる最中、意味解釈が困難になった箇所(非文法的な語や想定外の語等)での読み時間が遅くなることが知られている。実験では、英語における動詞(単純過去形または現在完了形)の非文法性について、調査が行われた。ドイツ語とフランス語はテンスとアスペクトにおいて英語とは異なる振る舞いをする。文法性判断タスクでは正しい判断ができる両言語の英語学習者でも、オンラインの第二言語処理においては、フランス語母語グループのみ、テンスの非文法性に敏感であるという結果が得られた。結論として、学習者の明示的知識を探る実験方法では、母語話者と同じ知識を示すことのできる上級学習者でも、暗示的知識を探る実験方法では、母語話者並みの文理解を示さないと結論付けられた。ロバーツ氏のテンスとアスペクトに関する最新研究(脳波実験)などの紹介もあり、現在の研究動向から将来的な研究に関する示唆も豊富であり、質疑応答なども活発に行われた。

 

 

以上