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法学部
【活動レポート】井上 由美 (国際企業関係法学科4年)

「やる気応援奨学金」リポート(25) イギリス留学で法律を学ぶ(下) ドイツ法と国際人権法に集中

ワールドカップ

イギリス人の大半はお酒とサッカーが大好きだ。外を歩いていると、サッカーの試合をしてきたであろうユニフォーム着用の学生やおじさんを1日に平均20人は目撃する。友達の話によると、イギリス人の男の子はサッカーと女の子のことしか頭にないらしい。
話はそれたが、私が暮らしていたシェフィールドの人々もW杯を心待ちにし、開催に向けてそれなりの準備をしていた。それを象徴するのが街にあふれるイングランドの旗。どこのパブも旗を壁一面に張り巡らせ、パン屋さんにはW杯特製クッキー、そして道行く車もイングランドの旗を装着しながらの走行。日本においてはあまり見られない光景だろう。
試合当日は、警察官が馬に乗って街をパトロールしていて、パブの入り口にも警備の怖そうなお兄さんたちを見ることが出来た。ハローと彼らにあいさつをして、友達の待つパブへ入ると、中はビールを片手に試合観戦をしている人でぎゅうぎゅう。
試合がイングランドの勝利で終わると、こんなに大勢の人がどこにいたんだ、というくらい、道に人があふれ出し大歓声を上げながらお互い喜びを分かち合っていた。ちなみにサンドイッチ屋さんも大繁盛。みな応援でおなかがすいたのだろう。
そんな活気のあった次の日の朝、私は後ろ髪を引かれる思いでロンドン行きの電車に乗り込んだ。今このリポートを書いている時点で、帰国してから3週間がたつが、ベッカムを見るたびにイギリスへと思いをはせる。

シェフィールドの自慢

ここで、シェフィールドを宣伝させてほしい。留学前に抱いていたシェフィールドに対する無責任なイメージといえば、昔鉄鋼で栄えた汚い街。そしてイングランドで4番目に大きな都市とはいえ、ヨーロッパにおいての大きな都市など、首都以外だったらたかが知れている。そんなことを考えながら何の期待もしないで現地に行った。
その結果、シェフィールドの自然の豊かさにびっくり。そして街も日本の商店街と同じような感じで、普通に買い物が出来るくらいの規模だった。というのも、シェフィールドにはたくさんのナンバーワンがある。
まず、イギリスの中で1番木の多くある都市といわれていて、スポーツやリラックスが出来る公園がたくさんある。また、ヨーロッパ一の規模と呼ばれるショッピングモールもある。そして、イギリス一治安の良い都市ともいわれている。私は滞在中に1度、露出狂に夜道で遭遇したことがあったが、それを抜かせば至って安全な場所であったと思う。警察に被害を報告したところ、防犯カメラのある道を歩くよう勧められた。
また、シェフィールド大学の生協(union)もイギリス一のサービスと企画の運営で有名。パブもクラブも学生の住居から比較的近い所にあり、有名歌手のコンサートも頻繁に開催されナイトライフも楽しめる。サークル活動も、国際的なイベントも盛んで、1年間暮らすには本当に申し分ない所である。
付け加えれば、日本人が多いのも魅力の1つだ。何も、いつも一緒にいるわけではない。ただ、英語で苦しんでいる時に、日本語で相談出来る友達がいるのは精神的にとても助かった。
以上、留学を考えている人がいるならば、私はシェフィールド大学を心からお勧めする。

春学期の授業

春学期は、Jurisprudence(法学)、Introduction to German Law(ドイツ法入門)そしてInternational Human Rights Law(国際人権法)の3科目を取った。以下それぞれの講義から学んだことを書くが、イギリス留学体験というよりは学問的な内容になってしまうかも知れない。まず、法学の授業ではmodernity(近代性)を講義のトピックとして、modernityとは何か、またそれと法律とのかかわりはどのようなものかなどについて、さまざまな法哲学者の説が紹介された。入門的な講義内容が終了すると、今度は拷問、中絶、そして尊厳死などの具体的な問題に対する法哲学者の見解や判例を勉強していった。

例えば、拷問について考えてみる。近代社会前のヨーロッパでは、拷問は法制度の中で制度化されていて、肉体的拷問の執行目的は証拠収集のためであった。やがて裁判制度が成立した後も、教会が拷問の禁止をうたったものの、一般の法律は拷問を禁止することはせず、自白と裁判官の自由裁量の採用が強調された。18世紀になり近代社会を迎えると、啓もう主義の普及と共に自由と個人主義の思想が社会に広まり、それによって拷問が廃止されることになった。
急進的な女性解放論者であるC.McKinnonが拷問を受けない権利は絶対的な権利で、緊急事態や戦争時にも、それをはく奪することは出来ないとした一方、18世紀の功利主義者ベンサムは、拷問は道徳(モラル)のみによって正当化されるとした。
前記のような内容を勉強したわけだが、この授業はイギリス人でさえ意味が分からないというくらい難しく、私もほとんど理解出来ず、授業中ノートを取ることさえ不可能であった。人権にかかわる事項についての法哲学がその内容を占めていたため、大変興味深い講義だったが、悔しいことに付いていけなかった。イギリスにいるものの、日本語でこの教科を勉強出来たら、と思ったりした。
結局、この状態に見切りを付け、法学の履修を途中で断念してほかの2科目の勉強に集中しようと決めた。
ドイツ法入門。前期にイギリス契約法を履修し、膨大な判例読みで苦労したので、春学期はドイツ法を取ることにした。ドイツは私のお気に入りの国であるし、日本民法の母のようなドイツ民法を勉強することで、豊かな学識を得られるような気もした。
講義はドイツ人の先生の下、英語で進められた。まず初めに扱われたのはドイツ基本法(憲法)。これはヒットラー政権中に存在したワイマール憲法の欠点を反省して第2次世界大戦後に作られたもので、大統領の力が徹底的に削減され、人間の尊厳が守るべき究極の価値であるとして挙げられているところにその特徴がある。
ヨーロッパでも権威のある、ドイツ連邦憲法裁判所の判例を勉強した際には、宗教上の理由で、公立学校で教師がスカーフをかぶることが許されるか否かや、ホロコースト否定説が表現の自由によって守られるかなどを見ていった。
そしてドイツ民法が扱われた講義においては、未成年者のポケットマネー条文など、さまざまな場合に対応する条文がきめ細かく規定されているのに感銘を受けた。ドイツ民法は法律問題を色々な面から抽象的に見るため、ものすごく論理的に問題解決がなされる。
例えば、ある新聞売買の契約が無効になったとする。ドイツ民法では、売買契約と新聞の所有権の移動は全く別個の法律取引と見なされるため、売り主は売買契約の無効から自動的に新聞の返還を要求する権利を得ることは出来ない。所有権返還の主張はunjustified enrichment(不当利益)の観点から相手方に訴えなくてはいけない。ドイツ人弁護士はこの複雑なドイツ民法を30年くらい掛けてマスターするらしい。確かに参照すべき条文が多くて大変だが、ケース問題を解くのが楽しかった記憶がある。
国際人権法。私が1番履修を楽しみにしていた講義である。この講義では国連によって制定された国際人権規約などの条約やヨーロッパ、アメリカ大陸そしてアフリカといった地域ごとに制定された地域的人権保障条約とその人権保障機関について勉強していった。具体的にいうと、生きる権利、平等権、そして公正な裁判を受ける権利、マイノリティーの権利などを各条約を比較検討しながら見ていった。
講義で採り上げられた判例の中で、1番記憶に残っているのがナイジェリアで起こったオゴニ事件(Ogoni case)である。事件の概要を簡単に紹介したい。

まず、ナイジェリアでは石油産業が経済において重要な位置を占めている。外国企業であるシェル石油会社はナイジェリアの石油を搾取し、その事業をナイジェリアのオゴニという地域にまで広げた。オゴニにはオゴニ民族というその土地の原住民が住んでいて、彼らはシェル石油が進めるオゴニの地への環境破壊に抗議した。しかし、それは聞き入れてもらえず、逆にシェル石油会社はナイジェリア政府軍と協力し、オゴニ民族の長を殺し村を焼き払ってしまった。
この悲惨な状況はナイジェリアにある人権擁護NGOによって、アフリカ人権委員会に報告され、オゴニでの深刻な人権侵害の状況が国際的な舞台で明るみになった。事件に対する委員会の決定では、アフリカ人権憲章にある少数民族の保護規定の重要性が説かれ、ナイジェリア政府には、自国民と自国の環境を守るという義務違反などがあったとして、オゴニ民族に対する国の責任が強く要求された。
このように、政府が人権を軽視するような状況にある国の場合、国際的な人権保障機関が存在するのは本当に有意義だと思った。

イギリスでの学習総括

イギリスでは本当によく書物を読まされた。教科書はもちろんのこと、インターネットを利用してさまざまなジャーナルから判例を引き出してこつこつ読んでいた。法律の文章で使われる用語は結構決まり切ったものなので、読むたびに英語の語い力が上がっていくのを感じた。そして特に私のような英語を母国語としないものは、自習をしっかりしない限り、何の知識も身につかないと思った。
また、セミナーがどの講義にも付いていたのでグループで話し合いの機会が毎回あり、そのつど同世代の学生の、ある事案に対する視点が聞けて面白かった。といってもイギリス人は声が大きい割に、自分の意見を大きな声で発言しないため、理解出来ないことが大半だったが。

ところで一般的にイギリス人学生は日本人と少し似ていて、あまり積極的に授業に参加するタイプではないように思う。というのも、あの先生はよく学生に質問するから嫌だとか、セミナー中は何も話したくないとか、日本の大学でもよく聞くようなことをイギリス人も言っていたからである。しかし、根はまじめなので発言をする時はするし、居眠りをする学生もいなかった。
とにかく、留学で現地の学生と共に勉強することは大変だったが、だれと競争することもないので、自分が納得の出来る範囲でやることが出来た。

ボランティア活動

2006年元旦。残り少ない留学生活を利用して私は、大学の外で何かをやりたいと思った。そして思い付いたのがボランティア活動である。
シェフィールドには緑が多いことを述べたが、それゆえに鳥がたくさんいる。私は鳥が大好きなので、RSPB(Royal Society for the Protection of Birds 野鳥保護団体)のボランティア募集の広告を見た時にこれしかないと思い、応募してみることにした。
RSPBはイギリスの慈善団体で、鳥と野生動物のための健全な環境を保持することを活動目的としている。私が働いた場所は、シェフィールドの隣町バーンズリー(Barnsley)に位置するOld MoorというRSPBの保有する野生動物保護公園である。私はそこの受付兼ギフトショップでレジを使った業務や、ほかに雑用などの仕事をした。
接したお客さんは、バードウォッチングを目的に公園を訪れる年配の方が多かった。そしてボランティア先のスタッフの皆さんは温かい方ばかりで、私を公園に連れ出し、鳥の名前や野草の名前を教えてくださった。
また、仕事を通して初めて地元の人々と触れ合うことが出来たような気がした。留学生の多いシェフィールドと違って、バーンズリーは田舎町なのでアジア人がほとんどいない。そのためじろじろ見られたりして、そのつど、あぁ、自分は目立っているんだ、と感じさせられることもあった。
ところで、ある日スタッフの同僚に、なぜここ(RSPB)に興味を持ったのかを尋ねられた。家で文鳥を飼っていて、幼いころから鳥にはなれ親しんできたため、と答えると、「鳥をかごの中で飼うことに、RSPBも私も反対しているわ」と返された。

その理由は、本来、鳥は空を飛ぶもの。そして、ビジネスのために大量の野鳥が乱獲され、人工的に、また、ひどい環境の下で繁殖させられている。だから鳥を飼うこと(cage-bird)をボイコットするべきだ、というものだった。
私はペットのピンコのことを思った。ピンコは私と暮らしていて幸せなのか。また、鳥が好きなら、触れてみたいとは思わないのだろうか。いや、きっと本当に大切にしたいもののためなら、自分の欲は抑えなくてはいけないのだろう、など考えさせられることが多いボランティア先でもあった。

留学で思ったこと

イギリスは面白い国だった。男の子はサッカー、女の子はミニスカートという印象が強い。そして飲み文化の国なので、人々はよく飲んでは騒ぎ、物を壊し、ごみを至る所に捨てる。どんなしつけを受けてきたんだ、と、あきれることが多かった。
そして今でも階級社会の名残が社会に見られる。会話に“working class”(労働者階級)という言葉が出てくるし、“posh”(上流の、の意)という形容詞をイギリス人がよく使うのも、上流階級的なものと、そうでないものが存在することを少し皮肉的に示唆しているような気がした。
また、イギリスは本当に多文化社会である。ロンドンで聞こえてくる言葉は英語以外の言語ばかりだし、お店で働いている人も英語を第2言語としている人がほとんどだ。そんな社会で人種差別もやはり根強く、黒人やアラブ系の少年が人種の違いゆえに殺されるという事件もあった。私も中指を立てられたり、怒鳴られたりしたが、世の中には色々な人がいる、と思い気にしないようにした。
しかし、ドイツ人の友達が私の住む寮に来た時に学生の酔っ払いに絡まれたことがあった。その時彼らに「ナチ、ヒットラー、イギリス人が1番おしゃれー(少なくとも彼らはおしゃれではなかった)、もう2度とこの寮に来るな」などの暴言を吐かれた。酔っていたなんてことは言い訳にならない。何と失礼な人たちだろうかと私は激怒し、また残念にも思った。

最後に

今回の留学を実現可能なものとしてくれた「やる気応援奨学金制度」に感謝したい。留学前にきちんとした学習プランを立てていなかったら、努力することを怠り、一貫した人権分野の勉強が出来ていなかったと思う。もう勉強なんかしたくない、と投げ出したかった時に、自分が設定していた目標を思い出させ、今やるべきことを教えてくれた。過去の自分が、「やる気応援奨学金」の応募書類を通して、現在の自分を応援してくれている感じであった。
そして、私を留学中に支えてくれた家族、友達、先生方に感謝したい。日本にいる親や友達が、「由美がイギリスに行ってから、外国人には優しくしようと心掛けてるよ」と言ってくれたことがうれしかった。間接的に国際平和の輪が広がっていっているような気がした。
最後に、このリポートを読んでくれた人に感謝する。かなり個人的な内容になってしまって、参考になるか分からないが、これを通してイギリスでの生活と法律学習が伝われば本望である。留学を考えている人がいたら挑戦してほしい。目的は人それぞれ。勉強、音楽など何でも良いと思う。

草のみどり 199号掲載(2006年9月号)

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